第211話 魔王軍最後の砦
どうも、ヌマサンです!
今回は1話丸ごとユメシュとの戦いになります!
最後の魔王軍八眷属であるユメシュとどんな戦いを繰り広げるのか、そこを注目してもらえればと思います!
それでは、第211話「魔王軍最後の砦」をお楽しみください!
ホムンクルス九千とゴーレム一千。それと交戦する八万四千もの人間たち。彼らは王国北部と西部からかき集められた王国軍や志願兵であり、魔王軍を駆逐せんと戦意も高いために瞬く間にホムンクルスやゴーレムを討伐していく。
そして、魔王軍総司令であるユメシュの前にはスカートリア王国の騎士団長を務めるレイモンド、フェリシア、ランベルト、シルヴェスターの四人が立ちはだかる。
それは王城での戦いの再来のようであった。あれから四ヶ月月。騎士団長四人は己の力不足を恥じ、さらなる高みに至らんと努力を積み重ねてきた。
そんなリベンジを果たそうと戦意に満ち満ちている四人を前に、ユメシュは杖一本をもって立っていた。
その立ち姿からは前回、四人をまとめて相手取って完勝したことから余裕だと判断しているようであった。
「よく来た、先の大戦の英雄たちよ」
ユメシュが一段と声を込めて、四人へと憎まれ口を叩く。
「フッ、よく言うぜ。内心、見下してるのが丸わかりだぜ」
「そうね、聞いていてまったく笑えないわ」
「まったくだ。今度こそは、アイツを倒す!」
「そうだね!今度こそは僕たちが勝利させてもらうよ!」
四人それぞれ、ユメシュへと言葉を返すが、それと同時に全員が武器を構えていた。
まず、先制攻撃を仕掛けたのはシルヴェスター。
「“煉獄斬”!」
炎を纏う斬り上げをもって、ユメシュへと挑む。だが、その剣は易々と長杖によって受け止められてしまっていた。
「“聖霊脚”!」
間髪入れずに、華麗な足さばきでフェリシアが右回し蹴りを叩き込む。無論、その足には光の精霊魔法が纏われている。
しかし、その一撃を苦も無く左腕で受け止めていた。そして、ユメシュはフェリシアを体ごと横方向へと薙ぎ払う。
同時に、杖でシルヴェスターを薙ぎ払おうとするが、それより早くシルヴェスターはバックステップを踏んで、下がっていた。シルヴェスターの動きを不審に思っていると、
「“氷雷槍”!」
冷気を纏った槍状の雷が撃ちこまれる。レイモンドが放った攻撃であったが、ユメシュは障壁を展開することも無く、左腕一本で受け止めて見せた。
「フェリシア!回避するんだ!」
次の瞬間には何が起こるかを理解したシルヴェスターはフェリシアへと声を飛ばす。
そして、冷気を纏った槍状の雷は予想通り、先ほど薙ぎ払われたフェリシアの元へと弾き返される。
シルヴェスターの言葉に弾かれるように回避行動を取っていたため、フェリシアが“氷雷槍”に撃たれることはなかった。
フェリシアが目線でシルヴェスターへ感謝を述べる。その間にレイモンドは筋力強化を施した己の一撃をユメシュへと叩き込む。
その一撃の重さにユメシュを介して、大地が裂ける。しかし、当のユメシュ自身に目立った外傷はなく、杖によって真正面から受け止められていた。
レイモンド全力の一撃をもってしても、ユメシュにはかすり傷一つ付けられなかった。
やはり、自分たちではユメシュには勝てないのかと諦めそうになるが、レイモンドは大剣を受け止めていることでガラ空きになっているユメシュの鳩尾に前蹴りを叩き込む。
その桁違いの破壊力をもって、受け身を取るのが間に合わなかったユメシュに吐血させるほどの大ダメージを与えることに成功。それと同時に、レイモンドは強化された筋力をもって、元居た場所へと戻る。
そして、その左右にはフェリシアやシルヴェスター、ランベルトが集結する。
今のところ、フェリシアの蹴りとランベルトの槍技で軽傷を与え、レイモンドの蹴りで大ダメージを与えた。
傷一つ与えられなかった前回の対戦と比べれば、大きな進歩であった。四人はようやく一矢報いることができたということに喜びを隠しきれなかった。
――だが、ユメシュが死んだわけではない。それは忘れてはならなかった。
ユメシュの表情は烈火の如き怒りを発しており、怒髪衝天という言葉そのものであった。
そんな怒りと同時に放たれるのは桁違いの魔力。それは大聖堂でジェラルドを葬った時の力であった。これまでのユメシュは、魔力量以外は王城の時と同じくらいの力で戦っていたが、手傷を負わされたことでそうもいかなくなったのだ。
圧倒的な魔力を解放したユメシュから放たれる濃密な殺気に全員の足がすくむ。
何せ、今のユメシュの力は他の八眷属とは比べ物にならないほどの力を秘めているのだから。
しかし、レイモンドが力強く一歩を踏み出す。大地を踏みしめるような力強さに全員がハッと我に返った。
「サッサと片付けねぇと、アイツを放置しておくのはマズいだろ」
ここでぼうっとしていてレイモンドたちが倒されれば、残る王国兵など瞬く間に全滅する。それどころか、戦線が崩壊し、王国側の人間は皆殺しにされてしまうだろう。それだけは絶対に避けなければならなかった。
レイモンドの言葉に気を引き締める三人。そして、再びユメシュへと立ち向かおうと武器を構える。
そんな四人に真っ直ぐに杖を向けるユメシュは即座に魔法を発動させる。
「"暗黒の息吹”!」
ユメシュの杖先から真っ黒い突風が巻き起こり、すぐさま四人の元へ殺到する。しかし、
「“氷壁”!」
氷の壁がランベルトによって構築され、黒い風の行く手を遮る。
氷の壁は黒い風によって削られていくものの、何とか食い止めることが出来ていた。その間にレイモンドとシルヴェスターが黒い風を迂回するようにユメシュへと接近していく。
フェリシアは近接戦は苦手としているため、ランベルトから距離は取るものの、ユメシュへと近接戦を挑むようなマネはしなかった。
「オラァ!」
「ハァッ!」
レイモンドとシルヴェスターが左右から斬撃を見舞う。その直前に黒い風の威力を強め、氷の壁を破壊してランベルトを吹き飛ばした。
それでもって、左右に“暗黒障壁”を展開して、攻撃を防いでみせる。だが、筋力強化を施したレイモンドの一撃は凄まじく、暗黒障壁を切り裂き、咄嗟に防御したユメシュの腕に傷を刻む。
「“聖霊砲”!」
刹那、光の砲撃が深追いするなとばかりに撃ち込まれ、レイモンドとシルヴェスターはすぐさま一時撤退の判断を下した。
「“炎刃”!」
ただし、去り際にシルヴェスターは炎の刃を何十発もユメシュへと浴びせた。これによって、“聖霊砲”ともどもユメシュへ多少なりともダメージを与えることが出来ていた。
「……やはり強い。前よりも私に対しての油断が感じられない。それが貴様らの本当の力……ということか」
ユメシュは王城での戦いと今の戦いとを冷静に見比べて、率直な感想を述べた。
そう、ユメシュは落ち着いている。先ほどまで発していた濃密な殺気はカケラも感じられなかった。
「さすがに前の状態では勝てなかっただろうが、すべての力を取り戻した今の私なら勝てる。先ほどは冷静さを欠いていたから負傷しただけなのだから」
ユメシュは目を閉じ、フッと自嘲気味に笑みをこぼす。そして、次の瞬間にはカッと勢いよく目を見開いた。
それと同時にその手から放たれるのは暗黒の光線。それは、大聖堂で直哉たちを葬る可能性のあった魔法。触れた物質を呑み込む恐ろしい球体であり、魔法以外で相殺することは不可能。
それは四人がユメシュと戦うと言った時に直哉から聞かされていた。しかし、それほどの出力で魔法を出せば、後ろに控えるユメシュの攻撃を防ぐことが出来ない。
そうして迷っているうちに光線は四人との距離を詰めてくる。
「何をしている!四騎士団長!」
戦場に声が響く。その声は若く、四人の刹那の行動を促すのには最適な一声であった。
「“聖霊砲”!」
「“氷雷槍”!」
「“炎刃”!」
フェリシアの杖から白く輝く光線が放たれ、暗黒の光線と衝突する。そこへ、冷気を纏う雷と炎の刃が合流し、その場での魔力融合が巻き起こる。
レイモンドはそれを見て、ニヤリと笑みをこぼす。直後、大爆発。衝撃波がその場にいる全員の肌を撫でていく。
暗黒の光線は無事に消滅しており、直哉の情報通りであったことに四人は安堵した。そこへ、竜聖剣イガルベーラを提げた一人の青年が駆けつける。
「「「「クラレンス殿下!!!!」」」」
「四人ともよくやってくれた。私たちが来れば、もう大丈夫だ」
クラレンスの『私たち』という言葉に首をかしげる四騎士団長だったが、後ろを振り返れば錚々たるメンバーが揃っていた。
まず、国王であるクリストフ。その脇にはクリストフの弟であるシルヴァンが控えている。
他にも、クラレンス親衛隊であるライオネル、エレノア、レベッカ、マルケル、イリナの五名と、シルヴァンの子であるユーリに王国軍総司令フィリス、その補佐のアシュレイ、水軍司令アランといった王国の人間が国王の側に待機していた。
そして、バーナード、ミレーヌ、ラウラ、ロベルト、シャロン、ディーン、エレナ、シルビア、マリー、デレク、ピーターといったローカラトの町の冒険者十二名とセーラやジョシュアといった冒険者ではないが、腕の立つ者二名。
ちなみに、ジョシュアは物資の運搬といった後方支援をしていたが、シルヴァン直々の依頼で、先ほどから参戦したばかりなのだ。
また、それ以外にも、テクシスの町の冒険者であるギンワン、ミズハ、ヒサメ、ビャクヤ、アカネの五人が居た。
極めつけは、紗希や聖美、茉由、寛之、洋介、夏海の来訪者六名も合流していることだ。
まさに、スカートリア王国軍の中でも精鋭の中の精鋭揃いであった。
また、それ以外で動ける全軍でユメシュの操るホムンクルスとゴーレムの撃破に向かっていた。だが、それも壊滅まで時間の問題であった。
つまり、残る敵は魔王軍総司令であるユメシュ、ただ一人。
それを残るメンバーで一気に倒してしまうために最高戦力をこの場に結集させたのだ。
ユメシュもそれを見て笑うことしか出来なかった。何せ、自分以外の八眷属とその配下の魔人、魔物に至るまで全滅したというのだから。
何より、これほどまでの敗退をしておきながら、どの面下げて魔王に謁見すればよいのか。
ユメシュはどんな感情になればよいのやら、自分でも分からなかった。だが、明確なのはただ一つ。
せめて、魔王に盾突く目の前の愚者たちを一人残らず始末することだ。
今、ユメシュの前に立ちはだかるのは国王クリストフを含め、四十名。国王であるクリストフ自身も八英雄に劣るとはいえ、剣の腕は立つことはユメシュも知っている。
この場で四十名を今の状態で相手取って勝ち目はあるのか。それを判断しかねていた。いくら直哉が居ないとは言っても、来訪者組を全員まとめて相手をするだけでも厄介極まりないのだ。
それ以外にも三十名以上の人数を同時に相手をするのは、しんどかった。だが、やるしかないのだとユメシュは腹をくくる。
覚悟を決めたユメシュは杖の先に取り付けられている真っ黒な宝玉を取り外し、残る杖を投げ捨てた。
「この宝玉には歴代の魔王軍総司令が受け継いできた歴史あるモノ。そして、その効果のほどは今、この身をもって証明する!」
ユメシュは宝玉を粉々に砕き、その破片を自らの呼吸によって体内へと取り込む。
すると、闇の進化が始まった。
腕がごぼごぼと醜い音を立てて膨張し、腕は大木のように太く、拳は隕石のように巨大なモノへと変貌を遂げる。
足も魔獣のそれへと変わっていき、人間の足ではなく、巨大な三本の爪が生えた獣の足となる。足の大きさ自体も人間十名ほどをまとめて踏みつぶせるほどの大きさとなる。
肉体もいかなる魔物とも比べ物にならないほどの巨躯となり、魔物というよりは竜に近い大きさに落ち着く。
胸部といった胴体の部分も泡立ちながら変形していき、中央には巨大な目が見開かれる。これは目が移動したわけではなく、取り込んだ暗黒の宝玉が新たな目として誕生したのだ。
頭部からはミノタウロスを彷彿とさせるような鋭い角が頭部の四隅に生え、その下にある目は血走っており、不気味さがある。
さらに、鼻はまっ平に潰され、その鼻があったスペースを巨大な口が占有する。そんな口は人間を丸呑みに出来そうなほどに巨大で、その中はさながらブラックホールのように奥が見えなかった。
進化の果てに完成したのは一体の怪物。すべての魔族を超越し、すべての闇を取り込んだ存在。
『来ルガイイ、人間共。コウナッタ以上、私ハ元ノ姿ニハ戻レナイ。貴様ラヲ葬リ去ッタ後ニハ、コノ地上ニ残ル人間スベテヲ殺ス!』
怪物の咆哮が轟き、地上での最後の死闘が幕を開けた。
第211話「魔王軍最後の砦」はいかがでしたか?
ラストではユメシュは自分自身の体を怪物に変えてしまったわけですが、そんな怪物と化したユメシュとの戦いが次回になります!
そして、『日常のち冒険』も次回を含めて残り4話になります!
もうすぐ完結してしまいますが、最後までお付き合いいただけると幸いです!
――次回「暗黒の怪物」
更新は1/6(木)の20時になりますので、お楽しみに!





