第212話 暗黒の怪物
どうも、ヌマサンです!
今回は自身の体を怪物に変えたユメシュとの戦いになります!
丸々戦闘シーンになっているので、かなり楽しめるんじゃないかと自分では思ってます……!
戦いとしても迫力があると思うので、楽しんでもらえると嬉しいです!
それでは、第212話「暗黒の怪物」をお楽しみください!
「総員!武器を構えよ!」
クリストフの激にその場にいる勇士三十九名は弾かれるように武器を構える。その檄を飛ばす王の目には目の前の体高10メートル近い醜悪な巨躯を持つ怪物を何としてもここで討伐するという気概が感じられた。
背景である穏やかな草原に似合わない漆黒の怪物は桁違いの闇の魔力を秘めていた。そして、その圧はひしひしと感じられるものであった。
そして、クリストフたち人間サイドが戸惑っている間に、隕石のような右の拳が振り下ろされる。全員が生命本能に基づき、すぐにその場から退避する。
その一撃が地面に着弾した刹那、周囲の大気が振動し、砕かれた大地の破片が周囲に砲弾のように飛び散る。
この時、全員が理解した。一撃でも攻撃を貰えば、即死であることを。
『“暗黒の岩槍”』
大地を砕くほどの威力がある拳での一撃。それに続くように、左の拳に岩石で出来た槍が装備される。その太さは丸太そのものであり、薙ぎ払われただけでも瀕死に陥ることは容易に想像できた。
そんな槍というよりかは、棍棒に近い岩石の塊は前方にいる者――すなわち全員をまとめて薙ぎ払わんとした。
その一撃は大気ごと薙ぎ払うつもりなのではないかと思ってしまうほどであり、近くにいるだけで吹き飛ばされる始末だった。
幸い、直撃した者は居なかったため、死者は出なかった。それだけでも安堵の息が漏れるほどである。
しかし、依然として怪物からの攻撃が止むことはない。その身を魔族と化しただけに留まらず、このような怪物へと成り果てた男は執念深く、この場にいる人間を始末せんとした。
『“闇輝閃”』
胴体中央部に見開かれた第三の目からドス黒い一筋の光が発射される。刹那的に左右に回避し事なきを得た一同だったが、着弾した地点では大爆発が起こり、クレーターが形成されていた。
――あんな高出力の魔法をくらえば、死体など残らない。
一撃一撃が必殺とも呼べる怪物。巨体を活かした物理攻撃の面でも最強クラスであるのに、魔法の展開速度など肉体がまだ人の形をとどめ、ユメシュであった時と変わらない。むしろ、さらに早くなっているようにも感じられた。
「ウラァ!」
レイモンドが筋力強化によって最大限まで高められた大剣での一撃を怪物へと振り下ろす。その一撃は怪物の右腕によって受け止められ、しばしの力比べの末にレイモンドが弾き飛ばされる。
その力の強さから“覇王”とまで呼ばれたレイモンドが純粋な力勝負で負けたということにその場にいる全員が戦慄する。
そして、弾き飛ばされたレイモンドは地面へと放物線を描いて落下。ズドンという砲弾でも撃ち込まれたような音が周囲に反響した。
「“聖霊雨”!」
フェリシアは光の雨をユメシュへと降り注がせる。その無数の光の礫は怪物の肉体に爆発音を連ねていく。しかし、怪物はフェリシアというこの場にいる者の中でも魔法の技量に長けた人物の魔法をくらっても、大した傷にはなっていなかった。
その後もランベルトとシルヴェスターが槍や剣で一撃を与えるが、第三の目から放たれる黒雷にその身を焦がし、瀕死状態となってしまっていた。
そんな二人を夏海が重力魔法で怪物とは反対方向へ引き戻したが、ラウラの治癒魔法ですぐに癒せるダメージを超えており、治療は難航していた。
一方、遠くへ吹き飛ばされたレイモンドも洋介によって、ラウラの元へと担ぎ込まれたが、こちらも体の骨の何ヵ所を粉砕骨折しており、治療は大変困難になっていた。
開始数分で八英雄たちの攻撃が通じないどころか、そんな21年前の対戦で活躍した英雄たちですら一撃で瀕死状態になるのだということを目の当たりにした者たちは恐怖に四肢を震わせた。
「国王陛下、いかがいたしますか?」
一度、国王の元まで戻ったフェリシアが何か策はないか、クリストフへと尋ねる。だが、クリストフは静かに首を横に振るのみであった。
『“黒炎”!』
黒い炎が第三の目から放出される。その闇の炎はすべてを焼き尽くさんと迫りくる。
「全員、僕の後ろへ!」
前へと進み出る寛之。そんな彼の言葉に全員が従い、寛之の後ろへと避難した。
「大いなる闇の障壁よ!我を包み、守り給え!“闇球障壁”!」
早口になりながらも、魔法の詠唱を済ませ、全員を包み込むドーム状の結界を張り巡らせる寛之。
暗黒障壁と闇の炎は衝突し、凄まじいエネルギーを周囲へまき散らす。結界はヒビが走りつつも、闇の炎をやり過ごし、全員無事に乗り切ることが出来た。これには、全員が歓喜したが、結界を張った張本人は肩で息をつくほどに消耗していた。
周囲を見渡せば、寛之が結界を張ったところだけ何も無かったかのような有様であり、他は草木が燃え、灼熱の海と化していた。
魔法一つでこれほどまでの威力があるのだと、全員が再認識したが、今度は恐怖に包まれることはなかった。
ここで、自分たちが負ければ人類は滅亡する。ゆえに、何としてもここでユメシュを撃破する。
当初のクリストフの意志と全員の意志が一致した。そんな一同は手当たり次第に魔法や武器による直接攻撃を果敢に仕掛けていく。
そして、それを鬱陶しいと言わんばかりに薙ぎ払い、叩き潰す。そんな人と怪物との激闘がそこにはあった。
「ウラァ!」
獣化魔法で獣化したライオネルが大斧を大上段から振り下ろすものの、片腕で受け止められた末に父のレイモンド同様薙ぎ払われてしまう。
「ハァッ!」
「やぁッ!」
ライオネルの後ろに隠れていたマルケル、イリナの二人も冷気を纏う拳と短剣での斬撃を見舞うが、やはり接近した者はまとめて薙ぎ払われるのみであった。
だが、マルケルとイリナに関しては、右腕の薙ぎ払いが直撃する寸前にイリナが植物の壁である“プラントウォール”を展開したことで、直撃だけは免れていた。
とはいえ、それでも吹き飛ばされたのは変わりない。二人とも地面に叩きつけられ、体のあちこちを打撲したり、骨にヒビが入ったりしていた。
怪物はそのままイリナとマルケルを始末しようとするが、フェリシアが“聖霊砲”を怪物の顔面へと発射することで、自分へと注意を向けさせる。
その間に娘であるエレノアとレベッカにアイコンタクトで今のうちにイリナとマルケルを連れて、一時離脱するように伝える。
エレノアとレベッカの二人は母からの指示に逆らうことなく、手早くケガ人二人を連れて離脱。フェリシアもまた、怪物からの攻撃を回避しながら無事に離脱した。
武術大会で直哉たちと張り合っていたクラレンス親衛隊であっても、ここまで歯が立たないということに実際に彼らと戦った事のある来訪者組はどうすればいいのか、分からなくなっていた。
「「“聖砂ノ太刀”!」」
そんな中、ディーンとエレナの魔力融合による大技が怪物へと放たれる。が、左腕に装備した岩石の槍で受け止められ、大爆発。結局、岩の槍すら破壊することはできなかった。
「“炎霊砲”!」
「“酸竜巻”ッ!」
「“氷矢”!」
火炎の砲撃、酸の竜巻、氷の矢。それぞれ、ピーター、デレク、マリーが中距離から放ったモノであるが、それは接近しても自分たちがやられてしまう可能性が高いと判断したためである。
だが、そんな中距離からの攻撃では怪物に対したダメージは与えられなかった。
そんな魔法も物理攻撃も効かないことに対して、デレクたちの隣にいるバーナードとシルビアには見当がついていた。戦い始めから積極的に二人が軽率に動かなかったのは、そういった敵の情報を観察から得ることだった。
だが、そのおかげで怪物の特徴が一つ発見できた。
「やっぱり、アイツの皮膚には障壁が展開されている」
「「「障壁!?」」」
バーナードの声が届く範囲にいたローカラトの冒険者たちはみな、驚きに声を上げた。
道理で魔法でも物理攻撃でも大してダメージが通らないわけだ。そう納得した。何せ、ユメシュは攻撃をくらう前に一切の防御を取らなかったからだ。
ユメシュほど熟練度の高い魔法使いなら、攻撃が当たる前に障壁魔法や結界魔法で防御することも可能であるはずなのに。
ならば、答えは一つ。あの醜い怪物に進化する過程で自らの皮膚に闇の障壁を張り巡らせていたに違いない。
だが、それが分かったところで活路は見出せそうになかった。むしろ、気づきたくないほどの絶望しか残されていない。
そんな時、彼らの隣でタンッ!と地面を蹴る音が聞こえた。
全員の視線が足音の持ち主の方に向く。それは紗希だった。
まさに光の速度で怪物の眼前に現れ、第三の目へ一太刀を浴びせて見せる。次の瞬間には第三の目から黒い光線が放たれるが、その時にはすでに紗希は怪物の頭部へ移動していた。
そんな瞬間移動と見間違えるほどに素早い動きは見事、怪物の動きをかく乱していた。
そして、怪物に振り落とされると同時に怪物の右腕が紗希を捕まえようと伸びてくるが、怪物の胸部を蹴って、それを逃れる。
そんなことがあって、無事に全員の元へ無傷で帰還する。
「紗希ちゃん!どうだった?」
紗希の元に聖美が駆け寄る。二人は小声で何かを話した後、すぐに別れた。紗希は再び怪物へと突貫し、聖美は静かに星魔弓サティアハを構える。
紗希が立て続けに怪物にかすり傷を刻んでいく中で、聖美は魔法で形成された矢を装填する。
数秒の後、それが発射される。
「“星撃ち”!」
聖美が凄まじい魔力量をつぎ込んで放つ山吹色の魔力の矢は怪物の頭部の四隅に生えた角を真っ直ぐに射抜いた。
『グオオオオォォォォッ!?』
怪物の叫喚が響く。今まで、ロクにダメージの入らなかった怪物に対して、初めての大ダメージ。
「皆さん!あそこに魔力が貯蓄されています!それによって、バーナードさんが言っていた障壁が張り巡らされているみたいです!」
先ほどの紗希とのやり取りは、紗希が頭部に移動したときに妙に多い魔力を角から感じたという内容だった。ならば、その角を聖美が遠距離から矢で射抜き、効果があれば残りすべての角は紗希が叩き斬る。そういう作戦の打ち合わせだったのだ。
「薪苗流剣術第四秘剣――絶華」
紗希によって、鞘から引き抜かれる水聖剣ガレティア。そんな名剣による斬撃は四方へ広がり、残る三本の角を粉微塵にする。
これには怪物も先ほど以上に絶叫し、その角に蓄えられていた膨大な魔力が周囲へと霧散する。紗希は怪物が絶叫しているうちに、素早くその場を離脱した。決して深追いはせず、確実にダメージを与えていく。それが紗希の戦法であった。
そんな体を覆う障壁が除去されたかどうか、確かめるように次々に四方から魔法が放たれる。その結果のほどは言わなくても伝わるほどのモノで、全員から歓喜の声が溢れる。
それにより、ユーリやアランが槍や大斧を片手に駆け出し、自分たちの手で第一撃を入れて手柄を上げようと躍起になる。
さらに、その二人の後をテクシスの冒険者四人――ギンワン、ヒサメ、ビャクヤ、アカネが追随する。ミズハだけは本陣近くで留守番だ。その理由はミズハが近接戦が苦手であることなのは言うまでもない。
そんな彼らを見て、セーラとジョシュアも短剣と長槍を手にして怪物へと駆けだしていく。
このまま一気に戦況が好転し、クリストフたちの勝利に終わるかに見えた。
しかし、戦闘という物事はそう上手くことが運ぶものではない。
怪物の第三の目が怪しく光ったかと思うと、怪物の口部から暗黒の霧が放出される。
それを見た最後尾のセーラとジョシュアは反射的に後退。しかし、怪物の懐まで潜り込んでいたユーリとアランは逃げることが出来なかった。
「ぎゃあああああああああッ!?」
「グハッ――!?」
ユーリとアランが口、鼻、眼から血を噴き出してバタリと倒れる。彼らの体は倒れたのちもブルブルと痙攣しており、出血が止まらない。
このままではマズいと夏海が重力魔法で引き戻す。
一方、テクシスの冒険者たちはギンワンが岩の障壁で暗黒の霧が到達するまでの時間を稼ぎ、アカネが召喚した炎の虎と炎の狼に乗って退却した。
もちろん、四人とも激しいやけどを負ったものの、持ち合わせの回復薬で軽く治療を済ませ、ラウラの治癒魔法で完治させていた。
一方、夏海によって引き戻されたユーリとアランはシャロンの持っていた解毒薬を飲ませるも、まったく効果が無かった。
レイモンドやランベルト、シルヴェスターの三人の傷の治療を終えていたラウラが、テクシスの冒険者たちの治療を済ませてから二人に治癒魔法をかけるが、まったく癒える気配が無い。
「シャロン、これは一体どういうことじゃ……?」
「アタシに聞かれても、さっぱりさね!」
シャロンもどうすればいいのか、全く分からないと首を横に振る。ロベルトもシャロンに分からないものはどうしようもないと消沈していた。
「それ、“暗黒瘴気”よね?」
――それを知っている者が居た。
第212話「暗黒の怪物」はいかがでしたか?
今回だけではユメシュとの戦いは決着しませんでしたが、次回の前半で決着します!
次回は前半がユメシュとの戦いの続き、後半が直哉と神の戦いの続きになります!
いよいよ残すところも2話!完結までもうすぐです!
――次回「暗黒瘴気」
更新は1/9(日)の20時になりますので、お楽しみに!





