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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第4章 ローカラト防衛編
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過去① 平民上がりの英雄

どうも、ヌマサンです!

今回からは過去編です!

3人称で進めていくので、よろしくお願いします~

それでは過去①「平民上がりの英雄」をお楽しみください!

 (さかのぼ)ること25年前。


 平民上がりの英雄であるジェラルドは王国軍に入って、わずか5年で他の者とは桁違いの軍功を挙げ、20才という若さで王国軍総司令の座についた。


 ジェラルドは愛用のサーベルを()き、総司令の証として国王から直々に賜った国の紋章を刺繍された黒マントを羽織って王宮を歩いていた。


 貴族から向けられる視線は冷たく、軽蔑の色も込めた敵意の視線を向けられていた。


 貴族からすれば平民であるジェラルドが王宮を堂々と歩いていることそのものが気に入らないのだ。


 だが、これはジェラルドに限った話ではない。代々の王国軍総司令もこのような視線の中で職務を執り行ってきた。そして、代々の王国軍総司令は貴族との争いが起こらないようにこびへつらった。


 貴族はしきりに噂した。ジェラルドが王国軍総司令の座に就くために前王国軍総司令を悪魔を召喚して殺させたのだ……と。


 事実、ジェラルドが王国軍副司令だった時に王都に出現した悪魔との戦いで前王国軍総司令は戦死している。


 それを受けて国王が実力として申し分ないジェラルドを王国軍総司令に任命したのだ。


 貴族たちがジェラルドのことが気に入らないのには平民であること以外に、一切貴族に対して媚びないことが背景にあった。


 ジェラルドは自らが尊敬に値する者と主君であるスカートリア王国国王にしか例を取らなかった。


 ある日、その態度が気に入らない貴族の数名が暗殺者数名を雇ってジェラルドを襲わせたが、傷の一つも与えることすら出来ずにジェラルドに制圧されるという事件が起こった。


 これに対してジェラルドは、捕らえた暗殺者たちを依頼主の貴族の名を吐けば各々に大金貨1枚を渡して罪に問うことなく釈放するという異例の処置をとった。


 そのことで元々金目当てだった暗殺者たちは素直に依頼主の貴族数名の名を吐いた。それを元に貴族たちを捕らえ、国王の許可を得て捕らえた貴族たちを反逆者として苛烈なまでの罰を与えた。


 一、関与した貴族はそれぞれ王都の中央広場にて絞首刑とする


 一、関与した貴族の一族全員の貴族位の剥奪


 一、関与した貴族は所有していた土地や財産を王家に譲り渡す


 一、貴族位を剥奪された男性は20年間セベマ炭鉱での労働に従事し、今後一切の王都への立ち入りを認めない


 一、貴族位を剥奪された女性は王都から追放し、今後一切の王都への立ち入りを認めない


 この5つの罰により、ジェラルドに盾突く反対派の貴族たちの行動はジェラルドへの畏怖によって鎮静化した。


 その後、貴族位を剥奪された男性の内の9割はそれを恥として、炭鉱に行く前に自決し、炭鉱での労働に従事した者も2年ほどで体を壊したり、病気にかかったりして全員が死亡した。


 また、貴族位を剥奪された女性の7割が二度と王都に踏み入れられないことを嘆いて自決し、残りの3割は地方の小都市で娼婦として働いたり、村で農民として働いたりして余生を過ごした。


 こうして、ジェラルドは貴族たちから畏怖の眼差しで見られるようになった。その半面では、指揮下にある王国兵たちからは慈父のように慕われていた。


 なぜなら、兵士の子供の誕生日には欠かさず、衣服や子供用の魔道具をプレゼントしたり、兵士全員の顔と名前を覚えて日々の帰り際に会った兵士全員に労いの言葉をかけたりしたりしていた。


 ジェラルドは味方には慈父のように優しかったが、敵には一切の情けをかけない男なのだった。


 そんなある日、ジェラルドは国王に呼び出された。


 謁見の間に赴くと、国王が玉座に腰かけていた。その隣には見た感じは16,7才の男女が一人ずつ国王の左右に控えていたのだった。


「国王陛下、一体何の御用でしょうか」


 ジェラルドからの問いに国王は王らしい威厳のある声で返した。


「そなたに頼みがあるのだ」


「国王陛下が()に頼み……ですか?」


 王からの言葉に戸惑う様子のジェラルド。王の頼みとは何なのかを必死に頭の中で推測している様子が見て取れる。


 そんな戸惑った様子のジェラルドに国王は続きの言葉をかけた。


「ジェラルドよ、そなたへの頼みと言うのは……」


 王は言葉の途中で左右に控える銀髪の男女の肩を掴んだ。


「この二人に武術を指導してやって欲しいのだ」


 ジェラルドはその二人を流し見た。


「はっ、王の命とあらばお引き受けいたします」


「うむ、頼んだぞ。ジェラルドよ」


 こうしてジェラルドはその日からこの二人に武術の指導をすることになったのだった。


「それでは中庭へ参りましょうか。お二人とも」


 ジェラルドは沈んだ表情をする二人を連れて中庭へと向かった。


「まず、お二人の名前をお教え願えないだろうか?」


 朝の心地よい風が吹く中庭に着くとすぐにジェラルドは二人にそう言った。二人はお互いを肘でつついているだけで話そうとしない。


 どちらが先に名乗るか。これを譲り合っているようだった。


「ハァ……お前たちには口というものが付いていないらしいな。ならば、どうやって喋るのか俺が手本を見せてやろう」


 ジェラルドは息を吸って……吐き出すと同時に鼓膜が破れんばかりの大声で自分の名を名乗った。


 二人は耳を抑えながら、地面にうずくまってしまっている。


「はあ、早く名前を教えてくれ。俺は教えてくれるまでこれくらいの音量で俺の名前を言い続けてやる」


 そう言うと、二人の内の男の方が慌てたように立ち上がって名前を名乗り始めた。


「私はオリヴァー・スカートリア。国王陛下の長男で、隣が私の姉であるアンナ・スカートリアです」


 オリヴァーは隣でうずくまっているままの姉のアンナを指差しながら名を名乗った。


「そうか、二人は国王陛下のご子息とご息女であったのか。先ほどの大声を出して驚かせてしまったことはお詫びしよう」


 ジェラルドはそう言って素直に二人に対して謝罪を行った。


 オリヴァーはこれに対して「こちらこそすぐに名乗らなかったことをお許しください」と丁寧に礼をして詫びた。


 だが、姉のアンナは「フン、平民上がりの分際で生意気なのよ」と威勢が良いのか、勝気な風に言い放った。


 ジェラルドはそれに対して怒るわけでもなく、稽古のための木刀をオリヴァーとアンナに一本ずつ手渡した。


 オリヴァーは素直に受け取ったが、


「アンタみたいな平民が触ったものを触るなど王家の恥よ!そんな汚らわしいものをアタシに渡さないでくれるかしら?」


 と、アンナは受け取ることを頑なに拒否した。


 オリヴァーはそんな様子の姉に対してため息しか出なかった。


「大体、平民風情(アンタ)に教わることなんて何もないわ!」


 アンナはそう言って踵を返して帰っていった。


「姉が失礼な態度を……!後できちんと言い含めておきますので、何卒(なにとぞ)ご容赦を……!」


 オリヴァーはそれから何度も何度もジェラルドに頭を下げた。しかし、ジェラルドはオリヴァーの肩を掴んだ。


「何もお前が謝ることは無い。あれはお前の姉の問題だ」


 オリヴァーはそう言われてなお、申し訳なさそうに地面を見つめていた。


「さあ、剣を持って向かって来い。稽古をつけてやる」


 その日、ジェラルドはオリヴァーのみの武術の稽古を執り行った。


 翌日の早朝も昨日と同じ王宮の中庭で稽古を行った。


 朝から木刀同士が打ち合う音が王宮に響き渡る。オリヴァーは必死に打ってかかるが、ジェラルドに片手で右へ左へ(さば)かれていた。


「ジェラルドさん、私は昔から剣が上達しないのです。これでは王家に、父上に泥を塗ってしまうことになりかねません」


 オリヴァーは大粒の汗を流しながら、肩で息をついている。そんなオリヴァーの前にジェラルドは片膝をついた。


「お前ははっきり言ってこれ以上の剣の上達は難しいだろうな」


「そう……ですか……」


「だが、お前の動きを見ていて近接格闘術は向いているように感じた」


「近接格闘術……ですか」


 近接格闘術。それは人体の急所を突いたりするので殺傷能力が高いために主に暗殺者が使うことで王国では知られるものだ。


 ジェラルドは今までに暗殺者を相手した際に学習し、自分の形へと昇華させていた。それを教えるということをオリヴァーに伝えた。


 さすがに嫌がるのではないかとジェラルドは見ていたが、オリヴァーに嫌がるような素振りは見受けられなかった。


「昨日から聞きたかったこと何だが、お前は平民の俺に武術の稽古を付けられたり、暗殺者が使う近接格闘術を教わることに対して抵抗とかはないのか?」


 ジェラルドがオリヴァーに聞きたかったこと。それは姉のアンナは平民差別がヒドイのにオリヴァーにはそんな態度は全く感じられないことだった。


「私は強くなれれば……いえ、早く強くなって国の役に立てられれば何でも良いのです。過程とか手段を気にする必要がありません」


 オリヴァーは平然とそう言った。これはジェラルドがオリヴァーという男の『強くなって国の役に立ちたい』という純粋さを気に入った瞬間だった。


「……分かった。それじゃあ、近接格闘術の修行を始めようか」


 その後、ジェラルドとオリヴァーの近接格闘術の猛特訓は陽が高く、頭上に昇るまで行われた。ジェラルドもオリヴァーも昼からは公務に戻らなければならないからだ。


 その限られた時間の中でオリヴァーはジェラルドから一つでも多くのことを学び取ろうと努め、ジェラルドもオリヴァーに1つでも多くのことを教えようと丁寧かつ迅速に技を吸収させた。


 この時間は両者ともに有意義であったと断言できるほどに濃いものとなった。


 ――それから1週間ほど、ジェラルドは午前は早朝からオリヴァーとの近接格闘術の修行。そして、午後からは王国軍総司令としての職務に没頭する日々を送っていた。


 そんなある日の早朝、ジェラルドは国王の寝室へと呼び出しを受けた。


「ジェラルドよ、アンナへの武術指導が上手くいってないそうじゃな」


 窓辺にたたずむ国王からの言葉にジェラルドは何も言えず、俯くばかりだった。


「何も、そなたを責めようというわけではない。アンナはある時を境に見知らぬ人間とは関わろうとしなくなってしまったんじゃ」


 ジェラルドは国王が寂しそうな表情を見て、国王直々の頼みを自分が遂行できなかったことへの責任が重く心にのしかかった。


「陛下、もう一度チャンスを頂けませんか?」


「……勿論じゃ。頼むぞ、王国軍総司令ジェラルド」


 ジェラルドは短く礼をして足早に国王の寝室を去った。部屋を出ると、外にはオリヴァーが壁際で待っていた。


「ジェラルドさん。父上は何と?」


「ああ、お前の姉への武術指導が上手く行っていないことを随分気にしておられるようだった」


「そう……ですか……。つい今しがた、私が呼びに行ったのですが、稽古に行くつもりは無いの一点張りで……」


 ジェラルドは歩きながら、オリヴァーからアンナの様子を聞いた。


「そうか、職務や日常生活は今までと変わらなくやっているのか」


「はい、ホントにジェラルドさんの稽古だけを嫌がって部屋から出てこないのです」


 オリヴァーは目線を床へ落として申し訳なさげにしている。


「ま、そう落ち込むな。俺がその引きこもり王女を今から稽古へ引きずり出してやる」


「……へ?」


 オリヴァーはジェラルドの一言に驚いたが、続く「アンナ王女の部屋はどこだ?」という質問に素直に答えた。


「よし、オリヴァー。お前も付いてこい」


 そう言い残して、スタスタと早足で歩いて行くジェラルドをオリヴァーは後ろから慌てて追いかけたのだった。

過去①「平民上がりの英雄」はいかがでしたでしょうか?

ジェラルドは一体何をする気なのか……?

――次回「スカートリア王国王女」

過去編は今日から毎日更新です~

明日の20時に公開するので、読みに来てもらえると嬉しいです!

それでは皆さん、良い休日をお過ごしください~!

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