第210話 雷の魔人、天使の長
どうも、ヌマサンです!
今回が年内最後の更新になります!
今回は前半がカーティスと呉宮姉妹の戦いで、後半が魔王と天使たちの戦いになっています!
戦いもかなり激しいので、最後まで見届けてもらえればと思います!
それでは、第210話「雷の魔人、天使の長」をお楽しみください!
雷鳴轟く戦場。そこでは吸血鬼の力を解放した少女と悪魔殺しの冷気を纏う剣を振るう少女が鉄槌を振るう魔人との戦闘が行われていた。
その周囲では、オーガ三千とリビングアーマー七千が王国軍二万と白兵戦を繰り広げていた。
「“氷魔斬”ッ!」
茉由が接近し、雷の八眷属カーティスへと冷気を纏う斬撃を見舞う。それを大槌で豪快に薙ぎ払うカーティスだったが、古代兵器の効果もあって力の増している茉由の一撃を軽々と薙ぎ払うというわけにもいかなかった。
そんな大振りの薙ぎ払いによって、生じた隙。そこに聖美から一本の矢が放たれる。
一直線に突き進む矢はカーティスによって、易々と掴み取られ、地面へと叩きつけられてしまっていた。
飛来する矢を素手で掴み取るという芸当を目の当たりにした聖美は素直に恐怖を覚えた。そんな馬鹿げたマネが出来るような相手をどうやって倒せばいいのか……と。
そんな聖美の心配を斬り払うかのように妹の茉由が果敢にカーティスへと斬りかかっていく。
その姿に勇気を貰った聖美は得意の機動力を活かして、様々な角度からカーティスへと矢を射ていく。その移動砲台のような動きにカーティスが鬱陶しいと感じていた。
何せ、自分よりも遥かにスピードで劣るものの、限りなく自分に近いパワーで斬撃を見舞ってくる少女を捌きながら、どこからともなく飛んでくる矢にも対処しなければならないのだから。
そんなカーティスが苛立ちと共に茉由ごと剣を薙ぎ払う。その剣は古代兵器である魔剣ユスティラトであり、身に纏う鎧は魔鎧セベリルであることはカーティスも知っている。
しかし、並の人間がそれを装備したところでたかが知れている。一撃で叩き潰して終わりだからだ。
だが、今カーティスの前にいる茉由という少女は完全に古代兵器を使いこなしており、その伸びる刀身を活かしてカーティスを翻弄している。
そして、その翻弄されている隙をすかさず突いてくる一本の矢。それを放つ聖美もまた、厄介であるとカーティスは理解している。
これまで人間を散々見下してきたカーティスだったが、この二人に関しては認識を改める必要があると感じていた。
「“轟雷”!」
カーティスが手を振りかざすと茉由の元へ雷が絶え間なく降り注ぐ。茉由はその回避のために、カーティスから間合いを取らざるを得なくなった。
そして、カーティスが大槌を持っていない方の左腕から雷の砲撃を放つ。その先にいた聖美を吹き飛ばし、感電させた。
それをチャンスと捉え、肉薄して大槌を叩きつける。が、聖美が紙一重の差でその場を離脱したために叩き潰されるような事は無かったが、周囲に発散された雷は聖美の身を焦がした。
すぐさま吸血鬼の再生能力で傷の治癒が始まるものの、全快になるまでカーティスが待つはずもなかった。
立て続けに大槌をあらゆる角度から叩き込み、聖美を追い詰めていく。弓しか武器を持たぬ聖美にとって、近接戦を仕掛けられることは何としても避けたい展開だった。
また、聖美は感電していることで移動速度がいつもに比べて遅くなっていた。それでも、ギリギリのところで回避してやり過ごしていた。
しかし、カーティスからすれば面白くない光景である。感電しているひ弱な少女に攻撃の一つも当てられないのだから。
一刻も早く聖美を倒し、弓矢による妨害を排除してから後、茉由を始末しに行けば容易く決着する。
そう見通していたが、聖美の予想以上の粘り強さに計算が狂ってしまっていた。そうしてもたもたしている間に、雷を全発かわし切った茉由がカーティスへと疾駆。聖美との間に割って入る。
「ハァッ!」
茉由渾身の斬り上げによって、大槌を弾き返されたカーティス。彼は深入りすることなく、一時的に距離を取った。
そこからはカーティスによる雷の弾幕が張られる。茉由は紗希仕込みの剣捌きで雷の弾丸を立て続けに切り裂いていく。
しかし、弓しか武器がない聖美には懸命に回避するしかなく、とても無傷で済むような攻撃ではなかった。
聖美は瞬く間に体のあちこちを雷の弾丸で撃たれ、出血していた。
それに気を取られる茉由に大槌が叩きつけられる。辺りに凄まじい衝撃波が駆け抜け、茉由も腕を振るわせながら大槌を真正面から受け止めていた。
「茉由!距離を取って!」
姉の声に弾かれるように、茉由は大槌を往なして、後ろへ跳んだ。そこへ、カーティスの眉間目がけて一本の矢が撃ちこまれる。
それは首を傾げて回避するカーティスだったが、邪魔が入った事には素直に怒りを感じていた。
そして、呉宮姉妹による攻勢が始まった。カーティスは矢と剣による攻撃に次第に押されていく。
「ウラァッ!」
カーティスは大槌を遠心力を活かして振り回し、聖美と茉由に強制的に間合いを取らざるを得ない状況を作り出す。そこへ、頭上から落雷を浴びせる。
これでどれくらいのダメージが入ったのか。カーティスとしては確実に仕留められていると思っていた。
だが、物事はそう上手くはいかないのは鉄則である。
「何だとッ!?」
落雷の後には聖美と茉由が立っていた。それも無傷の状態で。
一体、何があったのか。それをカーティスは聖美の弓に魔力の残滓を感じたことで、理解した。
それは雷が落ちてきたタイミングで、聖美は弓を使って雷を相殺したのだと。そう、カーティスは理解した。そして、それはまごうことなき真実であった。
そして、カーティスがカラクリを理解した瞬間。茉由が地面を蹴り、一息にカーティスとの間合いを詰める。
――ガキィン!
激しい金属音と共に魔剣ユスティラトと大槌から火花が散る。やがて茉由が力で押し切られ、弾かれた。
――その刹那。
「“星撃ち”!」
山吹色の光を放つ魔力で形成された矢が真っ直ぐにカーティスの元へ。
「小賢しい!」
カーティスが片手で大槌を薙いだ。その一撃は聖美の放った矢と激突する。それによって、大爆発が引き起こされる。
だが、次の瞬間。カーティスは胴体を深く切り裂かれる形となった。
大爆発の合間を縫って、再び間合いを詰めた茉由が“氷魔斬”で斬りつけたのだ。それによる傷は深く、致命傷ではないものの、カーティスを怯ませるには十分すぎる一撃であった。
「“氷牙”ッ!」
茉由は切り抜けた後、振り返るなり氷属性の魔法剣による突き技を披露した。それは刀身と共に一直線に伸び、カーティスの心臓を貫いた。
一点集中の技をくらい、カーティスは自らの敗北を悟った。自分が侮り、踏みつぶしてきた人間によって、強者であるはずの自分が打ち倒された。
受け入れがたい事実だったが、それを受け入れながらカーティスは自らの生涯に幕を引いたのだった。
ドサリと崩れ落ちる茉由の元へ聖美が駆け寄る。しばらくして、聖美と茉由が立ち上がる頃には、カーティス配下の魔物たちも大半が討伐済みであった。
ここに、またしても魔王軍の部隊が壊滅したのであった。こうして魔王軍の幹部はユメシュのみとなった。
◇
ここは神域――と一口に言っても、地上との繋ぎ目とも呼べる場所である。神と直哉が死闘を繰り広げている場所からは遠く離れた地点。
そこに空間転移してきた魔王ヒュベルトゥスは魔王剣アガスティーアを肩に担ぎながら、自らを睥睨する千二百ほどの天使を睨み返していた。
「フン、余を高所より見下ろすとは、随分と良い身分をしているな」
魔王は直哉からの頼みで地上へ進攻しようと動き出した天使を殲滅するためにやって来たのだ。
「まぁ、サクッと片付けていくとしよう」
天使は個々の戦闘能力は魔王軍の八眷属をも軽く上回る。そんな化け物じみた神の殺戮人形千二百体を相手に魔王はサクッと片付けると言い切った。
そして、魔王は獰猛な眼差しと共に天使の大群を見る。
その刹那。一体の天使が胴切りされ、肉体を上下で分断されて落下していく。
魔王は空間転移で一瞬の内に天使の頭上へと出現し、落下する勢いを利用して叩き切ったのだ。
それを受けて、十体の天使が追撃をかける。魔王の動きを見る限り、空を飛べる力を持っていないと判断したためである。
それは正解であり、魔王は現に落下していっている。しかし、九体の天使が手にした剣で魔王を貫いた。
……かに見えたが、貫かれたのは魔王を追撃していた最後尾の天使であった。急所となる核を潰された天使は力を失い落下していく。
一体何が起こったのか、理解する間もなく、彼ら彼女らの背後に回っていた魔王によって、九体まとめて核を両断される。
魔王が瞬間的に行なったのは自分を追撃してきた十体の天使のうち、最後尾に居た天使と自らの位置を入れ替えた。そして、残る九体に最後尾の一体を始末させた。
そして、その天使と入れ替わって最後尾に回った魔王が戸惑う天使たちを切り捨てたというのが全貌であった。
凄まじい衝撃音を発しながら地面へと着地する魔王ヒュベルトゥス。この開始十数秒で十一体の天使が討ち取られた。このペースでいけば、30分と経たずに天使は全滅させられる。
そう演算した天使たちは魔王ヒュベルトゥスを始末するべく、一斉に動いた。
しかし、魔王が剣を持たぬ左腕を横一文字に薙ぐなり、空間が裂け、百体ほどの天使が両断される。とはいえ、核を破壊されたのは五十体ほどであったため、核が無事だった天使は肉体の再生を瞬時に完了させる。
これには魔王も笑った。それは雑魚だからと鼻で笑ったわけでも、再生能力に恐怖して笑ったわけでもない。
これくらいでなくては、潰し甲斐がないという意味での好戦的な笑みであった。
刹那、魔王はこれでもかというほどに空間をバラバラに分解してみせ、接近してきた天使を三百体まとめてみじん切りにしてしまった。
天使たちは魔王の圧倒的なまでの戦闘能力に、一時撤退を選択した。しかし、魔王に背を向けたが最後、空間を縦に横に切断し、後退する天使を瞬く間に解体していく。
天使はみるみるうちに数を減らし、千二百もいた天使は残り十二体となっていた。
「……ほう、これだけ余に魔術を使わせておいて、まだ生き残っている者がおったか」
魔王は息一つ切らしていない状態で、生き残りの天使たちへと視線を送る。そして、先頭にいた女性型の天使が前へと進み出る。
「私はセシル。天使長を務めるモノです」
「ほう、天使長とやら。用向きは何だ?余は心は広い方だが、降伏ならもう遅いぞ」
「いえ、言い残すことはありますか?それを聞いておきたいのですが?」
セシルの瞳からはこれだけの魔王の力を見ても、動じていないということが伝わってくる。
「……よかろう。残る天使たちで余を始末してみせよ」
「言われるまでもないことです」
天使長セシルの動きに合わせて、彼女を除く天使十一体が動き始める。その息のあった動きには魔王も目を見張るものがあった。
しかし、天使個々の戦闘能力では魔王には遠く及ばず、セシル以外の天使は何の戦果を挙げることなく、死へ追いやられていった。
とはいえ、最後の一人となったセシルの実力は他の天使とは一線を画すモノがあった。
長剣を巧みに操り向かってくる様は魔王からしても感心してしまうほどであった。
「そなた、レティーシャとマルティンの母親だな?」
「……さぁ、そのような名前の子など知りませんね」
「フッ、口ぶりからして知らぬふりをしているのだろうが、余にはそんな白々しい嘘は通用せん」
セシルの長剣が魔王によって力づくで薙ぎ払われる。セシル自身、先ほどの会話で久々にレティーシャとマルティンの名を聞いたような気がしていた。
そう、セシルこそレティーシャとマルティンの母親。それを魔王は天使長という役職に母親が就いているという話をレティーシャとマルティンの二人から聞いたことがあった。そこから鎌をかけるための質問が先ほどのやり取りであったというわけだ。
「私は天使長セシル。我らが創造主のためにその命を捧げる者!」
セシルは様々な角度から斬撃を魔王へと浴びせるが、そのことごとくを魔王が撃墜していく。そこから一挙、魔王の横薙ぎの一閃でセシルの核に横一文字の傷が入った。
今の一撃で魔王も決めるつもりであったが、セシルが直感的に回避行動を取ったために外してしまったのだ。
だが、次の突きによる一撃はセシルの核を破壊した。これにより、天使長セシルは絶命し、物言わぬ死体と化し、地面を転がった。
「フッ、せいぜい死後くらいは親子で仲良くするがよい」
すでにレティーシャとマルティンの生命反応が消えていることは空間把握の力で知っていたため、セシルにも遠慮なくトドメを刺したのだ。
もし、二人が生きていたのであれば、セシルを生け捕りにすることも視野に入れていたが、その案は二人の死によって廃案となったのだった。
「さて、余も戦場に戻らねばならんな」
魔王は消耗した魔力を他の空間から補給を迅速に済ませる。そして、魔王剣アガスティーアを提げて、再び神との戦いが行なわれている地へと戻っていくのだった。
第210話「雷の魔人、天使の長」はいかがでしたか?
今回でカーティスが倒されたことで、八眷属もユメシュだけになったわけですが、はたしてユメシュをどうやって倒すのか、楽しみにして居てもらえればと思います。
それと、魔王も天使を倒してましたが、その中にはレティーシャとマルティンの二人の母であるセシルが混じってましたが、セシルも死亡するという展開に。
母親と娘、息子が死後の世界とかで仲良くしていてくれることを祈るばかりです。
次回はまるまるユメシュとの戦いになります!
――次回「魔王軍最後の砦」
更新は年明け、1/3(月)の20時になりますので、お楽しみに!





