第190話 七魔将クロヴィス
どうも、ヌマサンです!
今回は更新が遅れてしまい、申し訳ないです……!
今回はジェラルドとクロヴィスの戦いになります!
はたして、どんな戦いになるのか、見守ってもらえればと思います!
それでは、第190話「七魔将クロヴィス」をお楽しみください!
一人の悪魔の力を得た人間が建物をいくつも突き破っていく。
「グハッ!?」
ようやく地面についたが、背部から叩きつけられるような格好になり、クロヴィスは口から血を吐き出した。
――しかし、呑気に構えていることを頭上から振り下ろされる大太刀が許さなかった。
クロヴィスが叩きつけられた地面を、直線状に衝撃が爆ぜていく。
その衝撃を放った大太刀の刃は地面を離れ、肩に担がれた。
「お前、逃げるのが上手いな。そろそろ追いかけっこも終わりにしないか?」
ジェラルドは別段疲れている様子でもなく、ため息混じりにクロヴィスへと言葉をかける。しかし、言葉をかけられたクロヴィスはすでに息を切らしていた。その身に纏う鎧は建物を突き抜けてきた際に粉々に破壊され、その身をボロボロにしていた。
クロヴィスは片手剣を再度構え、ジェラルドへと向き直った。当のジェラルドはその様子を見て、大太刀――星魔剣アルデバランを漆黒の鞘に収めた。
「……戦闘中なのに武器を収めるのかい?」
「まあな。お前とやり合うには不便だと思ってな」
大太刀と片手剣では間合いが違いすぎる。これでは間合いで劣るクロヴィスが思うように攻撃を仕掛けられない。それでは卑怯だ、とジェラルドは言っているのだ。
ゆえに、射程範囲の長い星魔剣アルデバランを鞘に収めたのだ。そして、大太刀を背負い、所定の位置に落ち着かせた。
それから腰に佩いていた一振りの剣を鞘から抜き放った。
「これは精霊剣フォルセニアだ。八の属性魔法を切断することが出来る代物でな。ちなみに、南大陸の最東端の祠で手に入れた」
ジェラルドは引き抜いた剣の特に関係のない情報をペラペラと喋った。ジェラルドが何を言いたいのか、クロヴィスはそこを考えながら一応話は聞いていた。
「……まあ、そんなことは置いておくとしてだな」
ジェラルドは唐突に会話を切り上げ、真剣な面持ちになった。クロヴィスとしてはツッコミたい箇所が山ほどあったが、それは堪えた。
「この精霊剣フォルセニアなら、お前の片手剣と間合いはほとんど同じだ。これなら――」
――限りなく同じに近い条件で勝負ができる。
そう、ジェラルドは言い切った。クロヴィスも特に異議はないため、快くそれを引き受けた。直後、ジェラルドとクロヴィスの剣士対決が展開された。
クロヴィスは全力をもって、剣を振り下ろす。それをジェラルドは精霊剣フォルセニアで易々と受け止め、力を目一杯込めて弾き返す。
「さすがに八眷属に匹敵するお前を相手するのに、この状態では厳しいか」
ジェラルドは一度間合いを取った後、何やら灰色のオーラを纏った。それは薄っすらとではあるが、確かにジェラルドの周囲に纏われている。
「これ、ヴィゴールとかザウルベックの相手をした時にも使っていたものだ。お前にもこれを使ってやるだけの価値はある。そう、俺が認めたということだ。せいぜい、光栄に思うんだな」
ジェラルドが纏う灰色のオーラ。それは練気術といって、体内の魔力を生命エネルギーに転化する技。魔法でも魔術でもない、ただの魔力を操作する技術。そして、効果としては身体強化魔法に限りなく近い。
――ただし、発動できる時間は1分のみ。
そこまでジェラルドは包み隠さずクロヴィスに語った。
「……そんなにペラペラと自分の力のことを僕に喋っちゃっても良いのかい?」
「ああ、問題ない。どうせ、お前は俺に殺されるだけだからな」
ジェラルドの圧が変わった。上から押さえつけてくる圧倒的なまでの殺気。まるで、先ほどまでの激闘がお遊びのように霞んで見えてしまう。
これにはクロヴィスも本気を出さずにはいられなかった。
「良いだろう、僕も全力でやらせてもらうよ!」
クロヴィスは時間を三倍まで加速させる。ゲイムの地下迷宮での直哉との戦いで解放したのですら、二倍速であった。
竜の力を解放した直哉の相手をした時のさらに1.5倍の速さでジェラルドへ片手剣による斬撃を見舞う。響き渡るのは硬度の高い金属同士をぶつけ合う音。
クロヴィスは直哉を圧倒した高速の斬撃を放ち、凶暴な勢いと共に斬りかかる。だが、ジェラルドはその斬撃のことごとくを弾き、往なしていく。それも片手で。
これにはクロヴィスは絶句した。自らの加速させた斬撃を立て続けに放ったにも関わらず、傷一つ負わせられないどころか、片手ですべて弾かれているのだから。
「クロヴィス。直哉から時間を加速させる面妖な魔術を使うと聞いていたが、所詮はその程度らしいな。ハッキリ言って、失望したぞ」
敵からの失望宣告にクロヴィスは悔しさを通り越して怒りを覚えた。その怒りをぶつけるように斬撃を浴びせていくが、相変わらず片手による完全迎撃。これを崩すことが出来なかった。
そして、クロヴィスが体勢を崩すほどに片手剣が弾かれた。
――このままでは傷一つ負わせることも出来ないで殺されてしまう!
クロヴィスの心の中に焦りという感情が産み落とされた。
しかし、そんな感情に浸ることすら許さないとばかりにジェラルドから追撃が来る。
甚だしいくらいの斬撃を浴びせられるクロヴィス。ジェラルドの片手の斬撃に対して、両手でギリギリのところで防御を重ねていく。
「フンッ!」
ジェラルドから放たれる袈裟斬りに後退を余儀なくされたクロヴィスだったが、石畳を削りながらやっとのことで停止することが出来た。
「さすがにこの手は使いたくなかったけど、使わずに殺されるのは馬鹿馬鹿しいからね」
クロヴィスはさらなる力を解放した。普段なら絶対に使うことが無いほどの力。五倍速の領域。
これを使うのは初めてだが、ユメシュからは肉体がその速度に追いつかないから使用を禁じられている。それは、発動するだけで肉体にダメージが入り続けるため、悪魔の再生能力を常に発動させざるを得なくなる。
これによって、ごっそり体力が持っていかれるのである。それゆえに、発動が禁じられていたというわけだ。
そんなクロヴィスの奥の手である五倍速の斬撃をもってしても、ジェラルドは両手を決して使わなかった。
片手で精霊剣フォルセニアを操り、無数の斬撃を叩き伏せていく。そんな圧倒的な強さの前にクロヴィスは恐怖を感じていた。
だが、その恐怖を怒りという焔の燃料とした。烈火のごとく怒りを帯びたクロヴィスの剣がジェラルドへと襲い掛かる。
斬撃の嵐が周囲に吹き荒れる中、ジェラルドだけが涼し気な顔をしているのだった。
「お前、それが限界らしいな」
弾き飛ばされる。クロヴィスは無様に地を跳ね、建物の壁面に叩きつけられた。建物の壁は放射状に粉砕されてしまう。
ググッと再び力を込め、立ち上がるクロヴィスだったが、ゆっくりと迫りくる絶望が恐ろしく、足がすくんだ。
時を加速させている影響か、建物に突っ込んだ際に負った傷の再生が始まらなかった。
「どうせ……どうせ死ぬなら、一矢報いてやろう」
クロヴィスはよろよろと立ち上がり、さらに力を解放させた。立っているだけでクロヴィスの皮膚に裂傷が刻まれていく。
「行くぞ、人類最強の英雄ジェラルド!」
先ほどのさらに二倍……十倍速の領域。発動しながらにクロヴィスの生命エネルギーは尽きていく。
だが、せめて一矢報いたい。そう思えたのは、漢としての意地なのか。
命を懸けるクロヴィスの姿に、ジェラルドも精霊剣フォルセニアを両手で振るうことで敬意を表した。
片手剣と精霊剣フォルセニアが衝突し、凄まじい衝撃波をまき散らす。
そこからは目にも止まらぬ、灰色の光と燃え尽きようとする命の輝きとが交差しては、離れ、交差しては離れることを繰り返した。
もはや並みの人間には何が起こっているのかなど分からないほどの高速戦闘が展開された。
時の悪魔の力を得たクロヴィスの最速の動きにジェラルドは難なく付いてくる。その表情はまるで、ようやく全力をぶつけられる相手を見つけたと言わんばかりの獰猛な笑みだった。
ジェラルドは動きそのものが加速しているわけではない。クロヴィスの動きに合わせているだけなのだ。合わせると言えば簡単に聞こえるが、一つの光の弾丸とも呼べるクロヴィスの動きに眼が、神経が、思考が付いてくる。
むしろ、十倍にまで時を加速させたクロヴィスの動きを予知とも呼べる精密性をもって応じていた。
ジェラルドの持つ剣が閃く場所にクロヴィスがいる。それが状況の説明として一番相応しいだろう。
そんな激しい打ち合いが旋律のように音をかき鳴らしながら続くこと一分。ジェラルドは最速の剣士に短く言葉をかけた。
「遅いな」
「――ッ!?」
ジェラルドの“星砕き”を防ぎ切れず、クロヴィスは吹き飛ばされた。何度も地面を跳ね、ようやく体勢を立て直す。
クロヴィスは今にも尽きそうな命を宿す肉体をボロボロにしながら片膝をついている。誰の眼から見ても明らかな、肉体の限界。
それを汗一つかかず、涼しい顔で見下ろすジェラルド。ここに力の差が歴然としていた。
――これが人類最強の英雄か。
クロヴィスはそのことを否応なく理解せざるを得なかった。
「英雄ジェラルド。最後に頼みたいことがあるんだ」
「……なんだ?命だけなら助けて欲しいなどという依頼なら、問答無用で斬り捨てるぞ」
「いや、そんなんじゃない。ただ、僕の話を聞いてもらっても良いかい?」
「まあ、死にゆく者の独り言なら聞いてやらなくもない」
クロヴィスは「感謝するよ」とだけ返し、自らの過去の話を始めた。
◇
クロヴィスは南の大陸でユメシュの闇の魔術である悪魔生成術によって生み出された悪魔。その際に媒介として用いられたのはユメシュの指揮下にあるギケイたち暗殺者が殺してきた王国騎士。
こうしてこの世に生を受けたクロヴィスは、魔王城にて戦闘訓練漬けの日々を送り、ユメシュの役に立つためだけに剣の腕を磨いた。
そして、最初に与えられた仕事がルフストフ教国への潜入だった。
「ユメシュ、僕の最初の仕事が人間の国への潜入だなんて……」
「頼む、それは私か君、すなわち人間の血が流れている者にしか出来ない役目なのだ」
ルフストフ教国は“破邪の結界”に覆われており、悪魔や魔族に取っては死地そのもの。
ゆえに、人と悪魔の混じりあった血液が流れているクロヴィスか、闇の力を受け継いだ人間であるユメシュのいずれかが潜入するほかないのだ。
「私は他にやらねばならないことがあるんだ。だから、君に託す」
ユメシュにそこまで言われては、クロヴィスも断れなかった。
そうして、魔族領から船で南の大陸へと渡り、聖都フレイスへとやって来た。
「止まれ!貴様、何者だ!」
「僕はクロヴィス。聖堂騎士団に入りたくて来たんだ」
「ハッ、お前のようなどこの馬の骨とも分からない者が入れるものじゃないんだ!帰った帰った!」
犬でも追い払うような仕草をする門番。それにはクロヴィスは殺意を覚えた。格下の存在である人間にここまで愚弄されて黙っていられるか。
……そう、思ったのだが。
ユメシュからの任務を果たせなければ自分がユメシュに怒られるだけではなく、ユメシュの魔王軍内部での地位に響く恐れがある。
そして、そこは堪えるという決断を下した。
「何をしている?」
そこに現れたのは金色の鎧を身に纏う茶髪を七三分けにした男。
「ジスラン聖堂騎士団長!こいつが聖堂騎士団に入りたいと……」
「ほう。だったら、特別に俺が相手をしてやるよ」
これが聖堂騎士団長であるジスランとの初対面だった。この時の決闘は剣と槍で行なわれたが、何十分戦っても決着がつかなかった。クロヴィスは人間にもこれほどの戦士が居たのかと大層感心した。
そして、その剣の腕前を認められ、アルダリオン教皇の許可を得てクロヴィスは聖堂騎士団副団長の座に就くこととなった。
それから十年に渡り、周辺諸国から南の大陸を守り続けたことでジスランとクロヴィスを並び称して、『双璧』と呼ばれるようになった。
「……そんなジスランを僕は直接殺した」
「なるほどな。まあ、十年来の友人を殺したら死ぬ間際にでもなれば気にはするか」
クロヴィスの過去の話を聞き終えたジェラルドは何度か頷いた。
「まあ、そんな友人と過ごしたこの聖都フレイスで死ねるのであれば、悔いはないだろう」
「そう……だね……」
クロヴィスは力が失われていく中で、周囲の風景を見回す。その瞳は過去を懐かしむかのようで、ジェラルドは悪魔らしからぬ行動だと思った。
そして、風と共に灰と化して消えていった。
それを静かに見送った後、ジェラルドは大聖堂目指して移動を開始したのだった。
第190話「七魔将クロヴィス」はいかがでしたか?
今回はジェラルドがクロヴィスを倒し、クロヴィスのちょっとした思い出話も出てきてました。
今回でユメシュ配下の七魔将が全滅したわけですが、まだまだ戦いは続きます……!
そして、次回は直哉と寛之の戦いになります!
――次回「わが友よ」
更新は11/4(木)の20時になりますのでお楽しみに!
次回はちゃんと時間通りに更新します!それでは!





