第202話 人類の抵抗
どうも、ヌマサンです!
今回は神との戦いではなく、ベレイア平原での戦いになります!
直哉が魔王城に空間転移した後に、どうなったのかを見ていってもらえればと思います……!
それでは、第202話「人類の抵抗」をお楽しみください!
人と竜が魔と戦う。そんな激闘が繰り広げられている。
八眷属のヴィゴールと竜の国の姫であるラモーナが戦い、その付近では将軍であるウラジミールがロベルトとシャロンの二人と戦い、同じく将軍のカトリオナがバーナードと剣を交わす。
その周囲に残るオーク二千の大軍と戦うのは、シルビアとデレク、マリー、ピーターといったバーナードに長年付き従ってきた者たち。それ以外にもローカラトに集まった冒険者数百名を中心とする戦力が動員されていた。
同じく八眷属であるディアナが戦うのは、ラモーナの騎士であるラターシャ。槍使い同士の戦いは純粋な槍術の技量が左右していた。
そして、ディアナ配下の将軍であるアーシャはミレーヌとラウラの二人と交戦し、アーシャ率いる五千体のハーピィと戦うのはミレーヌとラウラの二人に同行していたディーンとエレナ。そこにアラン率いる王国水軍八千が加わり、激戦が繰り広げられていた。
同刻、ザウルベックはクラレンスと対峙していた。これはザルモトル雪原での戦いの再戦という意味合いが大きかった。
無論、その周囲ではクラレンスに付き従うライオネル、エレノア、レベッカ、マルケル、イリナといった親衛隊メンバーがダイアウルフやドラゴンタートル、トロールといった同じくザルモトル雪原で戦った魔物一万を相手に戦闘を開始していた。親衛隊メンバーからのアドアイスなどを受けつつ、協力して精鋭揃いである王国騎士団三千六百が、的確に魔物の弱点を突いて撃破していく。
さらに、そこから数キロメートル離れた地点では、レティーシャが指揮する軍と貴族たちの私兵五万が真正面から衝突し、乱戦模様を展開していた。そして、八眷属であるレティーシャ本人には洋介と夏海のコンビが戦いを挑んでいた。
レティーシャの指揮下にある悪魔術士一千とシェイド三千、スケルトン六千という構成の軍勢は数的には貴族の私兵五万に比べれば、数で劣るが、個々の戦闘能力が高いため、五倍近い兵力差であっても互角以上の戦いとなっていた。
レティーシャたちの部隊が戦闘を繰り広げている地点から、少し離れた地点では配下がディエゴのブレスで全滅したベルナルドと、紗希が剣一本で対峙していた。双方が剣士であるため、激戦が予想されたが、互いに動くことなく睨み合う状況が続いていた。
そんな緊迫感に満ちた二人の脇では、ゲオルグ率いる魔王軍一万が勢いそのままに進軍し、それを食い止めようとする王国軍と戦闘となっていた。そんな王国軍はシルヴァン配下の私兵千五百と王国東部に駐屯している王国軍一万八千、そこにギンワンたちテクシスの冒険者が数十名加わった約二万。
大将であるゲオルグと一騎打ちをしているのは寛之。その隣ではゲオルグ配下の三将軍が軍を指揮していたが、そこに実力者が攻撃を仕掛ける。ブランドンの相手をギンワンとミズハの二人が務め、クリスタの相手をユーリと偶然彼に同行していたセーラ。残るサンドラの相手をヒサメとビャクヤ、アカネの三人が受け持った。
それぞれの実力者に実力者がぶつかり、残されたミノタウロス五千とキマイラ五千がシルヴァンの指揮する王国軍の兵士とぶつかった。
そんなゲオルグの部隊が食い止められていることを嘲笑いながら、カーティスはオーガ三千とリビングアーマー七千を率いて進軍を開始し、その際にはゲオルグたちを迂回するようなコースを進んでいった。
しかし、その行動はすでに読まれており、ローカラトを始めとする王国南部に駐屯している王国軍二万が伏兵を配置しており、カーティスは先制攻撃を受ける羽目になった。それに激昂するカーティスに呉宮姉妹が戦いを挑むことで、本格的に戦端が開かれた。
残る八眷属はユメシュのみとなるが、彼が率いるホムンクルス九千とゴーレム一千にはレイモンド、フェリシア、ランベルト、シルヴェスターの四人と彼らがかき集めてきた王国北部と西部の兵士八万四千が投入され、圧倒的な数でユメシュが追い込まれる形となっていた。
こうして、べレイア平原にて大激戦が繰り広げられ、各所で一進一退の攻防が続く中、国王であり王国軍の総司令官を務めるクリストフの前にマルティンが姿を現した。
まさか戦場を突っ切って敵方が総司令官を暗殺しに来るとは思わなかったため、クリストフの周りには元々ローカラトに駐屯していた一千の兵しか残されていない。
しかし、マルティンが一歩前に踏み出したタイミングで駆けつけたフィリスとアシュレイの二人が斬撃で行く手を遮ったため、クリストフは命拾いした。
十八万を超えるスカートリア王国軍と八万もの数に上る魔王軍。敵味方併せて二十六万という数であり、さながら天下分け目の戦いであった。
◇
レイピアによる突きを大戦斧が甲高い金属音と共に受け止める。そして、次の瞬間にはレイピアを薙ぎ払い、大地を砕くほどの威力をもって大戦斧が振り下ろされる。
そんな凄まじい縦断の一撃をラモーナは反射的に飛び退くことで回避する。しかし、ヴィゴールはラモーナを逃がすことはなかった。
「……“岩蛇”!」
ヴィゴールが地面に手を当てて叫ぶと岩蛇が地中から10体出現する。
ヴィゴールの意思を理解しているかのように、岩蛇たちは阿吽の呼吸で間合いを離れるラモーナへと突撃していく。
そんな岩蛇による高速の突撃はラモーナにとっては厄介極まりないものであった。とにかく、ラモーナに反撃の隙を与えないように一秒という時も与えず、右から左へ代わる代わる岩蛇たちが猛攻を仕掛ける。
ラモーナは立て続けに襲い来る岩蛇をギリギリのところで回避しつつ、どうすればいいかという思考を巡らせていた。その時の表情はいつもの明るく何も考えてなさそうなモノとは違い、真面目であったために真剣度合いが窺えるというモノだ。
そして、岩蛇を蹴って宙に舞う一瞬。ラモーナは大きく息を吸い、吐き出した。それは紫色の竜巻となり、地面から離れられない岩蛇たちをまとめて消し飛ばす。
「どう?ゴルゴル?私だってそこそこ強いんだからね♪」
「フッ、ソノ程度竜ノ力ヲ持ッテイルノナラ出来テ当然ダ。調子ニ乗ルナ」
ラモーナが自分の実力を誇らしげに語る様子を見て、ヴィゴールはそれくらいの芸当が出来なければ話にならないとばかりにラモーナ以上の毒を吐く。
その言葉にラモーナは不満げにぷく~っと頬を膨らませる。だが、ヴィゴールは何とも思っていない様子で戦闘に意識を戻した。
「降リ注ゲ、“ミレイティオン”!」
ヴィゴールの叫びに呼応するように暗雲の中から姿を現すのは隕石と呼べばしっくりくる黄土色のごつごつした球体であった。余りの大きさにラモーナは言葉を失う。
しかし、そんな“ミレイティオン”が今ここに落下すれば、付近にいる者は敵味方関係なく、全滅させられるのは間違いない。
それだけは避けなければならないと、ラモーナは意気込み竜の力を高める。そして、落下してくる黄土色の隕石へ毒竜のブレスを叩きつける。
最初は隕石の重量に押されていたが、ラモーナのブレスは次第に威力を増していき、隕石を打ち砕いた。
「うぐっ!?」
だが、その直後。突如として眼前に現れた大戦斧によって、ラモーナは口から血を吐き出しながら後方へ吹き飛ばされてしまった。とはいえ、薙ぎ払われる直前に少しだけ後方に飛んでいたことで威力そのものは軽減されてはいた。
それでも、余りの威力に何度も地面を跳ねるラモーナ。それをしてやったりと微笑むヴィゴール。
「まさか……今のは囮……?」
呼吸を整えながら、ラモーナは自分の考えを述べる。それが正解なのは首を縦に振っているヴィゴールの様子からして明らかであった。
普通、あれほどの大技が来れば、それを囮だとは思わない。その心理をヴィゴールは上手く突いたのだ。しかし、そこでラモーナを仕留めそこなったのは致命的なミスだったが。
「“地ヨ砕ケロ”!」
ヴィゴールはそれが致命的なミスであることは理解しつつも、仕留めそこなったことの後悔に囚われる前に次の攻撃を放った。
その魔法によって、大地を隆起させたり、沈下させたりと振り動かされたことでラモーナの居た場所は文字通り崩壊してしまっていた。
そんなデコボコになった大地を素早く移動してくるヴィゴール。余りの速度での肉薄にラモーナは後手に回ってしまう。
とても大戦斧という重量のある武器を振るっているとは思えない高速の斬撃が立て続けに見舞われ、ラモーナは回避するのが精一杯。ならば、防御すればいいという結論に達しそうなものだが、レイピアで防御すれば一撃でレイピアが切断されてしまう。
それは、レイピアという武器の構造上やむを得ないこと。ゆえに、ラモーナは防御を捨てて回避という選択肢を取っている。
だが、大気を抉り取っていくような一撃一撃にラモーナは回避するだけでもダメージを負っていく。
それゆえに、長期戦に持ち込まれればラモーナはローカラトの町での対戦と同様、敗北するのが目に見えていた。
至近距離から毒竜のブレスを浴びせれば、ヴィゴールを毒に侵すことが出来るが、以前はそれを防がれていることはラモーナはしっかり記憶していた。
二度も同じ過ちをすれば、いかに竜の力で肉体の強度が上がっているとはいえ、今度こそ確実に斬り殺される。それをラモーナの五感が告げていた。
刹那、ドゴッと金属と硬度のあるモノ同士がぶつかる音が響く。
「何ッ!?」
それはヴィゴールの大戦斧がラモーナの左腕で受け止められた音であった。ラモーナの左腕からは鱗を切り裂かれたことで血が滴り落ちていく。しかし、彼女が右手に持つレイピアはヴィゴールが首に身に付けている装飾品を貫き、破壊していた。
「前に言ってた……でしょ?『我々八眷属ニハ状態異常ヲ無効化スル装飾品ヲ身ニ付ケテイルノダ』って」
あえてヴィゴールの口調に似せて言われたことを復唱するラモーナ。前の戦いで、ラモーナを侮り、自分の手の内を晒したツケが今、回ってきたのだ。
そして、ラモーナは口からゼロ距離で毒のブレスをヴィゴールに浴びせた。
「グオオオオッ―――!?」
毒の奔流に呑まれ、ヴィゴールはたまらず悲鳴を上げる。すでに体内に取り込んでしまった毒は肺や気管支などからヴィゴールの体を蝕んでいく。
その毒竜のブレスの破壊力たるや、恐るべきものであった。以前は、装飾品のおかげでラモーナの隙を突き勝利できたのだということをヴィゴールは理解したが、もう遅かった。
「「ヴィゴール様!?」」
部下たちの声が耳に届く。しかし、断末魔の叫びをあげる前に喉が潰れ、体の内側から強靭な肉体が崩壊し、ブレスの中でヴィゴールは消滅した。
――ヴィゴールの死。
八眷属であるヴィゴールが竜の国の姫であるラモーナによって倒されたことで、現在ヴィゴールの部隊と交戦している冒険者たちは勝利の光明が見えたと歓喜した。
すでに彼の指揮下にあるオークの半数近くは冒険者たちが犠牲を払いながらも撃破していた。
そして、ウラジミールとカトリオナは余りのショックに膝から地面に崩れ落ちる。
その様子に、ロベルトとシャロン、バーナードの3人は攻撃することを躊躇した。
しかし、次の瞬間にはカトリオナは血走った眼でバーナードへと怒りの斬撃を浴びせ、ウラジミールもよろりと立ち上がるなり、ロベルトとシャロンへと突貫していく。
「ゴルゴル……ごめんね」
こうするしかなかったことに罪悪感をにじませるラモーナ。まだまだ、戦いは終わらない。
そんな中で、ヴィゴールに勝利したラモーナは戦場の真ん中でうつ伏せに倒れ、意識を失った。
第202話「人類の抵抗」はいかがでしたか?
今回はラモーナとヴィゴールが戦って、ラモーナがリベンジを果たすところで終わったわけですが、ここでヴィゴールは退場ということになります……
次回はヴィゴールの戦死した後のウラジミールとカトリオナの戦いになります!
――次回「土の魔人たち」
更新は12/10(金)の20時になりますので、お楽しみに!





