第208話 炎の八眷属
みなさま、メリークリスマス!
クリスマスでもカフェで黙々と更新作業をしてます、ヌマサンです!
今回はブランドンとゲオルグの二名との戦いになります!
それぞれ、ギンワンとミズハ、寛之がどんな戦いを繰り広げるのか、注目してもらえればと思います。
それでは、第208話「炎の八眷属」をお楽しみください!
「うらぁ!」
「フンッ!」
大男二人が持つ大斧と大剣が真正面からぶつかる。それによる衝撃波に大剣を持つ男の近くにいる少女は顔をそむける。
周囲に衝撃による旋風を巻き起こしながら、ぶつかる位置を変えながら大得物が火花を散らす。そして、それを振るうのは魔王軍のブランドンとテクシスの冒険者ギルドマスターのギンワン。
ギンワンは白金ランクの冒険者ということもあり、立ち回りも上手く、魔人であるブランドンと対等以上に渡り合っていた。
その傍で戦いの成り行きを見るミズハ。ギンワンの力は間違いなくテクシスの冒険者の中では一番である。しかし、ブランドンはそれすらも弾き返すほどの膂力を誇っていた。
そして、パワーだけでなく、スピードの面においてもブランドンはギンワンを上回っていた。
それもそのはず、ブランドンは炎の身体強化魔法を使用した上で、接近戦を挑んでいるのだから。しかし、今のミズハの力量ではギンワンの足手まといにしかならない。
それを分かっているがゆえに、ミズハは見守ることしか出来なかった。
「……でも、もう見ているだけ、守られているだけの自分じゃないから。私もギンワンと一緒に戦う!」
ミズハは霧魔法を繰り出し、ブランドンの周りを白い霧で包み込む。
「チッ、鬱陶しい……!これじゃあ、周りが見えねぇ!」
案の定、苛立つブランドン。ギンワンはそれを聞いて微笑んだ。ミズハが守られるだけではなく、自分と共に戦うことを選んだこと、霧魔法でギンワンのアシストをしてくれたこと。
その二つがギンワンは何よりも嬉しかったのだ。そんな嬉しさを噛みしめながら、ギンワンは背後からブランドンへ一太刀を浴びせる。
「なっ……!?」
ブランドンにはわけが分からなかった。敵であるギンワンがどうしてこんな視界を遮るような霧の中を自在に動けるのかが。
しかし、答えは簡単だった。それは、『慣れ』だ。山賊のまね事をしていた時、ミズハの霧の中で動いて目的を達成するという作戦が多かった。ゆえに、ギンワンに限らず、ヒサメもビャクヤも、アカネも。全員がミズハの霧の中を動くことに慣れている。
そういった、ここまでの積み重ねが今、ギンワンを生かしていた。そうとも知らず、ブランドンは霧の中で動けるのがギンワンの魔法なのか、もしくはそういった魔道具の類を持っているものだとばかり思いこんでいた。
魔法や魔道具を使っているのであれば、発動中の活性化した魔力さえ感じ取れれば、一撃を当てられる。そう、ブランドンの中では確信していた。
しかし、ブランドンの予想など当たることはなかった。霧の中で大斧を振り回しても、ギンワンにかすり傷の一つも負わせられなかった。
対して、ブランドンはギンワンの大剣によって体に数ヶ所の傷が刻まれていた。
ブランドンはやられっぱなしである現在の状況に怒りを覚えていた。そういった短気な面は主君であるゲオルグにそっくりである。普段は冷静そうな態度を取っているという一点のみ異なるが。
そんなブランドンは怒りの向くままに周囲の霧を自らの魔力で吹き飛ばした。そして、霧が晴れた一瞬。
霧魔法を使ったミズハの姿を視界のうちに捉え、刹那的に距離を詰める。それにはギンワンも対応が追い付かなかった。
もちろん、狙われた張本人であるミズハも恐怖のあまり、口をパクパクさせるだけ。そして、ミズハの手にあるのは一本の杖。それも金ランクに昇格した際に所持することを許されたオリハルコン製である。
ミズハはそのことを思い出し、とっさに杖を寝かせてブランドンの大斧を受け止めた。だが、ブランドンの方が桁違いに力が上であったために一秒ともたなかった。
大斧の刃がそのままミズハを脳天から一直線に斬り下げるかに見えたその時。
「そうはさせないのだがねッ!」
ギンワンの大剣が大斧を掬い上げるように払った。そして、右足を軸にして左足での蹴りをブランドンの鳩尾に叩き込む。
ドゴッと鈍い音が響き、ブランドンは後方へと吹っ飛ばされる。怒りの込められた重撃にブランドンは吐血する。炎に包まれた肉体に蹴りを入れたギンワンのブーツは焦げており、足が見えていた。
しかし、ギンワン自身は火傷を負っていなかったため、問題にはならなかった。
そんなギンワンの強力な蹴りを受けたブランドンはその一撃の威力に恐怖した。身体強化で肉体の強度が増しているにもかかわらず、それを突き破るような衝撃があったのだ。
身体強化を施していなければどうなっていたのか。それを考えるだけで、ブランドンはゾッとした。
「ミズハ、大丈夫かね?」
「……う、うん。大丈夫。助けてくれてありがとう」
「あの一撃を受け止めるとは無茶をする。まあ、そのおかげで間に合ったのだがね」
ギンワンは叱るような口調で言葉をかけたが、その後には喜びが伝わってくるように微笑んでいた。ミズハは戦いの中であるにもかかわらず、胸が高鳴るのを感じていた。
そんな笑顔の後にギンワンはブランドンとの戦いに決着をつけるべく、ミズハに背を向けた。
「……ギンワン!その、気をつけて!」
敵へと対峙する背中へ向けて言葉をかけると、かけられた側は手をひらひらと振って歩みを止めることなく進んでいく。
「そろそろ決着をつけたいのだがね」
「それはこっちのセリフだ。サッサとくたばってくれ」
互いに言葉を吐き捨てると、次の瞬間には激しく大剣と大斧が衝突していた。そこから互いに一歩も譲らない近接戦が展開される。
パワーとスピードに勝るブランドンはそれを活かして、ギンワンを追い詰めようとする。しかし、ギンワンはそれを技と駆け引きのみで押し込めてみせる。
そこにはギンワンの中での経験値が生きており、それは純粋な場数によって養われている。
そんな大剣の戦士をブランドンは打ち倒すことが出来ず、上手くあしらわれてしまう。
「ぬんっ!」
「っっ!?」
ブランドンの大斧が弾き返され、生じた隙を逃がさず一閃。ギンワンの大剣はブランドンの胸部を深く切り裂く。
たまらず、ブランドンは意地の抵抗を見せようと大斧を振りかぶるも、それより早く、大剣が心臓を貫いていた。
――勝負あった。
敗者は横向きに地面へ倒れ、大斧を握ったまま絶命する。ギンワンは大剣を肩に担ぎ、ブランドンが力尽きたことを確認する。
その後はミズハと合流したのち、周囲で暴れ回っているミノタウロスとキマイラ討伐に向けて行動を開始したのだった。
◇
一方、互いの軍がぶつかり合う奥では、桁違いの戦いが行なわれていた。
それは寛之とゲオルグ。悪魔の力を解放した寛之は八眷属であるゲオルグと正面から激突していた。
しかし、悪魔の力を解放した状態の寛之は八眷属であるゲオルグを相手に優位に進められるほどの強さとなっていた。
パワー、スピードといった身体能力面ではもちろん、魔力量に関してもゲオルグよりも上回っている。
そんなゲオルグが圧倒的不利の状況での戦いであったが、寛之は未だにゲオルグ撃破に至っていなかった。
「テメェ、裏切り者のくせに俺の邪魔してんじゃねぇぞ」
「ちょっ!僕はユメシュに操られていただけだから、裏切り者と言われるのは心外なんだが!」
「知るかッ!」
弁解しようとする寛之の頬に容赦なくゲオルグの拳がめり込む。
ゲオルグは戦いが始まって以来、魔法は一度も使っていない。それは寛之を見下し、魔法を使う相手だと認識していないかのように。
だが、その結果が寛之相手に押されているということだ。
ゆえに、ゲオルグは決断を迫られていた。魔法を使うという決断を。
「“砲炎拳”ッ!」
その拳は特大の炎に包まれ、寛之を逃がすことなく命中する。寛之は顔の前で左右の腕を交差させて受け止めたものの、ジュッと肉が焦げる音と骨にヒビが入る音の両方が耳まで届く。
いくら、悪魔の再生能力があるとはいえ、ダメージによる痛みがないわけではないのだ。
そんな特大の炎を纏う拳は炎を切り離し、寛之を呑み込んでしまう。
「~~~~~ッ!?」
寛之は今の一撃で両腕の骨にヒビを入れられ、全身を焼き尽くされる形となった。だが、そんな寛之を放っておくほど戦いは甘いものではない。
寛之が弱っている今のうちに勝負をかけておこうとゲオルグが得意の格闘術と炎魔法で寛之にダメージを与えていく。
もちろん、再生していくものの、それでもダメージを入れることで寛之の力を削り取っていくことは十分に可能。
それを分かった上で、容赦なくゲオルグは寛之へと拳蹴を打ち込んでいく。
しかし、寛之もそれを悟り、防御に重点を置く……のではなく、自らも果敢に攻勢に出る。
拳による一撃には拳を真正面からぶつけて相殺、蹴りには蹴りを放って相殺する。そんな滅茶苦茶な戦い方にゲオルグは内心苛立っていた。
そして、ゲオルグの場合、感情は心の内から攻撃へと反映される。つまり、攻撃に炎だけでなく、苛立ちが纏わりついているのだ。
それによって、生じる隙を逃がさず、寛之は攻撃を見舞う。が、ゲオルグも隙を放置することなく、臨機応変に対応してみせる。
そうして、近接格闘による攻防はもつれ、決着がつく気配を見せなかった。そうしている間に刻一刻と時間は経過し、スカートリア王国軍とは違い、指揮官が不在のゲオルグ率いる魔王軍はその数を減らしていく。
その光景を見たゲオルグはさらに焦りを覚える。だが、寛之がそう簡単に勝負を決めさせない。攻防共に死力を尽くし、ゲオルグを疲弊させていく。
『よそ見をしている余裕があるのか?』
そう問いかけられているようにゲオルグは感じた。そして、目の前の男を敵として見据える。
そこからのゲオルグの動きは桁違いに良くなった。肉体のパワーもスピードも寛之に劣るにもかかわらず、反応速度で相手の優位性を打ち消していた。
これには寛之も目を見張った。さすが八眷属と呼ばれるだけの実力はある、と。
そうして両者の拳と拳、蹴りと蹴りは互いの肉体を破壊するほどの威力をもって衝突する。
ゲオルグがその攻防戦の中で寛之を殴り飛ばしたことで、戦いに僅かな時間が生じた。
「“ブレイジングインフェルノ”!」
ゲオルグは、その一瞬で膨大な魔力を練り上げ、大火球を寛之へと叩きつける。大火球は圧倒的な熱量をもって、地面を焦がし、草原の草花を焼き尽くす。
そんな業火の中で寛之は自らの足で立っていた。そして、寛之の周囲を包むのは暗黒の結界。
そう、寛之を包むのは“闇球障壁”。寛之を包み込むように展開された結界は見事に寛之の命を守った。
魔力量の多い寛之が純粋な魔法の威力でゲオルグに劣るような事は無い。それは寛之自身も分かっていたことである。
ゆえに、回避するのではなく、魔法による防御という手段を選んだのだ。
その寛之の判断は間違っておらず、大火球を防ぎ切るやいなや、間髪入れず肉薄し、ゲオルグへと拳を叩きつける。
「チッ!」
舌打ちしながらもゲオルグは小さめの火球を数十発、連射する。それにより、寛之はゲオルグとの間合いを詰めて追い打ちをかけることが出来ず、その間にゲオルグに体勢を立て直すことを許してしまった。
寛之がそれに対して、危機感を覚えるタイミングで、ゲオルグからの鉄拳が眼前に現れた。
寛之は手のひらに同じサイズの障壁を展開し、それを受け止める。が、続く蹴りには対処が間に合わず、首筋に凄まじい音を立てて命中する。
それにより、障壁魔法を解除してしまった寛之に対して、ゲオルグから怒涛の猛攻が仕掛けられる。
寛之もミレーヌから教わった格闘術を用いて全力で応じるが、さすがにゲオルグ相手では分が悪かった。
しかし、それでも凌ぐ分には大した問題ではなかった。今一番、寛之が危惧しているのは自分に攻撃面での決め手が何も無いことだ。
自分以外の来訪者組は古代兵器の力を使ったり、自分の魔法による必殺技を持っている。だが、自分の障壁魔法は守護の魔法。仲間を守れても、敵を滅ぼすことはできない。
そう思ったから寛之は力を得るべく、魔王軍で悪魔の力を取り込んだ。とはいえ、それでも状況は変わっていない。
純粋な身体能力と魔力は大幅に上昇したが、それを最大限活かせる技が無いのだ。
だが、寛之は覚悟を固めた。そう言って言い訳をして、逃げるのは止めようと。
突貫してくるゲオルグに対して、寛之は静かに腰を浅く落とし、拳にすべての力を収束させる。
「くたばれっ!ハンパ者!」
刹那、彼の突撃を待ち構えていた拳が唸る。それは的確に心臓を捉えており、一撃の火力も相まってゲオルグを死へと追いやった。
ゲオルグの拳は寛之の顔の前で寸止め状態となっており、その拳に纏う炎から生まれた火の粉は寛之の顔をチリチリと焦がしていた。
ここに六人目の八眷属が撃破され、残るはカーティスとユメシュの二名となった。そして、大将を失ったゲオルグの部隊は勢いを失うのであった。
第208話「炎の八眷属」はいかがでしたか?
今回でブランドンとゲオルグの二人が撃破される形になったわけですが、寛之も単独で八眷属と戦えるほどに成長したんだということが感じてもらえればうれしい限りです。
そして、次回はクリスタとサンドラの二人との戦いになります!
――次回「火の魔人たち」
更新は12/28(火)の20時になりますので、お楽しみに!





