第207話 人と魔。魔と人、そして神。
どうも、ヌマサンです!
今回は前半で紗希とベルナルドの戦い、後半で神との戦いという感じになってます!
それぞれのたがどうなっていくのか、引き続き見守っていてもらえればと思います……!
それでは、第207話「人と魔。魔と人、そして神。」をお楽しみください!
煉獄竜ディエゴのブレスにより、ドロドロに溶けた大地。その大地の中で、他者を寄せ付けない緊張感を醸し出す二人の剣士の姿があった。
それこそ、水の八眷属であるベルナルドと直哉の妹の紗希である。
二人は互いに剣を腰の鞘から引き抜き、音一つ立てず、静かに構えていた。
そして、ある瞬間。紗希が一気に飛び出し、ベルナルドを強襲する。初撃の威力は軽すぎたため、易々とベルナルドに弾かれてしまうものの、第二撃が初撃との間隔がないに等しいほどの速度で放たれる。
しかし、ベルナルドとて歴戦の戦士である。紗希の斬撃をまたしても防いでみせた。しばらく火花を散らしながらぶつかり合う剣と剣。
ベルナルドが振るうサーベルも、紗希の扱う水聖剣ガレティアも、共にオリハルコン製である。
そんな世界最硬の金属で鍛え上げられた剣同士であるが、材質がオリハルコン以外であったなら、この衝突の時点で砕け散っていることは間違いなかった。
それほどまでの勢いでの衝突なのだ。これは。
そこからはベルナルドと紗希の斬撃の応酬により、激しい剣戟が巻き起こされる。常人には知覚することすらできないレベルの高速戦闘。
しかし、敏捷強化を使用した紗希の速度はベルナルドを遥かに上回っており、ベルナルドは防御の回数の方が多かった。そんな戦いであったが、ベルナルドの方が純粋な力では勝っているため、紗希も一撃を受けるたびに疲労というダメージを腕へと蓄積させていっていた。
大上段から振り下ろされるサーベル、それを受けて横に滑る水聖剣ガレティア。舞い狂う剣と剣によって、奏でられるメロディーは周囲で燃え盛る炎のように情熱的であった。
そんな互いの位置を激しく入れ替えながら行われる剣士同士の戦いは、縦横無尽という言葉が似合う。
もはや互いの姿は霞んで見えるほどであり、それはまるで分身しているかのようにも見えてしまう。
紗希はこれまでの戦いを振り返る中で、かつてベルナルドほどの剣術を扱う人物を見たことが無かった。
そして、私情を抜きにして考えても、剣捌きは自分といい勝負をしたクラレンス以上である。そう、紗希は確信していた。
また、ベルナルドの方も紗希を今まで対峙した剣士の中で最強であると戦いの中で感じ取っていた。
「やはり、あなたは今まで出会った方々の中で一番お強いようです」
「それは褒めてる……ということで良いんですよねッ!」
ベルナルドのサーベルを斬り払い、鋭い突きを繰り出す紗希。その動きの速さと戦闘を組み立てていく戦術眼にはベルナルドも恐怖を感じた。
言うなれば、戦闘をするために生まれた殺戮マシーン。一切の無駄がそぎ落とされた剣は素朴であるものの、迷いがなく速い。
その速さにはベルナルドは到底及ばない。が、これまでの戦闘経験を活かして対応していくことで紗希と辛うじて渡り合うことが出来ていた。
「出来れば使いたくは無かったのですが、このままでは危ないので、失礼しますよ!“水渦”!」
ベルナルドの水の魔法により、大量の水が生み出され、煉獄竜のブレスで熱を帯びる地面と燃え盛る草原を覆った。熱を帯びる大地に水が触れると瞬時に蒸発し、燃ゆる草の火を鎮火させる。
そんな大規模な魔法を至近距離からくらった紗希だったが、好機と捉え、技を発動させる。
「薪苗流剣術第一秘剣――雪天!」
渦巻く水を切り裂き、進んでくる斬撃に不意を突かれたベルナルドはわき腹に傷を負う羽目になった。
「薪苗流剣術第二秘剣――光炎!」
立て続けに放たれる薪苗流剣術の技にベルナルドは動揺を隠しきれなかった。余りの速さに剣だけでなく自らも炎を纏う突きにベルナルドは吹き飛ばされる。
サーベルで剣先を受け止めたものの、突進の勢いまで殺すことはできなかった。
その諸刃の剣とも呼べる技で体のあちこちに火傷を負う紗希。そこへベルナルドから容赦なく斬撃が浴びせられる。
先ほどの一撃で決めるつもりだったのは、紗希が諸刃の剣とも呼べる技を使った時点で明白だったが、計算が甘かった。それにより、かえって紗希の方が窮地に立たされる形になった。
腕と足に火傷を負った紗希。これは剣士としては致命的なダメージである。何せ、紗希の持ち味である速度を活かした高速戦闘が出来ないのだから。
しかし、紗希は逆境の中でも諦めることなく、ベルナルドに食らいついていく。
その諦めない心意気は交える剣を介して、ベルナルドも感じていた。その心意気を内心、賞賛してもいた。
だが、ベルナルドとしても勝利を逃がすわけにはいかず、攻撃の手を緩めるようなマネをしなかった。それに、手を抜くようなマネは目の前の誇り高い剣士に無礼である。
そんなベルナルドからの礼に応えるように、紗希は持てる力のすべてをベルナルドにぶつける。
「薪苗流剣術第三秘剣――」
「何ッ!?」
「――久遠!」
ベルナルドに対して放たれる直線状の斬撃の嵐。さすがに全快の時に比べれば、斬撃の速度も数も劣る。しかし、ベルナルドの不意を突くには十分すぎるくらいであった。
ベルナルドも全力で防ごうとしたものの、予想だにしなかった紗希の猛攻に防御が間に合わなかった。
「グッ……!?」
腕、足、胴体、肩。体のあちこちを切り裂かれるベルナルド。負傷しているという条件において、紗希と並んだ。
そして、条件が同じであるなら、紗希は負けない。
負傷しているとは思えない圧倒的な剣速をもって、猛攻がかけられる。
――ガキィンッ!
ついに、剣が両断される。両断されたのは言うまでもなく、ベルナルドのサーベルの方であった。ここで、武器の差が出た。この、最悪の状況下で。
ベルナルドは唇を噛みながらも、反攻しようと試みる。が、水聖剣ガレティアはベルナルドの心臓を真っ直ぐに貫いていた。
「ガハッ!薪苗紗希……だったか。見事だ。もし、来世で会うことがあれば、また戦いたいモノだ……」
紗希が剣を引き抜くと、ベルナルドは重力に逆らうことなく地面にうつ伏せで倒れこんだ。
紗希は水聖剣ガレティアを手に、呆然と空を見上げる。時刻は太陽が真上に来る真昼。朝の戦闘開始から何時間も経過していることを、紗希はようやく知るのだった。
そして、周りを見れば、まだまだ戦いは続いている。紗希はどこの加勢に向かうかを冷静に判断し、激戦地へと足を向けるのであった。
◇
その頃。神域では、神に直哉と魔王ヒュベルトゥスの二人が息を合わせた連携攻撃を仕掛けていた。
魔王が魔王剣アガスティーアで斬撃を仕掛けるかに見せて、斬る寸前に空間魔術で滅神剣イシュトイアと入れ替えたり、直哉が滅神剣イシュトイアで斬りかかったかと思えば、魔王剣アガスティーアと入れ替わったり。
そんなフェイントを織り交ぜながら戦う魔王と直哉の攻撃を受けて、神は着実にダメージを負わされていた。
いかに神が強大とはいえ、魔王と直哉が連携すれば対抗することは可能。それはこれまでの攻撃からも立証済み。
そして、そんな状況を神の矜持が許すはずもなく。
神は膨大な魔力を操作して、強大な風を作り出し、魔王と直哉に叩きつける。魔王は刹那的に自分の周囲の空間を捻じ曲げて、攻撃を防ぐ。直哉はそんなものお構いなしに突貫していく。
その直哉の肉体はダメージを受けようとも、再生するのみであり、不死身を関するに相応しいモノだった。
「薪苗直哉。君はその力を発動させて一時間ほどが経つが大丈夫なのかね?」
神はそう直哉に問うた。そう、直哉の竜の力の制限時間の話をしているのだ。元々、竜の力を解放するのは5分が直哉にとっての限界だった。しかし、戦いの中で発動させていく中で力の制御の術を学習し、10分までもたせられるようになった。
しかし、それは通常の竜の力の話である。今使っている不死身とも呼べる再生能力付きの竜の力は5分ともたなかった。それは、力が普段の竜の力よりも強大であるために、普段の倍近いエネルギーを消費するためである。
そんな5分ともたせられなかった力を1時間も解放しているのだ。直哉の肉体にはすでにボロボロである。しかし、力の発動中は再生能力があるためにどうということはない。
つまり、力を解除したが最後、その負荷が一気に直哉を襲う。
そして、残りの体力を鑑みて、直哉は力を維持できるのは10分もないと見ていた。そんなタイミングでかけられる神の言葉に直哉はギクリとした。
だが、活動時間の残り少ない直哉は無駄口を叩いている暇は無いと神へ果敢に攻撃を仕掛ける。
「そうだな、お前の言う通りだ。解除すれば間違いなく俺は死ぬ。だが、それでも構わない!」
直哉は命ある限り剣を振るう。その覚悟を決めていた。心に迷いはなかった。それもすべて、自分が愛した人々を護るため。もう誰の命も奪わせないという覚悟を剣に込める。
それを神は察した。それは魔王も同じであり、魔族の王として魔族を守るべく再び神へと戦いを挑んでいく。
守るモノを持つ二人は強かった。すべてを圧倒的な力でねじ伏せてきた神をも凌ぐほどに。
そして、神は右手から劫火を放った。その魔力の炎は魔王と直哉の肉体を焼き尽くす。しかし、魔王は空間転移でその場を逃れ、直哉は再生能力に防御を任せて攻撃をかける。
「その劫火を滅神剣イシュトイアと魔王剣アガスティーアに付加!」
直哉はここへ来て初めて付加術を使った。そして、それぞれが身に纏う劫火を互いの剣に纏わせる。
神の炎を纏う剣をもって、またしても神へと立ち向かう両名に神は鬱陶しいと言わんばかりに不愉快そうな表情を浮かべる。
「ならば、忌々しい精霊共が生み出した八属性魔法。それを私が魔術と変えて、貴様らにぶつけてやろう。まさしく君たちの最期に相応しかろう?」
神は言葉を紡ぎながら、火、水、土、風、雷、氷、光、闇の八つの属性魔法を自らの魔力で再現してみせる。
まさしく神のなせる技であり、それを同時に放つなど常識外れも良いところであった。
しかし、不測の事態が巻き起こった。
神が放った八つの属性魔術。それらは魔王ヒュベルトゥスも薪苗直哉も跡形もなく消し飛ばすほどの威力……であったのだが。
「劫火を解除!すべての属性魔術を滅神剣イシュトイアへ付加ッ!」
恐ろしい展開速度で剣に纏わりつくモノを変更して見せる直哉。
「神のくせに、さっき俺がお前の炎を纏わせたのを見ていなかったのか?」
直哉は挑発しながらも巧みに斬撃を神へと叩きつける。しかし、決め手にかけると判断し、技の解放を決断する。
「“八神斬”ッ!」
“八竜斬”と同質の技を神の魔力と自分の魔力を融合させた究極の斬撃。それは神の魔力障壁をも容易く切り裂き、肉体に届いた。何せ、八つの魔力が融合すれば、その斬撃の威力は六十四倍にも跳ね上がる。
神もその威力には昏倒するほどであったが、自らの魔力で傷を癒やして、耐え切って見せる。
そして、残る魔力で神は自らの剣を練り上げる。素手ではこの二人に勝てないと判断したのだが、その判断は勝つためには遅すぎるくらいだった。
だが、神は知っている。直哉の命が燃え尽きるのは残り5分だということを。つまり、それまで防御に徹すれば、魔王ヒュベルトゥス共々神敵を葬り去ることは容易い。
直哉も魔王ヒュベルトゥスも神が防戦一方なことを訝しみながらも果敢に攻撃を仕掛けていく。
その時の直哉の頭は必死だった。攻撃を仕掛けて来ない間に逆転の一手を打つ。それをもって、神を滅ぼす。それしか、守るべきものを守る方法はない。
そんな時、直哉はふと死んだ父・ジェラルドのことが脳裏に浮かんだ。なぜ、このタイミングで父を思い出したのか、直哉は脳内から父の姿を振り払おうとした。
しかし、それが逆転の一手であると直哉は振り払うのをやめた。
次の瞬間には、神の剣によって魔王共々、直哉は薙ぎ払われていた。
力なく地面を跳ねる直哉の姿に魔王ヒュベルトゥスの瞳は動揺に揺れる。そして、神は笑った。
この場にいる誰もが、直哉が限界を迎えたと思っていた。だが、それは違う。
突如、直哉の体が体の周りに灰色のオーラを纏って立ち上がる。その姿からは新たな生命が誕生したかのような息吹が感じられた。そして、魔王も神も理解した。
直哉の体内にある魔力が生命エネルギーに転化されているということに。
「まさか、“練気術”とはな……」
魔王は独り言ちる。そう、直哉の父ジェラルドがここぞという時に使う生命エネルギーを高めることで、身体強化魔法に近い効果を得る代物である。
その新たな息吹を纏う直哉の目は死を覚悟した物の目をしていた。魔力も生命に転化し、それが燃え尽きるまでに神を討つと。そう誓った者の瞳だった。
「魔王、頼みたいことがある」
「ほう、余に頼みたいこととは一体何だ?」
「今、地上に侵攻しようとしている神のしもべである天使を倒して欲しい。地上を守るために、すべて」
気配で天使が動き出したことは直哉は感知していた。それは空間把握能力を持つ魔王とて同じこと。
「フッ、ならば神の始末はそなたに任せる。必ず、始末しろ。だが、余も片付けが終わり次第戻るとしよう」
転移。魔王は天使の元へと向かう。
――そして、神へ直哉は挑戦するべく歩み始めるのだった。
第207話「人と魔。魔と人、そして神。」はいかがでしたか?
紗希とベルナルドの剣士対決は、辛くも紗希の勝利という結果に。
そして、神との戦いはまだまだ続く感じになってましたが、魔王と直哉が二手に分かれてどうなるのか、見守っていてくださいな……!
次回はゲオルグとブランドンの二人との戦いになります!
ーー次回「炎の八眷属」
更新は12/25(土)の20時になりますので、お楽しみに!





