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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第11章 聖都攻略編
212/251

第176話 変わらないモノ

どうも、ヌマサンです!

今回は紗希の誕生日会の話になります!

とはいえ、直哉がタイトルにあることを考えさせられる回にもなっているので、楽しんでもらえればと思います。

それでは、第176話「変わらないモノ」をお楽しみください!

『紗希ちゃん、誕生日おめでとう!』


「みんな、ありがとう……!」


 今日、3月14日は紗希の16才の誕生日。ド〇クエであれば旅立ちを迎える年齢だ。


 そして、俺たちはホルアデス火山の麓にあるクヴァロテ村にある酒場を貸し切って、紗希の誕生日パーティーを開いている。


 これには俺たち来訪者組とイシュトイア以外にも、ラモーナ姫やラターシャさん、ディエゴさんの三人が出席している。


 そんなメンツに囲まれながら、誕生日を祝われる紗希は嬉しそうに表情をほころばせていた。そんな幸せの一時は楽しい空気に満ちる酒場で行なわれた。


 誕生日パーティーでは恒例のプレゼントを渡したりだとかを行なった。極力、秘密で準備をして紗希をビックリさせようという事で、紗希には黙って全員が密かに準備を進めていたのだ。


 その甲斐あってか、紗希は驚いたりしながらも、より楽しそうにしていた。そんな楽しんでくれている妹の笑顔に俺まで嬉しくなった。


「直哉、ワシまで参加して良かったのかのう?」


「はい。昨日から今日の朝まで紗希の稽古に付き合ってくれてたので。それに、誕生日を祝ってくれる人は多いに越したことはないですからね」


 そう、ディエゴさんは昨日の昼から今日の朝まで紗希の相手をしてくれていたのだ。といっても、夜は紗希が動かないようにラモーナ姫とラターシャさんが監視してくれていたのだが。


 それを考えれば、このサプライズパーティーにラモーナ姫たちが大いに貢献してくれている。


 だから、そのことも説得の材料に付け加えてディエゴさんを納得させた。そして、ラモーナ姫は酒を片手に、楽しそうに紗希に絡んでいっている。


 ……まあ、それを止めるラターシャさんが大変そうではあったが。


 そんなこんなで紗希の誕生日会は楽しく進んでいく。俺はそれをディエゴさんと一緒に少し離れた場所から見守っていた。


「直哉、そんなところに居たのか」


「ああ、洋介か。座れよ」


「ああ、そうさせてもらう」


 俺は椅子を引いて洋介を座らせた。そこからは俺と洋介とディエゴさんという中々レアなメンツで話をしたが、思いのほか盛り上がったので良しとしよう。


 実際に話していて、思い切りのいい性格である洋介とディエゴさんは気が合いそうな感じであった。何だったら、そのまま友達とかになってしまったりしそうな勢いだ。


 それによってポツンと取り残された俺は、自分の脳内に潜ることに決めた。


 今日は紗希の誕生日である3月14日。つまり、俺の誕生日である2月14日から一か月が経ったことになる。今年はバレンタインが無かったから、ホワイトデーもない。何とも味気ないが、クリスマスとかも文化としてこの世界には存在しないので、仕方がない。


 日本に居た頃だったら、親父と母さんと三人でどうやったら紗希を喜ばせられるか、真面目な紗希が早く寝た後で、日付が変わるくらいまで話したこともあった。


 確か、去年は紗希の使う胴着に母さんが刺繍をしたんだっけ。それで、俺と親父は紗希の喜びそうな誕生日ケーキを買いに行ったんだった。


 今となっては遠い日々のように感じてしまうが、まだ一年も経っていないのは驚きだ。


 そうやって思い出してみると、懐かしくてあの家に帰りたいという気分が高まってくる。でも、学校に行きたいという気持ちは湧き上がって来ない。だって、俺が学校で話す人たちは一緒にこの世界に来ているからだ。


 正直、母さんさえこっちに来られれば俺の周囲の人間関係は完結する。とはいえ、アニメが見れなかったり、読みたいラノベの最新刊を買って読むことも出来ない。あと、ゲームもプレイできないし。


 そう考えると、日本に未練があるのは母さんのことと、アニメとラノベとゲームだけか。


 それが解決すれば、ずっとこの世界でも楽しくやれるだろう。あくまで俺は、の話だが。


 呉宮さんや茉由ちゃん、寛之に洋介、武淵先輩は家族や友達にも会いたいだろう。まあ、寛之には友達は居ないから、会いたいのは家族だけだろうが。


 俺はそんなことを思いながら、コップに注がれた水を飲む。水は井戸から汲み上げたものらしく、良い感じに温くて飲みやすい。後は酒場だからか、飲み物は酒しかない。よって、俺たち来訪者組は全員水だ。


 別に飲んでも良いのだが、極力飲まなくて済むようにしている。それは日本に帰った時に清く正しい未成年として帰りたいからに他ならない。


 まあ、武器を振り回して魔物を狩っている辺り、完全には普通の高校生には戻れないだろうが。それでも極力普通の高校生に戻ることになった時、すぐに戻れるようにしておきたいというだけのことだ。


 そんなことも考えたりしているが、しんみりしていては紗希の誕生日パーティーの雰囲気ムードに合わない。


 俺は水を飲み終えてから、盛り上がっている洋介とディエゴさんの二人を置いて紗希のいる輪へと身を投じた。


「あ、兄さん。もう、一人端でチビチビ水なんか飲んだりして――」


「悪い悪い。何か、去年は日本で祝ってたのに今年は異世界で誕生日を祝ってるなんて不思議だなって思ってたんだ」


 俺の言葉に近くにいた呉宮さんと茉由ちゃん、武淵先輩は黙ってしまった。これでは俺が空気を悪くしたみたい……というか、実際に悪くしてしまったんだが。


「よし!今は紗希の誕生日を祝おう!改めて紗希、誕生日おめでとう!」


 俺はパン!と手を叩いて、暗く沈んだ空気を浮かび上がらせようとしたのだが、そう上手くいくものではなかった。


 やはり俺には場を盛り上げるという陽キャ力は無く、暗い空気をより沈めるくらいしか出来なかった。


 そんな俺は居たたまれなくなって、輪からスススッと抜けて、そんな俺は一人寂しく、酒場の外に出て頭上に浮かぶ月をぼうっと眺めることにした。


 これは俺の得意技。この技を使えば、俺がどこ行ったのかなどという要らぬ詮索をされないことはおろか、『いつの間に居なくなったんだろう?』とか言われるのがオチだ。


 現に俺が抜けても、酒場の中からは楽しそうにパーティーに興じるみんなの声が響いてくる。


 人の輪に入れない薪苗直哉はただの陰キャなのだ。いかに陽キャの仮面を被って陽キャのようなキャラを演じても、ちょっとしたところで化けの皮が剝がれる。といっても、コミュニケーション能力の無さなどという遺伝子的欠陥を気にしても仕方ない。


「す~~はぁ~~」


 酒場の入口から通りに面して三段ほどの階段があるが、そこの二段目に腰を下ろし、一段目に足を置く恰好で落ち着いた。


 そうして当たる夜の風は心地よい冷たさであったが、長時間当たっているとじわじわと肌から少しずつ体温を俺の体から削り取っていく感覚がする。まあ、そこまでの薄着はしていないから、体が冷えて辛抱ならないことは無いだろう。


「俺は変わらないな」


 この世界に来て剣を扱ったりして、体力が付いたり、近しい人とは陽キャのように楽しくコミュニケーションが取れるようになっていたから忘れていた。俺はパーティーとか、打ち上げとか、大人数で騒ぐ場が大の苦手なのだ。そんな根本的な部分は何も変わらない。


「はぁ~」


 俺は目の前に息を吐き出してみる。さすがに息が白くなるということは無かった。ここはちょうど良い気温だが、ローカラトの町はどうなんだろう。そんなことを思ってみたりするが、今いない場所の気温など分かるはずもなかった。


「にしても、明日でローカラトの町に帰るのか」


 明日でディエゴさんと別れて、ローカラトの町に帰る。そこまでは行きと同じようにラモーナ姫とラターシャさんが送っていってくれるのだ。


 ゆえに、明日の夜は久々にあの家で過ごせるというわけだ。一週間ほどしか離れていないが、随分と長い間帰っていないような気分だった。


「紗希には悪いが、眠いし先に宿に戻らせてもらおう」


 一人で何をするわけでもなく、ぼうっとしているだけでは眠い。ならば、輪に入って喋れば良いという人もいるだろうが、そういうことが出来ればそもそも外に出てきていない。


「あ、俺眠いから先に帰るわ……」


 酒場の中に入ると、みんな俺が入って来たことはおろか、俺が抜けたことすら気づいていない様子だった。


 そんな中、俺はスタスタとカウンターまで進み、自分が飲食した分のお金だけ払って、そそくさと退散した。


 夜のクヴァロテ村は街灯が無く、明かりが家から漏れてくる光しかない。そのため、基本的に道は真っ暗なのだ。そんな中、何とか宿屋までたどり着いた俺はカウンターで帰ったことを伝え、他のみんなは遅くなるだろうことも宿屋の受付の人に伝えておいた。


 そこからは階段を上がって、二階の部屋へ入る。暗い部屋の灯りを付けると、誰も居ない部屋に少しだけ寂しさを感じた。


 俺はドカリとベッドの上に腰を下ろし、天井を見上げる。一応、部屋は紗希と相部屋にしている。そこにイシュトイアを加えた三人が寝泊まりする。他は呉宮姉妹と、洋介、武淵先輩の二組に分かれて泊っている。


 ふと、俺は一人で何かしようかと考えたが、一人で出来る娯楽はこの部屋にはないため、大人しく寝ることにした。


 ◇


「兄さん、起きて!」


 朝。俺はベッドで大の字で寝ているところを紗希に起こされた。俺のベッドの傍らに立って、前のめりになりながら俺を懸命に揺さぶっているのが、眼を開けてすぐに飛び込んできた。


「おはよう、紗希」


「ふん!」


「なあ、紗希。何をそんなに怒ってるんだよ……」


 紗希は絶対に俺と目を合わせようとはしなかった。というか、起きて早々、紗希が起こっているのは雰囲気で分かった。なぜ分かったかって?そんなのは兄としての直感だ。


 そして、怒っている理由も大体分かっている。恐らく、俺が紗希の誕生日パーティーをコッソリ抜け出して宿で爆睡していたからだろう。


「紗希。昨日のパーティー、勝手に帰って悪かったよ……」


 俺は知っている。こういう時は言い訳などせず、ひたすらに謝るしかないのだと。そして、その後はひたすらに誠実な行動をして、再度許しを請う。他に方法はない。


 だが、激おこぷんぷん丸の紗希は足音を鳴らしながら、部屋を出ていった。その時のドアを閉めるのも勢いが凄まじかった。それはもう、ドアが壊れるのではないかというほどに。


「……ナオヤ、完全に怒らせてしもうたな」


「何だ、イシュトイア。起きてたのか」


「そりゃそうや。ウチは健康的やさかい、早起きなんや」


 イシュトイアは誇らしげに胸を張っているが、イシュトイアが健康的だとか……ぬかしおる。


「まったく、毎回毎回寝坊しているヤツのどこが健康的なんだよ」


「うっ……!」


 図星だ。イシュトイアはそれ以上は何も言わず、黙ってしまった。


 とりあえず、事実とはいえ、イシュトイアを傷つけるような語調で言ってしまったことは素直に謝った。まあ、謝ったら謝ったで「分かればええんや」とか、調子に乗り出したのはムカつくところではあったが。


 そんなこんなで俺たちはローカラトの町に帰る時が来た。


 行きはラモーナ姫に俺と紗希、呉宮さんの3人が乗り、ラターシャさんの方には茉由ちゃんと洋介、武淵先輩の3人が乗って来た。


 だが、帰りはラモーナ姫の方には俺と呉宮さん、洋介の3人。そして、ラターシャさんの方には紗希と茉由ちゃん、武淵先輩の3人が乗った。イシュトイアは行きと変わらず、剣の姿のままで俺の方に居る。


「元気でのう!また遊びに来るんじゃぞぉ!」


 竜化したラモーナ姫とラターシャさんが空へと羽ばたくと、見送りに来ていたディエゴさんが左右に大きく腕を振りながら、見えなくなるまで手を振ってくれていた。俺たちも感謝の気持ちと共に、手を一生懸命に振り返した。


「なぁ、直哉。紗希ちゃんとケンカしたのか?」


 飛び立ってしばらくした頃、洋介がおどおどした様子で聞いてきた。恐らく、聞いて良いのか、ずっと迷っていたのだろう。


 洋介が紗希との事について質問したことで、呉宮さんも聞きたそうにしていた。たぶん、俺と紗希が仲たがいしているのが見ていられなかった感じだろう。


「ああ、たぶん俺が昨日のパーティーを早めに帰って寝たことに対して、怒ってるんじゃないかと思ってるんだが……」


「それは紗希ちゃんに聞いた話?」


「いや、俺の推測だ。聞いても答えてくれないだろうしな」


 紗希は怒ったら基本的に口は聞いてくれない。朝、起こしてくれたのは起こさないとさすがにダメだと思ったのだろう。紗希は怒っていても何だかんだ優しかったりする。


 俺はそんな紗希と仲直りがしたいと素直に洋介と呉宮さん相手に相談した。


 その後、ローカラトの町に着くまで、どうすれば俺と紗希が仲直り出来るのか。そのことで活発に議論を行なったのだった。

第176話「変わらないモノ」はいかがでしたか?

コミュニケーション能力の高い人って羨ましいなって思うことがあるので、それが今回の話を入れようと思ったキッカケだったりします……!

また、直哉が勝手に誕生日会を帰ったことで紗希に口を聞いてもらえなかったわけですが、直哉が紗希と仲直り出来るのか、見守ってもらえればと思います。

次回は幕間でも出てきた物が登場します。

――次回「妹からの提案」

更新は9/23(木)の20時になりますので、お楽しみに!!

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