第192話 因縁の戦い
どうも、ヌマサンです!
今回は直哉と寛之がユメシュに戦いを挑んでいく話になります……!
ルフストフ教国での戦いも確実に終わりに近づいていっているので、引き続き楽しんでもらえればと思います。
それでは、第192話「因縁の戦い」をお楽しみください!
殴り合いを終えた直哉と寛之は一度、地面に腰を下ろした後、再び武器を手に立ち上がった。
「寛之、この聖都フレイスを覆ってる結界って……」
「ああ、僕が張らされたヤツだろうな」
気に入らない、と言葉を付け足すと同時に聖都フレイスを覆っていた黒い結界は晴れた。これには聖都フレイスの外に居る者たちは歓喜した。その歓声が大聖堂の前まで聞こえてくる。
「寛之が張っていた……いや、張らされていた結界は結界内部での闇の魔法・魔術の力を増幅させたり、悪魔や魔人の強化の効果があったんだろうな」
直哉は結界内部での魔王軍の戦いぶりを見ていて薄々勘付いていたことを素直に口にする。
そうであれば、魔王軍が結界の外までフィリスたちを追撃しなかったことといい、結界の内部で戦おうとしていたのかなど、すべての説明がつく。
直哉はそのことを寛之にも包み隠さず話した。
「あと、他の七魔将の相手を引き受けたみんなが来ないことを考えると、みんなが心配だな……」
「七魔将って奴らは強いのか?」
「……ホントに何も知らないんだな」
直哉は寛之に「使えない」とほのめかし、めんどくさがりながらも寛之に七魔将の説明を行なった。
「でも、寛之が結界を解除したから少しは弱体化してるだろうし、みんななら何とかするか」
直哉は聖都フレイスの北門の方を見やる。が、次には覚悟を決めたように大聖堂へと続く長階段へと足をかける。
「直哉、僕も付いていくぞ」
「当り前だ。俺一人を死地に送っておいて、寛之だけのんびり日向ぼっこなんてさせるわけないだろ」
直哉と寛之は一歩一歩を踏みしめるように階段を上り、ついに大聖堂の門の前へと辿り着く。
「たのも~!」
「開けゴマ!」
直哉と寛之は思いつくままに適当なことを言う。どう考えても、場にそぐわない言葉を並べ立てる。本人たちもふざけてる自分たちに大笑いしていた。
「寛之!何で『開けゴマ!』とか言ってんだよ……!」
「それを言うなら『たのも~!』とか、バカにしてるだろ……!」
二人はゲラゲラと笑いながら最終的には扉を破る方針となった。
タイミングを合わせ、同時に扉をぶん殴る。これにより、扉にヒビが入り、次にダブルパンチをぶつけた時には音を立てて大聖堂の扉は崩れ落ちた。
「よし!」
直哉はイシュトイアを引っ提げて、大聖堂へと足を踏み入れる。その後に寛之も続く。
そして、二人の視線の先には祭壇があり、その前には杖を片手に二人を見下ろす紫の毛先に黒髪の男がいた。ユメシュである。
「ほう、守能寛之。お前にかけていた洗脳が解けてしまったらしい」
「ああ、直哉が解いてくれた。お前、僕を洗脳して好き放題使ってくれたんだってな」
さすがの寛之も今まで傷つけてしまった人々のことを思い出したのか、その表情は怒りを滲ませていた。
「まあいい。君はもう用済みだ。後で私があの結界の代用を用意しておくさ。貴様らをまとめて始末した後でな!」
ユメシュは闇の雷を問答無用で発射。しかし、それは半透明の障壁によって阻まれる。
「悪魔の力を得た今、僕の方がお前よりも強い。そして、竜の力を解放した直哉もいる!お前に勝ち目はないぞ!ユメシュ!」
寛之はユメシュを指差し、大声で叫ぶ。それを直哉も笑みを浮かべながら聞いていた。
「なら、試してみれば良い」
ユメシュは短く、そう言葉をかけた。怒りに任せ寛之が突貫しようとするが、その肩に手が置かれる。
「直哉?」
「寛之、頭を冷やせ。その間にユメシュは俺が相手しておいてやるからさ」
そう、怒った状態で戦う。それすなわち、ユメシュの術中に無策で突入するようなモノだ。それに、大方、何かしらの策略で寛之を始末するつもりだったのだろう。
何より、そんな怒り狂った状態で戦うのはダグザシル山脈でディアナと戦った時の自分自身と重なるものがあった。
そういうこともあり、直哉は寛之にその場で頭を冷やしながら自分の戦いを見ているように言って、前へと進み出た。
「そろそろ、俺としてもお前との因縁の対決とかは終わりにしたんだ」
直哉は今までにユメシュと矛を交えること二度。一度目は暗殺者ギルド、二度目は王城。一度目は勝敗はうやむやになり、二度目は両方負けたようなもので明確な勝敗は付かなかった。それに、二度目はクラレンスの加勢があったため、直哉的にはノーカンと言いたいところであった。
「それは私としても同じだ。この場で貴様を始末できれば、私としても文句ナシの大手柄だ」
竜の力を有する直哉の成長速度はユメシュたち魔王軍内部でも警戒に値する存在として扱われていた。それは、人類最強の英雄と謳われるジェラルドと並べられるほどに。
しかも、ユメシュとの戦い以降、八眷属のベルナルドとゲオルグの両名と一対一で互角に渡り合っているのだ。警戒しない方が無理というモノ。
直哉が剣を構え、ユメシュが杖を構える。
その後ろで寛之がゴクリと息を呑んだ刹那。直哉が床を踏み砕くほどのパワーでユメシュへと一息に踏み込んだ。
「ハッ!」
鋭い一閃が見舞われる。それはユメシュの杖によって、辛うじて阻まれたものの、確実にユメシュを胴切りにするつもりの一撃であった。
――前よりも力が増している。
ユメシュは今の一撃でそれを感じ取った。王城で戦った時より、また一段と強くなったことを。
そこからの直哉の剣撃の一つ一つがまともに受ければユメシュの肉体に深手を負わせるものだった。
そんな物騒な斬撃の嵐にユメシュはじりじりと後退を余儀なくされる。
それを見た寛之はスゴイという言葉しか出てこなかった。自分が居ない間にこれほどまでに戦闘技術を向上させていたのか、と。
「"暗黒の息吹”!」
ユメシュの杖先から暗黒の風が放出される。これには直哉も吹き飛ばされそうになる。しかし、次には足に込める力を増やし、地面を叩き割る勢いで耐えた。
次には"暗黒の息吹”をイシュトイアへと付加させ、その風と共に斬りかかる。
ユメシュは舌打ちしながらも、その斬撃の事如くを杖で往なし、それでも防げない斬撃は“暗黒障壁”で受け止めていた。
何とも、凄まじい攻防は縦横無尽に行われ、その衝撃の余波が教会の壁面にヒビを入れていく。
寛之は教会での戦いが決着するよりも、教会が崩れる方が早そうな気がした。
「"暗黒重力波”!」
ドス黒い重力が真上から直哉を押さえつける。だが、冷静さを取り戻した寛之が加勢したことで"暗黒重力波”は解除された。
寛之の拳はユメシュの手で真正面から受け止められたが、ユメシュはその一撃に押された。悪魔の力を得た寛之の膂力は現在のユメシュを若干ではあるが、確かに上回っていた。
その力にユメシュは面倒だと実感した。だが、それ以上に気に入らないという感情の方が大きかった。
何せ、自分が改良した人間が自分よりもスペックで上回っているのだ。実験動物のように格下に思っていた相手が自分よりも強いなど、彼のプライドが許さなかった。
「"黒雷”!」
ユメシュが吹き飛ばされながら、瞬きの間に練り上げた闇の雷の魔法は寛之へと牙を剥いた。直哉は寛之を助けるようなマネはせず、真っ直ぐにユメシュへと疾駆する。
寛之は直哉の態度に苦笑しながら、信頼されているとポジティブに解釈することにした。
直後、黒雷が寛之の元で大爆発を引き起こす。が、寛之は傷一つ負っていなかった。
増幅した魔力をもって、半透明の障壁を展開し、"黒雷”を防ぎ切ったのだ。
直哉としても、それくらいは防げることは初めから分かっていたから、あえて助けなかったのである。
「ハッ!」
直哉は寛之がユメシュの黒雷を防ぎ切った時には直哉はユメシュに対して、斬撃を間髪入れずに見舞っていた。
「“闇水渦”!」
ユメシュは自らの周囲に黒い水流を生みだし、直哉を押し流そうとする。しかし、直哉はその黒い風を纏う剣で水流を切断し、生まれた一瞬の隙を突いて、ユメシュを魔法陣で包囲した。
「“聖魔陣百二十八式”ッ!」
直哉は百二十八もの光魔法の付加を完了させ、一斉にユメシュへと浴びせる。その猛攻は凄まじく、爆発に次ぐ爆発が起こっていた。
ユメシュの体は人間と魔族の融合体。悪魔であれば光魔法は天敵。魔族は悪魔とは違うと言えども、光魔法をこれだけ浴びせれば何かしらのダメージはある。そう、直哉は見ていた。
「なっ……!?」
「おいおい、嘘だろ……」
ユメシュの両手の間にある真っ黒な球体。それが、直哉の“聖魔陣百二十八式”を一つ残らず呑み込んだのだ。
そういえばそんな魔法も使ってたな、と直哉は舌打ちするが、『時すでに遅し』である。
「直哉、僕の所まで戻って来い!早く!」
「“黒炎”ッ!」
寛之の声に弾かれるように直哉は寛之の方へと駆ける。その後ろを追撃してくる黒い炎。それは直哉を呑み込まんと大きな口を開ける。
「障壁展開!」
直哉が寛之の後ろまで戻ったことを確認し、黒い炎を受け止めるべく半透明の障壁が立ち塞がる。
「何!?」
黒い炎はその障壁をも食らい、そのままの勢いで寛之と直哉の二人も呑み込んだ。大聖堂の中は炎に満ち、二人が焼け死ぬか、酸素が足らずに呼吸困難で死ぬか。どちらにせよ、時間の問題だった。
「フハハハハハッ!このまま焼け死ぬがいい!竜の仔、薪苗直哉!そして、守能寛之!」
ユメシュは祭壇の前で杖を片手に、両手を大きく広げ、高らかに勝利を宣言するように笑う。
しかし、大聖堂を満たしていた黒い炎は一瞬の内にかき消された。凍らされたわけでも、風で吹き飛ばされたわけでもない。粉々に砕け散ったのだ。
「よう、ユメシュ。派手にやってるじゃねぇか」
ユメシュが驚きに満ちたその眼で大聖堂の入口を見てみれば、大太刀を肩に担いだ天敵が居た。
ジェラルドだけではない。聖美も茉由も、夏海も、洋介も、紗希も。ここにジェラルドと来訪者組が一堂に会したのだ。
「寛之さん!」
茉由は魔剣ユスティラトを手に、寛之へと駆け寄る。その目には涙を溜めており、数か月ぶりの再会を喜んでいるのは明らかだった。寛之も涙を流し、謝りながら胸元に飛び込んでくる茉由を抱きとめた。
そんな二人の再会に全員が喜びを抱えつつ、直哉の近くまで走って集合した。
「馬鹿な、貴様らは七魔将共が始末しに向かったはず……!」
驚きの声を上げるユメシュをジェラルドは鼻で笑った。ここに自分たちが居る時点でどうなったかくらいわかるだろ、と。
ユメシュはジェラルドの言動から七魔将の全滅を悟り、唇を噛んだ。これは完全に想定外である。
「ユメシュ。今、俺たちの方に投降すれば、ムダな血を流さずに済む。21年前、共に英雄として戦った誼だ、見逃してやってもいい」
ジェラルドからの提案。それには戦友としての誼というよりは、いつでもお前くらい仕留められるから見逃してやる……というニュアンスが含まれている。そう、ユメシュは感じてしまった。
言うなれば、『私に情けをかけるなど何様のつもりだ!』といったところだ。
そして、ユメシュはジェラルドたちの様子を見て、気づいたことがあった。
それは、まともに動けるのはジェラルドと聖美だけだということに。
紗希と茉由、夏海に洋介。この4人はすでに重傷で、まともに戦える体ではないのは見るからに明らかであった。
ジェラルドはそもそもケガを負っておらず、聖美は傷を負ったとしても吸血鬼の肉体再生力で傷が塞がったのだろう。ユメシュは流し見ただけでそのように捉えた。
すなわち、ジェラルドが加わったところで死にぞこないが何名もいる状態の相手に自分が不覚を取るはずがない、と。
そして、直哉と寛之は先ほどの“黒炎”で大やけどを負っている。寛之が回復するのは時間の問題だが、直哉の火傷は癒えることは無い。片方を潰せただけでも、ユメシュは大戦果だと捉えた。
「さあ、どうする?ユメシュ」
「そうだな。そんなものは貴様らを皆殺しにしてから考えるとしよう」
「強がるな。今のお前じゃ、俺たちには勝てねぇ」
「確かに今の私では勝てないだろう。だが、それも問題ではなくなる」
「何……?」
ユメシュがそう言い終えた途端、彼の元に六つの影が集結した。そして、その影が一つ一つユメシュの肉体に重なっていくごとにユメシュの力が増幅していくのが分かる。
「七魔将のうち、バートラム、イライアス、ルイザ、カミラ、ラルフ、ダフネの六体は私が生み出した人型悪魔だ。ならなぜ、あの六体だけ他のホムンクルスとは一線を画す戦闘能力を有していたのか」
淡々と語る。その間にもユメシュから放たれる魔力や威圧感は増していっている。その力の上昇速度に直哉たちは緊張感を増していく。
――それは私の影を与えていたからだ。
そう言われ、聖美たち七魔将と戦った者たちは勝利後に見た光景を脳内で思い返し、ハッとしたのだった。
第192話「因縁の戦い」はいかがでしたか?
ユメシュがまだまだ力を上昇させてましたが、その理由とかも次回で明かされるので、次の更新までお待ちください!
次回から戦いもさらに激しくなっていくので、楽しんでいただければと思います!
――次回「暗黒の力」
更新は11/10(水)の20時になりますので、お楽しみに!





