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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第5章 武術大会編
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第75話 互いの願い

どうも、ヌマサンです!

今回、武術大会が行われる商業都市ハーデブクに到着します!

それでは第75話「互いの願い」をお楽しみください!

 ガラガラと砂利道を進む馬車の車輪の音がする。振動は座っているためか、これでもかというほどに尻に響いてくる。


 ローカラトの町を出発し、馬車に揺られること早5日。俺たちは途中の村にて1泊をして再び、ハーデブク闘技場を目指して進み始めていた。


 一泊した村から5日ほど北進すれば王都へと到着する。だが、その村にもう一本ある北西の道を進めば、3日と半日ほどでハーデブク闘技場に到着する。


 ただ、北西の道は木が生い茂っているため、平原に比べて少しだけ暗く不気味な雰囲気を漂わせている。


 俺たちの目指している商業都市ハーデブクは、闘技場にやって来た観光客や闘技場で行われるイベント事に出場する者たちやその関係者の人によって発展を遂げた都市なのだそうだ。そして、ハーデブクはやって来た人たちが泊まったりする宿屋や食事を楽しめるような料理屋が特に繁盛しているとのことだ。


 出発前、セーラさんに「商業都市ハーデブクに行くからには名物の豆スープは絶対に食べておいた方が良い」としつこく勧められた。


 エミリーちゃんは、そのことをセーラさんから聞いていることもあって、余程楽しみにしているのだろう。『豆スープの歌』なるものを馬車の中で延々と歌い続けている。


 オリビアちゃんは呉宮さんの膝の上にチョコンと座って持ってきた本を黙々と読んでいる。どんな本を読んでいるのか気になった俺は本を覗き込んでみたのだが、活字だらけで何だか小難しそうな本だった。俺なら確実に、1ページ目で読むのをやめてしまう本だと思う。


 洋介と武淵先輩は風景を眺めながら、穏やかな表情で会話をしている。何とも割り込めない、「え、何。このご夫婦は?」みたいなことを言いたくなるような雰囲気を漂わせている。


「ねえ、直哉君!鳥のさえずりとか聞こえるね」


「……そうだね」


 ニコニコと明るい表情をしている呉宮さんの話に、俺は引きつった笑みを浮かべながら答えた。それは呉宮さんに対してのものではなく、俺のすぐ隣でエミリーちゃんが『豆スープ』の歌を歌っているので鳥のさえずりなど全然聞こえないのだ。呉宮さんはエミリーちゃんから距離が一番遠いからなのか、鳥のさえずりが聞こえているようだ。


 ――途中の村を出てから3時間が経った頃。


 さすがに、エミリーちゃんも歌いつかれたのか俺の膝を枕にして眠ってしまっている。向かいに座る洋介と武淵先輩もお互いに体を預け合って眠っている。呉宮さんはオリビアちゃんを膝に乗せながら、うとうとしている。


 現在、馬車の中で起きているのは俺とオリビアちゃんだけなのだが、オリビアちゃんはずっと活字を目で追い続けている。あの集中力は俺も見習いたいところだ。


 俺は話す相手もいない馬車の中でぼんやりと移りゆく外の景色を眺めた。エミリーちゃんの歌が止んだこともあってか、鳥の鳴き声や虫の鳴き声が聞こえてくる。こうしていると時間の流れがゆっくりになったような気分になる。


 そして、俺もそんな穏やかな空気の中で眠りに落ちてしまっていたのだった。


――――――――――


 目を覚ますと、すでに昼休憩の時間だった。昼食は、みんなと他愛のない話をしながら食べた。ホントに平和というのは最高だ。


 そんな感じのことがあった日から3日。馬車は月明りの中、無事に商業都市ハーデブクへと到着した。


 馬車を降りた時、後ろの2台目の馬車から茉由ちゃんが怒っている感じで降りてきたので、紗希に馬車の中で何があったのかを聞いてみたところ、何とも茉由ちゃんが怒るのもごもっともな話だった。


 馬車の中で、寛之がラモーナ姫の揺れる大きな二つの果実をデレデレしながら目で追っていたんだそうだ。


 何とも茉由ちゃんが怒っている理由には納得がいく。そりゃあ、彼女からすれば目の前で他の女性の方に目移りされたら怒らない方が無理というものだ。


 大体、揺れる胸に目が行くとか性欲のサルではないか。……まったく、胸とは平らなモノこそが至高であるというのに、どうしてそれが理解できないのか。いや、それはさておいておくとしよう。


「紗希、茉由ちゃんを慰めてやってくれ。それは俺には出来ないからな」


「うん、もちろん!それじゃあ、茉由ちゃんの所に行ってくるね!」


 紗希はムスッとした表情をしている茉由ちゃんのところへと走っていった。


 さて、俺は荷物を宿の部屋まで運んだら寝るとするか。俺は別に寛之を叱ろうとかそういうつもりは無い。なぜなら、これは寛之と茉由ちゃんの問題だ。だから、当事者である二人でケリをつける必要がある。まあ、二人が助けを求めてきたら力にはなろうとは思う。


 俺はそんなことを思いながら、馬車から荷物を降ろした。宿屋で泊まれる部屋は部屋は4人部屋が1つと、3人部屋が2つと、2人部屋が7つだ。ジョシュアさんたち運送ギルドの人たちは別の宿を取っているんだそうだ。


 4人部屋には俺と呉宮さん、エミリーちゃんとオリビアちゃんの4人で泊まることになった。なぜ、エミリーちゃんとオリビアちゃんが一緒の部屋に泊まるのかと言えば、ウィルフレッドさんに「一緒に寝るなら顔見知りのお前たちの方が良いだろう」と言われたためである。


 3人部屋の方は紗希と茉由ちゃん、ラウラさんの3人とウィルフレッドさん、ロベルトさん、寛之の3人がそれぞれ泊まることになった。


 これは茉由ちゃんが寛之に対して怒っているため、「部屋を分けて欲しい」とウィルフレッドさんにお願いしたことによるものだった。


 寛之は茉由ちゃんと部屋を分けた結果、泊まれる部屋がウィルフレッドさんたちのところしかなかったので、こういう組み合わせになったのだ。


 残りのメンバー14人は7組に分かれ、それぞれ2人部屋に。


 俺たちは到着して部屋に荷物を運び終えた後で、夕食を摂ってそれぞれの部屋へと戻った。明日には予選の組み合わせが出るとのことだった。基本的に同じ冒険者ギルドのモノと当たるのは3連勝した辺りからになるだろうとロベルトさんから言われた。


 俺は寛之と茉由ちゃんが早く仲直りできるように心の中で祈りながら、部屋に戻った。部屋に入るとすぐ、エミリーちゃんが胸元に飛び込んできた。対して、オリビアちゃんは静かに黙々と読書をしている。


「あ、直哉君。今、エミリーちゃんと話してたんだけど町の中央に風呂屋があるんだって。明日の朝に行ってみない?」


 エミリーちゃんは目をキラキラ輝かせながら俺を見上げてくる。さすがに、この純粋な瞳を裏切るのはムリだ。


「よし。それじゃあ、明日の朝に風呂屋に行こうか」


 俺が行こうと行ったタイミングで、部屋に入って来た人物たちがいた。


「ボクたち、明日の朝に風呂屋に行くんだけど、兄さんと聖美先輩たちも一緒にどうですか?」


 こんな具合に風呂屋に行くという紗希に茉由ちゃんとラウラさんが後ろに控えている。


 結果的に、明日の朝から7人で風呂屋へと向かうことになった。


 ローカラトでは大人二人が入れる木桶にお湯を張って入るのが、ポピュラーな感じだった。だが、聞くところによると、明日の朝に行く風呂屋も含めて、商業都市ハーデブクでは蒸し風呂がポピュラーなのだそうだ。


 俺たちは日の出と同時に宿屋を出ることを約束して、その日は眠りについた。


 部屋はベッドが横並びで3つあるので、真ん中にエミリーちゃんとオリビアちゃんを寝かせた。


 俺は窓際のベッドで、呉宮さんは二人の寝ているベッドを挟んだ向こうのベッドだ。


 エミリーちゃんとオリビアちゃんが寝静まった頃。俺はふと、目が覚めた。何となくだが、夜風に当たりたい気分になった。


「あ、ごめん。起こしちゃった……?」


 俺の目の前には舌なめずりをする申し訳なさそうにこちらを伺う呉宮さんの顔があった。


「あ、吸血衝動か……。呉宮さん、別に血を吸われたから起きたわけじゃないから。ただ、何か夜風に当たりたくなっただけだから」


 俺は呉宮さんの夜中の吸血に慣れ過ぎてしまったせいか、こんな薄いリアクションになってしまっている。


 俺が起き上がるちょうどいいタイミングで俺に(またが)っていた呉宮さんが退()いてくれた。


 この宿の部屋には小さいがバルコニーがあるのだが、俺がバルコニーに出ると、呉宮さんもちょこちょこと後ろをついてきてバルコニーに出てきた。


「……もしかして、呉宮さんも夜風に当たりたい気分?」


 俺は真夜中の空気で肺の中を換気した後で、呉宮さんに尋ねた。横にいる呉宮さんの月の光に照らされる白い肌に視線が吸い込まれてしまいそうになった。


「ううん、私は直哉君と一緒に居たい気分……かな」


 俺は呉宮さんからの返事に一瞬、頭が追い付かなかった。理解した途端に顔が熱を持ったのが分かる。


「そ、そうか」


 俺は脳内大パニックのためにそれしか言えなかった。俺的に予想していたのは「うん、私も夜風に当たりたいなって思って」だったのだが。予想の範疇を軽々と超えられたことで、余計に激しく動揺してしまった。


「ねえ、直哉君。子供が出来たら、こんな感じなのかな?」


「えっと、そう……じゃないか?」


 俺の頭は続けざまに放り込まれた爆弾に処理能力が限界を迎えていた。正直、『こんな感じってどんな感じ!?』とか思ってたりする。


 そして、とっさに疑問文に疑問文で返した自分に『疑問文には疑問文で答えろと学校で教えているのか?』とどこかで聞いたようなセリフが頭に浮かんだ。


「えっと、こんな感じって言うのはね。子供とか生まれたら子供を二人で挟んで寝たりするのかなって意味なんだけど……って直哉君、大丈夫!?」


「……大丈夫!」


 ……もうダメだ。頭が回らない……!心臓に悪いから、唐突にドッキリする返しや質問を投げるのはご遠慮いただきたいところだ……!


「ねえ、直哉君。明日からの武術大会、ホントは私は出て欲しくないんだよね」


「……呉宮さん?」


 俺は急に沈んだ表情をする呉宮さんを見つめた。何とか、今は頭が再起動し始めたところだ。


「私、直哉君が傷つくところとか見たくないし。そもそも戦いとか、勝っても負けても誰かが傷ついちゃうから嫌い……なんだよね」


 俺は呉宮さんの意見には賛成だ。だが、戦いは何であれ起こってしまうものだし、それと同時に自然と勝敗がついてしまう。


「呉宮さん、俺もその意見に賛成だよ。でもさ、俺は呉宮さんを誰にも傷つけさせたくないんだ。そのために強くなりたい。そのために、この武術大会は出たいと思ったんだ」


 呉宮さんは俺が傷つくのは見たくないと言い、俺は呉宮さんを誰にも傷つけさせたくないと言った。


 これはまとめてしまえば、「お互い、相手が傷つくのを見ていられない」という話になる。


 俺の呉宮さんを誰にも傷つけさせたくないという気持ちは本心からだ。これはお互いに本気だからこそ、すれ違ってしまうものなのだろう。


「でも、直哉君が出たいって言うなら私は応援するくらいしか出来ないから。……頑張ってね」


 俺はもう少しばかり口論とかになるものかと焦っていたが、何だか丸く収まってしまった。何か、呉宮さんに折れさせたみたいな感じで少し罪悪感のようなものを感じる。だが、呉宮さんが折れたというのは苦い顔をしているので分かってしまう。


 だが、「頑張ってね」のところの顔の角度を少しだけ傾けた笑顔が可愛すぎて、心臓も裸足で逃げ出すほどだったと思う。俺の心臓よ、よくぞ耐えた。


「ああ、頑張る」


 そのこともあってか、反応は少し遅れてしまったが、俺は拳を握ってテラスの手すり部分にポンと置いた。空を見上げれば、下弦の月が優しく夜の闇を照らしていた。


――明日は予選の組み合わせが発表になる。どうなるのか、今から楽しみではある。呉宮さんの応援もあることだし、まず予選を突破しないといけないな!


 そう、俺は自らを優しく見下ろしてくる月に誓うのだった。

第75話「互いの願い」はいかがでしたでしょうか?

今回は商業都市ハーデブクに到着して、直哉と聖美の話になってました。

直哉は聖美を守るために強くなりたいと願い、聖美は直哉に傷ついて欲しくない。

どちらもお互いが傷ついて欲しくないが故の思いなのです……。

――次回「予選の始まり」

次回から武術大会の予選が始まります!

更新は11/16(月)の20時になりますので、読みに来てもらえると嬉しいです!

それでは皆さん、良い休日をお過ごしください!

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