第200話 魔王の狙い
どうも、ヌマサンです!
今回は魔王城に転移した直哉と魔王ヒュベルトゥスの話になります!
直哉と魔王の戦いがどんな感じになるのかや、話の中で語られる話にも注目してもらえればと思います。
それでは、第200話「魔王の狙い」をお楽しみください!
空間転移した先。それは魔王城の玉座の間。
その壁と床の色は白一色で統一されており、ルフストフ教国の大聖堂よりも神聖さを感じさせるモノがあった。
そして、直哉の背後には身の丈の3倍はある漆黒の扉があり、そこに施された金の文様が美しかった。
「薪苗直哉よ。余はこっちだ」
覇気を感じさせる声が響いてきたのは扉とは反対側であった。それに直哉は反射的に振り向いてしまっていた。そんな直哉の目に飛び込んできたのは玉座に腰かける魔王ヒュベルトゥスの姿。
魔王の腰かける玉座は赤と金色で統一されており、高貴な雰囲気を醸し出していた。そして、そこに座る者も王者の風格があるため、やけに見栄えが良いのだ。
「魔王。今から戦うのに、なぜ武器を持っていないんだ?」
「それは余が話から入りたいからに決まっておろう」
自信ありげな表情で語る魔王に直哉は何とも拍子抜けしたといったところだった。転移後、すぐに魔王との戦いだと思って気を張っていたからだ。
「余はそなたのことが気になっていたのだ」
「……は?」
直哉は魔王からの言葉を聞き、表情が落ち着かず色々な表情になっていた。が、魔王はそんな直哉に構うことなく話を始める。
「余は当初、余が父を討ち果たしたジェラルドと、その子で竜王の血を受け継ぐそなただけをこの世界に呼び寄せ、始末するつもりであった」
魔王からの言葉は直哉を驚かせるのに十分だったが、直哉は軽く頷いただけ。とにかく、話を続けるように促していた。
「余はジェラルドをこの手で倒し、父の仇を取るつもりであった。そして、その子であるそなたもまとめてな」
ビシッと直哉を指差す魔王に直哉は動じなかった。感情を抑え、話の最後までは聞くことに徹しているようだった。
その後も話は続いた。魔王が直哉のことを竜王とジェラルドの血を受け継いだとんでもない化け物だと勘違いしていたこと。
この世界に来た時点の直哉には魔法一つ使えない弱者だったのだ。魔王も驚かない方が無理であった。
しかし、そこからの成長速度は直哉と共にこの世界に来た者たち共々、想像以上の速度であった。
そして、当初は直哉たちを暗殺者ギルドにいるユメシュに命じて、皆殺しにすれば型がつくと思っていた。
その結果は聖美を救出された挙げ句、ユメシュ自身も手傷を負い、実験体とするつもりであった暗殺者の大半が殺されてしまった。それが暗殺者ギルドでの事の顛末である。
この時に直哉がまだまだ強くなると悟った魔王は、ローカラトの町を攻め落とすように命じた。こうして起こったのが、ヴィゴールによる魔王軍襲来。
これも、ジェラルドの乱入により、大失敗。大将であるヴィゴールも重傷であり、魔物も半数近くが倒され、魔人も半数近くがウィルフレッドによって殺された。
そして、続く大空の宝玉の一件。これに関しては、ディアナが大空の宝玉の奪取に成功し、直哉の始末も成功した……かに見えたが、直哉は生きており、またしても直哉を始末し損ねた。
その次のゲイムの地下迷宮と王都・王城での戦い。これはウィルフレッドを殺せたこと以外は失敗であり、直哉たちにさらなる力を与えるキッカケとなってしまった。
そこからの大海の宝玉や大地の宝玉を巡る戦いの頃には、直哉はベルナルドとゲオルグの両名と真正面から戦える強さを身に付けてしまっていた。
さらに、大聖堂の戦いではジェラルドの死は魔王軍にとっては僥倖であったが、結果的に直哉が今まで以上に強大な力を得る結果に終わった。
「……ことごとく、余の計画は失敗に終わった。だが、3つの宝玉を集めることには成功した。これに関しては、唯一の成功と呼べるだろう」
魔王はフッと笑みをこぼした。直哉は、その間に今までの出来事がフラッシュバックしており、感傷に浸ってしまっていた。しかし、ハッと我に返って魔王の話に耳を傾ける。
「薪苗直哉、ここで一つそなたに質問だ」
魔王が右の人差し指をピッと立てる。一体、何の質問が飛んでくるのか。直哉は表情を強張らせながら、魔王の次の言葉を待った。
「なぜ、余が大空の宝玉、大海の宝玉、大地の宝玉の3つを集めさせたと思う?」
「なぜ……?」
言葉に詰まる直哉だったが、まったく理由は分からなかった。
――3つの宝玉を集めし者に天への道が開かれん。
そんな時、ジェラルドの手紙に記されていた古文書の引用文が脳裏に浮かんだ。
「天への道が開かれるからか?」
「然り。さすがは薪苗直哉よ。だが、考え込んでいたのを見る限り、それ以上の意味は知らぬのであろうな」
ズバリ、図星であった。魔王の言葉に直哉は俯いてしまった。だが、その理由は気になっていたことではあるため、素直に魔王に教えて欲しいということを伝えた。
「フッ、良かろう。余とてこんな情報を隠していたところで、良いことなどないからな」
魔王は直哉の願いを快諾。古文書に記された一文の意味を語りはじめた。
その昔、神が世界を作り替えるために変革の時をもたらした。しかし、それに意を唱えた精霊の王である精霊王たちが神に反逆した。神が生み出した魔術に対抗するべく、魔法を生みだしたのだ。
そうして、戦いの末に精霊王は神の前に屈服させられた。しかし、戦いで世界を作り変えるだけの力を神は失った。
そして、後世において神に対抗できる者が誕生した時には神の住まう神域へと進めるように精霊王たちが生み出した3つの宝玉。
「それが、大空の宝玉と大海の宝玉、大地の宝玉の3つだったのか……!」
直哉は納得がいったと言葉の奥から感情がにじみ出ていた。
「そして、今の精霊たちの話で分かったであろう。余の目的は、この手で神を討伐することなのだ」
魔王は豪快に笑った。しかし、直哉はまったく笑えなかった。神など、空想上の話であるため、イマイチ実感が湧かないのだ。
「先ほどの引用文の引用元の文献にはこうも記されている。神の力の源は神への信仰心である……と」
直哉はそれを聞いてハッとした。
「そなたも理解したか。なぜ、余がルフストフ教国などという一国家を優先的に陥落させたのかを」
魔王は自らが言わんとしていることに気づいた直哉に喜びの感情を覚えていた。あくまで、話す手間が省けたという点で非常に喜ばしいという意味である。
「なるほどな。ルフストフ教国の崇めている神こそが、その討伐しようとしている神であるってところか」
そう考えれば、ルフストフ教国の民も皆殺しにされた理由も頷ける。それは、神を信仰しているから。つまり、神を討伐するという目的の達成率を上げるためには、信徒を皆殺しにすることを含めて、すべて必要な行動だったのだ。
ただ、いかに信仰心という力の源を断ったところで、神は神だ。そう簡単に討伐できるのか、怪しいところではある。直哉はそう感じ取っていた。
「薪苗直哉よ。余はこの戦いで人間共を一掃し、竜の国にも攻め込む。そして、後顧の憂いを断った後に神へ戦いを挑むつもりだ」
その魔王の壮大な計画に直哉は何と反応すればよいのか、まったく分からなかった。
「どうだ?驚いたか?余とて、適当に動いているわけではないということだ。それに、欲を言えばそなたが持っている滅神剣イシュトイアも手に入れておきたかった。ここまで言えばどういうことか、すべて分かったであろう」
「ああ、そうだな。名前からして神殺しの力を秘めていそうな、滅神剣イシュトイアなら、神殺しの成功率が跳ね上がるってところだろ」
魔王が滅神剣イシュトイアを装備して、神へ挑む。これによって、魔王の中での神殺しまでの道は完璧な物となる。何なら、直哉を倒した後に滅神剣イシュトイアを奪うという手段も残されている。
「じゃあ、俺がその完璧な計画を加筆修正してやる。俺が魔王を倒して、神の魔の手からみんなを守ってみせる」
直哉の言葉に虚勢は張られていない。ただ、ありのままの言葉を口にした。元より、みんなを守ることは直哉の願いであり、為すべきことなのだ。それが魔王であろうと神であろうと、そこを譲るつもりは毛頭なかった。
「フッ、面白い。ならば、大言壮語は余に勝ってからにしてもらおうか!」
魔王の踏み込み。それによる先制攻撃が仕掛けられる。直哉はとっさに防御し、往なした。
――こうして、魔王城において強制戦闘《ラスボス戦》が始まった。
直哉は魔王が動くなり、竜の力を解放し、そこへ大聖堂での戦いで得た吸血鬼の力を合わせて発動させた。
これで、パワー面でもスピード面でも魔王にかなり近づくことが出来た。とはいえ、まだまだ魔王の方が強かったが。
直哉はそれでも必死に魔王からの猛攻を優先順位をつけて、順番に弾き、往なしていく。しかし、ここまでの戦いは直哉が防戦一方となっている。
「ハッ!」
直哉が両手で放つ渾身の斬撃。しかし、それは魔王によってたやすく弾かれてしまう。直哉は舌打ちしながらも、弾かれた勢いを利用して次へと斬撃を繋げる。
直哉からの思いもよらぬ連撃に魔王は瞠目しながらも、再び斬撃を防いでみせた。
交差する魔王剣アガスティーアと滅神剣イシュトイアから火花が散り、刀身は斬撃を放った側であるイシュトイアの方が震えていた。それも、直哉が力を込めたことによるものである。
魔王はそれを力任せに薙ぎ払う。これには直哉も体勢を崩すが、極めて迅速に体制を立て直す。
直哉はそこからは速度を重視した戦闘スタイルへと移行させた。力任せの斬撃では魔王には敵わないと悟ったからである。
そこからの直哉の仮借のない斬撃は降り注ぐ雨のように手数で圧倒していくかに見えたが、付いてくる。魔王の持つ魔王剣アガスティーアは大剣でありながら、細身の剣である滅神剣イシュトイアを振るう直哉の動きに付いてきていた。
その戦いは、子どもの遊びに付き合う大人のようであった。が、直哉からは諦めの色は見えない。意地でも勝利するという気迫を発していた。
「薪苗直哉よ。そなたの実力はその程度か?」
「くっ!」
魔王からの分かりやすい挑発に、直哉は乗るようなバカなマネはしなかったが、少々感情は乱れた。それに直哉自身はすぐさま気づき、精神を魔王との戦いに集中させる。
直哉は力強く地面を蹴り、魔王へと向かっていく。直哉の剣はその一つ一つを一撃必殺の威力と気迫を込めて放たれている。だが、そんな威力と気迫では揺るがないのが魔王であった。
剣同士が激しい音を立ててぶつかり、火花を散らす。その戦い振りは凄まじく、すでに人外の領域に達していた。
魔王と竜の力をすべて解放した半竜半人。その剣に込められた破壊のエネルギーは衝撃波となって、魔王城に亀裂を入れていく。
これでは、戦いの決着が着くより先に魔王城が倒壊する方が先であろうことは容易に想像できた。
「ハァッ!」
魔王による豪快な薙ぎ払いに、直哉は体ごと宙へ放り出される。地面へ叩きつけられ、顔を上げれば大上段に魔王剣アガスティーアを振りかぶる魔王の姿があった。
刹那、大上段の構えから振り下ろされる大剣は直哉の剣を正面から激突する。一際激しい衝撃波が辺りに吹き荒れ、玉座の間のヒビをお構いなしに広げていく。
「ほう、余の全力の斬撃を受けても死なぬとは大した男だ。そなたは」
「ほ、褒め言葉……有難く受け取っておくぞ」
受け止める直哉の腕は込められる力の限界を超えており、ブルブルと震えていた。
魔王はフッと笑みをこぼした後、直哉の剣を軸にして後方へと跳んだ。それにより、直哉はすべての力を一度腕から抜き、再度一定の力を込め直す。
そんな時、何も無い空間から直哉の首筋へ長剣が滑り込む。暗殺者のように鋭い一閃に直哉は驚愕するしかなかった。
そのまま、斬りかかってくる謎の女性相手に剣舞を舞うかのように剣を交わした。しかし、自分よりわずかに膂力も速度も勝る女性に直哉は防戦一方となっていた。
直哉は何とか立て直そうと、剣を受け止め、無理やりに薙ぎ払った。そして、間合いを取るべく、後方へと退避する。
それを追撃しようとする女性の剣を大剣がねじ伏せた。
「よせ、クラウディア」
「何してんのよ、お兄ちゃん……!退いて!」
直哉を死角から襲ったのは、魔王ヒュベルトゥスの妹・クラウディアであった。
全人類の敵である魔王に妹が居た、という事実に直哉は口を開けたまま固まってしまったが、次の瞬間には頭をぶんぶんと振って意識を魔王兄妹へと戻すのだった。
第200話「魔王の狙い」はいかがでしたか?
魔王軍のルフストフ教国攻撃には、神を討伐に向けての準備という意味合いがあったという。
そして、ヒュベルトゥスと直哉が戦ってくるタイミングでクラウディアが乱入してきたわけですが、ここからどうなるのかは、次回のお楽しみということで……!
――次回「神の招待」
更新は12/4(土)の20時になりますので、お楽しみに!





