メイプルロード 3
メイプルロード 2 の誤字を修正しました。
「ふふふ。必殺直角カーブ!(車をガードレールにぶつけて曲がるだけ)」
「なんだそれ、汚ねーぞ!」
「勝負の世界は厳しいモノなんだよ。ヒ、ム、ロくん」
「くそー。負けれねー。俺にこの技をださせるとは……ユキ、侮れない奴。奥義ジェットストリームスパーク!(前の車のすぐ後ろにつけて速度を加速させ、コーナーで抜くときに相手の車の胴体にぶつけて跳ね飛ばすこと)」
「あああああ!」
僕の操る車は氷兄の車に押し出されるようにしてコースアウト、そのままエンジンがストップしてしまう。
その間に氷兄はゴールしたみたいで。終了の歓声が鳴り響いていた。
「くぅ。何いまのズルだよズル! 進路妨害で無効だって!」
「はぁ? ゲーム自体が禁止してないのだから、それは公式に認められている『仕様』だろ?」
「むむむ。じゃー言えばいいの?」
むちゃくちゃ悔しい!
「ああっ、さっさと言ってくれ。あまり焦らすと焦らしプレイか! と勘違いしちゃうだろ?」
ああ、もう……
何故こうなったのか?
予想通り、14時前には昼食を食べ終えてしまい。
僕と氷兄の二人は余らせたお金で暇つぶしにゲームセンターにきていたのだ。
少し遊んだ辺りで、なにか賭けでもしよぜと氷兄から持ち掛けられ、丁度刺激が足りなかった僕はその案にのってしまった。
それが氷兄の罠ともしらずに――
対戦するゲームはレースゲーム。
僕も結構自信のあるもので文句はなかった。
しかし、賭けの内容を聞いて反対することになる。
氷兄が勝ったら、『お兄ちゃん大好き♪』と感情込めて言うこと。
なんてふざけた罰なのだ。
勿論猛反対はしたよ?
けど氷兄が提示した僕が勝った時の条件が破格だったのである。
それとは、このメイプルロードにある有名な洋菓子チェーン、パスカルのジャンボシュークリームを買ってくれるというのだ。
僕の大好きなシュークリーム。
それもパスカルのジャンボシュー。
1個300円もする為、僕の小遣いでは手が出しにくい至高の品である。
ふわふわさくさく、はむっと食べると中からとろーっとしたカスタードクリーム。
最後の晩餐に頼むものと言われたら、迷わずシュークリームと頼む僕にはこの誘惑はキツイ。
そんなものを賭けの対象にするというのだから卑怯極まりない。
賭けを受けるに決まってるじゃないか!
結果は、ご存知の通り……
氷兄の緩んだ顔がムカツク。
でも賭けをしたのは僕だしなぁ……
無かったことには絶対してくれないよな。
大体、台詞が恥かしすぎるんだよ。
まだ、お兄ちゃん♪ ぐらいなら簡単なのに。
『大好き♪』までつけろとかいうんだから、どんだけ嫌がらせですか!
ああっもぉ!!
「とりあえず、氷兄ちょっと移動しようよ」
先程まで騒いでた為、結構注目されてしまっている。
こんな処であの台詞を言うのはさすがに簡便してほしい。
「え、なんでだ? 別に移動する理由なんてないべ?」
くー判って言ってるなぁコイツは! ニヤニヤした顔がそれを雄弁に物語っている。
「僕が恥かしいの! 移動しないなら氷兄の棄権とみなして無効にするよ?」
「なんでだよ! それは横暴だろうが。大体勝者は俺だろ? 普通勝者の言う事は絶対服従じゃないのかよ」
「むか! 確かに勝負には負けたけど、何処で言うかまでは決めてなかっただろ! だから僕の好きな場所で言うぐらいは聞いてくれてもいいじゃん。って、そうだ! 考えてみたら時間も決めてないんだから、いつ言っても良いんだよね。今晩、氷兄が寝てる時を見計らって言うことにすればいいんじゃ。うわ、何これ名案!」
「待て待て待て、それはいくらなんで卑怯だろ。常識的に考えて此処でするのが辺り前じゃないか!」
「へぇ、氷兄に常識があるとは知らなかったなぁ?」
「あるに決まってるだろうが、俺をなんだと思っているんだ!」
「うーん。変態?」首を傾げてニコリと言ってやる。
「うわ、ひど。何それめっちゃ傷つくんですけど……」
「時として、真実は人を傷つけるらしいしね」
「アホか! ああもう判った。移動すれば良いんだろ。なんだか納得出来ないなぁたく。で、どこまで行けばいいんだ?」
「うんとね」
僕はキョロキョロ周りを見渡す。
そして、手頃なあまり人気がなさそうな処を発見した。
「付いてきて」氷兄は僕の後ろを大人しくついてくる。
よっぽど、言って欲しいらしい。
着いた場所は、お手洗いに通じる通路だ。
上手く店内の死角になっている場所だった。
更に、氷兄に通路を封鎖するように立ってもらう。
氷兄は紙袋を下に置いて、準備万全とでもいうように両手を広げて待っている。
「じゃー。言うよ……」
「おう♪」
こう宣言すると言いにくいなぁ。
頬が赤くなってきてるのが判る。
ああもう、何でこうなるかなぁ(僕のせいです、はい)
此処まで引っ張ってきてやっぱり無理は納得しないだろうな。
こうなったらアレだ。男は度胸!
軽く息を吸う。
「お、お兄ちゃん。大好き♪」
うわぁ。自分で言って超恥かしい。顔、完璧真っ赤だ。
「…………………」
あれ? 氷兄の反応が無い?
こんな恥辱なマネさせて無反応ってどういうことだよ。
まるで僕が馬鹿じゃないか!
「ちょっと、氷兄なんか言ってよ!」
氷兄はボーとしたまま、心此処に在らずという感じになっている。
「おーい。どうしたんだよー」ポンポンと肩を叩くとやっと現実に戻ってきた。
「雪ぃ!」そう言うなり急に抱きついてきた。
「ちょ、何すんの! 苦しいって。どいてよ!」
180cmの大男の力は強く、僕の力ではビクともしない。
「ああ、もうお前可愛すぎるだろ。なんなのそれ?」頭をなでなでしてくる。
「そんなの知るか! さっさとどいて!」
「手放したら、雪を抱けないじゃん」
「その理屈オカシイだろ! もういい加減しないと母さんに言うよ?」
氷兄の背筋がビクンと固まり、心底情けない顔をする。
「ううううう。俺の雪をかえせーーー」訳の判らないこと言いながらやっと僕を解放する。
「いつから僕は氷兄のモノになったんだ! もう発情しないでよね。唯でさえ変態なんだから、これ以上悪化するんなら、僕の半径5m以内立ち入り禁止にするよ!」
「酷い、それだけは簡便してくれ。ただ兄妹で仲良くしてるだけなのに」
「全然判ってないね。少しは反省しろっていってるの!」
「判った、判ったから。海よりも山よりも深く反省してるからそう怒るなって。お詫びにパスカルのジャンボシュー買ってやるからさ、それで手を打たないか?」
「マジで!?」
「ああ、マジもマジ大マジだから、これで良いだろ?」
一瞬にして不機嫌が直る、シュークリームって魔法のお菓子だね。
ジャンボシューを買って貰った僕が『お兄ちゃん大好き♪』と素で言ってしまい、再び抱きつかれて頭を撫でられたのは痛い話だ。
その後の僕は終始ご機嫌だったのは言うまでもない。
この3部、作者ノリノリで書いてました。
書いてる本人が一番楽しかったのかも。
※ 誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。
評価、コメントも是非にです。




