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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
最終章 人魔決戦編
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第199話 悲しむのは今じゃない

どうも、ヌマサンです!

今回からベレイア平原での直哉たちと魔王軍との間での最終決戦が始まります!

はたして、魔王軍との戦いがどうなっていくのか、楽しんでいってもらえればと思います!

それでは、第199話「悲しむのは今じゃない」をお楽しみください!

「いよいよ明日が魔王との決戦だ。総員、今日は早めに休むように」


 そう、クリストフ国王に言われ、俺たちは眠ることになった。


 ここはべレイア平原。21年前と18年前。二度もスカートリア王国と魔王軍が激戦を繰り広げた場所。見上げれば星々が瞬いている。


 ――明日はこうして夜空を見上げていられるだろうか。


 そんな底知れぬ不安と恐怖が俺の心の弱さを突いてくる。俺が今日話した人たちの中でも、誰かが死ぬのか。そんなのは嫌だ。誰も死なせたくない。


 もうこれ以上、親父のように目の前で人が死んでいくのは見たくない。


 頭の中で親父が暗黒の光線を受けて、自爆攻撃で自分たちを庇って死んでいくところがフラッシュバックする。胸が締め付けられるような思いがした。


 親父が死んだ時は、親父が命がけで作ってくれたチャンスを無駄にしないために必死でやったから、親父が死んだということすら忘れてしまっていた。


 だが、戦いが終わってから、ふとした時に親父のことを思い出してしまう。みんなと居る時は笑って、バカをしていれば忘れられるのに。


「……兄さん」


「紗希か。どうかしたのか?」


「お父さんのこと。お父さんが死んだとき、ボク気絶してたから知らないんだけどね。何か、寂しいんだ。教えて欲しいこと、まだまだたくさんあったのに」


 俺の隣に腰を下ろした紗希は俺と同じように夜空を見上げていた。しかし、その瞳は潤んでおり、しまいには目からこぼれ落ちていく。


 紗希が泣いてしまったことで、俺も泣きそうになったが、妹の前で泣くわけにもいかず、泣きたい気持ちを殺した。


「お父さん、ボクたちを庇ってくれたんだよね」


「ああ、本当に命がけで……な」


 俺だって親父ともっと話したいこと、いっぱいあった。


「だから、兄さん。明日は絶対に勝とう。それで、みんなで一緒に集まって、また海とか行こうよ」


「……そうだな。俺も明日は頑張る。親父のおかげで繋がった命だ。どうせなら、親父が生まれ育ったこの世界のために使いたい」


 俺は笑うことにした。そうでもしないと、今晩は眠れそうにない。今は親父のことは忘れよう。戦いが終わったら、墓でも作って墓参りをして、その時にいっぱい泣こう。


「兄さん、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 俺と紗希は軽く話をして別れ、眠りについた。決戦前夜は紗希と話したおかげで、ぐっすりと眠ることが出来たのだった。


 ◇


 決戦の朝が来た。決戦の時は待ってくれない。それは頭では分かっていても、辛いものである。


 ローカラトの町から数百キロ離れた場所で、町を背にして陣取るスカートリア王国軍十八万五千。対して、魔族領を背に王国軍と向き合うのは魔王軍総勢八万。


 魔王軍は八眷属それぞれが部隊を指揮しており、総司令であるユメシュと、ヴィゴール、ディアナ、ザウルベック、レティーシャ、ベルナルド、ゲオルグ、カーティスといった八眷属たちがそれぞれ一万もの魔物を率いている。


 そこからさらに内訳としては、おおよそこんな感じだった。


 ヴィゴールの指揮下にいるのは、ウラジミールとカトリオナの将軍二人とゴブリンとコボルトがそれぞれ四千に、オーク二千といったローカラト防衛戦で戦った相手である。


 ディアナの指揮下は将軍であるアーシャ一人と、ダグザシル山脈で直哉たちも戦ったコカトリスとハーピィがそれぞれ五千。


 ザウルベックの配下は将軍はおらず、ダイアウルフ四千と、ドラゴンタートル、トロールがそれぞれ三千という規模であり、ザルモトル雪原でクラレンスとその親衛隊たちによって討伐された魔物たち。


 レティーシャは弟であるマルティンと共に軍を統率しており、悪魔術士リッチ一千と、シェイドが三千、スケルトンが六千といった具合で直哉たちも初めて見る魔物ばかりだった。


 悪魔術士リッチは魔法の使える魔人を決戦前にユメシュがアンデッド化させたもので、魔法の技能は生前の二倍ほどとなり、指揮官であるレティーシャの命令で動くだけの魂無き魔術士。


 そして、シェイドはユメシュの生みだした影であり、それらにレティーシャの開発した光の鎧と魔鉄ミスリル製の斧を装備させた戦士である。光と闇という相反する魔力を込められたことで、対人戦闘能力を引き上げられている。


 残るスケルトンは人間や魔族、魔物の骨から生み出された戦死であり、魔鉄ミスリル製の剣と盾を装備している。


 ベルナルドが率いているのは、ヴィシュヴェ帝国の帝都を陥落させる際に率いていったサハギン一万。


 ゲオルグが率いているのは、ブランドン、クリスタ、サンドラといった将軍三人と、ホルアデス火山にも居たミノタウロス五千とジェラルドが日本に居る時に戦ったキマイラが五千。


 カーティスが率いるのは、オーガが三千と、ホルアデス火山で直哉たちも戦った事のあるリビングアーマーが七千。


 ただし、今回のリビングアーマーはマグマではなく、闇の魔力が籠められており、どす黒いオーラが漏れ出ていた。そして、オーガは人間二人分の身長に人間一人分の身長くらいの魔鉄ミスリル製の棍棒を装備していた。


 そして、総司令であるユメシュは聖都フレイスで見せた軍勢のままであり、ホムンクルスが九千とゴーレムが一千という数であった。


 これがスカートリア王国軍と対峙している魔王軍の総戦力であった。確かに数だけを比べれば、魔王軍はスカートリア王国軍の半分にも満たない。だが、個々の戦力は人間の数十倍に匹敵するため、魔王軍は百万近い戦力であると言い切って差し支えないレベルであった。


 いかに、戦意の高揚している王国軍十八万であっても、これほどの戦力を揃えられると厳しいモノがあった。


 それを叱咤するべく、スカートリア王国軍の総司令官であるクリストフが叱咤しようとした刹那、割り込む者がその場に姿を現した。その人物から放たれる上から生けるものすべてを圧死させるほどの圧倒的な存在感。来訪者組はそれだけで誰が来たのか、瞬間的に理解できてしまった。


『余に盾突く愚か者たちよ。聞くがよい』


 突然、両軍の前に姿を現したのは魔王ヒュベルトゥス。魔王軍の中から進み出てきたわけでもなく、スッと空中に姿を見せたのだ。


 それがどういう理屈なのか、直哉は分かっていた。それは、魔王ヒュベルトゥスの扱う空間魔術であるということを。概ね空間転移でもしてきたのだろう、と。


『余がここに来たのは、決闘相手を余の城へ招待するためである』


 その魔王の声に導かれるように、直哉は人の波をかき分けて、飛翔魔法を付加エンチャントした靴を起動させ、魔王の眼前へと進み出る。


『呼び出す前に、余が呼びに来た者が現れたか』


 魔王はフッと笑みをこぼす。直哉の方はと言えば、真面目な表情で魔王と対峙している。


『余はこれより、魔王城にてこの者の相手をせねばならぬ。よって、有象無象は余の配下たちに殲滅することを命じる。目の前の敵を殺戮せよ。情にほだされて一人でも人間を生かしておくことは許さぬ』


 魔王からの真の意味での宣戦布告。クリストフがでっち上げた宣戦布告状と結果的に同じことを言い放ったのは偶然か必然か。


 ともあれ、魔王軍の士気は最高潮ピークとなった。このヒュベルトゥスという男は魔族の王であり、統率者としても高みにあった。何せ、戦場に出て言葉を発するだけで味方の戦意を高めたのだから。


『それでは、せいぜい足搔くがよい!愚かなる人間共よ!フハハハハハッ!』


 魔王が右腕を薙ぐなり、魔王ヒュベルトゥスと直哉の姿は空中で消えたのだった。


「魔王軍の兵士たちよ!魔王様のためにも、ここにいる愚か共を殲滅し、人間共をこの地上から消し去り、我々魔族の楽園とするのだ!すべては魔王様のために!」


 そして、大地を揺らすほどの魔物たちの足踏みが起こり、それが終わるなりユメシュの命令と共に魔王軍は前進を開始した。


 圧倒的な戦力を誇る魔王軍に対して、スカートリア王国軍は恐怖に苛まれていた。しかし、そんな恐怖を斬り払った者が居た。


「“竜螺旋・大蛇オロチ”!」


 全軍の先頭に立つクラレンスの持つ竜聖剣イガルベーラから八頭の竜が顕現し、キマイラ九十体ほどをまとめて消滅させた。


「我が後ろに控える十八万の勇者たちよ!手柄を独り占めされたくなければ、私の後に続いて来い!先陣はスカートリア王国の王子であるクラレンス・スカートリアが務める!」


 クラレンスは背後に控え、怯えている戦士たちを叱咤する。そして、最後まで言い切った時にはすでに第二の斬撃を繰り出し、数体のキマイラを撫で切りにした。


 こうして突撃していくクラレンスに全軍の士気が蘇った。この役目は聖都フレイスと21年前の戦いでは、ジェラルドが務めて役目であった。


 クラレンスの親衛隊五名もニヤリと笑みを浮かべて突撃を開始し、他も雪崩のように魔物との戦闘を開始した。


 人のモノとも、魔物のモノとも分からぬ方向がべレイア平原に木霊する。その咆哮と共に青い血と赤い血が霧のように飛び散り、乱戦模様となっていた。


 そんな時、3つの竜のブレスが魔王軍を襲った。


 毒のブレスはヴィゴール指揮下のゴブリンとコボルト八千体を一撃で消し飛ばし、残るオーク二千の体を毒で蝕んだ。


 続く砂のブレスはディアナ指揮下のコカトリス五千体を一撃で消し飛ばしてしまった。その舞い散る砂塵によって、残されたハーピィたちの前進が止まる。


 ラスト、炎のブレスはベルナルドの指揮しているサハギン一万を消し飛ばし、その地を桁違いの熱量でドロドロに溶かしてしまった。指揮官のベルナルドは間一髪、範囲外に逃れたために命拾いしていた。


 このような桁違いのブレスが放射された方角を見てみれば、その上空には竜の力を解放したラモーナとラターシャ。そして、ディエゴの姿があった。


 そんな思わぬ加勢にスカートリア王国側は歓喜した。


 しかし、ディエゴだけは上空で旋回し、竜の国の方へと立ち去っていく。残るラモーナとラターシャはといえば、それぞれ八眷属のヴィゴールとディアナの元に降り立った。


「貴様ハアノ時ノ竜ノ姫か……!ワザワザ私ニ殺サレニ来タカ?」


「ううん、私はゴルゴルと再戦をしに来ただけだよ?」


 あざとく顎に人差し指を当てながら、首を傾げて見せるラモーナ。それを戦場には相応しくないと大戦斧を握りしめるヴィゴール。


 双方から飛び散る桁違いの魔力と存在感に、その近くには魔物も人間も近づかず、その周囲で戦闘を開始していた。


 その近くでは新たに二つの戦いが芽生えようとしていた。


「おい、お前だお前。あの時の続きをしてもらおうか」


「ああ、誰かと思えばアンタか。あの時みたいに瓦礫で圧殺するとかできないけど、戦うつもりなのか?」


 一つはバーナードと魔人カトリオナ。ローカラトへやって来た際に西門付近でこの二人は一度剣を交えている。そんな二人が戦場で出会った。もはや、戦場の女神がめぐり合わせたとしか思えない必然であった。


 その隣では、ロベルトとシャロンの二人がウラジミールと対峙していた。


「まさか、あの時の老人と女にここで巡り合うとは思わなかった」


「それはワシらも同じ気持ちじゃわい」


「そうさねぇ。でも、あの時のリベンジをするにはちょうどいい機会さね」


 ウラジミールが肩に担いでいた大剣を両手で構え、対するロベルトとシャロンは大戦斧と投擲用の短剣を装備し、身構えていた。


 また、ラモーナと別行動を取ったラターシャはといえば、ディアナの前へと降り立っていた。


「……あなたが私の相手?」


「はい。私も同じ槍の使い手として勝負をしたくなったので」


 ラターシャは手にした槍を突き出し、穂先をディアナへ。ディアナはそれに笑みを浮かべ、槍を手にした。それは戦うことを了承するモノであった。


 そして、その上空で飛翔し、ハーピィの指揮を執るアーシャの元に一筋の矢が的確に射られる。その射線を見ると、弓を構える人間がいた。その隣には短剣を両手に装備した人間がいた。


 アーシャは単騎、二人の人間の元へと急降下。二人の人間の顔が見える近さまで近づいた。


「私はアーシャ。ディアナ様配下の将軍よ。あなたたちは?」


 アーシャからの問いかけにミレーヌとラウラは自分の名前を正直に名乗った。


 3人とも、顔を合わせるのは初めてであったが、戦闘が始まるのにそう時間はかからなかった。


 こうして、べレイア平原で魔王軍とスカートリア王国軍+ラモーナ&ラターシャの激戦が幕を開けた。


 ――はたして、この決戦で勝利を掴むのはどちらなのか。

第199話「悲しむのは今じゃない」はいかがでしたか?

今回は直哉が魔王ヒュベルトゥスと共にベレイア平原から移動してましたが、ベレイア平原の方では魔王軍との戦いが始まりつつありました。

次回はベレイア平原での戦いではなく、魔王ヒュベルトゥスと直哉の方の話になります!

――次回「魔王の狙い」

更新は12/1(水)の20時になりますので、お楽しみに!

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