第56話 泉での朝
どうも、ヌマサンです!
今回は再び決闘があったりします。
誰と決闘するのかはチラリと第3章ですでに出てるんですよね。分かりにくいですけど。
それでは第56話「泉での朝」をお楽しみください!
ラモーナ姫とラターシャさんと会った日の翌朝。
――タン
そんな音を立てて木の的に矢が命中する。
矢を放ったのはラウラさんだ。そして、その横には呉宮さん。その左手には弓が握られている。二人の肩には矢筒が掛けられている。
なぜこうなったのかと言えば昨日、セーラさんの家からギルドへ戻った時に呉宮さんが銅ランクの冒険者となったからである。
そのことで呉宮さんが「みんなの足を引っ張りたくない」と言い出したのだ。
最初はサーベルや短剣などの近接武器を扱おうかどうしようかと迷っていたのだが、どれも呉宮さんの体に合わず、俺が夏祭りの時の射的の腕前を思い出して「弓とかはどうだろうか」と提案したことで試しに弓を射てみることに。
あの泉のほとりで的を立てて弓を射させてみたところ、百発百中というわけにはいかなかったが、ラウラさん曰く『筋は良い』とのことで今日からラウラさんが呉宮さんに弓の扱い方を教えることになったのだ。
……それで今に至るというわけだ。
「やはり、聖美は腕がいいわね」
「ありがとうございます……!」
そして、俺は泉に足を付けながら足湯ならぬ足水をしているのは昨日、ラウラさんに「直哉がいた方が気が引き締まって良いかもしれないから」と言われたからである。そういうわけで俺はここにいる。
だが、俺には何の出番もない。ただ、泉で一人寂しく呉宮さんの弓の練習が終わるのを待つだけ。
「あれ、兄さんもここにいたんだ」
俺は不意に後ろから天使の声が聞こえた。
「おう、紗希か。朝練か?」
「うん、茂みの向こうに茉由ちゃんとシルビアさん、マリーさんがいるよ」
何気にその4人ってセベウェルの町の戦いで対戦した二組だよな。いつの間にそんなに仲良くなったんだろう?
「どうする?兄さんも一緒に朝練する?」
「いや、俺は呉宮さんの弓の練習を見とかないといけないから」
そう、茂みの向こうからでは呉宮さんの弓の練習が見えない。それでは俺がここに来た意味がない。
「そっか、愛する彼女を朝から見ていたいもんね♪」
「ちょ、紗希!」
「照れちゃって、兄さん顔真っ赤だよ!」
紗希は指を指しながら俺を笑っている。まったく、また冷やかされたよ。
「お義姉ちゃん、頑張ってー!」
紗希は手をメガホンのように口の横に当てながら、呉宮さんの方へと叫んだ。
その直後、呉宮さんはここへ来て矢をあらぬ方向へ撃ってしまった。明らかに動揺したことがわかる。
そう、今、紗希から見れば呉宮さんは義理の姉に当たるわけで。
恐らくそのことを考えてしまって集中が途切れたのだろう。
「聖美、矢を射る時は集中しないとダメよ」
「はい……」
呉宮さんはラウラさんに怒られてしょんぼりしている。ここは兄としてダメなものはダメだと注意しておこう。
「紗希、呉宮さんの稽古を邪魔しちゃダメだろ」
「……ゴメン」
反省してる風だし、大丈夫だろう。俺は俯いてる紗希を見てそう感じた。
「そうだ、紗希。朝練は一段落つきそうなのか?」
「え、たぶんそろそろみんなで休憩すると思うけど……それがどうかしたの?」
「いや、それだったらみんな連れてここで休憩したらどうだ?」
「なるほど、それじゃあ皆に聞いてみるね」
紗希はそう言って茂みの向こうへと歩いて行った。
「ふぅ……」
俺は息を吐きながら地面に寝転がった。ひざ下は泉の中だが。でも、何かこの体勢だと気持ち良すぎて寝てしまいそうだ……。
「兄さん、戻ったよ~」
睡魔に意識を持っていかれそうになったタイミングで紗希が戻ってきた。
「先輩、おはようございます」
「紗希の兄、久しぶりだな」
「えっと、おはようございます」
紗希の後ろには茉由ちゃん、シルビアさん、マリーさんがいた。
「おはよう」
俺は短くそれだけを返した。
「おい、紗希の兄!」
俺は突然亜麻色の髪をしたシルビアさんに絡まれた。そのまま、気持ちよく浸かっていた足を泉から引き揚げさせられた。
「お前、私との決闘まだだったよな?」
……あ、忘れてた。そういや決闘がどうとか言ってたな。勝手に紗希が決めただけなんだけど。
「あれを今ここでやろう」
俺はそう言われて焦った。何で朝から面倒な決闘なんてしないといけないんだ……と。しかも、シルビアさんやマリーさんたちは鋼ランクに昇格したばかりの実力者だ。対して俺は鉄ランクだ。余程のことがない限り、格上とは俺は戦いたくない。
「イヤですよ、決闘とかめんどくさいし」
「くっ!貴様、さては私と決闘する気が無いな!」
「当たり前ですよ、何でそんな面倒なことをやらないといけないんですか!?」
朝はゆっくりさせてほしいんだが。昼になれば暑すぎて昼寝なんて出来たもんじゃない。だから、昼に寝ないといいけない分を今補給しておかないといけないのだ。
シルビアさんは悔しそうに引き下がろうとしていた時、紗希がシルビアさんに耳打ちした。すると、シルビアさんはニヤニヤと俺を見てくる。紗希、一体何を吹き込んだんだ?
「何ですか?シルビアさん」
「さては、お前……好きな相手の前で私相手に無様をさらすのが怖いのだろう?それで決闘から逃げているのか~」
『に…にゃにお~んッ!紗希よ、そこまでやるか…グスン。』と俺は言いたい気分だった。
「分かりました、じゃあとっとと済ませましょう」
「あと、決闘に負けた方は今日の朝飯を勝った方におごる。これなら、少しはやる気も出るだろう?」
……紗希、今の俺の手元が寂しいことを知っててそんなことまで吹き込んだのか!?
「それじゃあ、アタシもその後でお願いするわ」
「よし、それじゃあやろうか!」
マリーさんからの決闘申し込みは俺ではなく、シルビアさんによって受諾された。こうして、全く俺の意見を挟む余地もなく、シルビアさんの決闘の後、マリーさんとも決闘することになってしまった……。
「紗希の兄、覚悟は良いか!」
「ああ、勝たなきゃ朝飯おごらされるのだけは絶対に嫌だからな!絶対に勝って見せる!」
俺の絶対に負けられない決闘が今ここに始まる!
「行くぞ、“風刃"!」
いきなり、初手から風の刃を大量に放ってきた!しかし、俺にはその技は通用しない!
「……何!?」
俺は前方の空気に鋼の強度を付加した。これで実際に鋼の壁があるも同然!
結果は俺の予想通り風の刃はすべて砕け散った。
「くっ!まだだ!」
俺はシルビアさんのレイピアさばきは紗希でも辛うじて防ぎきれるレベルだという事は把握済みだ。
これに対して俺が出来るのはシルビアさんを近づけさせないこと!
俺はシルビアさんの足元に重力魔法を付加した。そう、模擬戦の時に武淵先輩が紗希に対して行ったことをそのままシルビアさんに行ったのだ。
だが、シルビアさんは諦めた色を見せず、向かって来ようとするために俺はシルビアさんに糸魔法を付加した。
セーラさんの糸魔法。これでシルビアさんをがんじがらめにしてしまえばいい!
重力魔法×糸魔法。これほど近接戦闘の得意なものに効く組み合わせはあるまい!
どれだけ卑怯だの姑息だなどと言われようとも最終的に…勝てばよかろうなのだァァァァッ!!
「……“風牙”!」
シルビアさんは起死回生の一撃として風の突きを繰り出した。
俺はこれを食い止めようと目の前の空気に鋼の強度を付加させた。しかし、その突きは俺の予想を上回った。何と鋼の強度を与えた空気の壁を突き抜けたのだ。突き抜けるとは思っていなかった俺は“風牙”を肩口に受けてしまった。
しかし、俺は糸の巻き付く威力を強めた。
「……参った、降参だ!」
シルビアさんは途中でレイピアを握ることも出来なくなり、降参した。
俺は肩の傷に治癒魔法を付加して、シルビアさんの元へと向かった。
「それじゃ、朝飯ごちそうになります」
俺はそう言ってシルビアさんに頭を下げた。
これで朝飯代が浮くんだ……!
とか、思っているとマリーさんが声を上げた。
「直哉、次はアタシの番」
そうだ、シルビアさんの次はマリーさんとするんだったな……!
「アタシが勝ったら、シルビアとあなたにご飯奢ってもらうことにするわ」
マリーさんは杖を俺の方へビシッと向けながらそう言った。すると、俺はシルビアさんに服を優しく引っ張られた。
「……頼む、マリーに勝ってくれ!じゃないと私はお前とマリーにおごらないといけなくなってしまう!」
都合のいい話だが、俺もマリーさんとの戦いに負ければ奢らされることになる。
「分かりました、善処します」
あくまで善処だ。俺はマリーさんがどんな戦いをするのか茉由ちゃんから話で聞いただけでイマイチよく分からない。気を引き締めてかからないと……朝飯を奢らされることに!
「さて、始めましょうか?」
「それじゃあ、マリーさん。先手はお譲りしますので、どうぞ」
俺がそう言うと、マリーさんは顔を朱にして怒った。どうも、先手を譲ったのを舐められたと受けとったらしい。
俺的には様子見をしようとしただけなんだが……まあ、仕方ない。とりあえず、戦おう。
「“氷矢”!」
マリーさんの頭上に小さなキラキラがたくさん散りばめられている。あれが一本一本氷の矢だとでもいうのか。
俺は飛んできた氷の矢を“風刃”を防いだ要領で周囲の空気に鋼の強度を付加して防いだ。
俺はそのままマリーさんの懐に入った。斬り上げようとサーベルを動かすも、マリーさんの前に出現した氷の盾にあっさりと防がれてしまった。
俺は力を込めて氷の盾を粉砕しようとしたが、結局無理で息が上がっているところに氷の槍を脇腹にぶつけられて俺は地面の上ゴロゴロと少し転がった。
「“氷槌”!」
俺が体を起こすとそこへ続けざまに氷の槌が振り下ろされた。間一髪のところでかわしたものの、マリーさんからどんどん遠ざかっていく。
俺は再び距離を詰めるために一直線にマリーさんの方へと駆けた。
「“氷矢”!」
俺は飛んでくる氷の矢を右へ左へかわしながら走った。このまま突っ込んでも、また氷の盾で防がれるだけだ。
俺は考えた結果、安直だが1つやってみたいことが出来た。
俺はさっきと同様、斬り上げる構えをとった。マリーさんはこれを見てニヤリと口角を吊り上げた。
俺はサーベルを斬り上げた。マリーさんはこれに対して氷の盾を出現させた。
「えっ!?」
次の瞬間、破裂音と共に氷の盾が粉々に砕け散った。俺はサーベルを斬り上げる途中で氷の盾にバーナードさんの爆裂魔法を付加したのだ。これで、砕けたりするのかな?という純粋な疑問だった。まあ、結果オーライというところで氷の盾は砕け散った。
第2の策としてマリーさんは氷のレイピアを右手に握りしめていた。そして、俺に向かって突きを繰り出した。
俺もこれにはどうしたものかと思ったが、レイピアを横方向へ受け流した。突きに勢いをつけ過ぎてしまったマリーさんはバランスを崩して倒れてしまった。
俺はマリーさんが起き上がるタイミングでサーベルを目の前に向けた。
「はあ、負けだわ。アンタの勝ちよ」
こうして、俺が2連勝という形で決闘は終わった。
「そういえば、俺が勝った時にどうするか決めてませんでしたね」
「そうね……それじゃあ、アタシとシルビアであなたに朝食をご馳走するわ」
……こうして、俺はシルビアさんとマリーさんに朝食を奢ってもらうことになった。
「兄さん、お疲れさま」
「ああ、紗希。俺も結構強くなっただろ?」
「……まあ、動きは良くなったよね。剣の扱いはまだ下手だけど」
俺は紗希の言葉に何も返せなかった。うん、ホントに剣の扱いが上達しないんだよな。
そして、俺は辺りを見回すと茉由ちゃんがいないことに気が付いた。
「紗希、茉由ちゃんはどこにいったんだ?」
「えっと、聖美先輩のところに行ったよ」
……あ、ホントだ。姉妹仲良さそうに話をしてるな。
「……混ざりたいな~とか思ってたでしょ?」
「え、あ、いや……」
俺が呉宮姉妹をぼ~っと見ていると紗希にからかわれてしまった。ここは話を逸らそう。
「そういえば、ウィルフレッドさんっていつ帰って来るんだっけ?」
「う~ん、あと1週間くらいかかるみたいってミレーヌさんから聞いてるけど……」
ウィルフレッドさんは今、王都にいる。俺たちがローカラトに戻る途中、王国軍の人たちがやってきてウィルフレッドさんは王都へ強制的に連行されていったのだ。
とりあえず、ラモーナ姫の件だけでも話を通しておきたいのだが……。
「それにしても、茉由ちゃんには迷惑かけたな……」
一体、何の迷惑かと言えば、茉由ちゃんに引っ越してもらったのだ。ちょうど、寛之の泊まってる宿屋の隣の部屋が空いたらしいのでそこへ。
それで、なぜ移ることになったのかと言えば、ラモーナ姫とラターシャさんを俺たちの家に泊めることになったからだ。
2階にある俺の部屋の隣は少しだけ広いため、そこにラモーナ姫とラターシャさんを泊める……はずだったのだが、ラモーナ姫が「私より上で人が寝るなんてイヤだな~?」とか言ってくるものだから、二人を3階の2部屋へ。ラモーナ姫が紗希の使っていた部屋へ、ラターシャさんが茉由ちゃんの使っていた部屋に泊まることに。
その結果、2階の2部屋に俺と紗希、呉宮さんが泊まることになった。
当初、俺の部屋は変わらず、隣の広めの部屋に紗希と呉宮さんに泊まるはずだったのだが、紗希が一人部屋が良いと言って聞かないので俺は紗希に部屋を譲って呉宮さんと同じ部屋で寝泊まりすることになったのだ。
そう、実は昨日俺と呉宮さんは同じ部屋で寝たのだ。
しかし、朝起きてから呉宮さんに話しかけても逃げられる有様でまだ一度も話をしていない。
紗希にこのことを話したら、『昨日の夜、聖美先輩が何か嫌がることでもしたんじゃないの?』と言われてしまった。なので、朝食の時にでも俺は呉宮さんに話を聞いてもらおうと思う。
第56話「泉での朝」の方はいかがでしたでしょうか?
今回はシルビア、マリーの二人と直哉が決闘しました。聖美も銅ランクの冒険者になってました。
――次回「混浴の風呂屋」
イエス、次回は混浴です。さて、誰と誰が混浴するのかは次回のお楽しみということで。
更新は9/7(月)になりますので、読みに来てくれると嬉しいです!
それでは良い休日を!





