第191話 わが友よ
どうも、ヌマサンです!
今回は直哉と寛之の戦いになります!
大聖堂の前でどんな戦いが繰り広げられるのか、楽しんでもらえればと思います……!
それでは、第191話「わが友よ」をお楽しみに!
大聖堂の前。そこで対峙する二人。一人は長杖を片手に真っ黒なローブを身に纏う男。もう一人は黒い刀身の剣を提げ、アダマンタイト製の軽鎧を装備した男。
両者は杖と剣を交わし、拳と蹴りをぶつけ合う。接近して戦闘を繰り広げたかと思えば、互いに距離を取り、再び肉薄。
そんな戦いを続けるものの、一向に決着がつく気配は無い。
「寛之!どうしてお前は魔王軍に寝返った!?」
直哉の言葉に返されるのは蹴り。直哉は後退を余儀なくされる。
戦い始めた時からずっと直哉は寛之の攻撃を防ぐのみ。まったく攻めない。
それもそのはず、直哉が望むのは寛之との対話。殺し合いなどでは断じてない。
――ナオヤ、寛之のヤツ、洗脳されとるんとちゃうか!?
直哉はイシュトイアからの言葉を受け、寛之の行動を観察する。確かに身体能力は以前とは段違いに強化されており、魔法の威力、展開速度まで上昇している。
なのに、その瞳からは意志のカケラも感じられない。いわゆる、操り人形のようであった。
「……確かに、イシュトイアの言う通りかもしれないな」
改めて寛之を観察し、イシュトイアの意見が正しそうだという判断を下す直哉。そこに撃ち込まれる杖をイシュトイアで斬り払う。
現在の直哉は竜の力を解放している。そうでなければ、すでに殺されている。ここまで交戦した手応えとしては身体能力、魔力の面から見れば八眷属と同等である。むしろ、魔力量だけでいえば八眷属を上回っている。
だが、直哉も以前よりもずっと強くなっている。それに伴い、竜の力を解放した時の身体能力と魔力であれば八眷属を凌駕している。
それは直哉自身、実際に八眷属たちと戦った手応えから、『今なら勝てる』と確信している。
そんな直哉でも防御のみであれば寛之に押されてしまうというのが現状であった。
「ハッ!」
直哉は息を短く切り、寛之の拳に自らの拳を真正面からぶつける。衝突する。
周囲に凄まじい衝撃波をまき散らし、多くの建物が倒壊した。
まさに天変地異の如き力の衝突であった。
寛之はパワーの次はスピードだとでも言わんばかりに高速で動き回り、直哉に攻撃を叩き込もうとした。が、直哉から見ればそれくらいはお見通しであり、すべて受け止め、往なしてしまった。
その際の攻撃も格闘術の基本は抑えていても、操り人形では直哉には歯が立つはずも無かった。
「イシュトイア、攻めるぞ」
――ああ!
直哉の短い言葉にイシュトイアは『待ってました!』とばかりに声を上げる。第一、『やられっぱなし』という言葉は大嫌いなイシュトイアである。
「フッ!」
直哉は横一閃に斬り払う。それを長杖で受け止める寛之。さすがに安直な技は通じないか、と直哉は確認し、次の攻撃を繰り出す。
続く突き技は半透明の障壁に阻まれ、押し返される。そこに寛之からの前蹴りが叩き込まれる。
直哉は寛之の蹴りの直撃を受け、地面の上を転がった。
「ああ、やっぱり強いな……」
直哉の脳裏にはホルアデス火山での戦いが蘇っていた。紗希、洋介、夏海、茉由の4人の猛攻を跳ね返した。その時の光景が昨日のように思い出される。
であれば、直哉とて手加減していて勝てる相手では無いと理解した。
「“黒風斬”!」
暗殺者ギルドでの戦いでユメシュと戦った際に受けた"暗黒の息吹”を纏わせた黒き風の一撃。
その斬撃は闇と風の二属性を魔力融合させたものであるため、通常の魔法を纏わせた斬撃の4倍の火力を誇る。
「“暗黒障壁”」
寛之の杖先から撃ちだされるのは黒い障壁。それと黒い風を纏う剣が激突する。
「ああああああああ!」
そして、直哉の咆哮と共に障壁が斬り裂かれる。
「“豪風脚”ッ!」
風魔法を纏う直哉渾身の蹴りは寛之の首筋に直撃。寛之は蹴り飛ばされ、大聖堂前の階段へと叩きつけられた。
すかさず直哉は追撃する。再び激しく打ち下ろされる杖と振り上げられる剣とが打ち鳴らされる。
直哉、寛之両名の姿は霞み、縦横無尽に立ち位置を入れ替える。その戦いは大聖堂前の広場を暴れまわるかのようであった。
互いの凄絶な攻撃の応酬に直哉も寛之も傷に傷を重ねていく。寛之の方はダメージを受けようと、悪魔に備わる肉体再生能力で傷が治されていく。それに対して、直哉にそんな自動回復機能は搭載されていないため、打撲によるダメージが蓄積されていった。
しかし、直哉は大嫌いな気合いと根性をもって激痛を制する。そして、数多の戦いの中で磨いてきた剣捌きをもって寛之へと立ち向かう。
「“聖魔陣八十八式”発動!」
直哉が右手を前に突き出すと同時に放たれる光の弾丸による一斉射撃。寛之を取り囲むように展開された八十八に及ぶ魔法陣は寛之へと牙を剥いた。
これほどまでの高速戦闘の中で練り上げた八十八に及ぶ魔法式。並みの魔力量と魔力制御の術では行なえない直哉の必殺技。
その一撃は同じ悪魔であるクロヴィスでも全身を血まみれにするほどの悪魔にとっての再生不可の猛攻。
寛之の元に殺到した数多の閃光。その爆発によって舞い散る土誇りが晴れると、そこにはドーム状の漆黒の結界が現れた。それは聖都フレイスを覆う結界の縮小版のようであった。
次の瞬間には寛之が手を叩く。それと同時にドーム状の結界は波紋のように広がっていく。広場にあった噴水やベンチは粉々になって吹き飛び、例外なく直哉も吹き飛ばされる形となった。
吹き飛ばされた直哉は近くの建物に叩き込まれ、その衝撃で建物が半壊状態となった。そんな直哉が吹き飛ばされた技はホルアデス火山で紗希と夏海が吹き飛ばされたのと同じ。それを思い出したのが遅すぎた。
直哉は寛之の魔法の威力に舌を巻きながら、「よっこいしょういち」などと言いながら近くの瓦礫に腰かけた。
「イシュトイア、思ってた以上に強いな……」
――ナオヤ、血まみれやけど大丈夫なんか?
「……?ああ、これくらい大丈夫だって」
直哉はそういってヘラヘラとしているが、本当は心の中で泣いていた。
「さて、どうやって寛之を倒すかだな」
直哉には分かっている。寛之を倒したところで、何も変わらないことを。
そして、寛之が操られているのだとすれば、自分が寛之と戦うことは操っている相手からすれば来訪者同士で潰し合ってくれていることが何より好都合だということも分かっている。
「イシュトイア、ここで待っていてくれ。ここからは素手でやる」
――ちょ、直哉!?それ、本気で言うとるんか!?
「ああ、じゃないと使えないだろ」
そういって直哉が手をひらひらと振りながら歩いていくのを、イシュトイアは苦笑しながら見送った。
「よし、寛之!今度はこっちでやろうぜ!」
直哉は拳を握った右腕を真正面に突き出した。それに対して、寛之は顔色一つ変えずに突貫してくる。
直哉は笑ってそれを迎撃する。無論、往なして往なして往なしまくる。防戦一方の直哉を見て、寛之は畳みかけようと拳を打ち込む速度を上げ、さらには蹴りをも織り交ぜた肉弾戦を展開する。
だが、直哉は集中して寛之の攻撃を防いでいく。頭の中で優先順位を定め、その順番通りに、随時順番を変更しながら寛之の攻撃を完全防御していく。
直哉は落ち着いていた。そして、落ち着いている状態であれば、いかなる攻撃であっても対処できる。
頃合いを見て、直哉は踏み込みで石畳を叩き割った。その衝撃と飛び散る石片が弾丸のように寛之の肉体を傷つけていく。
寛之が直哉から意識を石弾に意識を逸らした刹那。直哉は寛之の持つ漆黒の杖を掴み、力任せにへし折った。
見たところ、寛之の魔法は漆黒の杖を介して発動されている。それに戦いの中で気づいた直哉はまず、寛之の杖を破壊する方が先決だと判断したのだ。
これで、どれだけ魔法の威力が落ちるのか、それは分からないが、これで直哉も寛之も拳が武器となった。
そこからは再び肉弾戦となり、拳と拳、蹴りと蹴りの応酬が繰り広げられる。互いの攻撃がぶつかるたびに生じる衝撃波は石畳を砕いていく。
「さっきは手加減したが、今度は全力でやらせてもらうぞ!“八魔陣百二十八式”!」
先ほどの“聖魔陣八十八式”よりも四十も多い魔法陣。そして、属性は光だけでなく、炎、水、風、土、雷、氷、闇の七属性が加えられている。
八属性の魔法を十六ずつ配した魔法陣からの一斉射撃。その攻撃はイシュトイアの眼から見ても、直哉が今までに使用した技の中で、桁違いの破壊力を誇っていた。
百二十八の爆発音が響いた後、爆発による煙の中から姿を現したのはまたしてもドーム状の漆黒の結界だった。
これにはイシュトイアが驚いた。直哉の最大火力の攻撃でも貫けない代物なのか、と。
だが、直哉はすでにドーム状の漆黒の結界の前に居た。そして、放つのは右回し蹴り。
寛之の張ったドーム状の漆黒の結界に直哉の蹴りが触れた瞬間。結界が触れた箇所から消滅していった。
直哉が足に付加したのは魔法破壊魔法。これにより、触れた側から魔法が破壊されたのだ。
驚く寛之の顔面に直哉が手を当てる。
――フィオナ母さん。力、使わせてもらうぞ!
今はもう居ない、本当の母親への祈りを込めて、直哉は寛之の記憶に触れる。
深く沈んでいく意識の海。そこは夜闇のように暗かった。しかし、奥から微かな光が見える。
直哉はその方へと力を飛ばす。そして、光の球体を見つけた。その周りには闇が纏わりついていた。それを見て、直感で分かった。
光の球体が寛之の記憶といった意識で、この周囲の闇はそれを押さえ込む、闇魔術による洗脳なのだと。
直哉はその確信と共に闇に包まれた寛之の記憶に触れた。
そう、この力こそが賢竜の力。実の母であるフィオナから受け継いだ竜の力。今までほとんど使ったことが無かったが、貰って一番役に立った瞬間だった。それは間違いなく。
寛之の記憶にこびりついている闇を一掃する。それを確認し、直哉は寛之の顔面から手を引っぺがした。
寛之は無言で地面に崩れ、うつ伏せのまま動かなかった。
――ナオヤ、寛之のヤツ殺ってしもうたんか……!?
「いや、このシーンだけ見ればそうかもしれないが、俺は断じて殺してないぞ!」
戦いが終わったのを見届けて近づいてきたイシュトイアを相手に、直哉は言いたいことはキチンと言い返した。
そんな時、寛之の指先がピクリと動いた。直哉はイシュトイアにいつでも剣の姿に戻れるようにだけ頼み、声をかける。
「おい、寛之」
「……直哉か。僕は一体何を……」
どうやら何も覚えてないらしい寛之。直哉はそんな彼に対して、すべて説明した。王城で裏切ってユメシュと一緒に姿を消したこと。ホルアデス火山で再会したかと思えば、戦闘になって紗希たちがケガをしたこと。全部だ。
寛之は徐々に蒼ざめていっていた。直哉はそれを見ているのが楽しくて、ちょっと話を盛ったりした。
「僕が茉由ちゃんやみんなを……」
寛之は震える自分の手を見ながら、ポツリと言葉を落とす。
「それで、何で魔王軍の側についた?俺はそれが一番聞きたい」
寛之が魔王軍の側についていなければ、ユメシュを王城で仕留められただろうし、ホルアデス火山ではゲオルグとその部下たちをまとめて倒して、大地の宝玉だけでも入手できたかもしれなかったのだ。
――これで適当なことを言ったら、とりあえず百発くらい殴る。
直哉はそんなことを思って尋ねた。
「僕は力が欲しかったんだ。みんなが強くなっていくのに、僕だけ弱いままなんて御免だった……」
「それで魔王軍に入って力を手に入れようとしたってわけか」
「ああ」
直哉は反射的に寛之をぶん殴っていた。吹っ飛んだ寛之は自分の頬を押さえながら涙目で直哉を見つめた。
「俺はお前が弱いなんて思った事、一度もないぞ!ディアナの天空槍を真正面から受け止めたり、自分より強い敵にも向かっていったり!お前は十分強かった!そりゃあ、戦闘中でも目の前で巨乳が揺れてたらそっちに眼が行くクズだけどさ!」
「……って、後半!後半部分は僕の事ディスってるだろ!」
前半は涙を流しながらうんうん頷いていた寛之だったが、直哉が話し終えるなり、そんなことを言って掴みかかっていく。
そこからは軽く十発ずつくらい拳を交わして、双方冷静になった。
「あと、魔王軍に協力したのは、力を手に入れるついでに魔王軍の情報を盗んで、みんなに知らせようと思ってただけなんだよ」
「……でも、その前に洗脳されて良いように使われたんだな」
直哉は小ばかにするようにプッと笑いを漏らした。
そんな漫画とかみたいに二重スパイなんか、寛之に出来るわけないだろって心の中に留めずに全部口に出して音読する。
そして、誰から見ても予想通り。またしても殴り合いのケンカになるのだった。
第191話「わが友よ」はいかがでしたか?
今回で寛之の洗脳を解くことに成功したわけですが、久々に直哉と寛之が友達らしい会話をしているのは懐かしいなと自分で思いました(笑)
次回は直哉と寛之がユメシュに挑む話になります!
――次回「因縁の戦い」
更新は11/7(日)の20時になりますので、お楽しみに!





