第203話 土の魔人たち
どうも、ヌマサンです!
今回はウラジミールとカトリオナとの戦いになります!
それぞれ、バーナードとロベルト、シャロンが対峙するわけですが、戦いがどうなるのかを見守ってもらえればと思います……!
それでは、第203話「土の魔人たち」をお楽しみください!
「グオオオオッ―――!?」
毒の奔流に呑まれていくヴィゴールの姿。そんな魔王軍八眷属の一人であった男の最期はあっけなく、配下のウラジミールとカトリオナは愕然とするのみであった。
しかし、それでも戦うことを止めず、再び武器を手にそれぞれが対峙する敵へと向かっていく。
「ハァッ!」
カトリオナはサーベルを手に煌めかせ、怒涛の斬撃を目の前のバーナードへと浴びせる。その剣にはやり場のない怒りと憎悪が籠められているのは、一太刀剣を交わせば、バーナードにはすぐに分かってしまった。
しかし、バーナードには今のカトリオナ相手に手心を加えていられるような余裕はなかった。一瞬でも隙を見せれば、そこを突かれてバーナードは殺される。
それを自分自身、よく理解しているためにバーナードは冷静に防御に徹した。そして、ヴィゴールが戦死する前に交わした剣筋と今の剣筋。双方を観察し、違いが無いかを順を追って確認していく。
そして、バーナードは気づいた。先ほどまでの戦いを楽しむ戦闘狂の剣ではないことを。
前に戦った時もカトリオナは心底戦いを楽しんでおり、命の駆け引きを何よりも好んでいる戦闘狂であった。
しかし、今はそんな余裕が一切感じられない。つまり、カトリオナらしい剣捌きではなくなっているということであった。
そして、そんな余裕がなく、駆け引きのない単純な斬撃にバーナードの心から遠慮と共に恐怖が消し去られた。
「ラァッ!」
鈍色の斬閃を引いて撃ちだされるサーベル。それをカトリオナは力を籠めたサーベルで受け止める。その激突の威力は凄まじく、猛々しい怒りが剣を介してバーナードに届いた。
しかし、バーナードは力の向きを変え、往なした。これにより、バランスを崩したカトリオナへバーナードから蹴りが鳩尾へ吸い込まれるように直撃する。
カトリオナはバーナードのミレーヌ仕込みの蹴りを受け、後方へ軽く飛ばされ、地面に片膝をついた。
そんな彼女の周囲に数十に及ぶ煌めきが舞う。それが何なのか、カトリオナは頭でも感覚でも理解するのが間に合わなかった。
「“爆ぜろ”ッ!」
カトリオナの周囲の煌めきが爆ぜ、カトリオナが身に纏う部分鎧が瞬く間に金属の破片と化した。
その破片が飛び散る中、カトリオナは再びサーベルを握る力を籠め、気配の感じた前方へ横薙ぎを放った。その直後、激しい金属音が響き、カトリオナは確かな手ごたえを感じていた。
そこからカトリオナは触れたサーベルを力任せに薙ぎ払う。そして、隙ができたであろう箇所に鋭い突きを見舞う。
しかし、これは往なされるように金属同士の摩擦音と共に、火花が散ったため、瞬時に失敗を悟り、サーベルを手元へ引き戻した。
「ウラァッ!」
刹那、大上段から振り下ろされるサーベルを寝かせ、両手で受け止める。それを受け流し、真正面へ前蹴りを打ち込む。
だが、それはバーナードの左腕の義手によって受け止められ、豪快に薙ぎ払われた。
その後、互いに間を開けて睨み合う両者。カトリオナは先ほどまで囚われていた憎悪と怒りの感情を完全に制御し、普段のように隙のない構えを取っていた。
この時、カトリオナを仕留めきれなかったことをバーナードは内心悔やんではいたが、くよくよしている時間など無かった。
たちまち肉薄してきたカトリオナの鋭い剣閃を受け止めては弾き返す。もしくは往なす。そのように捌くことに神経を研ぎ澄ませる必要があったからだ。
そして、カトリオナの持つオリハルコン製のサーベルは土を纏っていた。そう、カトリオナの魔法である土属性の魔法剣である。
それに対し、バーナードはカトリオナ同様オリハルコン製のサーベルを扱っていた。しかし、それは鍛冶師でもあるロベルトが制作したサーベルであり、切れ味も抜群。
とはいえ、武器の素材は同じオリハルコンであるため、後は武器を作った鍛冶師の腕前が出る。そして、この戦いは剣が折れた方が負けに等しい。
もはや、武器を相手より壊れる一秒が明暗を分ける戦いである。それはバーナードとて分かってはいる。だが、魔法剣で剣の切れ味を増しているカトリオナの斬撃にバーナードのサーベルがどれほど耐えられるのかがイマイチ計りかねる部分であった。
しかし、バーナードがそんなことを気にしている間にカトリオナは肉薄し、立て続けに斬撃を見舞う。バーナードは反射的に第一撃を伏せて回避。第二撃はサーベルに負担のかからないよう、力加減を考えて受け流した。
その時点でバーナードは悟った。守りに入るのは死への最短ルートであるということを。
「ハァッ!」
「フンッ!」
互いの全力の斬撃が交差する。それは火花を散らし、余りの一撃の威力にぶつかった刀身は双方ともに振動していた。
そこから、両者の咆哮と共に再三に渡って交差する二振りの剣。それはぶつかるたびに火花を散らし、まさに戦場に相応しい輪舞曲を奏でていた。
「“砂刃”!」
カトリオナの刀身に纏われる土から砂の刃が形成される。
「“爆ぜろ”ッ!」
それが放たれる寸前、カトリオナの四方を囲むように地面が爆ぜる。目くらましの用途で爆裂魔法が使われるなどとは、夢にも思わなかったカトリオナだったが、気配の導くままに砂の刃を解き放つ。二十に及ぶ砂の刃は砂煙を切り裂き進んでいく。
しかし、命中したことで上がる悲鳴は何も聞こえなかった。確かに、気配のする方に放ったはずだとカトリオナは辺りを見回す。彼女は焦っていた。
直後、タンッと地面を踏み込む音が“砂刃”を撃ち込んだ方から聞こえた。慌ててその方を振り向くと、サーベルを振りかぶるバーナードの姿があった。
その姿はあちこちを斬られ、出血していた。そう、“砂刃”は確かに命中していたのだ。ただ、それでも悲鳴を上げずに静かに機を窺っていただけだったのだ。
してやられた!と思った時には手遅れであった。カトリオナがサーベルで防御しようとした時には袈裟斬りによって、左肩から右わき腹までを切り裂かれていたからだ。
「クッ!?」
遠心力に任せて横薙ぎに振るったサーベルはバーナードに一歩後ろへ下がられたことで、間合いに入らず、空振りに終わった。
そこへ、地面を砕くほどの勢いで地面を蹴ったバーナードが左の拳をカトリオナの顔面に叩き込む。力強い踏み込みによって、勢いを得た金属製の義手での一撃はすさまじい破壊力を誇った。
カトリオナの鼻をへし折り、後方へ数メートル吹き飛ばしたのだから。
そんなカトリオナが地面に二つの平行した線を引いてやっと止まった時。
「“極大爆発”!」
バーナードが全魔力を込めて放つ最大の爆裂魔法。突きあがる劫火と肌を焼き焦がすかの如き熱風が辺りに吹き荒れる。
「ぐあああああああああッ!?」
カトリオナがいかに魔人とはいえ、この破壊力の前では無力であった。瞬く間に高熱によって身を焦がされ、皮膚がドロドロに溶けていく。そして、何より爆発の威力でサーベルも砕け、自らの体もバラバラになっていく。
――こうして、勝敗は決まった。
バーナードは爆炎が消えるまでを見終えた後、休むことなくオークと戦うシルビアたちの応援に向かうのだった。
――その頃、残るウラジミールはロベルトとシャロンの両名を相手取って、戦いを繰り広げていた。
「カトリオナもやられたか」
離れた地点で爆炎が天へと上る中、カトリオナの断末魔を聞き、その死を確信するウラジミール。上司であるヴィゴールに続き、同僚のカトリオナも死亡。
もはや、ヴィゴール配下の将軍は己のみだと悟る。そして、自分が生き残り、ヴィゴールや仲間たちの遺志を受け継ぎ、魔王のために剣を振るうのだと決意を固める。
そして、これまで対人戦では使用することのなかった魔法を発動させる。魔人は一人一人が魔物とは違い、魔法を行使することが出来る。それをウラジミールはようやく解放することを決意する。
「出でよ。“岩虎”」
ウラジミールが右手を突き出すと、その先の魔法陣から岩でできた虎が爪を振り上げ、目の前のロベルトを襲う。
「ぬらぁっ!」
しかし、ロベルトの大戦斧の前に岩の虎は粉々に打ち砕かれる。ロベルトからしてみれば、思っていたよりウラジミールの魔法が大したことがないことに安堵を覚えていた。とはいえ、隣にいるシャロンは警戒を緩めなかった。
「“岩蛇”!」
「何じゃと!?」
「何だって!?」
ロベルトとシャロン、二人が驚くのも無理はなかった。ウラジミールが魔法陣から召喚したのは岩蛇五体。それは、八眷属であるヴィゴールがローカラトに攻めてきた時に使っていた技であった。
さすがに数はヴィゴールの半数であるものの、対戦相手の度肝を抜くには充分であった。
岩蛇五体はロベルトとシャロンへと襲い掛かる。ロベルトが一体を大戦斧で両断しようとすれば、側面から別の岩蛇が突撃し、ロベルトを吹き飛ばした。そして、その先に居た岩蛇の尾がロベルトを地面に叩きつける。そんな三体の連携攻撃にロベルトは目を見張った。
そして、シャロンへと襲い掛かる岩蛇二体に対して、シャロンは攻撃が直撃すればマズいことを理解し、回避に専念した。
そんな岩蛇からの攻撃をかいくぐり、ロベルトとシャロンは合流する。
「シャロン!さすがにこれは厄介じゃのぅ……!」
「そうさねぇ……。でも、アタシらが負けるわけにはいかないよ!」
ロベルトもシャロンもそう言って心意気を新たに岩蛇へと向かっていく。それをウラジミールが岩蛇を操りながら見守っていた。
シャロンは懐から取り出した投擲ナイフ二本を真っ直ぐに岩蛇二体へ放つ。的確に岩蛇の目へと撃ち込まれたそれは大爆発を引き起こし、岩蛇の頭部を吹き飛ばした。それによって、岩蛇は行動不能となり、崩れ落ちた。
対して、ロベルトは一体の岩蛇の突貫を大戦斧を地面に突き立てた後で受け止めた。
「どぉりゃあっ!」
そのまま左へと薙ぎ、左から迫りくる岩蛇へと叩きつけた。そして、右から迫りくる一体に対して、大戦斧で縦断。
そこから地面に転倒している岩蛇二体をまとめて切断し、片をつけた。
息の上がるロベルトとシャロンに対し、呼吸を整っているウラジミール。この時、戦闘経験の多い二人は確信した。先ほどウラジミールが魔法を使ったのは、自分たちのペースを乱すためだったのだと。
岩蛇への指示は出しつつも、体はしっかりと休めていた。つまり、ロベルトとシャロンが岩蛇を倒すことは織り込み済みであり、その先を見据えていたということになる。
そのことにロベルトもシャロンも警戒感を露わにしていた。万全の状態で向かってくる魔人ウラジミール。それがどれほどの強さなのか、想像もつかない。
ドンッ!と地面を踏みつぶすような足音がしたかと思えば、砲弾のように突撃してくる一つの影。反射的に左右に回避するロベルトとシャロン。
両名が左右に飛ぶ前の位置。そこには振り下ろされた大剣の一撃があった。
ウラジミールは左にいるシャロンとの間合いを零にする。近接戦闘が得意な戦士タイプのロベルトよりも、遠距離からの後方支援を得意とするシャロンを狙ったのだ。
手にする銀の光沢を放つ大剣をフルスイングする。シャロンは投擲用ではない、近接戦闘用の短剣でそれを受け止める。
だが、シャロンは剛腕による一撃に耐えることはできず、横方向へ吹き飛ばされた。そんな彼女は受け身を取ることもままならず、背骨から地面へと叩きつけられた。
ウラジミールの大剣を真正面から受け止めたシャロンの短剣は柄だけが形を保っていた。十年近く愛用していた短剣だったが、とうとう寿命を迎えたらしかった。
ウラジミールはシャロンが起き上がって来ないところを見て、しばらくは大丈夫そうだと判断し、ロベルトの方へと舵を切った。
シャロンが一撃で戦闘不能になり、仰向けで力なく倒れている様にロベルトは驚愕に目を見開いていた。いかに、相手が魔人とはいえ、シャロンの実力であれば一撃で倒されることはない。
そう考えていたロベルトは自分の見積もりの甘さを悔いた。しかし、今目の前にある大剣の使い手を無視していられるほど、今は時間があるわけではない。
振り下ろされる大剣とそれを真正面から受ける大戦斧は激しく火花を散らす。そして、力に勝るロベルトが一際力を籠めて押し返した。
ウラジミールは押し返された大剣で、角度を変えての斬撃を繰り出す。これは大戦斧の柄で受け止められてしまう。
その後も大剣と大戦斧という重量のある武器が何度も金属音を打ち鳴らし、戦いは続けられていった。
そして、何度目かの武器の衝突において、大戦斧が大剣を打ち砕いた。その光景にウラジミールの瞳に動揺の色が表れる。
「ぬらぁっ!」
ロベルト渾身の大戦斧での横一閃はウラジミールの腹部を鎧ごと切り裂き、深手を与えることに成功した。
さらに、その傷目がけて一直線に飛来した短剣が鈍い音を立てて突き立つ。その短剣はウラジミールの腹部に突き立つなり、放電。
雷がウラジミールの体内へ直接流し込まれ、大ダメージとなった。そんな雷魔法が付与された短剣を的確に投擲したのはシャロンである。
体中から焦げ茶色の煙を吹き出すウラジミールは、ドスッと片膝をついた。その時点でダメージのほどはうかがい知れるが、容赦なくロベルトが大戦斧でウラジミールの首を刎ね、決着した。
「“旋風斬”ッ!」
「“酸拳”!」
「“氷矢”!」
「“炎霊斬”!」
その後、シルビアやデレク、マリー、ピーターたち冒険者たちの活躍によって二千ものオークが全滅させられたことで、ヴィゴールが率いてきた部隊は壊滅したのだった。
第203話「土の魔人たち」はいかがでしたか?
今回でヴィゴールに続き、カトリオナとウラジミールの二人も死亡したわけですが、バーナードとロベルト、シャロンのどちらも辛くも勝利という感じでした。
そして、次回はディアナとアーシャとの戦いに場面が移っていきます!
――次回「風の魔人たち」
更新は12/13(月)の20時になりますので、お楽しみに!





