第193話 暗黒の力
どうも、ヌマサンです!
今回は本来の力に戻ったユメシュとの戦いになります!
今までとは桁違いの力を得たユメシュ相手に直哉たちがどう戦うのか、見守ってもらえればと思います!
それでは、第193話「暗黒の力」をお楽しみください!
ここにユメシュはすべての力を取り戻した。それも、六つすべての影を自らと一体化させることで。
聖美たちは七魔将を倒した直後、彼らの体が灰になると同時に、一つの影が大聖堂の方へと消えていったことを覚えていた。それと同時に、たった今ユメシュが取り込んだ影とそれが同じであることを理解した。
「私は自らの力の半分をさらに六つに分け、人型悪魔に与えた。これによって、私が弱体化する代わりに大きな力を持つ配下を増やすことに成功したのだよ」
こうして明かされた全貌。ユメシュは八眷属の中でも戦闘の能力に関しては最弱だった。しかし、それは人型悪魔に力を与えていた状態でのこと。
すべての力を取り戻したユメシュにとって、もはや八眷属など雑魚と言っても過言ではないほどの圧倒的な力を有していた。
直哉と寛之は戦慄した。先ほどまで戦っていたユメシュはあれだけの強さでありながら、半分程度の力しか使っていなかったのか……と。
「直哉。みんなと固まっていろ」
「……親父?」
「おそらく、お前たちが勝負を挑んだところで、勝負になるとは思えん。そこで黙って様子を見ていろ。それで――」
――勝てそうもなかったら逃げろ。
ジェラルドは確かにそう言った。勝てそうもなければ逃げろと。
直哉たちがそんなことを言われて動けずにいる中、ジェラルドは星魔剣アルデバランを手に、ユメシュと対峙していた。
「ジェラルド。今日は魔王軍の脅威である貴様と竜の仔、どちらか一方を始末できれば重畳だと思っていたが、どちらも達成できそうで私は凄く気分がいい」
「フッ、戦う前から俺に勝ったつもりか?直哉には勝てるつもりでいるんだろうが、俺に勝てるとは思わないことだ」
刹那。ユメシュの杖先から放たれた黒い雷はジェラルドによって破壊される。しかし、今の攻撃でこれまでのユメシュとは強さの桁が違うとジェラルドは直感で理解した。
倍近い魔法の展開速度。魔法一発あたりに込められる魔力量。これが本来のユメシュの力。だとすれば、この力は先代の魔王であるグラノリエルスを上回るかもしれない。
ジェラルドは心の中でそのように感じていた。そして、次には練気術を用いて全力迎撃の態勢を整えた。
「“闇輝閃”、“暗黒の岩槍”!」
「魔法の同時詠唱!?」
左右から放たれる別々の魔法。その一つ一つが直撃すれば、人間など跡形もなく消し飛ばす破壊力を秘めている。
今回は左手から黒色の岩で構成された槍が投擲され、右手からはドス黒い一筋の光が撃ちだされる。
それに対し、ジェラルドはユメシュへと疾駆した。別段迎撃する気配も見られない。だが、次の瞬間にはその理由を思い出した。
黒い岩でできた槍はジェラルドに触れた瞬間、粉々に砕け散った。そして、それと同時に浴びせられた光の砲撃もジェラルドを包み込んだ刹那、霧散した。
絶対的な魔法の不可侵領域。ジェラルドの周囲、半径1m以内に入った魔法はすべて破壊される。それが何百発であろうと、幾つもの属性が合わせられていようと。
ジェラルドからすれば、魔法を使うユメシュなど敵ですら無かった。そして、ユメシュにとっては天敵であった。
「“星砕き”」
振り下ろされる大太刀。数多の煌めきを纏う最強の斬撃がユメシュを強襲する。いくらユメシュが強力な障壁を展開しようと、魔法である限り防御不可能。
そんな斬撃を前に、ユメシュは魔法を使うようなマネはせず、真正面から杖を横にして受け止めた。その予想通りの行動にジェラルドは心の中ではニヤリと笑みを浮かべながら、一撃で始末するつもりで刃を振り下ろした。
直後、凄まじい衝撃波が発生し、大聖堂の壁面をヒビが走り抜け、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていった。
直哉たちが大聖堂が崩れたことによる土ぼこりで視界を遮られた。が、土煙が晴れ、祭壇の方を見やると、全員の衝撃が走った。
それは、練気術を用いたジェラルド最強の一太刀がユメシュによって、受け止められていたのだ。しかも、ユメシュに目立った外傷は無い。
「フッ!」
ユメシュは星魔剣アルデバランごとジェラルドを薙ぎ払う。ジェラルドは空中で体勢を立て直し、直哉の前に立った。
「親父……!?」
「チッ、中々面倒なことになったな」
震える直哉の声に、ジェラルドは舌打ちを返す。この結果はさすがのジェラルドにも予想すら出来なかったことだ。
だが、今の攻撃の結果が直哉たちに与えた衝撃は大きかった。紛れもなく、最強の英雄が放つ文字通り最強の斬撃を受けてなお、ユメシュはピンピンしているのだから。
勝ち目があるとか、そういう問題ではなくなった。そう、全員が感じていた。もはや人類の脅威である。ユメシュの事をそのように認識した。
「ジェラルド、私はお前を超えることを目標にここまで来た。お前さえ超えられれば、その他の人間など残りかすのようなモノ。時間さえあれば、いつでも殲滅できる」
そう、ユメシュの言う通り。ジェラルドこそが人類最強であり、人類の希望であった。それさえ超えられれば。つまり、ジェラルドさえ倒すことが出来れば、残る人間など相手にすらならない。一方的な殲滅を行なうことが出来る。
あの魔王グラノリエルスとの戦いから21年。ユメシュは完全に先代の魔王を超える力を手に入れていた。
まさに執念とも呼べるモノがそこにはあった。セルゲイであった時に、家族が王都で何者かによって殺され、自分を貧民街出身で薄汚いからという理由で蔑視してきた人間への憎悪。
その執念と底知れぬ憎悪が闇属性の魔法の適性を示し、その威力を増幅させているのだ。そして、自分を蔑んで止まなかった人間たちへの復讐を完了させる。そのために、ユメシュは研究と努力を欠かさなかった。
それが今、人類最強の英雄をも凌駕するほどの力を得ている原点、力の源であった。
「この場でジェラルド。貴様と、来訪者共さえ始末すれば、残りは我が尖兵のみで制圧することは易い」
ユメシュは笑った。今までのような高笑いではなく、復讐に憑りつかれたような笑みで。
「そして!この魔術によって、貴様らを一人一人見るも無残な死体に変えてやろう!」
ユメシュの杖先に暗黒の魔力が収束される。そして、生みだされるのは一つの暗黒の球体。それは一見すると、ユメシュの“暗黒重力球”にも見える。
しかし、その球体からはそれとは比べものにならないほどの嫌なモノを感じた。
それは杖先を離れ、地面を削り取りながら弓を離れた矢のように鋭く、ジェラルド目がけて飛んでいく。
「全員、俺から離れろッ!」
必死の形相でそういうジェラルドの声に戸惑いつつも、直哉たちはすぐに距離を取った。
「“星砕き”ッ!」
山吹色の光を纏った斬撃が暗黒の球体と真正面から衝突する。鼓膜が破れそうになるほどの爆発音が響いた後、吹き飛ばされたのはジェラルドの方であった。だが、爆発の後に暗黒の球体は消滅していた。
それに安堵したのも束の間、衝突地点にジェラルドの持つ星魔剣アルデバランの切っ先と柄だけが地面に落ちているのが見えた。
直哉たちは慌ててジェラルドの元へと駆ける。そして、ジェラルドの状態に息を呑んだ。
ジェラルドの両手の人差し指、中指、薬指、小指が消滅し、親指も第一関節より先が無かった。
これでは剣を振るうことも拳を振るうことも二度と叶わない。そして、ジェラルドが愛用していた星魔剣アルデバランも砕けてしまった。それは死と同義だ。もはや刀身も切っ先しか残っていないのだから。
古代兵器の一つである星魔剣アルデバランですら、一太刀で破壊される。そんな暗黒の球体の正体が何なのか、分からない限りは直哉たちの方から手出しすることは難しかった。
「どうだ?私が対ジェラルド用に編み出した魔術の威力は?」
ユメシュがそう言った刹那、紗希が直哉の脇を駆け抜けていく。水聖剣ガレティアを片手に、敏捷強化魔法を発動した全速力で間合いを詰めていく。
しかし、紗希はすでに手負いの身。敏捷強化を使ったところで、速度は普段よりも半減している。直哉は竜の力を解放した状態で後を追い、連れ戻した。
ユメシュはそんな光景を笑っていたが、無策で死地に向かう妹を放っておくことなど出来ない。それが、直哉の答えであった。
「兄さん!離して!」
「ダメだ」
「何で!?お父さんがあんなにされて!それで、何とも思わないの!?」
紗希は襟首をつかんで離さない直哉に対して、火のついたような言葉を浴びせた。しかし、その言葉を聞いても直哉は怒りの炎を押さえ込むことが出来ていた。本人にも分からないが、不思議なほどに冷静だった。
涙を流しながら喚く紗希に対して、直哉はイシュトイアの柄頭で後頭部を打って気絶させることで答えた。
「直哉君……!?」
聖美は地面に崩れ落ちる紗希の元に駆け寄り、抱き起こす。
「ごめん、呉宮さん。紗希が怒るのは分かるんだ。でも、感情的になって斬りかかるのは違うと思ったんだよ」
直哉は感じたままを言葉に変換して、聖美へと手渡すように語り掛ける。聖美も直哉の言葉に込められた優しさに理解を示した。それは、側に居た茉由や寛之、洋介、夏海の4人も同じだった。
自分の愛しい人が無策で死地に飛び込もうとして居れば、それを止めるのは当然のこと。それを知っているからだ。
「寛之は障壁を展開できるようにして、みんなを守ってくれ。ただ、あの暗黒の球体は障壁では止められない可能性の方が高い」
「分かってる。だから、あの暗黒の球体以外の攻撃は障壁で防ぐ。後は回避に専念する」
寛之はみなまで言わなくても直哉の言いたいことは理解できていた。ゆえに、動けない紗希とジェラルドのことをみんなに託した。
そして、直哉は駆けだす。イシュトイアを手に、因縁の相手へ。
「ハッ!」
再びユメシュの杖先から暗黒の球体が撃ちだされる。その球体に魔法破壊魔法を付加するが、まったく効果はナシ。
「“聖砂爆炎斬”ッ!」
続いて放ったのは、光と砂と、炎が混じりあう三属性の斬撃。今回は叩きつける形ではなく、刀身から刃として放つ形にした。
“聖砂爆炎斬”が暗黒の球体を包み込む。光と砂と炎と闇。この四つが混ざり合うことで大爆発を引き起こす。
こうして、何とか暗黒の球体を消滅させることが出来た。その時に、直哉は暗黒の球体に関しての情報を集め、着実に仮説を立てていっていた。
まず、ジェラルドの指と星魔剣アルデバランを消滅させたことに関して、恐らく触れた物質を取り込むのではないかと推測していた。
取り込むと言ったが、吹き飛ばすという可能性も考えないのか。
そんな自らの仮説に自分なりの反論を並べていく。吹き飛ばすのであれば、ジェラルドの指や星魔剣アルデバランの切っ先以外の刀身が落ちているはず。
だが、見渡してみてもそんなものは見つからなかった。とはいえ、粉々になって吹き飛んだという可能性も捨てきれない。そうであれば、眼に見えないレベルまで小さくなったと考えることが出来るからだ。
それでも、直哉は触れた物質を呑み込むと推測していた。違ったのなら、試してみてから訂正すれば良いからだ。
次に、あの暗黒の球体はそれ以上の破壊力の魔力をぶつければ消滅させられるということ。それはたった今、分かった事。
ジェラルドの“星砕き”にせよ、直哉の“聖砂爆炎斬”にせよ、どちらも桁違いの魔力の奔流を叩きつけていることに変わりはない。 ただ、“星砕き”と“聖砂爆炎斬”の違いは剣を叩きつけたのか、刀身から魔力の刃として放ったのか、という部分のみである。
前者は暗黒の球体を相殺することには成功したが、叩きつけた星魔剣アルデバランは修復不可能なほどに破壊され、使い手であるジェラルド自身も二度と剣を振るえぬ体になってしまった。
対して、後者はといえば、暗黒の球体を相殺できたうえに手傷一つ負っていない。
……もはや違いは明らかであった。
直哉は暗黒の球体が来れば、触れることなく魔法で相殺すると心に決めてユメシュの元へと急ぐ。
「何ッ!?」
暗黒の球体が大爆発を引き起こしたことで、直哉もジェラルドのように戦闘不能へ追い込めたと思い、完全に油断していたユメシュ。
そんな彼に恐ろしい殺意と憎悪を魔法に代わって纏わせる斬撃が雨あられと浴びせかけられる。
「ぐ、おおおっ……!?」
直哉の斬撃を受けるユメシュはその速さに目を見開く。一撃一撃の威力は今のユメシュからすれば、子供の振り回す木刀を大の大人が受け止めるようなモノ。問題は一撃の威力ではなく、圧倒的な手数。
間違いなく、ここまでの死地を抜けてきた経験が直哉の中で生きている。
そう、ユメシュは確信したのだった。
第193話「暗黒の力」はいかがでしたか?
今回はユメシュによって、ジェラルドが戦闘不能に追い込まれる中、直哉が果敢に戦いを挑んでいってました。
次回もユメシュとの戦いになるので、続きを楽しみにしていてもらえると嬉しいです!
――次回「最強の英雄」
更新は11/13(土)の20時になりますので、お楽しみに!





