第180話 初日の激闘
どうも、ヌマサンです!
今回は南の大陸での王国軍と魔王軍の戦いになります!
魔王軍の動きやそれに王国軍がどう対応していくのか、そこを注目して見てもらえればと思います。
それでは、第180話「初日の激闘」をお楽しみください!
「アラン水軍司令!もうじき海岸部に到着します!」
「おう!それじゃあ、船を岸に寄せろ!それと上陸準備も整えておけよ!」
「「はい!」」
アランからの指示にテキパキと動いていく部下たち。それをアラン自身、見送った後で愛用の大斧を肩に担ぎながら、岸の方を眺めていた。
港町アムルノスを出航して八日。大陸間を流れる海流が普段と違っていたこともあって、一日ほど到着が遅れたが、今の段階では誰一人欠けることなくここまで来れていた。
「何とか南の大陸まで来れたな」
「ああ、そうだな。だが、本番はここからだろ?気を抜くなよ、フィリス王国軍総司令」
ニッとからかうような笑みを浮かべながらアランは笑った。それをフィリスはサラッと流した。二人とも、船旅の間は話す機会も多くなったことで、以前よりは距離が縮まっていた。
「アシュレイ、お前は剣をずっと磨いていたようだが、熱心なことだな」
「戦争では何が起こるか分からないもの。念入りに手入れくらいしておかないといけないわよ」
腰に佩く剣を優しく撫でるアシュレイ。その目は剣への愛情を感じさせるモノがあった。
「前から気になってたんだが、アシュレイの使ってる剣ってアダマンタイト製だよな?そんな武器、よく手に入れられたな」
「ええ、以前王都に立ち寄った時に購入したのよ。……というか、どうしてアタシの剣がアダマンタイト製だってわかったの?」
「そりゃあ、オレの使ってる大斧もアダマンタイト製だからに決まってんだろ。光の反射具合とかで何となく分かるんだよ」
「へぇ、そうなのね」
アランとアシュレイが互いの武器について話している間、フィリスは自らの腰に下げているオリハルコン製の長剣を見やった。その剣は代々の王国軍総司令に受け継がれてきた代物なのだ。とはいっても、かつての英雄ジェラルドは使わずに執務室に飾っていただけだったが。
そのことは当時の王国兵たちから受け継がれてきたエピソードだった。それに、最強の英雄はいつの時代の子供たちにも人気だから話が広まりやすいというのもある。
「アラン水軍司令!村です!村が見えます!」
「村……?人影は?」
「ありません!」
双眼鏡で遠くを見ている兵とのやり取りで人影は居ないということは分かった。だが、アランはそれでも警戒を怠らずに近づくように命じた。
そうして、一行の船団はゆっくりゆっくりと岸へと近づき、順番に兵士たちを上陸させていった。先に上陸したのはフィリスたち王国軍。フィリスからの指示で、村の近くに即席で陣営を築き始めた。
運んできた木材で木の柵を作り、簡単なやぐらを組み上げた。そして、簡易型の門を設置した上で、陣地内にテントを張り、駐屯できるように着々と支度を進めた。
陣地の設営開始から二時間ほどが経った頃、大方の設営は完了した。その頃にはアランたち水軍の兵士たちも半分ほどが上陸していた。
「アラン水軍司令。それでは我々は」
「ああ、分かってる。こっちの守りは任せとけ!」
かねてからの打ち合わせ通り、フィリス率いる王国軍七千は道なりに聖都フレイスへと休む間もなく進軍を開始した。そして、アランたち王国水軍一万八百は退路の確保と陣地の設営と防衛を兼ねて陣地に留まった。
――ここからはそれぞれ別の戦いになる。
フィリスたちが上陸した場所から聖都フレイスまでは距離にしておよそ100キロ。歩兵の進軍速度であれば一日30キロ進めれば良い方だ。ゆえに、片道三日半ほどだと試算されていた。つまり、往復はちょうど七日。
その間、アランたちのみで陣地を防衛するという任務が課されることになる。
果たして、聖都フレイスと海岸。そのどちらがここからどうなっていくのか、まだ誰にも予想など出来ない状態であった。
◇
一方、聖都フレイスにある大聖堂では。
「ユメシュ様。どうやら人間たちの軍が上陸し、その半数ほどがこちらへと進軍中のようです」
奥に魔王軍総司令であるユメシュが腰かけており、その眼前にバートラムが片膝を付き、報告を済ませていた。
「そうか。ならば、ここまで誘い出せ。そして、奴らに暗黒結界を拝ませてやろう」
ユメシュは聖都フレイスを覆う規模の巨大さを誇る真っ黒な結界を指差し、高らかに笑っていた。
「さて、恐らくだが、現在こちらに向かってきている軍は南門を攻めるのは間違いない。よって、寛之、クロヴィス。お前たち二人で迎撃するのだ」
「「承知しました」」
ユメシュの発言に異議はなく、寛之もクロヴィスも静かに頭を下げた。
「そして、現在海岸に居る敵軍も軽く叩いて動けないようにしておくべきか……。ラルフ、ダフネ。二人はホムンクルス四千を率いて海岸へ向かえ。短期間で一気に猛攻をかけ、すぐさま撤退するのだ」
「おう、任せてくれ!」
「了解した。言う通りに攻撃を仕掛ける」
ラルフは拳を胸の前でガツン!と合わせながら、獰猛な笑みを浮かべていた。対して、隣のダフネは両目を閉じ、命令通りに動くことをユメシュに対して宣誓した。
「ただ、これによって二人の守る東門は手薄になる。よって、二人が戻るまでの間、イライアスがホムンクルス二千を率いて東門の防衛に当たるのだ」
「フン、任せておけい」
大槌を地面に付きながら、ユメシュへと一礼するイライアス。かったるそうではあったが、ユメシュの命令に逆らうような事はしない性格だ。それを分かっていて、今回の命令を下していた。
「よし、命令は以上だ。くれぐれもゴーレムは現在の位置から動かすんじゃないぞ」
ユメシュはその場にいる七魔将と寛之とを流し見、念押しした。その後、解散となり、それぞれが担当する門の防衛任務を果たすべく、持ち場へと戻っていく。
「さて、スカートリア王国軍がどれほどの実力か、お手並み拝見と行こう」
杖を片手にユメシュは大聖堂の入口に背を向け、ニヤリと笑みを浮かべていた。
◇
「これは……!?」
フィリスたち王国軍七千の目の前には聖都フレイスを覆い隠す真っ黒いドーム状の結界があった。
「フィリス総司令。今からアタシたち、この中に突入するのよね?」
「ああ、そうだ。だが、この結界が何なのか……未知そのものだ。しかし、こんなところで怖気づいているだけではここまで来たのが無駄足になってしまう」
――よって、全軍で突撃する。
その強い意思をフィリスの瞳からアシュレイは感じ取り、ため息をついた。
「……分かったわ。だったら、アタシから突入する」
「何……?」
「さすがに王国軍の要であるアンタから入って、何かあったんじゃ遅いもの」
アシュレイの言うことはもっともであった。ゆえに、フィリスは決断に迷った。
「総司令、アシュレイを先遣隊として派遣するのには私は賛成です。総司令は自らの重責を顧みて頂きたい」
悩むフィリスの隣にやって来た副指令がそう発言する。その言葉は癪に障る部分はあれど、アシュレイとおおむね意見は一致しているため、アシュレイ自身は何も言わなかった。
「……分かった。アシュレイ、頼めるか?」
「任せておいて!」
アシュレイは単身、黒い結界の中へと剣一本で駆けこんでいった。直後、結界内部からはすさまじい金属同士がぶつかる音や、地面を叩き割るかのような轟音が響いてくる。
こればかりはアシュレイが内部で何かと交戦状態になっていることは想像に難くない。
「ええい、私も突撃する!」
「お待ちください!」
アシュレイが5分以上経っても出てこないことにしびれを切らしたフィリスは突撃するべく馬を走らせようとした。それを慌てて、副指令の男が必死に止めていた。
「貴様、アシュレイを見殺しにするつもりなのか!?」
「そうです!高々、新入りの兵一人を失うことと全員が突撃して被害を被るのとでは損失が違います!」
馬にまたがり、フィリスの行く手を遮る副指令。フィリスにも彼の言ってることの理屈は分かる。だが、フィリスの感情はそれを是としなかった。
「確かに副指令の言うことはもっともだ。だが、彼女も新入りとはいえ、私の大切な部下だ。それを見殺しにするなど、死んでも御免だ!」
フィリスは副指令に対して、顔を上げてハッキリと自らの思うところを述べた。そんなフィリスの意見を背後に控える彼女の部下たちは大いに支持した。それに対して、納得がいかない様子なのは副指令ただ一人であった。
よって、フィリスは彼を置いて、結界への突撃を決行した。
戦闘を騎乗し、駆けていくフィリスに士気の向上した王国兵七千はそれぞれの武器を手に躊躇することなく結界の中へと姿を消していった。
「アシュレイ!」
「なっ!フィリス総司令……!」
ホムンクルスと刃を交わすアシュレイは目を見開き、驚きに満ちた表情をしていた。刹那、隙を突きアシュレイを仕留めようと斬りかかったホムンクルスはフィリスの放った魔鉄の矢が全身に突き刺さり、ハリネズミのようになりながら仰向けに倒れていった。
その間にアシュレイはフィリスの元へと下がった。アシュレイがフィリスたちと合流したことで、四方をホムンクルスたちに包囲される恰好となった。
「アシュレイ、無事で良かった」
「フィリス総司令、なぜ突撃を……!」
「今はそのことはいい。一体、この敵の強さはどれくらいだ?」
フィリスが軍を率いて突撃してきたことに対し、不満げであった。とはいえ、自分を助けに来てくれたという喜びも感じてはいた。
そんな中でフィリスからの問いかけにアシュレイはよどみなく、敵の戦力の情報を共有した。
まず、ホムンクルスは並みの王国兵では数人がかりで倒せるかどうか怪しいほどの強さであること。それが何千も居るということに最初こそ兵たちは恐怖を感じていたが、生きるためには倒すしかないということが分かると断然闘志を燃やしていた。
そして、その奥に控える何百体ものゴーレム。それに関しては、まだ辿り着けていないために詳細は分からないことをアシュレイは白状した。
そんなアシュレイの肩にポンッ!と手を置くフィリス。その表情は満足げであり、口にしなくても「良くやった」と言われているようだった。
「よし、只今より包囲網を突破し、結界の外を目指す。ここからは私も全員に目を配るほどの余裕もなくなるだろう。こう言うのは無責任ではあるが、各々が全力で切り抜けて欲しい。とはいえ、皆が進む道は私が先頭に立って切り開く!」
フィリスはそう言い放つと、剣を引き抜いた。そこからはついて来いと言わんばかりに先頭を切ってホムンクルスの包囲網へと突っ込んでいく。兵たちは我先にと進んで行き、その中にはアシュレイの姿もあった。
そこからは王国兵とホムンクルスとの間での乱戦模様が広がった。王国兵が一体のホムンクルスを仕留めた直後、別のホムンクルスに首を刎ねられる。そうして王国兵の首を刎ねたホムンクルスが後ろから別の王国兵に斬り伏せられる。
そんな果てしない殺し合いが続いたが、フィリスとアシュレイが自然に役割分担していることで、犠牲は最小限に抑えられていた。
フィリスが先頭を行き、血路を開く。その後ろに王国軍が続いていく。そして、後方が遅れないように遅れている者たちを手助けしながら、後を追うアシュレイが後方の兵たちを前へと押し上げていく。それは、二人の強者が軍団の前後を挟む形で進んでいく形であった。
こうして、戦い続けること数十分。およそ半数が結界の外へ出た頃、後方のアシュレイたちが苦戦を強いられていた。フィリスはそれを救うべく、再度突撃をかけていく。
「フィリス総司令!?」
「私に構うな!アシュレイ!後ろへ下がれ!」
アシュレイが背後を振り返ると、飛び掛かって来たホムンクルスの刃が迫って来ていた。それは油断したのではなく、ここまでの連戦で気配を察知する神経が鈍ってしまっていたのだ。
アシュレイがここまでかとギュッと目を閉じた刹那、ザシュッと肉を斬る音が聞こえた。恐る恐るアシュレイが目を開けば、目の前に居たのは副指令であった。
「ふ、副指令……!?」
「アシュレイ、私には構うな!これは貴様を見捨てようとした私自身への報いだ……。正直、お前の事は嫌いだが、貴様に総司令の事は任せるッ、私の代わりに力になってやってくれ……ッ!」
副指令は最後の力を振り絞り、目の前のホムンクルスを剣で貫き、果てた。アシュレイは手短に感謝の意を込めた礼をし、その場を後にした。
フィリスと合流したアシュレイたちは無事に結界を抜けた。
「アシュレイ、お前を助けに行ったのに危ない役回りをさせてしまった。すまない」
「いえ、それよりもアタシを助けに来たばっかりに副指令を始め、多くの兵たちが……」
アシュレイは悔いるような表情をしていたが、自分の心の中でも副指令たちの分も自分が生きてフィリスを補佐しなければならないことは理解できていた。そこへ兵士が一人、駆け寄ってきた。
「総司令」
「犠牲はどのくらいだ?」
「ハッ、戦死者はおよそ千、重傷者が二千五百。そして、残り三千五百が軽傷です」
この数十分の戦いで、七分の一が戦死した。その事実にフィリスは動揺を隠せなかった。それほどまでに敵のホムンクルスは強かったということ。
その事実に悲しみが重くのしかかる中、結界の中から黒髪を七三分けにした男が姿を現した。男は真っ黒なローブに身を包み、長杖を手に提げていた。結界から出てきたのは男一人だけでホムンクルスやゴーレムは姿を見せなかった。
「貴様は……!」
フィリスは黒いローブを見に纏う見知った男と思いもよらぬ再会をし、剣を握る右の手を震わせるのだった。
第180話「初日の激闘」はいかがでしたか?
副指令が嫌っていたアシュレイを庇って戦死してしまったわけですが、あんな感じの話が個人的に好きだったりするので、挟んでみたエピソードだったりします。
また、最後に結界の中から出てきた人物が一体誰なのか、予想してみてください。
次回は直哉たちも南の大陸に到着するので、ここからの話がどうなっていくのか、楽しんでもらえればと思います。
――次回「救出と暴走」
更新は10/5(火)の20時になりますので、お楽しみに!





