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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
最終章 人魔決戦編
246/251

第209話 火の魔人たち

どうも、ヌマサンです!

今回はクリスタとサンドラの二人との戦いになります!

それぞれ、ユーリとセーラ、ビャクヤとヒサメとアカネがどんな戦いを繰り広げるのか、見守ってもらえればと思います!

それでは、第209話「火の魔人たち」をお楽しみください!

 ――時はゲオルグが撃破される前にまで遡る。


 ゲオルグと寛之が一歩も譲らぬ激闘を繰り広げる中、セーラとユーリの二人はゲオルグ配下の将軍であるクリスタと戦っていた。


 ユーリの槍捌きはクリスタと互角であり、さすがは前年度の武術大会優勝者であるとセーラは戦いの中で感心していた。


 何より、動きの敏捷性や槍に込められる一撃から計算するに、セーラよりも身体面では遥かに上であった。とはいえ、まだまだ若さが目立つ戦いであり、力と槍捌きだけで戦っている状態であるため、そこはセーラも不安に感じてはいた。


 だが、そんなセーラより遥かにクリスタと互角にやり合っているため、セーラは自分の力不足を痛感していた。


「あなた、かなり槍の腕が立つのね。私とここまで戦えるとは正直思ってなかったわ」


「お褒めに預かり光栄です。しかし、今は戦闘中。互いに戦いに集中しましょう!」


 ユーリは懸命に槍を振るってクリスタと一対一で渡り合っていた。しかし、体力面では疲労がたまっているのか、ユーリの顔に疲れが出始めていた。


 そして、そこから槍を交わすこと数合。ユーリの足がよろけ、体勢が崩れる。それをクリスタは好機と捉え、渾身の突きを放つ。


 しかし、その槍の突きは飛び蹴りによって軌道が逸れ、ユーリに命中することはなかった。


「ハッ!」


 レイピアでの突きにクリスタは体をのけぞらせることで回避。次の瞬間には槍を構えたまま、後方へ退却していた。


 セーラはユーリが体勢を整えるまでは自分が相手をすると心に決め、レイピアで攻撃を仕掛ける。


 だが、槍の方が間合いがあるため、レイピアによる近接戦を仕掛ける以前の問題であった。


 間合いで有利に立つクリスタからの槍の連撃にセーラは肩口と頬に浅く傷を負った。


「あなたは先ほどの槍使いほどの動きは出来ないみたいだけど、戦い慣れてるみたいね」


「ええ、そう……みたいね」


 セーラは必死に攻撃を凌いで再び間合いを取ったタイミングで、クリスタと言葉を交わす。だが、その時点でセーラは肩で息をするほどに消耗していた。わずか数十秒の戦闘で。


 しかし、セーラは諦めることなく果敢に自ら間合いを詰めてクリスタへと突きを見舞う。クリスタはセーラに間合いに踏み込まれる前に仕留めようと懸命に急所へ突きを繰り出す。


 そうして、戦いはもつれ、間合いを詰めては離れること数度。未だに決着はつかなかったが、次の瞬間にそれは訪れた。


 クリスタの突きと真正面からぶつかったことで、セーラのレイピアが半ばから折れてしまったのだ。セーラの顔からは血の気が失せる。それに微笑を浮かべ、セーラの心臓を貫かんとするクリスタ。


 グサッ!と槍が肉を貫くような音を立てて命中する。


 だが、槍が突き立っているのはセーラでは無かった。


「ユーリ様……!?」


「……無事で良かったです。間に合わなかったらどうしようかと」


 クリスタの凶槍からセーラを守ったのは、何とか呼吸と体勢を整えたユーリだった。槍の穂先はユーリの持つ槍の柄に当たっているが、その先端部はユーリのわき腹に1センチほど刺さっていた。


 ユーリは傷口から血を流すと共に、セーラへ笑顔を返す。その笑顔は本当に安心したようだった。


 クリスタは殺意を込めた攻撃が功を奏しなかったことで、再び間合いを取り、ユーリとセーラの二人の出方を窺っていた。


 ユーリは傷口を抑えるが、出血量はまだ少ない。それを見たセーラは自らの魔法で傷口を糸でグルグル巻きにして簡単にではあるが止血を行なった。


「これがリラード伯爵令嬢の魔法ですか……」


「はい。あと、ワタクシを庇って頂き、ありがとうございました」


「それは別に大丈夫ですよ。とにかく今は、共に目の前の敵を打ち倒すことだけを考えましょう」


「そうですね」


 ユーリとセーラは視線を合した後、戦うべき敵の双眸を捉える。刹那、クリスタは槍をクルクルと回転させてから構え直した。


 かかって来いと言わんばかりのクリスタの態度にユーリは応じることにした。槍を引っ提げてクリスタへと突貫する。そして、互いの槍の穂先は真正面から火花を散らして衝突する。


 それを見たセーラも自分は何をすべきかを考えて動かなければ勝てないと悟った。とりあえず、折れたレイピアは使い物にならないため、その場に打ち捨て、副武装として携帯していた短剣を腰から抜剣。


 セーラは短剣を片手にクリスタとユーリが戦う場所へと疾駆する。そして、ユーリの槍を右へ払い、隙が生じたところに鋭く繰り出される突きを短剣で弾く。


 ユーリはセーラが駆けつけたことで命拾いし、クリスタはまたしても好機を逃したことを悔やんでいた。それを舌打ちにも表れていた。


 だが、悔やんでも仕方ないと一瞬の内に割り切り、次の攻撃を仕掛けていく。


 クリスタもユーリも鋭い槍捌きであるため、セーラも敵味方の槍の動きを見て自分の動きを柔軟に合わせていく必要がある。それが中々難しいところだが、セーラとて戦い慣れているためにコツを掴めば、慣れるのは早かった。


 そんなハイレベルの戦いが何分も続いた頃、ようやくクリスタにも疲れが見えてきた。その隙を逃がさず、畳みかけるようにユーリとセーラが猛攻を仕掛ける。


「“炎矢フレイムアロー”!」


 瞬きの間に展開される無数の炎の矢。クリスタの召喚魔法・炎装である。


 圧倒的な物量に物を言わせた炎の矢が雨あられと降り注ぐ。二人とも懸命に防御を重ねるが、とても全発防ぎきれるモノではなく。


「うっ!?」


「……っ!?」


 ユーリもセーラも体のあちこちを炎の矢で射抜かれ、血を滴らせていた。そんな二人に容赦なく、槍での突きが見舞われる。


 まず狙われたのはセーラ。間一髪、短剣で一撃目は防げたものの、二撃目と三撃目はそうはいかなかった。左大腿部と右肩を立て続けに貫かれる。


 特に、右肩に一撃を貰ったのは致命的であった。これで利き腕が使えなくなったのだから。


 そんなセーラは短剣を右から左に持ち替えて戦ったが、左で短剣を振るうなど初めてだったために、一蹴される結果となった。


 このままではマズいと判断したユーリは体が痛むのを堪えて、クリスタへと攻撃を仕掛ける。


「ハァッ!」


 クリスタの鋭い一撃はユーリの一突きをすり抜け、腹部を貫いた。しかし、直後にクリスタの背部に短剣が突き立った。それも心臓を的確に狙って。


 クリスタは理解した。今、背後にいるのが誰なのかを。


 直後、ユーリはクリスタを蹴り飛ばし、間合いを取った直後にクリスタの喉元を槍で一突きにした。


 ――これによって、辛くもセーラとユーリは勝利を収めることが出来たのだった。


 ◇


 クリスタが戦死した頃、残り一人となった将軍サンドラはテクシスの冒険者であるヒサメ、ビャクヤ、アカネの3人と激戦の真っ最中であった。


「……“炎花”、食い散らかせ」


 サンドラの呼びかけに応えるように紅の花を咲かせる植物がヒサメたちへと襲い掛かる。


「ほっ、“聖盾ホーリーシールド”ッ!」


 ここぞという局面で嚙みながらも魔法を光の盾を召喚し、炎の植物の突進をビャクヤが真正面から受け止める。


「ヒサメちゃん!アカネちゃん!二人は魔人の相手をしてくれ!コイツの相手はオレがやる!」


 後ろを振り返りながら声を張り上げるビャクヤ。そんな彼の声にコクリと頷き、炎の植物を迂回するように動き出すヒサメとアカネ。


「アカネ、攻めるわよ」


「分かったわ!」


 ヒサメとアカネは互いに笑みを返した後、サンドラへと突貫する。


 ヒサメは華麗な槍捌きでもって、サンドラを圧倒。その間にアカネは“炎狼フラムマンヴォルフ”を召喚し、サンドラへと攻撃するように命じる。


 サンドラはヒサメの槍をサーベルで受け流しながら、炎の狼が接近していることに焦りを覚える。


 普段なら、自分が不意を突かれてもクリスタやブランドンが助けに入ってくれるから心配したことなど無かった。だが、今この場に二人は居ないのだ。


 サンドラは自分自身で何とかするしかないのだと自分に言い聞かせ、ヒサメの技を受け流して炎の狼と自分の間に割り込ませた。それにより、ヒサメも焦り、炎の狼はヒサメを飛び越えるべく跳躍する。


 その隙を突いて、サンドラも地面を蹴り、空中で炎の狼を解体した。


 そして、着地するなり、再びヒサメとの戦いを繰り広げる。この戦いはスリリングであり、互いに幾つものかすり傷を負いながら、命のやり取りをしていた。


 間合い的にはヒサメの槍の間合いというよりは、サーベルを扱うサンドラの間合いであった。要するに、接近しすぎているためにヒサメは思うように力が発揮できないのだ。


 それを理解したうえで、サンドラは間合いを詰めに詰め、斬撃をヒサメに浴びせているのだ。


 一方のアカネは新たに“炎虎フラムマンティーガー”を召喚し、ヒサメとサンドラの元へと駆けさせた。


 アカネ自身は格闘術を用いた接近戦であり、剣士であるサンドラとやり合うには間合いが短すぎるのだ。接近すれば、自分の拳が届くよりも先にサンドラに斬られるのが目に見えている。


 ゆえに、アカネはサンドラに必要以上に接近することなく、中距離からの援護を行なっていた。


 そんなアカネが放った“炎虎フラムマンティーガー”によって、ヒサメとサンドラは強制的に間合いを取らざるを得なくなり、戦いは中断された。


「アカネ、助かったわ」


「それならいいんだけど、思っていた以上に強いわね。アイツ」


「そうね。でも、倒さないといけないわ。あのサンドラって人を倒せば、ビャクヤが戦っている炎の植物も消えるだろうし」


「まあ、大好きな恋人のためにも早く終わらせないとね」


「ちょっと!?誰があんな変態のことなんか……!」


 からかうようなアカネの口調に顔を真っ赤にした言い返すヒサメ。普段のクールさを置いて来たかのようなヒサメの態度にアカネは図星だったと確信していた。


 そんな言い合いをヒサメとアカネがしているうちに、間合いを詰めたサンドラが斬撃を見舞う。


 鋭い剣閃をヒサメが咄嗟に槍で受け止めたために二人とも負傷することはなかったが、言い合いをしている場合ではないと心の奥に言い合っていた内容を押し込めた。


 ヒサメは魔法を発動させ、冷気を槍へと纏わせていく。対して、アカネは今度は間合いを取って援護に回るのではなく、果敢に拳と蹴りでサンドラへと攻めかかる。


 サンドラはそれを切り捨てんとサーベルを振るうも、横から突きが見舞われ、サーベルを弾かれる。


 それがヒサメの文字通りの横槍であることはサンドラも理解していた。しかし、それを理解する頃にはアカネの拳がサンドラの横っ面を殴り飛ばした。


「“聖槌ホーリーハンマー”!」


 アカネがサンドラを殴り飛ばした刹那、離れた場所で炎の植物と戦っていたビャクヤの声が響く。


 二人がチラリとその方向を見れば、ビャクヤの召喚した光の槌が炎の植物を上から叩き潰していた。


 その破壊力に地面にはクレーターが形成されるほどであった。よって、かなりの魔力を費やしたものとヒサメは推測していた。


 そして、炎の植物を撃破したビャクヤ自身は一直線にサンドラの方へと駆ける。無論、その手には大斧を提げて。


 アカネは殴ったサンドラの頬をバネにして、元居た場所より離れた地点に着地した。ビャクヤが来ればヒサメと一緒に倒してくれると信じているからである。


 ビャクヤはよく持ち応えたとアカネに親指を立てる。その様にアカネはまだまだビャクヤは余裕だと察した。


 そんなビャクヤの加勢を得たヒサメは、槍捌きにさらなる磨きをかけてサンドラを追い詰める。


 ヒサメの槍とビャクヤの大斧。交互に繰り出される得物にサンドラはサーベル一本ではとても捌ききれるモノではなかった。


「“聖斧ホーリーアックス”!」


 ビャクヤは大斧を持つ右手とは反対側、左手に光の斧を召喚し、両手に斧を装備して手数を増やした。


 もはや、サンドラが剣で処理できる手数をオーバーしており、サンドラが後手後手に回っている間にサーベルの寿命が尽きた。


「ヒサメちゃん!」


「分かってる!“氷突アイススラスト”!」


 ヒサメの槍が纏う冷気は一層、その輝きを増し、高速の突きでもってサンドラの心臓を刺し貫いた。


 肉体を突いた確かな感触を得ながら、ヒサメはサンドラを見る。サンドラの瞳からは光が失せており、涙が頬を伝っていた。


 死ぬ瞬間に仲間のことを思ったのだろうか。


 ヒサメはそう思うと、申し訳ないような気持ちになってしまった。しかし、そんな彼女の肩にポンッと手が乗せられる。


「ヒサメちゃん、お疲れ様。ここは戦場だ。今ので仕留めてなかったら、やられてたのはオレたちの方だったぜ」


 ビャクヤは足元でうつ伏せに倒れているサンドラを見下ろしながらヒサメへと言葉をかける。


「ええ」


 ヒサメは涙声と共に頷き、一礼と共にその場を後にしたのだった。


 その後、シルヴァンの指揮の下、ゲオルグ率いる魔物の大軍が掃討され、ミノタウロス五千、キマイラ五千は一頭残らず撃破されたのだった。


 ――こうしてまた一つ、戦いが終わった。

第209話「火の魔人たち」はいかがでしたか?

ユーリとセーラが一緒に戦っているのは意外に感じた方は多かったかもしれませんね。

今回でサンドラとクリスタの二人も退場ということになりましたが、まだまだ戦いは続きます……!

雷の八眷属であるカーティスと、天使たちの撃破に向かった魔王の話になります!

――次回「雷の魔人、天使の長」

更新は大晦日、12/31(金)の20時になりますので、お楽しみに!

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