第188話 七魔将イライアス
どうも、ヌマサンです!
今回は洋介とイライアスの戦いになります!
純粋な力と力のぶつかり合いになるので、中々戦闘も激しい感じになってます!
それでは、第188話「七魔将イライアス」をお楽しみください!
大地が純粋な力で打ち砕かれる。その犯人は大斧を振るうロイヤルパープルの髪をオールバックにしている中年男――イライアス。
イライアスが振るう武器は二つ。右手の大斧、左手の大剣。
そのうちの右手に握られた武器が大地を破壊したのだ。その桁違いの膂力に対峙する洋介は驚きに目を見張っていた。
イライアスはこの時、闇属性の身体強化魔法を用い、身体能力を高めている。しかも、聖都フレイスを覆う結界がその効果をさらに高めているのだ。
洋介はそれを知らないため、イライアスの力を過大評価せざるを得なかった。
「フンッ!」
「うぐっ!?」
続いて見舞われたのは大剣。それを魔槌アシュタランの柄で受け止めるが、桁違いの衝撃が大槌、自分の体を経由して地面へ。突き抜けた衝撃は大地を放射状に粉砕し、とても立っていられる状態でなくしてしまった。
イライアスはこれまでの洋介との戦いを思い返して、引っ掛かる部分があった。自分は結界内で効果の高まっている闇属性の身体強化魔法を使っているのに洋介が真正面から打ち合えているのはなぜなのか。
その問いがイライアスの頭から離れなかった。
その疑問の答えは洋介が纏っている魔鎧セクメラギによって身体能力が大幅に強化されているため、だ。
とは言っても、装備している洋介自身の身体能力が高いことがもっとも大きな要因であるが。
「“雷霊槌”ッ!」
雷を纏う大槌が振り下ろされ、イライアスの立っていた場所は雷が迸り、地面が放射状に砕かれた。そのクレーターの深さなどの大きさはイライアスと同程度であった。
それはすなわち、現在のイライアスと洋介の純粋な力での勝負は均衡している……ということだ。
その事実をイライアスは客観的に受け止め、吟味した。その結果、洋介と真正面から打ち合っても力を消耗するだけだと考えた。
「ハァッ!」
「フンッ!」
思考中であったイライアス目がけて先ほどと同様、雷を纏わせた大槌が勢いよくイライアスの頭上へと振り下ろされる。それをタイミング的にかわすことは不可能と悟ったイライアスは、大剣を地面に突き刺し、もう片方の手にある大斧を両手で扱って防御した。
そこから一度大槌を押し返し、洋介が体勢を逸らせたところへ地面に突き刺した大剣で横薙ぎに一閃。
さすがに魔槌アシュタランの柄で受け止められてしまったが、その防御自体危ういものがあった。
洋介が大剣を力づくで弾いたタイミングで、続けざまに大斧が振り下ろされる。洋介は大槌の先頭部分の窪みに大斧の刃を引っかけて横へと流した。
そんなやり方で受け流されるなど予想だにしなかったイライアスが体勢を崩す。そんな彼に魔槌を下から上へ半円を描くように振り上げた。イライアスは器用にも大剣を体と大槌の間に割って入らせることで、その一撃を防いでしまう。
だが、さすがに洋介の全力薙ぎ払いにイライアスは後退を余儀なくされていた。
その後も互いの武器は激しく衝突し、その度に地面に亀裂を走らせ、空気を震わせた。
そんな戦いは一見すれば互角に見える。しかし、実際にはイライアスの方が有利に事を進めていた。
実際問題、拮抗しているのは力だけで敏捷性に関してはイライアスの方が遥かに上であった。イライアスとしては力だけでも自分に迫った洋介を高く評価している。何だったら、自分の配下として手元に置いておきたいと思っているほどに。
しかし、イライアスはそれを不可能なことくらいは理解していた。それは対峙している洋介の瞳に表れている。
――何としてもコイツは俺が倒す!
そう物語る瞳を見て、「ワシの配下になるつもりはないか?」などと声をかけられるはずがない。
イライアスはここで洋介を殺してしまうことを惜しいとは思いながらも、油断すれば自分が殺されかねないことも重々理解しているため、全力で洋介を殺しにかかった。
大斧と大剣を起用に使い分けながら、交互に攻撃を浴びせていくイライアス。そんなイライアスの攻撃を紙一重で回避と防御でやり過ごす洋介。
正直、戦いとしてはもうイライアスの勝利でも良いのではないか。そう思えてしまうほどに洋介は押されに押されていた。
――ガキィン!
甲高い金属同士が衝突する音。それは耳に残り続ける嫌な鳴り方だった。
しかし、洋介が不快な音に気を取られている間にも敵からは容赦なく大振りの斬撃が叩き込まれる。
「ウラァ!」
洋介は状況を打開すべく放った渾身の一撃。それはイライアスの大剣と大斧の両方をまとめて薙ぎ払った。これにはさすがのイライアスも驚かざるを得なかった。
こうして生まれた絶対の隙。
「これでもくらえ!“雷霊砲”ッ!」
洋介の手から発射された雷の光線はイライアスを呑み込み、爆散した。イライアスのいた場所を中心に黒い煙が立ち込める。
魔法を発射し終えた洋介が息を切らしていると、黒い煙の中から蹴りが飛び出して来た。
その蹴りが洋介が纏う魔鎧セクメラギに正面からぶつかる。衝撃が洋介の肉体を突き抜け、洋介が事態を把握するよりも早く、後方へと吹き飛ばされた。
そして、轟音を響かせながら地面へと着弾。
圧倒的な破壊力を誇る蹴り。それを放った張本人は手に大斧と大剣を引っ提げて、疾走してくる。
「小童!貴様なんぞ、この場で斬り殺してくれるわ!」
振り上げられる大斧。
――かわせるか?
無理だ。洋介は頭の中で問いを完結させる。連撃をかわせるほどの動きは腹部を潰されるほどに強力な一撃を貰ったばかりの肉体では不可能。大斧を回避した直後に、大剣で首を刎ねられて終わる。
どうあっても、洋介のバッドエンドは避けられなかった。しかし、洋介の中には無茶という突破口が開けていた。
「ぐ、うおぉぉぉ!」
洋介は強力な一撃を貰った腹部に力をこめて、大槌を下から上へとフルスイング。そんな洋介の口からは血が零れる。
ボロボロな肉体で放つ全力の一撃。それはイライアスが振り下ろした大斧と真正面から衝突した。イライアスはそれを見て、ニッと口の端を吊り上げた。ガラ空きの胴に大剣を滑り込ませてやる、と。
しかし、次の光景にイライアスは目を限界まで見開いた。大槌と正面から衝突した大斧にピシッとヒビが走ったのだ。
「馬鹿なッ!?ワシの斧が……っ!」
ただのオリハルコン製の武器と古代兵器では同じ金属を鍛え上げた代物だったとしても、強度に確かな差があった。
洋介は大槌を振り上げた後、再びイライアスへと雷霊砲を浴びせた。大斧にヒビが入ったことに気を取られていたイライアスは回避することが出来なかった。そして、彼は雷の光線に呑まれた。
雷の砲撃が大爆発を引き起こした後、黒煙の中から姿を現したイライアス。彼の右手に握られているはずの大斧は歯が粉々に砕け、柄のみの棒きれと成り果てていた。
イライアスは憤怒の表情と共に、大斧の残骸を打ち捨て、洋介へと突貫。その際に左手に提げていた大剣を右に持ち替えた。
そうして、一息に間合いを詰め直したイライアスから大剣での斬撃が洋介へと見舞われる。
横薙ぎの一撃は姿勢をのけぞらせた洋介に回避される。その際に両肩にかかるように担いでいた魔槌アシュタランを横一文字に薙ぎ払った。それは大気ごとイライアスを吹き飛ばそうかという勢いであった。
しかし、イライアスとて一筋縄で倒せる相手では無かった。右だけで薙いだ大剣を今度は両手で握りしめ、大槌の面ではなく、柄と大槌の継ぎ目の部分へ叩きつけた。それはもちろん、大剣が砕けることを避けるためである。
その後、鍔迫り合いとなった両者は互いを弾いて、距離を取った。
「逃がすか!」
洋介は魔槌アシュタランへと魔力を流し、先頭部分をイライアス目がけて放った。
「温いわッ!」
勢いよく飛んでいく先端部は大剣を放って、両手を自由にさせたイライアスによって真正面から受け止められてしまった。
そして、魔槌アシュタランの先端部をガシッと掴み、そのまま回転を始めた。
「……ぉおおおおおおおおおおっ!!」
ハンマー投げの如く、イライアスは魔槌アシュタランを洋介ごと振り回し始めた。その回転に生じる風は竜巻のようであった。
「飛べぇぇぇい!」
そう言って、両手を離すイライアス。洋介はため込まれた莫大な遠心力によって、空高く舞い上がる。そして、聖都フレイスを囲う分厚い壁へと炸裂した。
洋介が激突した壁は崩壊し、内部の建物が丸見え状態であった。そんな崩れた壁の瓦礫の中から、全身血だらけの洋介が姿を現す。
「何じゃ、まだ生きておったのか」
大剣を肩に担ぎながら崩壊した壁を見やるイライアスは、ゆっくりと地面を踏みしめるように歩き出した。
その間に、洋介は瓦礫の山から這い出す。とはいえ、魔槌アシュタランは瓦礫に埋もれてしまい、すぐに取り出せるような状態では無かった。
洋介は破壊された壁の手前に落としておいたサーベルを拾い上げる。飛ばされたタイミングで、こっそり鞘から出して落としておいたものだ。
そのサーベルを構え、イライアスがやって来るまでに呼吸と迎撃態勢を同時並行で整える。
「そのボロボロな状態でまだ戦うつもりか?」
「ああ、俺はまだ死んでないからな」
イライアスの戦闘継続の確認を洋介はニヤリと笑みを浮かべながら返答した。
「ならば、死ね」
「それはこっちのセリフだ!」
同時の突貫。双方のサーベルと大剣が衝撃と共に交差する。そこからは何度も何度も得物同士が強大な力と共にぶつかり合い、火花を散らした。
殺到する大剣での斬撃。それを洋介は剛剣をもって、弾く。そこからお返しとばかりに袈裟斬りを放つが大剣に易々と阻まれる。
金属が擦れるような音を響かせながら、洋介は弾き飛ばされる。だが、それすらも利用して突きを見舞う。その技は紗希から教わったものだ。曰く、剣は斬るだけではないのだと。
剣の達人である紗希の言葉を洋介は素直に取り入れ、実戦で活かした。これにはイライアスも驚愕していたが、大剣の腹で受け止める。
それを見届けた洋介は着地の体勢を取り、地面を削りながら無事、地に足を付けた。
「オラァ!」
大上段からの振り下ろし。洋介渾身の斬撃をイライアスは表情に苦しみを帯びながらも、何とか受け止めていた。
だが、力だけが取柄である洋介はイライアスをねじ伏せにかかる。渾身のさらに上を行く力を込めて、イライアスを懐から弾き出した。
イライアスは決河の勢いで後退し、地面を十メートル近く削って、ようやく停止した。恐ろしいまでの膂力。
これにはイライアスは恐怖を抱かずにはいられなかった。
それを追撃してくる洋介の猛攻をイライアスは完全防御をもって応じ、そのことごとくを撃墜した。
そこからも双方はもつれ合い、決着の様相を見せなかった。
しかし、次に距離を取った時に双方は確信した。次が最後の一撃になると。互いの体力面はもちろんのこと、魔力の事もだ。イライアスは戦いの中で、常時闇属性の身体強化魔法を発動し続けているのだ。もう魔力は残りわずか。
洋介も全力で魔法を放てるのは残り一回だと自覚していた。そういった覚悟がお互いに通じたのだろう。間合いを取った両者は最後の力を振り絞り始めた。
――そして、五秒の後。
「ぶった切れろ!小童ぁぁっ!」
「いいや、ぶった切られるのはそっちだッ!」
大剣とサーベルの交差。崩れ落ちるのに後も先も無かった。同時に倒れたイライアスと洋介。うつ伏せとなった洋介はわき腹から血を溢れさせる。対して、イライアスは胸部を一刀両断した洋介の全身全霊の“雷霊斬”によって、灰と化していく。
イライアスは極限まで身体強化を施し、洋介は力を腕と踏み込み足に込め、魔力はすべてサーベルに込めた。
結果、敗者のイライアスは灰と化した。そして、勝者である洋介は致命傷ではないにせよ、それに限りなく近い傷を受けた。
「イライアス、思っていた以上に強かった……な……」
洋介はうつ伏せの体勢から仰向けになり、黒い結界に阻まれる青空へと手を伸ばし、意識を眠らせた。
第188話「七魔将イライアス」はいかがでしたか?
洋介も無事に勝利することが出来てましたが、正直一歩間違えればイライアスに殺されていてもおかしくない戦いでした。
残る七魔将は二人になったわけですが、それも次回と次々回で決着します。
そして、次回は紗希とバートラムの戦いになります!
――次回「七魔将バートラム」
更新は10/29(金)の20時になりますので、お楽しみに!





