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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第4章 ローカラト防衛編
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過去⑪ 命の輝き

どうも、ヌマサンです!

今回で過去編は終了です!

それでは過去⑪「命の輝き」をお楽しみください~

 ――魔王軍が再び境を侵して来た。


 魔王グラノリエルス討伐から3年の月日が流れた頃、こんな知らせが王国中を駆け巡った。


 3年の間に有力貴族の間で権力闘争がいくつも起き、合わせると数十名の貴族が不審死を遂げた。


 そのせいで国力が弱まっていたところへ、この一報である。


「集められる限りの兵を集めて、今すぐにローカラトの町の南部に向かうわ!」


 アンナの一声で王国中からありったけの兵力が集められた。


 報告によると、魔王軍の数はおよそ1万。3年前のおよそ10分の1であるが、魔王軍であることに変わりは無い。


 すでにローカラト辺境伯シルヴァンが町に駐屯している王国兵4千と、千ほどの私兵を率いて迎撃に当たっていたが、苦戦を強いられていた。


 この町で冒険者ギルドのマスターを務めているウィルフレッドが戦いに出ると申し出たが、シルヴァンにもアンナにも戦場に出てくるなと釘を差されてしまっていた。


「おかあさん」


 全身を純白の鎧で固めたアンナは突如、後ろから服の裾をクイクイと引っ張られた。


「あら、クラレンス。来てたのね」


 アンナは笑顔を作り、後ろに居た男の子の銀色の髪を何も言わず、優しく撫でた。


 この少年は去年、アンナとクリストフの間に生まれた子供で名をクラレンスという。スカートリア王国の王子である。


 クラレンスの後ろにはクリストフが付いていた。今回の戦いではクリストフは王宮に留まることになっている。


「それじゃあ、行ってくるわね」


 アンナは腰に差した剣を揺らしながら、魔王軍を迎撃すべく兵を率いて王都を立った。


 従う兵は2千の騎士と王国兵5千を合わせた7千。王都を立って12日後にローカラト辺境伯シルヴァンの兵と街の南部の平原で合流した。


 合流した時にはシルヴァンの率いる兵は半数近くにまで減っていた。


「女王陛下、御下向いただきありがとうございます」


 シルヴァンからの謝辞をアンナは笑顔で受け取った。


「現在の状況は?」


 そうアンナに問われたシルヴァンは即座に、魔王軍は9千ほどで正面の山々に陣取っていることを説明した。


 その後の軍議で、どうするのかを延々話し合ったが、中々まとまらなかった。


 そこへ一人の魔族がやって来た旨を兵士から取り次がれたアンナは動揺することなく、陣幕へと招くように兵士に伝えた。


 何をしに来たのかをアンナが問うと、魔王ヒュベルトゥスからの伝言を預かって来たと答えた。


『明日の朝、日の出直後に平原の中央部にて余と一騎打ちせよ。誰を選ぶのかは任せるが、腕の立つものを所望する』


 魔人はそれだけを伝えて攻撃することなく立ち去っていった。


「……アンナ様、いかがなされますか?」


 誰を一騎打ちに出すのかとシルヴァンがアンナに尋ねる。その声からして少し怯えがうかがえる。


「相手が王なら、女王が一騎打ちをするべきよね」


 アンナは椅子から立ち上がってそう言い放った。その言葉に重臣たちは驚きを隠せないといった様子だ。


「女王陛下、一騎打ちに出るのはお止めください!」


 そんな声が次々に上がって来る。しかし、アンナの決心は揺るがない。


「じゃあ、聞くけど。アタシより腕の立つものは居るの?」


 アンナは辺りを陣屋内を見回すと、みんな顔を下げて俯いている。他の八英雄たちは各地に散っている。


 ジェラルドとセルゲイに至っては3年経った今でも消息が掴めていない状況だ。


 そして、オリヴァーはウィルフレッドと名を変えてローカラトの町で娘のミレーヌと幸せに暮らしている。今回の戦いにも加わらないように釘を打ってある。参加してしまえば、再び厄介ごとにウィルフレッドを巻き込むことになるからだ。


 レイモンドとシルヴェスターの二人は西の大陸から向かってきている帝国軍への牽制の意味を込めて西方に留まっている。ランベルトとフェリシアの二人は王都の守備に残してきている。


 よって、この場でアンナより強い者は居ない。武芸に優れているシルヴァンですら、アンナに勝ったことは一度も無い。


「アンナ女王陛下、ここは俺に行かせてください!」


 シルヴァンはアンナより自分が弱いことを分かった上で、自分に行かせてほしいと据わった眼でアンナを見つめた。


 しかし、アンナは首を縦に振ることは無かった。そして、夜が明けた。アンナは一騎打ちをするために馬に乗り、前線へと出た。


 平原で両軍が対峙する中で、一人の体格の良い男が大剣を地面に突き刺して立っている。


 アンナは馬を降り、従者に馬を引いて下がらせると片手剣を抜き払い、胸を張って威勢よく前へと進み出た。


「余の相手はそなたか。名は何というのか聞かせてもらおうか」


「アタシはアンナ。スカートリア王国の女王よ」


「そうか、八英雄のアンナと言うのはそなたであったか。ユメシュから聞いた通りの女だ」


「どうして、アタシのことを知ってるの?そのユメシュという人物から聞いたの?」


 アンナはユメシュという名に聞き覚えがあったが、さすがにどこで聞いたのかまでは覚えていなかった。


「さあ、始めようか。英雄アンナ・スカートリアよ」


 ヒュベルトゥスが大剣を構えるのと同時にアンナは片手剣を斜に構えた。


 直後、ヒュベルトゥスの大剣が唸りを上げながらアンナへと迫って来る。アンナはその一撃を受け止められたものの後ろへと吹き飛ばされ、地面の上を何度も跳ねた。


「……やはり、余の父・グラノリエルスの仇であるジェラルド以外の人間は大して強くないらしいな」


 ヒュベルトゥスはため息をついてアンナの方へとゆっくりと勝利を確信したかのように歩き始めた。しかし、大剣がアンナの首を刈れる間合いに入ろうかというタイミングでアンナは剣を地面に突き刺してよろめきながら、やっとの思いで立ち上がって来た。


「アタシはこの国を、この国に住まう民を、護る責務が、ある……!」


「そうか。だが、それは叶わぬ。貴様は今ここで死ぬ。そして、父を殺したジェラルドも余が自らの手で殺す」


 殺意を帯びた目でそう言った。その声は静かに空間に透き通っていくかのようだ。


「アタシは()をかけて守るべきモノ、守りたいモノを守るわ!」


「戯言を……」


 ヒュベルトゥスは言葉を紡ぐことを途中でやめた。それはアンナから発される光を見たためだ。


「アタシの魔法は代償魔法よ」


古代魔法(アルトマギア)の中の一つか」


 古代魔法が発現する者は、魔族や竜人族、人間を合わせても数十年の中で一人という割合でしか誕生しない。


 代償魔法とは代償の大きさに応じて願った効果を発動する魔法。ただ、代償を何にするのかだけは使用者が選べる。


「まあ、代償魔法ごときで余が倒せるとは思えんがな」


「そうね。倒せるかは分からないけど、あなたにこの刃が届くにはこれしかないから」


 アンナは苦しそうに笑みを浮かべた。ヒュベルトゥスはそれをフッと鼻で笑い飛ばした。


「良かろう。我はこの攻撃を避けたり、防御したりすることはしないでおいてやろう」


 ――自信。


 どうあっても自分は倒されないという自信だ。ヒュベルトゥスの言葉からは、それがにじみ出ている。


「これはアタシの最後の魔法。見てなさいよ……!」


 アンナはその言葉の最後にこう付け加えた「師匠(ジェラルド)」……と。


 放つ直前にアンナの頭をよぎったのは夫クリストフと息子のクラレンス、それに弟のオリヴァー。次々に知り合いの顔が右から左へと流れていった。


「みんなはアタシが護るんだから!」


 放たれたのは白き光の刃。その命の輝きはヒュベルトゥスを飲み込んでいく。ヒュベルトゥスの咆哮が辺りに響き渡る。


 輝きの後に立っていたのは魔王ヒュベルトゥス。


 だが、その体中からは白い煙を上げている。しばらく眠ったように目を閉じていたようだったが、カッと血走った目を見開いた。


 ヒュベルトゥスが顔を上げて、前を見る。しかし、そこにはアンナの姿は無かった。


「フン、結果は余の言う通りだったではないか」


 しかし、歩みを進めようとするとガクリと膝から崩れ落ちた。


「魔王様!」


 臣下たちが慌てた様子で駆け寄って来る。自らの周囲を取り囲む臣下たちを見やってヒュベルトゥスは全軍に撤退の命を下した。


「……ここはあの女の気高き魂に免じて、退いてやろう」


 魔王軍が退却したのち、平原では理解が追い付かないシルヴァンを中心とした者たちが全軍を上げてアンナ・スカートリアの捜索に当たったが、1週間が経っても、1ヶ月が経っても見つかることは無かった。


 これにより、王国はアンナ・スカートリアを死亡したと公表した。直後、帝国の進行が苛烈になり、レイモンド、シルヴェスター両名は帝国との戦争の指揮を執ることになった。


 結局、アンナの棺は空のままで葬儀は執り行われた。葬儀の日の王都は大雨であった。降りしきる雨の中、棺は王家の墓地へと埋葬された。人々は服を濡らして悲しんだのであった。


 その次に誰が王の座を継ぐのかということになった。


 アンナの子であるクラレンスはまだ1歳である。そして、アンナの弟のオリヴァーはまだ病に倒れているままということになっている。病弱な王では西の大陸にあるヴィシュヴェ帝国や南の大陸のルフストフ教国などの周辺国に侮られる可能性があった。


 貴族たちは会議に会議を重ねた結果、クラレンスが18歳になるまでの間はアンナの夫であるクリストフが国王を代わりに務めることに決定した。


 クリストフの戴冠式は曇天の中、アンナの葬式から20日以上経って行われたのだった。

過去⑪「命の輝き」はいかがでしたでしょうか?

まさかのアンナまで行方不明に……!

息子のクラレンスは次の第5章で登場予定なので、お楽しみに!

――次回「直哉出生の秘密」

次回からは直哉たちの視点に戻ります!

3日後の10/29(木)に更新するので、読みに来てもらえると嬉しいです!

それでは引き続き、1週間頑張って行きましょう!

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