第206話 光の魔人たち
どうも、ヌマサンです!
今回はレティーシャとマルティンの姉弟との戦いになります!
それぞれ洋介と夏海、フィリスとアシュレイがどう立ち向かっていくのか、楽しんでもらえればと思います!
それでは、第206話「光の魔人たち」をお楽しみください!
「退け、オレは貴様らに用はない」
スカートリア王国軍本陣に突如姿を現したマルティンによって、本陣は動揺に包まれていた。
しかし、国王であり王国軍の総司令官であるクリストフの命を単身狙いにくる者がいるなど、誰も考えていなかったために慌てているという方が適切であろう。
そんなマルティンが国王であるクリストフ目がけて踏み込もうとしたタイミングで現れたフィリスとアシュレイの両名によって、マルティンはその場で動きを一時停止させた。
その間に、クリストフは兵士たちに連れられてその場を離れた。すかさず、追撃しようとするマルティンに対して、
「貴様、私たちを前にして逃げ出すのか?腰抜けも良いところだな」
「そうよね、魔人って強いのかと思ってたけど案外弱そうだし」
フィリスとアシュレイが煽るような言葉をかける。これによって、マルティンの足を止めさせることに成功していた。
「フン、わざとオレの足を止めさせ、国王を追わせまいとする作戦だろう?その手には乗らん……と言いたいところだが、オレの魔法ならいくらでも追い付ける。先に貴様らを物言わぬ死体に変えるのも悪くないな」
マルティンは腰に差した短剣を引き抜き、腰を低く落として攻撃態勢に入っていた。無論、フィリスもアシュレイも、それぞれ得物である長剣と片手剣を構えていた。
そして、そこからは短剣と長剣、次に短剣と片手剣といった具合にフィリスとアシュレイによるツーマンセルによる猛攻が開始されたのだった。
そんな激闘は始まった瞬間から激しく火花を散らしていた。そんな高速戦闘はマルティンが遥かな高みにあり、圧倒的な速度でフィリスとアシュレイの両名を圧倒。
その動きの速さと立ち回りの的確さにはフィリスもアシュレイも舌を巻いた。何とも動きも頭の回転も速いのだ。
これまでに戦ってきたどの敵よりも強いと二人は確信していた。とはいえ、フィリスはギケイと一戦交えているために、これくらいの速度には見覚えがあった。その時の経験を活かし、感覚を研ぎ澄ませることでマルティンの攻撃を紙一重のところで対処してのける。
しかし、アシュレイはそう上手くいかず、瞬く間にマルティンの手元から弾き飛ばされてしまった。そんなアシュレイは弱者とみなされ、マルティンの視界から抹消された。
そして、アシュレイが入る間すら与えられずに目の前で息を呑むほどの激闘が繰り広げられていく。
「グッ……!?」
マルティンにパワーもスピードも劣るフィリスは弾き飛ばされた。そんなフィリスにトドメを刺そうと肉薄するマルティン。
彼の持つ短剣は確実にフィリスの喉元を貫かんとするが、それは一枚の盾によって阻まれた。
それは“魔鉄盾”。フィリスの魔法である召喚魔法・魔鉄装により呼び出された盾である。しかし、マルティンが持つ武器はオリハルコン製であったため、一瞬程度の足止めにしかならなかった。
だが、その一瞬こそフィリスが求めていたモノだった。お返しとばかりにマルティンの喉元を貫かんとする長剣。それにはさすがのマルティンもたまらず、地面を蹴って後退した。
「本当に大した強さだ。オレとここまで戦えるとは思いもしなかった」
「褒めてくれているのか?しかし、貴様の方が身体能力の面では私よりも遥かに上だろう」
「確かにそうだ。しかし、貴様の立ち回りや剣捌きと言った類はオレが上回っていることを打ち消すほどのモノだ」
マルティンは敵とは言え、目の前で剣を提げている女騎士に敬意を払った。人間にも強い者が居ることはホルアデス火山で紗希と戦った時に嫌ほど思い知らされたのだ。ゆえに。
「オレは相手が人間であっても、容赦せんぞ!」
マルティンは再度、短剣と共にフィリスへ特攻するが、それを一筋の剣が遮った。アシュレイだ。
「貴様如き、生半可な実力しか持たぬ者がオレの道を阻めるものか!」
そう言って、目の前の片手剣ごと薙ぎ払おうとするも、そう上手くはいかなかった。
武器同士が擦れるような甲高い金属音を立てて、ズレていく。そう、アシュレイが短剣を滑らせて受け流そうとしているのだ。
アシュレイのささやかな抵抗にマルティンはニヤリと口端を吊り上げる。しかし、次の瞬間にはアシュレイの蹴りがマルティンの鳩尾に炸裂していた。
蹴りの威力はマルティンからすれば軽傷で済む程度であったが、予想外の反撃にマルティンはただただ驚くしかなかった。
短剣を滑らせて受け流そうとしている。相手にそう思わせておいて、水面下では蹴りをくらわせるつもりだった。
その事実にマルティンは強い警戒感を抱いた。明らかに戦い慣れている。そう感じる立ち回りであった。
そして、マルティンが思考を巡らせている隙にフィリスによって大上段から長剣が振り下ろされる。その一撃をマルティンは短剣で弾き、間合いを取る。
しかし、それをアシュレイがすかさず追撃し、そこにフィリスが追い付く。それからの息の合ったツーマンセルは確実にマルティンを疲弊させていく。
そうして戦いがもつれる中で、フィリスとアシュレイは短剣による切り傷を負いながらも、それぞれがマルティンにかすり傷を負わせることに成功していた。
「ハァッ!」
フィリスの性格のような鋭い一撃はマルティンの手から短剣を弾き飛ばした。どうすれば、最短距離でマルティンの短剣を弾けるのか、脳内で計算したおかげであった。
「チッ!」
マルティンは舌打ちしながらも、フィリスの鳩尾へ拳をめり込ませる。
フィリスは目にも止まらぬ速さで後方へ吹き飛ばされる。その口からは血を吐いており、宙を舞って地面に叩きつけられる衝撃でさらに血を吐き出した。とはいえ、拳による打撃を受ける前に“魔鉄鎧”を召喚し、身に纏っていたためにダメージは軽減することが出来ていた。
とはいえ、魔鉄の鎧は打ち砕かれたうえに衝撃は鎧の内側にまで貫通してきていたが。
そんなフィリスが実質的に戦闘不能に追いやれたことにマルティンは、「よしっ」とだけ口にし、転じてアシュレイを葬り去ろうとするが、アシュレイの剣から放たれる白き光の刃はマルティンの胴を上下真っ二つに斬り裂いた。
アシュレイは使用したのだ。18年前、魔王ヒュベルトゥスに手傷を負わせた代償魔法を。
使用したアシュレイの瞳は何も映っていなかった。それは、今の一撃が視力を代償としたためであった。
その甲斐あって、マルティンを倒すことには成功したのだった。が、それを目撃したフィリスは限界を迎え、意識を手放したのであった。また、アシュレイも後を追うように地面に崩れ落ちた。
◇
本陣から離れる頃数キロ。レティーシャ率いる悪魔術士一千とシェイド三千、スケルトン六千は五万に上る貴族の私兵と交戦中であった。
そして、その指揮官であるレティーシャが戦うのは洋介と夏海の二人だった。
「夏海姉さん、行くぞ!」
「ええ!」
魔槌アシュタランを提げる洋介が走り出すが、それを星魔槍テミトリアを装備した夏海が追い越していく。
乳白色色の翼を広げ、上空から二人を睥睨していたレティーシャも、夏海を迎え撃つべく急降下した。その手に握られたレイピアは凄まじい速度をもって、夏海を襲う。
そのレイピアは夏海の心臓を貫くかと思われたが、夏海の持つ星魔槍テミトリアの穂先によって鮮やかに受け止められてしまっていた。
この精密な槍捌きにレティーシャは驚愕しながらも、一度夏海から間合いを取った。だが、夏海は逃がさないとばかりに追撃してくる。その後ろにはもちろん、洋介も続いてきている。
夏海から放たれる怒涛の槍撃はレティーシャを追い詰めていくが、軽やかなステップにより、致命傷だけは与えられずに居た。
「“雷霊砲”ッ!」
夏海に追いつけなかった洋介が手から雷による砲撃を発射する。雷の砲撃はレティーシャへ。その前に居た夏海は横へ跳んで回避していたため、無事である。
また、自らは空中に逃れようとしていたレティーシャだったが、夏海の重力魔法により回避が間に合わず直撃を受けてしまった。
……かに見えたが、レティーシャは直前で光の障壁を展開しており、無事であった。
そして、レティーシャの展開した光の障壁と“雷霊砲”が大爆発を引き起こしたタイミングで、夏海が再度猛攻をかける。
夏海の槍捌きは突きの回数が増すごとに磨きがかかり、速度と精密さという相反する二点を同時に引き上げていっていた。
さらに、そこへ洋介が加勢に入ることでさらなる激戦となる。夏海が手を休めたタイミングで洋介が二人の間に割って入り、破壊力において八眷属を凌駕する一撃を振るう。
そして、レティーシャのレイピアによる突きを魔槌アシュタランの柄で受け止め、左右へ受け流す。そのような形でレティーシャの攻撃を防ぎ、隙を突いて一撃一撃が必殺になり得るほどに強力な薙ぎ払いや振り下ろしを放つ。
もはや、レティーシャにとって洋介は脅威となりつつあった。そんな洋介に比べ、夏海の攻撃は速度と精密さは桁違いだったが、一撃の威力に関してはレティーシャに致命傷を与えるモノではないために警戒感が薄まる。
しかし、それこそが夏海と洋介の狙いであり、洋介に注意を向けさせることで夏海の攻撃に対しての警戒感を緩める。その隙に夏海が全力の一撃を放つ。この時すでに、レティーシャは術中に落ちていたのだ。
レティーシャはそうとも知らず、夏海の攻撃よりも洋介の攻撃を防ぐことに重点を置いた立ち回りを見せ、戦い続けていた。
「“雷霊槌”ッ!」
洋介が雷を纏わせた最大火力の一撃を大上段から振り下ろす。その一撃はレティーシャがその場から飛び退いたことで回避されてしまった。
が、次に背後から放たれた一突きはレティーシャの予想を裏切る火力を示したのだった。
「“星突き”ッ!」
夏海渾身の一撃は重力操作でレティーシャの背後に回った刹那に放たれた。レティーシャも瞳を驚愕の色に染めるも、回避が間に合わない。
そして、吸い寄せられるように“星突き”がレティーシャの心臓を背後から貫き、星魔槍テミトリアを伝ってレティーシャの血が夏海の手へと流れてくる。
夏海がレティーシャに脳内で謝った時。レティーシャは前へと進んで、夏海の槍から離れた。
洋介が待ったをかけんと雷の精霊魔法を発動するより早く、レティーシャは残された魔力のすべてを夏海へと解き放った。
「“大白閃”ッ!」
白き閃光は瞬く間に夏海を呑み込み、洋介の視界を白一色に染め上げた。
「ワタクシの任務も、これまででありんすね……」
地面へと仰向けに倒れるレティーシャ。そんな彼女が最後に見た光景は迷わずに愛する人の元へと駆ける男の姿だった。
「夏海姉さん!夏海姉さんッ!」
レティーシャと同様、仰向けに倒れる夏海は左半身を光で焦がされていた。しかし、彼女の左手には魔棍セドウスが握られていた。そんな様子の夏海に洋介は声をかけ続ける。すると、武器を握る左右の手に力が戻り、夏海はゆっくりと目を開けた。
「……洋介?私……」
「夏海姉さん、今攻撃を受けて……」
「ええ、覚えてるわ。スゴイ、一撃だった……」
夏海は説明する。レティーシャの“大白閃”が直撃する寸前、反射的に触れた魔法を弾き返す効果のある魔棍セドウスで左へと弾いたこと。使用したのがギリギリだったため、左半身は光で焼かれてしまったこと。それを洋介は静かに頷きながら、聞き続けた。
夏海はそれからゆっくりと体を起こし、レティーシャの方を見やる。そして、最後の最後で意地を見せたレティーシャに対して、一礼。
「夏海姉さん、本当に守ってやれなくて悪かった……っ!」
「ちょっと、洋介!?何もそんなに泣かなくても……!」
夏海を見ながらボロボロと涙をこぼす洋介に対して、慌てた様子で洋介の涙を指先で拭う夏海。その二人の空間には何物も立ち入ることを許さない何かがあった。
「……二人からは愛を感じるでありんす」
心臓を貫かれたはずのレティーシャが起き上がり、洋介と夏海を見下ろしていた。それに対し、洋介は夏海をとっさに抱き寄せ、抱き寄せられた夏海は顔を真っ赤にしていた。
「もうワタクシには戦えるだけの力は残ってないでありんす」
レティーシャは言外に武器を握る洋介にその手を武器から離すように言っていた。それを察した夏海が洋介の手を魔槌アシュタランから外す。
「まさか、魔棍セドウスで弾かれるとは思わなかったでありんすけど、傷は負わせられたみたいでありんすね」
「ええ、レティーシャの魔法の威力が強すぎたこともあって、完全には弾けなかったわ」
夏海はフッとこぼれるような笑みを浮かべる。レティーシャも目を閉じ、口角を上げて笑う。
「二人は強い。ワタクシも魔王様のためにまだまだ戦いたいところでありんすが……」
――もう無理である。
レティーシャはそう言葉を付け足した。それと同時に、残された魔力で夏海と洋介の傷を癒やした。
「なんで俺たちの傷を……」
「二人の愛に免じるだけでありんす。ワタクシは魔王軍に入るまでは、弟共々、神に付き従う天使であったでありんす」
天使という言葉に洋介と夏海は目を見開き、最大限の驚きを示した。そして、レティーシャはマルティンと共に魔王軍に入った経緯から歴代の魔王への恩義などを語った。
「二人に話したら、スッキリしたでありんす。これで心置きなく逝けるでありんすね」
レティーシャは力なく、地面へ腰を下ろし、二人に微笑んでから眠るように息を引き取った。
洋介と夏海はレティーシャの亡骸を目立たないように近くの丘の頂上にある一本の木の下に安置したのだった。
「……夏海姉さん、行こうぜ」
「……ええ、戦いはまだ終わってないものね!」
洋介と夏海は再び走り出す。丘の麓では貴族の私兵が悪魔術士やシェイド、スケルトンといったレティーシャ配下の魔物と交戦中。
それを助けるべく、二人は全快の状態で丘を駆け下り、戦場へと舞い戻るのだった。
第206話「光の魔人たち」はいかがでしたか?
今回はマルティンとレティーシャの姉弟がそれぞれ敗北する形になったわけですが、マルティン相手に代償魔法を使ったアシュレイのその後にも注目していてもらえればと思います……!
また、魔棍セドウスもレティーシャとの戦いでようやく役に立ってましたが、危うく登場させるのを忘れていたのはここだけの話です(笑)
それはさておき、次回はベルナルドとの戦いが前半、後半は神との戦いの続きになります!
――次回「人と魔。魔と人、そして神。」
更新は12/22(水)の20時になりますので、お楽しみに!





