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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
最終章 人魔決戦編
250/251

第213話 暗黒瘴気

どうも、ヌマサンです!

今回は前半でユメシュとの戦いが決着して、後半で直哉と神の戦いが決着します!

いよいよ物語も大詰めになってきてますが、最後までお付き合いいただければ幸いです!

それでは、第213話「暗黒瘴気」をお楽しみください!

「それ、“暗黒瘴気”よね?」


 怪物が吐き出した暗黒の霧を知っている者が居た。アシュレイだ。


 一同の注目がアシュレイへと集まる。なぜ、そのようなことを知っているのかということよりも、一刻も早く解決策、もしくは対抗策を知りたいという要素が大きかった。


「昔に読んだ古文書に“暗黒瘴気”についての記述があったわ。その昔、魔族が精霊を滅ぼすために編み出した秘術だって。それは、呼吸によって体内に入り、体中の血管を破壊する」


 アシュレイがアランとユーリを見るが、彼らの出血は止まるところを知らない。そして、出血箇所は暗黒瘴気に触れた体内への侵入口。


「このままいけば、確実に二人は死ぬ。それも数分以内に。でも、解決策なら一つだけあるの」


 アシュレイは話を淡々と続ける。そして、解決策を口にした。


「それは代償魔法の使い手が代償を払って、暗黒瘴気を無効化する」


 代償魔法。それは古代魔法アルトマギアの一つであり、使い手は歴代でも数えるほどしかいない。そして、一番身近な使い手はクリストフの妻であり、クラレンスの母に当たるアンナ・スカートリア。


 しかし、彼女は18年前の戦いで行方不明になっている。だが、その生まれ変わりならここにいる。


 それを知らぬ者はみな、表情を暗くしていた。だが、それを知っている来訪者組はまさかと目を見開いていた。


「幸いなことに、私が代償魔法を使えます」


 アシュレイは明かした。現にマルティンとの戦いで視力を犠牲にして倒したことを含めて。


 しかし、それだけで信用するには足りた。というより、今はアシュレイの言葉を信じる以外に手がかりがないのだ。


 そうして、アシュレイによる代償魔法が発動される。彼女の願いはアンナ・スカートリアであった頃から変わりはしない。民を守り、平和な国、世界にすること。


 その願いのための犠牲はやむを得ない。たとえ、それが自分自身であろうと。


 アシュレイは己の身に宿る魔力を暗黒瘴気を打ち消すための力へと変える。そして、その代償として四肢の力を支払った。


 だが、彼女が代償として何を支払ったのか、そんなものは本人以外には言われるまで分からないことだった。それゆえに、止めようとする者すら居なかった。


 そして、数十秒のチャージを経て発動される魔法。アシュレイの身から放出される輝きは暗黒瘴気を打ち消し、無力化していく。しかし、怪物の方も負けじと暗黒瘴気を放出している。


 両者の力は均衡する……かに見えたが、アシュレイの代償魔法の方が競り勝ち、暗黒瘴気の無効化に成功した。


 それにより、反撃の機会を得た一同は一斉に攻撃を開始。また、暗黒瘴気が無効化されたのと同時に、アランとユーリの体内にあった暗黒瘴気も余すことなく浄化されていた。


 そして、損傷を受けた傷は十分ラウラの治癒魔法で治せるものであった。それを見て安心したように、アシュレイはドサッと地面へ崩れ落ちる。


 彼女はもうすでに自力で立ち上がることすら出来ない。そんな彼女にシャロンとラウラが寄り添った。


「クリストフ……クリストフは居るかしら?」


「おい、いくら何でも国王を呼び捨てにするなど……!」


 国王であるクリストフを呼び捨てにするアシュレイに対して、礼がなっていないと憤るシルヴァン。だが、それを国王自身が制した。


「どうかしたか?アシュレイとやら」


「私のことを覚えているかしら?この代償魔法はあなたの妻が習得し、18年前の戦いで使用したモノよ」


 アシュレイは語った。18年前に何が起こったのか、転生後のアシュレイとしての人生を含めて、これまでのことをすべて。そして、自らがアンナ・スカートリアであることを示すべく、国王の好物や昔アンナにだけこぼした愚痴など、アンナ・スカートリアにしか知り得ないことを次々と話したのだった。


 話が終わる頃にはクリストフは涙を流しながら、アシュレイを強く抱きしめていた。


「……君に会えて、俺は本当に嬉しい」


「私もよ。クリストフがどんな顔をしているのか、もう分からないし、抱きしめてあげることも出来ないけど」


 視力と四肢の力を失った彼女は静かにクリストフに抱かれるのみであったが、まだ戦いが続いていることをアシュレイから指摘され、涙を拭いながら戦場へと視線を戻す。


「“雷霊槌”ッ!」


 雷による鉄鎚が怪物の頭部に叩きつけられる。その衝撃は怪物を突き抜け、地面を放射状に凹ませた。


「“水聖斬すいせいざん”!」


「“氷魔斬”ッ!」


「“星突きミティオライトストライク”ッ!」


 立て続けに来訪者組の最大火力の一撃が叩き込まれ、怪物は肉体の維持が出来ずに崩壊を始めた。


 そんな闇が音を立てて崩れ落ちていく光景を一同は距離を取り、静かに見守った。


 そして、崩れ落ち、怪物の肉体が灰になり、消えていく中で、一人の人間がそこに残っていた。ユメシュだ。


 いや、正解にはユメシュの思念体。それは肉体は怪物と成り果て塵となっていっているためである。


『私は人間への恨みから魔族へこの身を変え、挙句の果てにこのような怪物へと成り下がった。しかし、そうまでしても私の家族を殺した者を暴き、始末する夢は叶わなかった。そのような状態で家族の元へ行くのは正直、気が引ける。だが、悔やんでも仕方がないことだ。そんな私に願うことが許されるなら、生き残った貴様らに私の家族を殺した者を暴いてもらいたい。ぶしつけな頼みだが、叶えてもらえると嬉しい』


 その言葉にユメシュの未練のすべてが詰まっていた。それをどうするか、クリストフを始め、全員が迷った。


 何せ、人類の敵である魔王軍の総司令となった男からの願いだからである。


 そして、クリストフは決断した。『セルゲイ』の家族を殺した者を探すことを。


「分かった!八英雄セルゲイの家族を殺した者はスカートリア王国においては、大罪人だ。必ず見つけ、処罰すると誓おう」


 クリストフは魔王軍総司令ユメシュの未練を八英雄セルゲイの願いとして聞き届けることとした。それなら、国として動くことが出来るからである。


 そのクリストフの返答を聞き、ユメシュの思念体は満足したように笑みを浮かべながら、消えていったのだった。


「父上、本当に良かったのですか?」


「ああ。セルゲイにそんなことがあったなど、今の今まで知らなかった。セルゲイの離反は我々王族の無知が引き起こしたモノ。その罪が犯人捜しで解決するのならお安い御用だ。違うか?」


 父・クリストフの言葉にクラレンスは首を縦に振り、キチンと納得したうえで引き下がった。


 何はともあれ、ここに魔王軍の幹部は倒され、ユメシュが倒されると同時に彼の魔力によって稼働していたホムンクルスやゴーレムは活動を停止させた。


 そんな形でスカートリア王国と魔族の大戦は終結という結末を迎えることが出来たのだった。


 そうして、クリストフは兵をまとめて築いたまま撤去していない本営へと帰還したのだった。


 また、その道中、未だ魔王城で魔王と戦っている直哉を心配する聖美たちは、すぐに魔王城へと出発するべく荷物をまとめ始めたのだった。


 ◇


「ハァッ!」


「チィッ!?」


 直哉が放った振り下ろしを神は剣で真っ向から受け止める。そして、力を籠めて弾き返す。


 そこからも直哉が諦めることなく、神へと斬撃を叩き込んでいく。しかし、そのことごとくを神が打ち払う。


 激しく打ち合う中で、神は直哉の力の上昇を感じ取っていた。“練気術”により灰色のオーラを纏う直哉の力が上昇した。それだけで終わっていれば、神であっても直哉を打ち倒すことは十分に可能だった。


 だが、直哉は最後の命の灯火を燃やし尽くさんとありったけの魔力量を生命エネルギーへと転化しているのだ。ゆえに、直哉の身体能力の上昇は留まるところを知らなかった。


 そして、現に直哉の一撃を神は両手で辛うじて受け止めることが出来ているような状態になっている。


 今までは直哉が攻撃を回避、往なす側であったのに、今ではそのパワーバランスが完全に逆転していた。


 まさしくこの世の頂点に君臨する存在である神が、一人の男に超えられようとしているのである。


 刹那、数十の剣閃が瞬きの間に振るわれる。これには神も肉体のあちこちを負傷させられた。


 普通、ここまで一気に身体能力が上昇すれば感覚と体の動きにズレが生じるものである。なのに、直哉にそんなものは見られない。


 それこそ、戦いながら調整しているかのように身体能力に伴う戦闘を展開してみせている。神は直哉を始末するつもりでいた。つまり、直哉を格下としか見ていなかった。


 それが今は、その格下に一方的に押されてしまう形となっている。そんなものは神のプライドが許さない。


 神は直哉との剣での高速戦闘中に魔力を練り上げていくが、直哉はそれを斬撃を見舞うことと並行して魔力の塊も切り裂いていく。


 神の剣は直哉の持つ滅神剣イシュトイアと甲高い音を立てて交差するが、剣のどちらも破損するような気配は無かった。


 そうして、神域の宙に幾重もの剣線を刻む。


「このっ、人間如きが神を超えようなど、図が高いにもほどがあるぞっ!」


 神は直哉の首筋目がけて横薙ぎの一撃を放つが、見事なまでの空振りに終わる。


 そして、空間転移したのかと見間違えんばかりの速度で神の背後に回った直哉。神は瞠目するが、次の瞬間には神の心臓を滅神剣イシュトイアが鮮やかに貫いていた。


 しかし、神はニヤリと笑みを浮かべる。


「貴様の父親が使った技で貴様も死ぬがいい。薪苗直哉ッ!」


 直哉はしてやられたと焦りの表情を浮かべ、その身に冷や汗が滴る。慌てて剣を抜こうにも、神は瞬時に傷口を再生させて塞いだことによって、剣が引き抜けない状態に陥っていた。


「神を侮り、神を滅し、その神を超えようなど分不相応にも程がある!その大罪を今、その命をもって償えッ!」


 神は直哉を殺すに足るほどの生命エネルギーと魔力をスパークさせ、自らの周囲を灰燼に帰す。


 そこには直哉の姿はなく、神は勝利を確信し、高笑いする。その身には未だに滅神剣イシュトイアが突き立ったままである。


 ――お前、やっぱりバカだろ。


 その声が脳内に響く。神は直哉が居た場所を振り返る。そこには塵になったはずの肉体が再生しつつあった。だが、その声はそこから発されたモノではない。


「どこだッ!?どこにいる!薪苗直哉ァッ!!」


 ――ここだよ。お前の中だよ。


 神は心臓部に突き立つ滅神剣イシュトイアを見下ろす。そこに不意に直哉の顔が浮かんだように見えてしまう。


「まさか、剣に何か細工をしたのか!」


 ――ああ、それはほぼ正解だ。正しくはお前に乗り移ったと言った方が良いだろうな。そして、その時にイシュトイアを媒介にしたというわけだ。


 直哉は真相を語る。それは、まさしく付加術の深淵であり、可能性であった。


 直哉は神が周囲に膨大な生命エネルギーと魔力を発散させる寸前、吹き飛ばされれば戦況が不利になることを確信した。


 何より、自分の肉体はこの自爆技での傷を再生するために残る力のすべてを注ぎ込むだろう。


 そう予測したうえで、直哉は付加エンチャントを行なった。それは己の人格をイシュトイアに纏わせるということ。それは時間が無かったため、一時的な避難に過ぎなかった。


 そして、神が自分を消滅させることで生じた精神的な隙に乗じて、自らの人格を神の体内へと移し替えたのだ。


 ゆえに、直哉の声は神の体内から直接発せられているために、脳内へ直接響いたのである。


 まさに今の神と直哉は一心同体そのものだ。


 神が直哉を討ち滅ぼすためには、自らの肉体と魂、その他もろもろをすべて消滅させなければならなかった。


 さすがに神はそのような行為には抵抗を覚えた。だが、その間に神の肉体は破壊されていく。滅神剣イシュトイアの力によって、神の肉体にダメージが蓄積されていくためだ。


 そして、神が己の肉体をしてる覚悟を固め、再生完了した直哉の肉体へと自らの魔力と精神を移し替えた。


 ――肉体に乗り移った直哉だけを残して。


 こうして、互いの肉体を入れ替える形となった両者だったが、直哉の肉体を内側から突き破るように光が漏れだす。


「これはッ!?」


「それじゃあ、神様。安らかなる眠りを」


「おい、待て!薪苗直哉――」


 何かを言おうとした神であったが、直哉は自らの肉体に残してきた残りかすのような生命エネルギーと自らの魔力。そして、神が持ち込んだ神自身の魔力をスパークさせ、自爆攻撃を敢行した。


 ――ナオヤ、一応神の気配はせーへんけど……


「ああ、しないな。だが、もし神が死んだのなら、この神域は維持できなくなって崩壊するはずだ」


 そう直哉が言った瞬間。ピキッとガラスにヒビが入るかのような音がした。直哉は自らの体に突き立ったイシュトイアを引き抜いて神域を脱出するべく、走り出したのだった。

第213話「暗黒瘴気」はいかがでしたか?

ユメシュも倒されて魔王軍の幹部も全滅して、人類が完全勝利を収める形になりました。

そして、神との戦いも直哉が勝利したわけですが、ここからどうなるのか、注目してもらえればと思います。

いよいよ次回で最終回!

どんな終わりになるのか、楽しみにしていてもらえればと思います!

――次回「俺は世界を超えて幼馴染を救う」

最終話の更新は1/12(水)の20時になりますので、お楽しみに!

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