過去⑥ 軍議
どうも、ヌマサンです!
今回は魔王軍との戦いの準備の一幕です。
それでは過去⑥「軍議」をお楽しみください~!
ジェラルドたちが竜の国から帰還して1週間。決戦の期日まで残り3日となっていた。そんな中、執務室では国王代理のアンナとその補佐をしているオリヴァーが忙しそうに政務に励んでいた。
「姉上、西の大陸にあるヴィシュヴェ帝国も南の大陸のルフストフ教国も静観する気のようです。これでは他国からの援軍は望めないでしょう」
西の大陸にあるヴィシュヴェ帝国とスカートリア王国は100年以上前から毎年のように小競り合いをしている。毎年、ヴィシュヴェ帝国から攻め込んでくる。それをスカートリア王国が迎撃するという形だ。だが、ヴィシュヴェ帝国はスカートリア王国に一勝もしたことがない。
ルフストフ教国とはルフストフという人物が西の大陸で広めた宗教なのだが、平和主義を掲げているが、ちゃっかり西の大陸を完全に支配下に置いているという一見すると矛盾している宗教である。
実際のところは売られたケンカは買うといったスタイルである。すなわち、このルフストフ教を弾圧しようとした西の大陸の国々がまとめて返り討ちに遭い、支配されたということだ。攻撃を加えさえしなければおとなしい国である。
「帝国は仲の悪い私たちのために援軍を出すつもりは無いし、ルフストフ教国も魔王軍に攻撃されてるわけじゃないから手伝うつもりは無いってところかしら」
「……恐らくは」
「「ハァ……」」
これにはアンナもオリヴァーもため息しか出ないといった風だった。
魔王はスカートリア王国を葬ったら確実に帝国にも教国にも攻め込むだろうことは容易に想像できるのに、なぜ手伝わないのか……と。
「もうこの事は忘れましょう。期待したアタシが馬鹿だったわ」
「姉上が馬鹿なら私は大馬鹿ですよ」
オリヴァーはそう言って自嘲気味に笑った。何せ、アンナより必死に両国に期待して協力を働き掛けたのはオリヴァーだからだ。
「よし、今の状況はどうなっているの?戦力はどのくらい整ったの?」
「戦力は……王国軍がおよそ4万8千で、現在ジェラルド総司令が鍛錬を行なっているところです。王国騎士団は1万。これを2千5百ずつの4つの隊に分けて、隊長はそれぞれ、レイモンド、フェリシア、ランベルト、シルヴェスターの4人を任命し、鍛えさせているところです。これとは別に、貴族たちの私兵は6千ほど集まりました。また、冒険者たちが千人ほど集まっております。こちらはセルゲイに一任しております」
アンナはオリヴァーの長い状況報告を聞いた後にため息を一つ付いた。
「総戦力としては6万強といった所ね。でも確か、魔王軍は10万って言ってたわよね……」
明らかに戦力はこちら側は足りていない。アンナもオリヴァーもその事は理解している。しかし、勝たなければならない。……何としても。
「姉さんは軍の指揮が出来るから、後方から軍の指揮を執ってくれる方がありがたいかな」
アンナはこの5年間、帝国軍を迎撃するための指揮を執って負けたことがない。
兵力差は毎回5倍以上も開きがあったにもかかわらず……である。このことから指揮下の兵士や騎士たちから“常勝の女王”と呼ばれている。
「そう言うアンタだって、父上の政策に反対したりしてくる貴族連中を掃討してきたじゃない」
オリヴァーは政策に反対する者を一人残らずに粛清する裏の仕事を自分の魔法を使って行っていた。
このことからオリヴァーは貴族たちから“死神”と呼ばれ、恐れられていた。
「まあね。政策を進めるためには仕方ないことだからさ」
オリヴァーはうつろな目をして窓の外の青空を眺めた。
少し沈んだ空気が漂う執務室に二人の男がやって来た。
一人はスカートリア王国の宰相を務めるクリストフ・ローカラト。5年前に弱冠20才で宰相に昇りつめた秀才で、前宰相の不祥事を暴いて宰相の座について以来、オリヴァーと協力して様々な政策を立案・実行してきた。
また、剣の腕も王国の中でも5本の指に入るほどの腕前という文武両道。そして何より、アンナの婚約者でもある。
その左斜め後ろに控えるのが、クリストフの弟であるシルヴァン・ローカラト。年はクリストフの3つ下の22才。シルヴァンは兄ほど頭は良くないが、武術の腕はクリストフの上である。その腕を買われて兄・クリストフの護衛をしている。
「アンナ王女殿下。戦に必要な分の兵糧、武器などの調達は完了致しました」
クリストフはアンナに対して、丁寧な礼と作法をもって接した。本人談ではクリストフは公私の区別がきちんとしているためにアンナも彼のことは嫌いではないと言っていた。
「今日はその報告に上がっただけですので」
クリストフはこういう報告を含めた雑務もすべて自分でやりたがるという点だけはメンドくさいと周りには思われていた。
ある意味で周りを信用していないとも受け取れる態度である。
「失礼致しました」
クリストフは本当に報告だけをして部屋を退出していった。
「姉上、ホントに宰相殿は真面目ですね」
「一体、いつ肩の力を抜いてるのかしらね。ちょっと心配になるわね」
アンナはやれやれと言った様子で伸びをしていた。
「昼間から婚約者の心配とは、姉上はホントに宰相のことが好きなんですね」
オリヴァーはニヤニヤと笑みを浮かべながら、姉の方を見やった。
「ちょっ!アタシは心配なんかしてないわよ!?」
「でも今、『心配になるわね』って言ってましたよね?」
「それは……!」
アンナは顔を朱に染めた後、机に突っ伏した。
「姉上も素直になれば良いのに……」
オリヴァーはそうボヤいてから机の書類整理に取り掛かった。そこへアンナから話を振られた。
「ミレーヌちゃんは元気にしてるの?」……と。
「ああ、最近はスプーンとフォークを使えるようになった」
そんなことを言うオリヴァーは父親の顔をしていた。
「戦いが終わったら、私も久しぶりにミレーヌちゃんに会ってみたいわね」
「ああ、ミレーヌも楽しみにしてることだろう」
そんな会話の後、再び二人は書類の整理に取り掛かった。
その日の昼にべレイア平原の指定の決戦場にアンナ自らが軍を率いて進軍を開始した。到着は決戦前日の昼であった。
その日の夕方からべレイア平原のアンナの幕舎にて軍議は行われた。
軍議に参加しているのは全員で10名。国王代理のアンナ、その補佐を行うオリヴァー。そして、宰相のクリストフとその弟のシルヴァン。
王国軍総司令のジェラルドと、レイモンド、フェリシア、ランベルト、シルヴェスターの4人の王国騎士団長。そして、冒険者を代表のセルゲイ。
この10人が真ん中の丸い机を囲むように立っている。
「明日は俺が王国軍の騎兵を率いて開戦と同時に魔王・グラノリエルスの元へ乗り込む」
ジェラルドはそう言って、指で進む道を指で示した。
「俺が居ない間の指揮は副司令に任せるつもりだ」
「分かったわ。それじゃあ、魔王の相手は総司令に一任します」
アンナは淡々と戦いの筋道を立てていく。
セルゲイたち冒険者は王国軍の前に居られると指揮がややこしいため、王国軍の最前列に位置する重装歩兵と軽装歩兵の間に挟む形を取った。
また、開戦直後にレイモンド、フェリシアが率いる王国騎士団を魔王軍の右側面に攻撃をかけさせ、対する左側面にはランベルト、シルヴェスターの率いる王国騎士団に攻撃させる運びになった。
アンナとオリヴァーはこの幕舎から全軍の指揮を執り、残った貴族の私兵たちの指揮はクリストフとシルヴァンの二人が担当し、アンナたちのいる幕舎周辺の守りを固めることに決まった。
軍議はそれで解散となり、各々の受け持つ陣地へと戻っていった。
――その日の星々の輝きは戦いに臨む者たちの希望の数と命の輝きを現しているかのようなものがあった。
過去⑥「軍議」はいかがでしたでしょうか?
次回はいよいよ戦いが始まります……!
――次回「開戦!べレイア平原」
ついに戦いが始まります……!
明日の20時に更新するので、読みに来てもらえると嬉しいです!
それでは皆さん、明日も頑張っていきましょう~





