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和風ファンタジー&現代恋愛

チョコを頼んでみた結果!

掲載日:2026/02/13

「っはあああ〜。なんでだよぉお」


 スマホ画面を見終えて、俺は机に突っ伏した。


(推しアニメがチョコになるのはいいんだけど、バレンタイン売り場なんて入れねぇ──)


 バレンタインのチョコ売り場。

 あそこは女子の聖域だ。


 いくら欲しいチョコがあるからって、あの賑わいに飛び込み、行列に並ぶ勇気はない。


(くっ。普通にグッズやコラボ菓子として売ってくれたらいいのに……!!)


 "家族に頼む"、なんて選択肢はない。

 常日頃、勉強そっちのけでアニメやゲームにハマってることを、快く思われてないからだ。うちは通販も許可制だし。


 かくなる上は。


 俺は教室の端に座る苺和(モナ)を、ちらりと見た。

 教室移動に備え、必要な本を取り出してる。


(モナは選択科目、生物だっけ。それでいつもつるんでる女子がいないのか)


 彼女の親友は物理らしく、この教室に残ってる。生物選択者は、生物室に移動するが。


(よし!)


 俺は意を決して、モナの前に立った。

 人影に気づいたモナが、目を上げる。


「あの、さ」


(しまった。こんな時、なんて言えばいい? "チョコ買いたいから一緒に来て"? いや、違うな)

 それだと一人でおつかいにいけない子どもみたいで、恥ずかしい。


 不思議そうに見てくる彼女に気が焦る。

 沈黙はマズイ。とにかく何か、喋らなきゃ。


「バレンタインチョコ、モナに頼みたいんだけど……」


 ☆


(!!!!!!)


 透理(トーリ)の言葉に、耳を疑った。


 チョコを求められた?

 バレンタインの???


 聞き間違いかと思ったけど、透理(トーリ)の首が赤い。

 耳まで火照りながら、目を逸らしてる。


(えっ、えっ、これって──)


 つまりそういう意味だよね?


「う、うん、チョコだね、わかった。じゃ、次の授業、違う教室(へや)だから」

「あ」


 透理(トーリ)が何か言いかけたけど、私は慌てて席を立った。


 逃げるように教室を出る時、呟く声が耳に届く。

「…………付き合って欲しい」


(うわあああああああああ)


 私はいまきっと、全面真っ赤に()だってる!


(なんでこんな時に、こんな場所でそれを言うのよ、透理(トーリ)ぃぃぃぃっっっ)


 ずっと待ってた念願の言葉なのに、向き合ってちゃんと聞けなかった!

 自分を罵り、ついでにトーリのことも罵倒しながら、生物室へと急ぐ。


(どうしよう! もうトーリの顔が、まともに見れない!)


 私たちは、幼稚園からの仲だった。


 当時の私は、引っ込み思案。

 別の町から越して来たこともあり、新しい友達がなかなか出来なくて。

 ひとり、いつまでも砂場で貝を探し続けてた時、彼が隣にしゃがみこんだ。


 寂しさを紛らわせてただけなのに、私のことを大の貝好きだと思ったらしい。


 いろんなカタチの貝を見つけては手渡してくれたから、私のポケットは小さな貝でいっぱいに。

 私とトーリは、毎日貝を集め続けた。


 そのうち、彼をきっかけに話しかけてくれる子も増えて。

 幼稚園に馴染めるようになった。


 小さな頃の、私の最初の記憶。


 トーリの優しいところが好きだ。

 その頃から、ずっと好き。


 そりゃあ時々、かっこいい男子に目移りすることはあったけど、でもやっぱりトーリが良くて。片思いのまま小学校を終え、中学になった今も、まだ告白出来てなかった。


 だって彼は、私のことを友達としか思ってなかったから。だから私も関係を崩したくなくて、言えなくて。


 つまりこれは、絶好のチャンス。


(まさかトーリから"チョコ欲しい"と言われるなんて、想像してなかったよ)


 さっき、「付き合って」って言ったよね?

 はっきり聞こえなかったけど、たぶん言ったよね?


 声変わりしたトーリの声は低くて、胸をくすぐる。


(私、逃げちゃった。せっかくトーリが、勇気出してくれたのに)


 両想いの嬉しさと、自分の不甲斐なさを反省しながら、決意する。


(トーリのために、ちゃんとしたチョコを用意する! 本命チョコだもん。やっぱり手づくりかな? 渡しながら"こないだはごめん"って謝ろう。それから──)


 もう一度聞かせて? と、お願いしてもいいかな。


 でもバレンタインまで数日ある。


 私は当日まで、トーリから逃げる選択をした。


 ☆


「え、苺和(モナ)……?」


"欲しいチョコがあるから、売り場行くの付き合って欲しい"。


 そう頼むはずの言葉は、彼女のいない教室にポツリと落ちた。誰に拾われることもなく。

(予鈴、そんなぎりぎりだったか?)


 空振りに終わって、脱力する。


(ま、まあ、いいか。昼休みか放課後、伝えれば)


 思い直した俺だったのに、結局その日、モナと話せる機会はなかった。


 それどころか。

 次の日も、また次の日も。


 バレンタインは近づくのに、モナとふたりで会えない。同じクラスなのに、いつも女子の誰かと一緒にいる!


(えええ、なんで? 俺、避けられるようなことしたかなぁ。違うよな。偶々(たまたま)だよな)


 このままじゃアニメのチョコ、売り切れてしまうのでは?


 頼み事するのにLINEじゃなんだか悪い気もするし、どうしよう。


 焦燥にかられながら、あっという間に十四日。

 授業が終わって帰り支度をしてると、俺のところにモナが来た。


「えっと……。これ、頼まれたチョコだけど」


 そう言って、背中に隠した袋を出してくる。


「えっ!?」


(待って、なんで? だってあれから、話せてなかったぞ? けど、もしかして)


 さっすがモナ。

 チョコ売り場に俺が好きなアニメチョコがあるって察してくれたとか?


「え? え? ありがとう」


 戸惑いながら袋を受け取る。


「初めてだから上手く作れなかったけど、でも味はちゃんとチョコだから」

「ん?」


 何が?


 袋から出した中身は、想定してたカタチと違うラッピングで。のぞいたチョコはケーキっぽい。


 俺はそれまで高まった期待から、心のままに失言した。


「……これじゃない……」


「───!!」


 この時のモナの顔は、きっと一生忘れられない。


 悲し気に歪んだ眉に、ショックを受けた声で言う。

「ごめ、ん。私、間違えちゃった?」


(???)


 声が震えてる。声だけじゃなく、手も。

「これは引き取るから……」


(?????)


 急変したモナの様子と伸ばして来た手に、俺はようやく、ガツンと気づいた。


「今日ってもしかして、バレンタイン・デー……?」


「そうだよ……? だから私……」


 !!!!!


 バレンタイン!

 家のおやつで、チョコが出る日じゃない。

 親からのチョコじゃなくて世間では!


 好きな相手にチョコを贈る日!!!


 あまりに縁遠くて、そもそもの意味を忘れてた!

 否、傷つくのが怖くて記憶から抹消()してた!!!


 だって生まれてこの方、チョコなんて貰ったことなくて!!

 

(もしかしていま、モナのくれたチョコって本来の意味の──)


「今日のことは、忘れて」


 弱弱しい笑顔で、モナが袋を取って駆け出そうとした。


「待っ! 待って、モナ!!」


 俺は慌てて彼女の手を掴む。


「ごめん! 俺、勘違いしてて! バレンタインチョコだって、思ってなかった!」


「──何言ってるの?」


「ああっ、だから、その」


「私のチョコが欲しいって、最初に言ったのトーリじゃん……」


 モナの声が泣いてる。

 あああああ、俺はなんという過ちを犯してしまったんだ!!


「違うんだ、その! 俺はチョコ売り場に行きたかっただけで」


「?」


 不審そうな目で、見返してくる。


(やばい、これ、言い方間違えたら一生口きいて貰えないやつだ)


 心の警報が、けたたましく鳴り響く。


 モナは。


 そばにいるのが当然で。

 でも俺はたぶん今、盛大にやらかした。


 もしこれで、以前みたいに笑って貰えなくなったら?


(そんなのは、絶対に嫌だ──)


「言い直す。モナからのチョコ、すっごい嬉しい」

「!」


「ええと、だからそのチョコ、俺にください」


 ぱっ、とモナの顔に明るさが戻る。


 よし、この路線だ。

 言葉選びを間違えるな。


「……私のチョコ、迷惑じゃない?」

「もちろん!! どんなチョコよりも貰いたい!!」


 ほっとしたように息をつく、そんな彼女が可愛い。

 モナのつむじが見下ろせる。


(いつの間にか、こんなに身長差が出来てたんだな)

 幼稚園の時は、横並びだったのに。


 それに何か、いい香りする。花みたいに、軽やかで柔らかな。


 ほっこりする笑顔で、モナがチョコを返してくれた。

「じゃあ……、はい」

「あ、ありがとう」

 ありがとう、ありがとうモナ! これ永久保存版にするよ!


「でも、何をどう勘違いしたの?」


「え゛っ」


「さっき言ったよね。"勘違いした"って。本当は何を想定してたのか、話してくれる? ね? トーリくん?」


 モナの目が! 笑ってない!


 モナが俺のことを"君づけ"で呼ぶときは、お説教タイムに突入する時だ。

 これは怒っている……!?


「ハイ……。聞イテクダサイ」




 それから俺は、思わせぶりな言い方をしたことをたっぷりとモナに絞られ、下校時彼女は、とんでもない情報をくれた。


「バレンタインチョコって、特設コーナーが撤去されたら、特売品になってワゴンに並ぶよ」

「え? ワゴン?」

「そ。女子とか男子とか気にせず、誰でも買えるってこと」

「!!」

「知らなかったかぁ~。まあトーリくんは、彼女からのチョコより、アニメチョコの方が良いお子様だもんね」

「うっ」

「まあいいか、付き合ってあげるよ」

「! それって」

「チョコ売り場。行きたいんでしょ」

「あ、ハイ」

「んん~? 何かな、その顔。付き合うって、別の意味想像した?」

「や、え、まあ、──うん」

「それ、私がこないだ勘違い()()()()()ヤツだから」

「ハイ。その節はどうも……、すみませんでした」


「だから今度は、ちゃんとトーリの言葉で聞かせて」

「……ハイ。ん?」


「そのガトーショコラ、一生懸命作ったから、食べて返事聞かせてね。告白の」



 俺とモナは、ホワイトデー待たずに交際することになったけど、俺から誘うことになったのは当然の流れで。


 つないだモナの手があたたかい。幼稚園の時以来だ。

 この手を離すことのないよう、気をつけなきゃな。


 アニメよりずっと好きだよ、モナ。


 でも、目当てのチョコも買えて良かった!




 お読みいただき有り難うございます!

 懲りたような、懲りてないようなトーリくんでした。


 こちら、1年遅れの「バレンタイン恋物語」企画と、「すれ違い企画」参加作品になります。

 前者は香月よう子様がのこしてくれた企画。

 よう子姉様に「みこみこちゃんっぽい話!」と言って貰いたくて、構想は出来てたのに仕上げるまで1年を要してしまいました。

 姉様、読んでくれるかな。夢に出てきてくれたこともあったので(リアルで会ったことないのに!)、届くといいな。


 もうひとつ「すれ違い企画」は武頼庵(ぶらいあん)様のご企画です。創作の恋物語は「すれ違い」が多いので、参加したいなぁと思っていたので、タグがつけれて嬉しいです。

挿絵(By みてみん)

 久しぶりの現恋でした。

 イセコイは連載は…、これで勢いがついて続き書けたらいいなぁ!(書きたい部分が上手く書けず、何度もトライしながら止まってます。すみません)


 皆様が素敵なチョコを食べれますように(´艸`*) ところで選択科目とかって、今もありますか?

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『恋心なんて、売り飛ばしてやりますわ!』
漫画:戌海コウ様 原作:みこと。
本日2026.02.13.よりシーモア先行販売開始です! よろしくお願いします!
(イラストクリックでシーモアさんにリンクしています)
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― 新着の感想 ―
ひょー…! にっやにやしました。かわい…!!!
苺チョコの様な甘酸っぱさ、素敵です イラストも可愛い(*´ω`*)
途中トーリはやらかしましたね(笑) 慎重に発言を選ぶところは、爆弾の解体作業を見るような心持ちでした。 しかし、結果的には上手くいったようで…。 雨降って地固まるならぬチョコ固まるといったところでしょ…
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