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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第3章 聖美救出編
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第50話 思いを纏った一撃

どうも、ヌマサンです!

3日ぶりの更新です!

今回を含めて、あと2話で戦闘は終わりです!

第50話「思いを纏った一撃」の方をお楽しみください!

「うっ……これは……」


 真っ先に起き上がったのはバーナード。それに続いてミレーヌやラウラが目を覚ました。


「おや、目覚めたのか。お前たち」


「父さん!これは……!」


 目の前でゴロゴロと倒れている仲間たちを見てミレーヌは声を荒げた。


「詳しいことは後で話すことにしよう。ミレーヌとバーナードは今すぐにジョシュアの所へ向かってくれ」


「どういうことだよ、マスター!あいつはどうすんだ!」


 ウィルフレッドからの指示に感情を荒げるバーナード。指は玉座に腰かけるユメシュの方を向いている。


「お前たちはあいつに倒されたのだろう?ここで横たわっているのはお前たち同様何も出来ずに倒されたのだ」


「なっ……!」


 驚きに顔を染めるバーナードにウィルフレッドは再度指示を出した。


「ギルドマスターとしての命令だ!ジョシュアの所へ行き、馬車をこの洋館に一番近い通りに停めておけと伝えろ」


「……ほら、バーナード!行こう!」


 バーナードはミレーヌに手を引っ張られながら、部屋を出ていった。その指示を出した際のウィルフレッドの表情にはマスターとしての厳格さがあった。


「マスター、何故私を……」


「……直哉の治療を頼む」


 ラウラは「なぜ自分をここに残したのか」を聞きたかったのだが、その前にウィルフレッドの指さす方を見て納得した。直哉の状態は倒れているメンバーの中では出血量が一番多い。


「……分かった。すぐに治療するわ」


「ああ、頼んだ」


 ラウラは直哉の元へ。そして、ウィルフレッドは再び部屋の中央へと向かった。


「ユメシュ、いつまで高いところでくつろいでるつもりだ?」


「……そうだな。そろそろ君を始末しないとな」


 ユメシュは長杖を片手にゆっくりと階段を降りてウィルフレッドと同じ目線に立った。


「“黒炎ダークフレイム”!」


 ユメシュはウィルフレッド目がけて黒い炎の球体を打ち出した。ウィルフレッドは間髪入れずに横に飛び退いて回避した。


「ウィルフレッド!これは火と闇の属性を持つ魔法だ!お前の同化魔法は同時に複数の属性と同化することは出来ない!これはお前の魔法への対抗策だ!」


 ユメシュはその後もノータイムで次々と黒い炎の球体を打ち出した。


 ウィルフレッドはその火球を右へ左へ軽快なステップでかわしていく。さらに、ただかわすだけでなく、ユメシュとの間合いを確実に詰めていっていた。


 そして、何とか間合いを詰めたウィルフレッドは目にも止まらぬ速さで右の拳をユメシュへ放った。


「“暗黒障壁”!」


 ユメシュは自らの前に黒い壁状のものを出現させた。これでウィルフレッドの拳を受け止めるつもりでいた。


「……しまった!」


 さっき出現させた壁の属性は闇属性のみ。ウィルフレッドの拳はその障壁と同化することで障壁を突き抜けたのだ。


 これには防御が間に合わず、ユメシュの左頬にウィルフレッドの拳が命中した。


「グハァ!」


 ユメシュは宙を舞いながら後ろへ吹き飛ばされた。普通なら『このまま止めだ!』と突っ込んでいくところだが、ウィルフレッドはむやみに突撃することは無くその場に留まってユメシュの様子を窺っていた。


「やはり君相手だとそう簡単には勝つことは難しいようだな……」


「ようやく理解したのか、ユメシュ。だが、それはこちらとしても同じことだ」


 大魔力を持つ双方の魔力が高まる。再び激突が起こらんとしていた。


「"黒雷ダークライトニング”!」


 ユメシュの叫びと共にウィルフレッド目がけて幾つもの黒い雷が落とされる。


「くっ!」


 ウィルフレッドはすべてを避けきることが出来ず、一つだけ黒い雷を浴びてしまった。しかし、そこまでのダメージを負った様子は無かった。


「なるほどな、ウィルフレッド。君は雷と同化して闇属性のダメージだけを受けたのか」


「……よく分かったな。こうすればダメージは軽減できるだろう?」


「……やはりお前は私の野望のためには今ここで死んでもらわなくてはな」


 それからのユメシュの攻撃は苛烈さを増した。ウィルフレッドに接近するスキを一切与えない。


 その頃、入り口付近ではまた新たに8人の人間が目を覚ました。ロベルト、シルビア、デレク、マリー、ローレンス、ミゲル、スコット、ピーターの8人だ。


 この8人はウィルフレッドと共にこの部屋にやって来たメンバーだ。


「ラウラさん、私たちは何かすることはないか?」


 シルビアがラウラに手伝いを申し出る。ユメシュとウィルフレッドの戦いに踏み入ることは出来ないためにそれ以外での手伝いは出来ないかを考えた結果だ。


「そうね……それじゃあ、みんなを運ぶのを手伝ってくれるかしら?」


 ラウラからの言葉に一同はまだ眠っている直哉たちを運ぼうとそれぞれ動いていた。


 そんな時、シャロンと直哉、紗希の3人が目を覚ました。


「俺は……」


「直哉、大丈夫?痛むところはないかしら?」


 目を覚ました直哉の横には横座りをしたラウラがいた。


「特には痛むところはないです」


「それなら良いのだけれど」


 ラウラはそう言うと、ある方向へ歩いて行った。ある方向とは紗希の方だ。ラウラと話をした後、目を輝かせながら紗希は直哉の元へやって来た。


「兄さん!」


「紗希!」


 直哉は胸元に飛び込んできた紗希をしっかりと受け止めた。


「心配かけないでよ……兄さん」


「悪いな、いつも心配かけてばっかりなダメ兄貴で」


「うん、ダメな兄だけど無事でよかったよ」


「よし、兄妹の感動の再会は後だ。ロベルトさん、ここは……?」


 直哉は紗希の頭を優しく撫でながら、近くに大斧と大盾を構えているロベルトに声をかけた。


「ここは一番奥の部屋じゃよ。……おそらくじゃが」


 ロベルトは自信ありげに言い切ったかに見えたが、そうではなかったらしい。


 そんな時、ウィルフレッドが直哉たちの居る入り口付近の壁に叩きつけられた。


「どうした、ウィルフレッド?お前の力はそんなものか?」


 ユメシュは遠くからユメシュを嘲笑っている。


「マスター!」


 皆がウィルフレッドの元へ駆け寄る。


「お前たちは今すぐにここを離れろ……!今度は確実に殺されるぞ……!」


「ロベルトさん、マスターを連れてここから脱出していてもらえますか?」


 直哉は静かにロベルトに尋ねた。


「それは大丈夫じゃが……一体、何をする気じゃ?直哉」


「……俺が時間を稼ぎます」


 直哉の一言にその場は凍り付いた。「こいつ、ついに頭でもおかしくなったのか?」と言わんばかりに。


「直哉、主は何を言っとるのか分かっておるのか!?」


「……分かってます。でも、ウィルフレッドさん以外にあの人を足止めできる人はいないでしょう?」


「じゃが……」


「俺には戦う術はあります」


 ロベルトからの反対を受けてなお、直哉は自信と不安の混じったような声で言い切った。


「直哉、お前にあの力は制御できなかっただろう?」


 押し黙ったロベルトに代わって口を開いたのはウィルフレッドだ。


「今度は制御してみせます。必ず!」


 お互いの瞳を見つめあう直哉とウィルフレッド。ウィルフレッドはその時の直哉の瞳から何かを感じ取ったのか、フッと笑みをこぼした。


「……分かった。お前があいつの足止めをしてくれ」


「はい、任されました」


 直哉はニコリと笑顔を浮かべながら返事をした。


「あと、今から逃げる私が言うのは随分とわがままかもしれないが……必ず生きて戻って来い」


「はい。それじゃあ、みんなのことはお願いします」


 それだけ言い残して直哉は紗希からサーベルを受け取った。また、直哉はピーター、スコット、シルビア、マリーの4人と握手を交わした。それからユメシュの方へとコツコツと足音を立てながら歩いて行った。


「兄さん!」


 直哉は紗希の呼び声に歩む足を止め、ゆっくりと後ろを振り返った。


「……兄さん、ちゃんと帰ってきてね!」


「当たり前だ、絶対に帰る」


 直哉はそれだけ言って再びユメシュの元へと向かっていった。


 部屋中に足音がこだまする。これはロベルト達が部屋を出ていった足音だ。


「お別れは済んだのか?薪苗直哉」


「いや、済んでないな。大体、お別れするつもりは無いしな。あと、先に言っておくが、今からお別れするのはお前とだ。ユメシュ」


 直哉は目をユメシュに合わせながら、はっきりと言い切った。


「フ……フハハハハハ……!」


 ユメシュは何がおかしいのか、腹に手を当てながら笑っていた。


「……そうだな。お別れするのは私の方か。今からお前が死後の世界へ旅立つわけだからな!」


 ユメシュは手早く詠唱を開始して黒い水を弾丸のように発射した。


 その黒い水は直哉の装備をどんどん削り取っていく。


「貴様に竜の力を解放する時間など与えん!」


 ユメシュは次々と直哉目がけて黒い水の弾丸を撃ち出した。直哉はそのほとんどをかわすことが出来ずにいた。


「……っ!」


 直哉は開始早々にズタボロにされていた。着用している衣服も所々が破れてしまい、破れている個所からは血がにじみ出ている。


「これで止めだ!薪苗直哉!"暗黒の息吹いぶき”!」


 黒い風が一直線に直哉の方へと向かってくる。


 直哉はそれに対し、サーベルでガードするという選択をした。


「バカなッ!?」


「ユメシュ、お前がおしゃべりしている間に無事に解放できたぞ」


 そう、ユメシュが“暗黒の息吹”を放つまでの間に直哉は竜の力を解放していたのだ。


「あと、この風。貰っていくぞ」


 ユメシュへサーベルを斜に構えて突っ込んでいく直哉。そのサーベルは黒い風を纏っていた。


「“黒風斬こくふうざん”!」


 直哉はユメシュの前で跳びあがり、上から袈裟斬りに黒い風を纏ったサーベルを振り下ろした。


「……厄介な!"暗黒障壁”!」


 黒い風と黒い壁の激突。周囲に黒い風の旋風が巻き起こる。


 直哉のサーベルはユメシュの厚い障壁を抜くことは出来なかった。直哉は障壁を蹴ってユメシュから少し距離を取った。


「……直哉。お前の付加術は予想以上に厄介だ」


 付加術は基本的に味方のサポートに向いている魔術だ。しかし、使い方によっては相手の魔法攻撃を纏ったりすることでダメージを受けることを軽減したりすることが出来る。


「ユメシュ、次の一撃が最後だ」


「ほう、大した自信だな」


 ユメシュは直哉の自信ありげな態度を鼻で笑った。その態度からは「まあ、せいぜいやってみろよ。どうせ、無駄だろうがな」といった言葉が聞こえてきそうである。


「これは俺だけの力じゃない。あの場にいた全員のモノだ」


「……来い、薪苗直哉」


 ユメシュに言われなくともすでにサーベルを片手に向かっていっていた。


 先ほどの“黒風斬”の時と同様、空中でサーベルを振りかぶり、ユメシュの脳天目がけて振り下ろす。紗希との特訓で言われたのを思い出して振り下ろす速度を速めた。


「何だ、期待してがっかりだな。ただのサーベルじゃないか」


 ユメシュはただのサーベルに対して防御する素振りすら見せなかった。その余裕さが勝敗を決した。


 突如、直哉の剣が3つの色を纏って輝き始めたのだ。これはユメシュと戦う前に受け取った4人の魔力。


 紅色べにいろの魔力は炎。それはピーターの炎の精霊魔法の色。


 空色の魔力は氷。それはマリーの召喚魔法・氷装の色。


 若緑色の魔力は風。それはシルビアの風属性の魔法剣、スコットの風の精霊魔法の色。


 現在、直哉のサーベルでは3つの魔力が融合しているのだ。


 魔力融合は魔法の威力を指数関数的に上昇させる。


 今、3つの属性が融合している。3の二乗は9だ。つまり、1属性の際の斬撃より9倍の威力になっているということになる。


「これで終わりだ!ユメシュ!」


 直哉の思いを纏った一撃をユメシュに振り下ろさんとした時、ユメシュは障壁を展開して防御の体勢に入った。


 直哉の3属性が合わさった剣とユメシュの“暗黒障壁”とがぶつかり合う。先ほどのぶつかり合いの時よりも一層、激しく。


 ――ピシッ


 そんな音と共にユメシュの障壁は粉々に砕け散った。直哉のサーベルがユメシュの胴へと迫る。


「“黒風壁ダークウィンドウォール”!」


 しかし、そこへ黒い風が壁状となってサーベルを阻んだ。闇属性と風属性の融合した壁だ。先ほどの“暗黒障壁”の4倍近くの耐久性があると思われる。


 しかし2属性が合わさったところで防げるものではなかった。黒い風は四方へと霧散し、もはや阻むものは無くなった。


「覚悟しろ、ユメシュ!」


 この時、直哉はユメシュの異変に気が付いた。そう、ユメシュは……笑っているということに。


 直哉がそのことに気づき、前進する足にブレーキをかけ、後ろへ跳ぼうとしたがもう遅かった。


「"暗黒重力波ダークグラヴィティ”!」


 ユメシュの声と共に黒いオーラが直哉の頭上から降り注ぎ、床へとうつ伏せに叩き伏せてしまった。


「グッ……!」


 直哉の悲鳴ごと地面へと沈める暗黒の重力波。これに直哉は立ち上がることすら出来なかった。


「私がこのままお前を圧死させてやる。安心しろ、逃げたお前の仲間たちもすぐに後を追わせてやろう」


 ――そう言われてもなお、直哉の頭の中に諦めという文字は無かった。紗希との約束の手前、生きて帰らなければならない。聖美にも何も大事なことを伝えられていない。


 直哉としてはここでやられるわけにはいかなかった。


「ほう、まだ立ち上がるつもりなのか。中々しぶといな」


 直哉は何も言わずにただ立ち上がることに全力を注いだ。そうして、やっとの思いで中腰くらいにまで立ち上がってきた。


 だが、それから一歩として足を動かすことは出来なかった。


 踏み出そうと足を前へ進めた途端に膝を地に付けた。今度は片膝をついた体勢から動くことが出来なくなった。


「どうした?もう、動けないのか?」


「……ッ!」


 直哉はもうユメシュに押しつぶされるしかないのか。そんな時、山吹色の光が黒い重力波ごとユメシュを斬り裂いた。


「今の光は……!」


 突如、重力波が消えて不思議に思った直哉が顔を上げると右の脇腹をスパッと裂かれたユメシュが杖に寄りかかっている姿だった。


 今の光はどこから飛んできたのか。直哉は周囲をゆっくりと見まわしてみるが、どこにもそんな光を放ちそうなモノも無ければ人もいる気配はないようだった。


「……薪苗直哉。今回はここまでにしておいてやる。だが、次に会ったときは必ずお前を……!」


 ユメシュはそう言いながらゆっくりと影の中へと潜って姿を消してしまった。


「……俺も早くみんなを追いかけないと!」


 直哉は走り出した。皆と再会するために。

第50話「思いを纏った一撃」はいかがでしたでしょうか?

ラストの光の一撃は何だったのか。

次回は結構一話が長いので、予めご了承ください……!

――次回「名前呼び」

更新日は8/20(木)になりますので、お楽しみに!

それでは良い一週間を!

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