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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
最終章 人魔決戦編
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第201話 神の招待

どうも、ヌマサンです!

今回は直哉と魔王ヒュベルトゥスが戦っているタイミングで、ある人物が現れます!

とはいえ、タイトルでネタバレしている感じですけどね(笑)

それでは、第201話「神の招待」をお楽しみください!

「クラウディア、余は勝手なことをするなと言ったはずだが」


「そうだけど、私はお兄ちゃんが傷つくのはもう見たくない……!だって、たった一人の家族だから!」


 クラウディアの手から長剣が滑り落ちる。その剣を握っていた手で目元を覆い隠し、泣き崩れてしまった。それを魔王も片膝ついてクラウディアの背中をさすっていた。


 直哉はそんな光景を見せられてしまっては、先ほどまで昂っていた戦意もどこかへ失せてしまった。直哉は剣を下ろし、解放していたすべての力も解除した。


「……薪苗直哉よ。余に攻撃を仕掛けて来ないのか?余を討つには絶好の機会ではないか」


「俺に、そんなことは出来ない。そうやって、妹と接している姿を見せられたら戦う気も無くなる」


 直哉は力なく笑った。直哉は考えてしまったのだ。魔王を討伐した後にクラウディアがどんな気持ちになるかを。


 家族を失った痛みは消えるモノではない。ましてや、目の前で殺された凄絶な光景は色褪せることなど断じてない。


 それにもし、ここで魔王を殺せばクラウディアは一生をかけて復讐に時を費やすだろうことは明白であった。


 そのことを直哉は察した。魔王を殺せば、その妹の人生を狂わせることになると。だが、そこには自らが復讐の対象になるのが嫌だという気持ちも心なしか含まれていた。


 直哉はしばらく、魔王と妹が話をしているのを静観した。いや、静観することしか出来なかったと言った方が正しかった。


 そして、話が付いたのか、妹のクラウディアがスッと立ち上がった。そんな妹に魔王は右手を向け、魔術を発動させた。


 クラウディアの姿は一瞬にして消え、魔術の痕跡だけが残っていた。


「魔王!」


「落ち着け、薪苗直哉。余は妹を部屋に空間転移させただけよ。もう、ここに留めておく必要はないからな」


 魔王がクラウディアを殺したように見えてしまった直哉だったが、自分の勘違いだったことにホッと胸を撫で下ろした。


「さて、今一度戦いを始めようか」


「ああ、そうだな」


 双方は改めて武器を構える。が、そこに桁違いの殺気が注がれ、両者は弾かれるように間合いを取った。


 刹那、白い光の柱が顕現した。それは魔王城の天井を破り、天と地上を繋ぐエレベーターのようであった。


「やあ、君たち。楽しそうにしているねぇ」


 光の中から姿を現したのは杖を持つ一人の男。腰まで届くほどの白髪を揺らしながら、玉座の間に立っている。


 直哉は誰なのか分からないため、剣を構えるべきかためらっていたが、魔王は迷うことなく剣の構えを解くことはなかった。


「お前は一体、何者だ?」


 頭の中で考えても導き出せそうにないため、直哉はバカ正直に目の前の男に問いかける。


 男はニコリと笑みを浮かべた後、こう答えた。「私は神だよ」と。


 直哉は本当に目の前にいる男が神であるのかを計りかねていたが、魔王が真剣な表情で大剣を構えているのを見て、本当なのだと理解した。


 そんな男が身に纏う魔力は桁違いに多く、直哉と魔王の魔力を足してもまだ届かないほどの魔力量であった。


「魔王ヒュベルトゥス。君は私を討伐しようとしていたんだってね。ずっと見ていたよ。正直、来るのを待っていようかと思ってたんだけど、待ちくたびれたのでね。私の方から出向いて来たというわけさ」


 神を名乗る男は淡々と話し続けている。魔王はそんな神に警戒の眼差しを向けるのみであった。


「それで、君が竜王の娘とジェラルドの子……薪苗直哉だね?君のことも知っているよ」


 神は笑いながら直哉の方へと向き直る。そんな神に直哉はさすがに警戒感を露わにした。


「おやおや、随分と警戒されてしまっているみたいだねぇ。でも、まだ君たちと戦うつもりはないよ」


 直哉も魔王もその言葉に安心することなく、構えを解くことはなかった。それもそのはず、神だという要素を除けば、赤の他人である。そんな赤の他人の言うことをすんなりと信じられるはずがない。


「だいぶ、空気も殺伐しているねぇ。とりあえず、場所を移そうか」


 神が両手を広げ、天へと手のひらを向けた。その行動に魔王が攻撃だと断定し、斬りかかった。


 しかし、次の瞬間には魔王が放つ斬閃は空を斬ったのみに終わった。


 さらに、風景も魔王城の玉座の間ではなく、一面真っ白な世界であった。真っ白い海の上に立っているような感覚を覚えながら、直哉も魔王も武器を片手に周囲への警戒を怠らなかった。


「さて、お三方を我が神域に招待したところで、本題に入らせてもらうよ」


 神は魔王と直哉の二人が一息で間合いを詰められる距離ではありながら、踏み込ませない独特な気配を放っていた。そんな神は常に笑顔で不気味さを漂わせていた。


「なるほどなぁ。我も呼び寄せて、三種族の王をまとめて始末する算段だったか」


 直哉はその声に誰が来たのかと振り返ってみれば、やけに白い肌が映える若い男が立っていた。しかし、その男が纏っている気配は直哉に近いモノがあった。


「よく来てくれたねぇ、竜王」


 神からかけられた言葉に直哉は目をこれ以上開かない限界まで開いていた。しかし、魔王ヒュベルトゥスはといえば、10年前に一度会っていることもあり、大した反応も無かった。


 その時、直哉は竜王が今言った言葉の意味を理解した。魔王と竜王。それぞれ魔族と竜の王である。そして、三種族といえば、残るは人間のみ。


 人間種族の王ではないものの、直哉は自らが人間種族の代表として神に招かれたことを理解せざるを得なかった。


「そう、私がお三方をここに招いたのは始末するため。それは地上を楽に滅ぼすため、まとめて始末しておいた方がやりやすいからね。もちろん、強制ではなく、選択肢は与えるよ」


 神はニコリと口角を上げて話しており、それはそれは不気味であった。


「ほう、余たちに選択肢を?それはどんな選択肢なのか、聞かせてもらいたいものだ」


 魔王は神を挑発するかのような笑みを浮かべ、神を煽っていた。それを固唾を飲んで見守る直哉と、思わず笑みをこぼす竜王。


「戦って逃げてくれても構わないが、逃げた場合は我が下僕たちが優先的に逃げた王の種族を殲滅することになるけどね」


 嫌らしい笑みを浮かべながら、神は魔王、竜王、直哉の三名を流し見る。


 選択肢があると言いつつも、選ばせる気などさらさらないのは選択肢を聞けば明らかだった。


「余はもとより、そなたを殺すことは決めていた。ゆえに、この場に残る。人質を取られていようとな。それに、魔族の王として逃げることは出来ん」


「我ももとより、逃げるつもりなど毛頭ない。むしろ、この機会に鬱陶しい神とやらを殺しておくのも一興よ」


 魔王も竜王も好戦的な目をもって、神の双眸と視線を交わしていた。


「さて、君はどうする?薪苗直哉」


「俺は……」


 直哉の中には恐怖という感情が9割9分を占めていた。しかし、残り一分というわずかな感情が直哉をこの場に縫い付けていた。


「……俺も戦います。相手が魔王でも神でも、俺の大切な人たちを傷つけようというのなら、はいそうですかって引き下がるわけにはいかない」


 まるで自分に言い聞かせているかのような言葉であったが、神は満足そうであった。


「……それでは、全員逃げることはしないと。良いでしょう。ならば、3人まとめてかかって来るといい。神の裁きを下してあげよう」


 神は戦闘モードに入った。それは場の空気が変わったことからも明らかだった。魔王と竜王はニヤリと、面白くなってきたと言わんばかりの笑みを浮かべながら神へ疾駆。


 しかし、それを追い抜く人影があった。


「“聖砂爆炎斬”ッ!」


 直哉の技が遠慮なく、神へと叩きつけられる。が、目立った外傷はなく、無傷ノーダメージであった。


「死ね、神とやら!」


 竜王の口から白銀のブレスが吐き出され、神の姿を瞬く間に呑み込んだ。が、神がいるであろう位置で大爆発を引き起こした。


 その結果を竜王は分かっていたかのように無反応であった。そこへ、攻撃を繋げるように魔王による斬撃が加えられる。


「ほう、さすがは神というだけの事はある」


 魔王が持つ魔王剣アガスティーアは神の右人差し指の先で受け止められていた。もはや、そこに攻撃が来ることは知っていたかのような精密な防御であった。


 直哉がそれに足をすくめている間に、竜王が鉄拳を神の左頬に叩き込んだ。その衝突によって、凄まじい衝撃波が巻き起こり、それは数メートル離れた直哉をも吹き飛ばしてしまうほどの威力であった。


「さすがは竜王。これほどの火力の鉄拳を繰り出される者はそうそう居ないだろうねぇ」


 神はムカつく口調で竜王に語り掛けるが、竜王は膝蹴りをもって、それに報いた。


 そこへ魔王の斬撃が殺到し、竜王は退き、神は魔王の攻撃を素手で叩き落としていった。


「イテテ……この戦い、次元が違いすぎるだろ……」


 そう言って、直哉は体を起こす。竜王の鉄拳が神の頬に衝突したことで生じた衝撃波によって吹き飛ばされていたが、おとなしく寝ているわけにもいかなかった。


「怖いけど、ここで神を止められなかったら……」


 神を止められなかった。それはつまり、魔王と竜王、そして自分自身を含む三人が倒された時。


 そうなれば、神は躊躇いなく地上の者たちに攻撃を仕掛けるだろう。それは直哉も頭では理解していた。しかし、直哉の足は恐怖で動かなかった。


 神から放たれるオーラは桁違いのモノであり、魔王や竜王ですら足元にも及ばない。そんな相手に魔王にすら勝てなかった自分が戦えるのか。直哉は不安で胸がいっぱいであった。


 ――ナオヤ、戦うんや。守りたいモノがあるんやろ?


 剣の姿であるイシュトイアが直哉を励ます。直哉はイシュトイアの声を聞いて、少し体の硬直が緩くなったように感じた。


「俺はこの手でみんなを守るんだ!さっきも自分で神に宣言しただろ!」


 直哉は滅神剣イシュトイアを引っ提げて、神との戦場へと舞い戻った。


「フンッ!」


 神から叩きつけられる膨大な魔力に竜王と魔王が懐から弾き飛ばされる。


「ああああああああ!」


 直哉は渾身の斬り上げを咆哮と共に放つ。神はそれを素手で受け止めようとしたが、気づけば神の腕を上下真っ二つにし、胸部に一文字の傷を負わせていた。


 これには神も動揺せずにはいられなかった。先ほどの斬撃は大した威力ではなかった。にもかかわらず、今回の斬撃は神に軽くない傷を負わせた。


 それまでの魔王の斬撃も竜王の爪牙も、たやすく弾いていた神の肉体に鮮やかに刻まれた刀傷。


 直哉はこの時、イシュトイアが滅神剣であることを思い出した。であれば、イシュトイアが真価を発揮するのは神との戦いなのではないか。


 まさに、神殺しのために生みだされた世界最高の剣。


 そして、その剣は直哉が扱ってこそ、さらなる破壊力を発揮する。これに直哉は自信と希望を燃やし、神へと知覚すら許さぬ怒涛の斬撃を叩き込んだ。


 斬撃は弧を描き、神の肉体を容赦なく切り裂いていった。


「調子に乗るなぁっ!?」


 神はその膨大な魔力を周囲に発散することで、魔王と竜王同様、直哉を吹き飛ばした。だが、今度は直哉に代わって魔王と竜王から立て続けに攻撃が見舞われる。


「貴様らの攻撃なんぞが私に効くものか!」


 神は竜王と魔王の連携攻撃を受け止め、弾き、往なす。この三動作をもって、捌ききっていた。


 だが、そこに直哉が加勢することで、完全防御は崩れ去る。


 直哉が攻撃するかに見せて、攻撃しなかったりする。さらに、攻撃しないと思わせた途端に攻撃が差し込まれる。そんな直哉のフェイントに神は惑わされた。


 また、そんな直哉の攻撃こそが神に与えうる唯一の有効打であることを理解した竜王と魔王が完全にサポートに回っていた。


「ハァッ!」


 一瞬の隙を突いた神から放たれる光線状の魔力。それによって、直哉は胸部を貫通された。直哉が血を吐きながら地面に倒れていくのを邪悪な笑みと共に見送る。それに竜王は焦り、魔王は気にも留めていない様子であった。


 その次の瞬間、神の胸部を滅神剣イシュトイアが貫いた。


「なっ……!」


「俺は神とか言うくらいだから、全知全能なのかと思っていたんだが、神とはいってもこの世界の神は欠点だらけなうえに爪が甘いらしい。おかげで助かった」


 直哉はしてやったりと笑みを浮かべる。だが、その剣から伝わってくる感触には違和感があった。


 次の瞬間、直哉と竜王、魔王は神から離れた場所に転移していた。それはもちろん、神の異変に気づいた魔王が急いで空間転移を発動させたからに他ならない。


 ――そして、神の胸部からは確かに瞳が不気味に光っていた。

第201話「神の招待」はいかがでしたか?

今回は神相手に直哉と魔王、竜王が共闘するという形になってました!

神との戦いはここで一区切りになります……!

次回はベレイア平原での魔王軍との戦いの方に話が戻ります!

――次回「人類の抵抗」

更新は12/7(火)の20時になりますので。お楽しみに!

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