表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第11章 聖都攻略編
231/251

第195話 不死なる竜

どうも、ヌマサンです!

今回も引き続きユメシュとの戦いになります!

まだまだ戦いは続くので、見守っていてもらえればと思います。

それでは、第195話「不死なる竜」をお楽しみください!

「直哉ッ!吸血鬼の血を飲めッ、今のうちに早く!」


 俺は親父からの言葉に弾かれるように呉宮さんの元へと駆けた。


 後ろでは生命エネルギーと魔力が膨張する嫌な気配を感じるが、今は振り返るべきじゃない。


「呉宮さん!」


「直哉君……!」


 俺は呉宮さんの血を飲むように親父から言われたことを伝えた。吸血鬼の力を解放している呉宮さんは俺に血を与えることを快諾してくれた。


 武淵先輩が腰に差していた短剣を貸してくれたため、それで呉宮さんは短剣を軽く握った。


 彼女の手から、赤い血が短剣を伝って落ちてくる。それを俺は手ですくって口へと運ぶ。呉宮さんの血液が喉を通ると、呉宮さんの温もりは感じられたが、それ以上は特に何も感じられなかった。


 そんな俺を見て、洋介と寛之までソワソワし始めた。茉由ちゃんも武淵先輩も俺の親父の方を見て、唇を震わせている。


「直哉君?どう?」


「……それが、特に体に変化は無さそうなんだ」


 俺が言葉をポツリと落とすと、呉宮さんも辛そうな表情をした。俺は泣かないでほしかった。呉宮さんの涙を見たくないというのもあるが、それ以上に自分が情けなくて涙が出そうなのだ。


 そんな時、暗黒の光線を防ぎとめている親父が体の内側から輝きを放った。刹那、大爆発を引き起こした。


 暗黒の光線がキレイさっぱり消えた。そこまでは良かった。だが、親父の姿もどこにも見当たらなかった。


「親父ッ!」


 親父は俺に呉宮さんの血を飲ませるために命をかけて時間稼ぎをしてくれた。でも、情けないことに俺はそれに応えられなかった。


「フッ、ジェラルドのヤツ、ようやく死んだのか。あれを食らっても耐えられるとは思わなかったが、アイツもとんだ無駄死にをしたものだな。何せ、あの光線は何発でも放てるのだからな!」


 ユメシュの杖先に膨大な暗黒の魔力が練り上げられ、再び暗黒の光線が放たれた。


「畜生ッ!」


 俺は武器も持たず、丸腰でユメシュの元へ走った。正直、親父が死んで、その死の間際の期待にも応えられなかった自分に当たり散らしたい気分だった。


「直哉君!」


「ああああああああッ!」


 俺はやけくそで右の拳で暗黒の光線を殴りつけた。その直後、衝撃波が発生。


 『俺も親父みたいに体が消滅していってしまうのか』


 『何て、バカなことをしたんだ』


 『呉宮さんを置いていくなんて……』


 そんな言葉が心の中で立て続けに再生される。俺は自分を嘲笑いながら、拳を見る。しかし、俺の拳はそこにあった。消滅することなく。


 いや、正しくは消滅している。が、それ以上の速度をもって再生されていっているのだ。


 消滅。再生。消滅。再生……


 絶え間なく繰り返される消滅と再生。


 自分の右手で行なわれる光景に驚いたが、これを活かさない手は無かった。俺は手で暗黒の光線を受け止めるのをやめ、一思いに突っ込んだ。


 予想通り、体のどこに暗黒の光線が命中したとしても、消滅する以上の速度で再生していく。それはもはや、ユメシュの放つ暗黒の光線を無効化したのに等しい。しかも、体の奥底から底知れぬ力が湧き上がってくる。そんな感覚まであった。


 そうして俺は、案外あっさりとユメシュの元へと辿り着き、まずは一発ぶん殴った。からの、膝蹴り。さらに続けて掌底。


 ユメシュに回避も防御も攻撃も許さず、拳蹴を叩き込む。ユメシュは鬱陶しいと言わんばかりの表情で俺を杖で薙ぎ払おうとする。


「何ッ!?」


「ハァッ!」


 俺は素手で杖をへし折った。戦いの中で何度もイシュトイアとぶつけ合ったことを考えれば、杖はオリハルコン製と見て間違いないだろう。


 だが、今の俺の力の前ではオリハルコンなど紙を折るよリも容易いことであった。


「“暗黒拳あんこくけん”ッ!」


 ユメシュから撃ちだされる闇の魔力を纏う拳。それはラルフの使う“闇影拳あんえいけん”と似ていた。


 俺は真正面からユメシュの拳を手のひらで受け、右へ薙ぐことで体勢を崩した。そこへ蹴りを鳩尾にめり込ませる。内臓を口から吐き出させるくらいの勢いで行なうと、メキッと何かがひしゃげる音が響いた。


 口から吐き出されたユメシュの血が顔にかかり、視界が遮られる。


「“暗黒重力球ブラックホール”ッ!」


 ユメシュの焦りと恐怖を帯びた声の直後、黒い球体が俺に迫ってくるのが感じ取れた。が、球体に吸い寄せられていくために回避することは出来なかった。


 手に剣があれば、地面に突き立てて踏ん張ればなんとかなるのだが、生憎イシュトイアは大聖堂の入口に置き去りにしたままだ。


 俺は必死に腰を低くし、吸い込まれまいと踏ん張ったが、地面を粗く削りながら引き寄せられていく。


「“星撃ちミティオライトショット”!」


「“氷魔刃”!」


「“雷霊砲”ッ!!」


「“星突きミティオライトストライク・改”ッ!」


 呉宮さん、茉由、洋介、武淵先輩の4人から放たれる攻撃がユメシュに撃ちこまれるが、ユメシュは“暗黒重力球ブラックホール”を挟んだ位置にいるために届くことは無かった。


 どれもこれも、一瞬の内に闇へと吞まれていった。もちろん、限界を迎えた俺も。


「直哉君ッ!?」


 呉宮さんの悲痛な叫びが聞こえたが、返事の声すらも闇へと吸い込まれてしまった。そして、俺自身が吸い込まれる寸前に見たユメシュの顔は嘲笑っており、実にむかっ腹が立つ表情だった。


 “暗黒重力球ブラックホール”に吸い込まれた俺はどうすればいいのか分からなくなった。周りを見渡しても果てしなく暗闇が続いているだけ。


 俺は親父が暗黒の光線を吹き飛ばす時に使ったメガンテとマダンテを同時発動させたみたいな大技の事を思い出した。


 あれを死なない程度に加減してやれば、脱出することもできるのではないのか、と。


 俺は全身にある生命エネルギーと魔力をかき集めるべく、瞑目する。


 目を閉じて体内に流れる生命エネルギーと魔力をイメージする。それを心臓辺りの一点に収束させる。


 そして、心臓という一点に収束した生命エネルギーと魔力の二つを同時に周囲へ解き放つ。


 俺の持つ力の一部を周囲へ発散すると、ピキッと暗黒の空間にヒビが走る。そして、ついには発散したエネルギーは暗黒の空間を突き破った。


「馬鹿なッ!?“暗黒重力球ブラックホール”が内側から破られるなど……!」


 “暗黒重力球ブラックホール”から溢れ出す膨大なエネルギーの直撃を受け、ユメシュは後方へ吹き飛ばされることを余儀なくされる。


 俺は“暗黒重力球ブラックホール”を破った直後、呉宮さんたちに無事だとアピールした。


「ユメシュ!覚悟しろッ!」


 そこからはユメシュへとさらに追い打ちをかけに行った。力任せに蹴り飛ばし、殴り飛ばす。ユメシュの顔面や鳩尾に一つ一つを潰すつもりで一撃を叩き込んでいく。


「ユメシュッ!」


 俺は格闘術の型もあったものじゃないが、目一杯拳を叩き込んだ。あと、蹴りもだ。


 体のあちこちから血を垂れ流しながらも、殺意を帯びた目で俺を見てくるユメシュに対し、俺はユメシュを殴り続けることに命の焔を燃やした。


「調子に乗るなッ!"暗黒重力波ダークグラヴィティ”!」


 ユメシュが発動する闇属性の重力魔法。その威力は魔法同士を掛け合わせたことにより、武淵先輩の無属性の重力魔法の数倍の威力を誇る。


 だが、俺はそれでも二本の足で大地を踏みしめる。膝の関節に痛みは伴うが、膝へのダメージはすぐに再生が始まるため、問題外だ。


 俺は意地でも上から降り注ぐ暗黒の重力波に抗い、一歩一歩前進する。何としても、ユメシュをこれ以上戦えない、戦闘不能状態に追い込むために。


 とはいえ、重力波が鬱陶しいことに変わりはないため、俺の魔力を周囲に発散する。これによって、“暗黒重力球ブラックホール”と同様、"暗黒重力波ダークグラヴィティ”を吹き飛ばして見せた。


 ユメシュが舌打ちするのに対し、俺は心の中で「ざまあみろ」と返した。俺だって、親父を殺したヤツの思い通りにさせるつもりは毛頭ない。


 持てる力のすべてを使ってユメシュと拳を交える。その度に発生する衝撃波は大聖堂を構成していた瓦礫を放射状に吹き飛ばしていく。


 そのまま俺とユメシュは何度も攻守と立ち位置を入れ替えながら戦った。正直、ユメシュが簡単には葬れないことには苛立ちを覚えるところではある。


 それでも、ここで感情的になれば勝利が遠のく。俺はそう、自分に言い聞かせて戦いを続行した。


「“豪風脚テンペスト”ッ!」


 俺が特大の魔力を込めた風を纏う蹴りをユメシュは片腕で受け止め、もう片方の手で俺の腕を掴んで盛大に投げ飛ばした。


 俺は宙を舞い、大聖堂跡地のど真ん中に着地する。しかし、そのままユメシュに向かうことはせず、イシュトイアの元へと走った。


 さすがに素手ではこれ以上の火力での攻撃が振るえないからだ。その点、剣であれば戦い慣れているし、技のレパートリーも多い。


「イシュトイア」


 ――おう!待っとったで!


 俺は地面に突き立つ相棒イシュトイアを引き抜き、急ブレーキを踏む。そして、改めてユメシュの方へと足を向ける。


 すると、眼の前にはドス黒いオーラを周囲に放出しているユメシュの姿があった。


「に、兄さん……!」


 後ろで地面を踏みしめる音がしたかと思えば、紗希が起き上がっていた。俺は親父の事を説明するか迷ったが、後回しにした。


「紗希、みんなと一緒にここから後方支援を頼む。今のユメシュの攻撃を受け止められるのは俺だけなんだ」


「……うん、イマイチ状況は分からないけど、兄さんの言う通りにするよ」


「ありがとな」


 俺は紗希にお礼を言った後、呉宮さんたちにもその旨を伝え、小さくうなずいた。それにみんなは大きく頷き返してくれた。


 後ろにみんなが居てくれるという安心感。それと共に俺は地面を蹴る。


「私はこんなところで負けるわけにはいかないんだッ!」


 ユメシュの体が紫色のオーラに包まれる。身体強化。それも闇属性の。それはイライアスという人の魔法なのは、知っている。ギンワンさんたちから前に聞いたことがあった。


「“闇霊砲あんれいほう”」


 今度はバートラムが使っていたという暗黒の砲撃。この技はバーナードさんから聞いたもの。


 俺は横に地面を蹴り、緊急回避。俺に当たることなく突き進む暗黒の砲撃は寛之の障壁で相殺された。


 俺はその事を確認しながらも、空中から降下し、斬撃を叩きつける。


 ユメシュは杖で俺の斬撃を受け止め、往なした。


「“闇影拳あんえいけん”!」


 地面へ転がる俺に影を纏う拳が突き出されるが、それは王城で見た。そんな鉄拳を真正面から殴りつける。


 いくら、闇属性の身体強化魔法を使っているとはいえ、今の俺の力であれば問題なく押し返せる。


 凄まじい衝撃波こそ発生したが、やっとの思いで押し返した。


「“影突シャドウスラスト”ッ!」


 これはカミラの技であることはジョシュアさんとセーラさんから情報を得ている。


 杖による石突。その先端部には黒影が纏われている。そんな鋭い突きを受け止め、ユメシュの首を刎ねるべく剣を横へ薙ぎ払う。


 刹那、ユメシュは体を後ろへ倒し、髪の毛を数本宙に舞わせただけに留まった。


「“影剣シャドウソード”!」


 その間に、ルイザの魔法である召喚魔法・影装を発動させ、杖を持たぬ手に影の剣を召喚。


「“闇影斬あんえいざん”ッ!」


 続けざまにダフネの技が放たれる。それは王城で見たモノであったため、イシュトイアで力任せに斬り払う。


 七魔将たちが使った闇の魔法を立て続けに行使するユメシュからは明らかな殺意が感じられた。


 それだけではなく、何としても勝つという執念じみたモノも。


 だが、俺としてもこんなところでやられるわけにはいかない。


「“八竜斬”ッ!」


 俺はクラレンス殿下の最強剣である“八竜斬”を使わせてもらった。これは王城で何度もユメシュの肉体を切り裂いた因縁の技。


 これこそ、俺とユメシュの戦いの終幕に相応しい。


 八つの煌めきが爆ぜ、俺の勝利だけがその場に残るかと思っていた。しかし、俺の剣は漆黒に光る刃渡り2mほどの大剣によって、受け止められていた。


 ――魔王剣アガスティーア……!?


 イシュトイアは驚きを孕んだ声で言った。『魔王剣アガスティーア』と。その名の通り、当代の魔王しか振るうことが出来ない剣。それが今ここに在るということは……!


「ユメシュ。余に代わって、南の大陸の防衛ご苦労だった」


「……ハッ、ご期待に沿えず申し訳ございません。魔王様」


 やはり、この角が生えた筋肉質な体つきの青年こそが魔王ヒュベルトゥス。


 俺は……いや、俺たち全員が言葉を失った。一体、どうしろというのか。この疲弊した状態で魔王と戦うなんて、冗談じゃない。


 そんな焦る俺たちを見下ろした魔王は不敵に笑った。

第195話「不死なる竜」はいかがでしたか?

直哉が吸血鬼の力と竜の力を合わせた力を手に入れてましたが、それでようやくユメシュに勝てそうな流れになったところで、魔王登場という形に。

はたして、魔王が目の前に現れたことで、状況がどう変化していくのか、楽しみにしてもらえればと思います!

――次回「魔王と来訪者」

更新は11/19(金)の20時になりますので、お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ