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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第10章 大地の宝玉編
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幕間3 戦争準備

どうも、ヌマサンです!

今回はスカートリア王国の王城での話になります。

西のヴィシュヴェ帝国と南のルフストフ教国が滅亡したことで、どう動くのかに注目してもらえればと思います。

それでは、幕間3「戦争準備」をお楽しみください!

 直哉たちが港町アムルノスからローカラトの町まで戻ってきた日。フィリスたち王国軍は無事に王都に帰還していた。


「お前たちは兵舎でゆっくりと休息を取っていてくれ」


「ハッ!」


 兵士たちはフィリスへ一礼し、荷物を下ろす作業に取りかかった。それが終われば久々に休みである。家族や友人に会えることに心躍らせながら、兵たちは嬉しそうに作業をしていた。


 フィリスはそんな兵たちを「たるんでいる!」などと一喝することなく、王城へと歩みを進めた。というよりかは、一か月近い急行軍と海賊団ケイレスとの戦いで、兵たちも疲労していることは分かっているため、特例として大目に見ているだけなのだが。


 自分も報告が済んだら、兄や家族の墓参りにでも行こうなどと考えながら、王城の謁見の間へと階段を上っていった。


「王国軍総司令フィリス様、ご到着!」


 扉の両隣の騎士二名が声を張りながら、扉を開ける。扉はズズズッと重い音を響かせる。


 謁見の間には予め人払いでもされていたのか、国王と騎士団長四名の五人のみが待機していた。


 フィリスは何かあったのかと心配になりながらも、玉座の近くまで歩いていく。そして、跪いて一礼。


 顔を上げれば、国王が微笑みながらフィリスを見下ろしていた。歳は四十を超えても、若々しさを感じさせるオーラを放っている。それでも、国王としての威厳にも溢れているところが王たる器であった。


「国王陛下に申し上げます。無事、海賊団ケイレスの討伐が完了いたしました」


「ああ、それはすでに聞いている。海賊団ケイレスの首領、幹部は魔王軍によって殺されたそうだな?」


 フィリスの報告に頷きながらも、より詳細な情報を伝えるように促して来た。


「はい。実際に交戦した薪苗直哉たち来訪者は、海賊団ケイレスの首領たちを殺したのは魔王軍八眷属のベルナルドだと申しておりました」


「八眷属のベルナルド……以前にも港町アムルノスを攻撃した男だな」


 ローカラトの町にヴィゴール、セベマの町にゲオルグが攻め入った際、港町アムルノスを攻めたのはベルナルドであった。そのことを覚えていたクリストフと共に、その場にいる全員が思い出したように「ああ~」と声を上げた。


「そうです、陛下。そして、今回の目的は大海の宝玉とやらの奪取のようでした」


「大海の宝玉……確か古文書にそのような宝玉の記述があったな」


 クリストフは数年前に読んだ古文書に大海の宝玉といった三つの宝玉のことを記されていたのを、断片的に思い出していた。


「さすがに詳細な部分までは覚えていないが、そんな宝玉をわざわざ魔王軍が狙う意味は何だ?」


「私にも皆目見当が付きません。が、目的なしに魔王軍が動くとは考えにくいとは思います」


 その後、謁見の間に居る六人の唸るような声が響くが、特に考えに進展は無かった。ゆえに、その日は解散する流れとなったのだった。


 ◇


 フィリスたち王国軍が帰還してから十日ほどが過ぎた頃、西の大陸と南の大陸から危機一髪逃れた商人たちからとんでもない情報が二つ、スカートリア王国へともたらされた。


 一つ目はルフストフ教国の滅亡。二つ目はヴィシュヴェ帝国の滅亡。


 ルフストフ教国に関しては、アルダリオン教皇共々聖堂騎士団は全滅し、大陸中を逃げ惑っていた信徒たちも魔王軍の手にかかって一人残らず殺害されたことなどが明らかとなった。


 ヴィシュヴェ帝国の方も皇帝はもちろん、それに連なる一族や貴族、平民。身分を問わずに手近なモノから殺戮されていったとのことであった。


 この二つの報せを受け、国王クリストフは貴族や軍の関係者全員を謁見の間へと招集した。余りの緊急招集に戸惑っている者が多かったが、情報は小耳にはさんでいる者もごくわずかではあったが存在していた。


「先日、ルフストフ教国とヴィシュヴェ帝国がそれぞれ魔王軍によって滅亡した。ルフストフ教国は教皇を始め、五千名近い聖堂騎士団、数十万に上る信徒がすべて殺され、ヴィシュヴェ帝国の方も皇帝から貴族から、平民に至るまで生き残った者は居ないそうだ」


 クリストフの言葉に貴族たちに動揺が走る。それも無理はない。ルフストフ教国とは二十年ほど前から大陸間にある島々を巡って、小競り合いを続けてきていた関係であり、西の大陸のヴィシュヴェ帝国とは百年以上にわたって、戦争をしてきた大国である。


 スカートリア王国の近くにある強国が二つとも滅亡したという事実は、普段は楽観的な貴族たちにも重く受け止められた。


「よって、今後の方針を今から話し合いたい。身分も出自も問わない。だから、それぞれの思うところを述べて欲しい」


 クリストフは謁見の間にいる者たちを流し見ながら、言葉をかけた。そして、すぐさま一つの手が上がった。


「レイモンド第一王国騎士団長。意見を申してみよ」


「ハッ、それでは遠慮なく」


 レイモンドは一礼し、居並ぶ貴族たちの中から玉座の前へと進み出た。


「オレは今すぐにでも遠征軍を編成し、西の大陸と南の大陸をまとめて攻め落とすべきだと考える。それも、魔王軍がそれぞれの大陸に拠点を築く前に叩くべきだ」


 レイモンドの意見に、貴族たちは嫌そうな表情を浮かべた。それを見ても明らかなように、守るのではなく攻めるという意見に反対しているようであった。


 レイモンドが意見を述べ終わると、続くようにランベルトが挙手した。


「ランベルト第三王国騎士団長。前へ」


 レイモンドと入れ替わるように前に出たランベルトに全員の視線が向く。そんな状況下でランベルトは淡々と意見を述べ始めた。


「俺はレイモンド第一王国騎士団長の意見には反対だ」


 その言葉に代弁者が表れたと思い、貴族たちはぱぁっと瞳を輝かせた。


「そもそも我が国には現在、遠征に出せるほどの兵力も物資も無い。ゆえに、ここは大陸の南側と西側の守りを固めるべきだ」


 ランベルトはそう言い切った後で、具体的な案を示した。西部には山岳地帯が多いことを挙げ、西にある唯一の港を起点に山岳の麓の街や村にも兵を分散させ、奇襲に備えるというモノ。大陸南部に関しては、ローカラトに兵を固め、魔族領からの攻撃に備える。そして、東からの回り込んで攻撃してくることに備えて港町アムルノスを周辺にも兵を配置するという内容であった。


 これには安全志向な貴族たちは大いに賛同し、ランベルトを称えた。


「お待ちください!」


 ランベルトの意見を採用しようという流れが生まれていた中、新たに手を上げる者が居た。


「シルヴェスター第四王国騎士団長か。前へ」


 クリストフに呼ばれ、記されてが前へ進み出る。ランベルトは居並ぶ貴族たちの列へ戻った。


「僕はレイモンド第一王国騎士団長と同様、攻めるべきだと主張させていただきます」


 レイモンド同様、シルヴェスターにも冷たい視線が注がれる。しかし、それに怯むことなくシルヴェスターは言葉を続ける。


「攻めるとは言っても、僕が提案したいのはレイモンド第一王国騎士団長とランベルト第三王国騎士団長の意見の間を取るような内容です」


 まず、レイモンドのように他国へ攻めるが、西の大陸は攻めずに南の大陸を攻める。その際に南の大陸を奪還するのではなく、あくまで牽制として攻めるだけに留める。こうすることで、スカートリア王国はこの状況下でも攻めてくるほどの気力があると魔王軍に思い知らせることができる。そして、次の一手としてランベルトの案通りに兵を配置し、守りを固める。


 ――まずは攻めて、そこからは守りに入る。


 それをシルヴェスターは伝えたかったのだ。そして、西の大陸を攻めない理由として大陸間の距離が離れているうえに、大陸そのものが広大であり、兵站の補給が困難になるリスクが高いことなどを上げた。


 とはいえ、南の大陸は魔族領を迂回していくというリスクがあることは百も承知である。ただ、どちらかは攻めないといけないため、距離的にも近い南の大陸を攻めるべきだ、という主張になったのである。


「私はシルヴェスター第四王国騎士団長の意見に賛成するわ」


「私も同じく」


 シルヴェスターの意見に手を挙げて賛同の意志を示したのはフェリシアをフィリスの二人であった。


 騎士団と王国軍のトップが二人、賛同を示したことで貴族たちにもちらほらとシルヴェスターの案に賛同する者が出始めた。そして、その後の多数決の中でシルヴェスターの案が採用された。


 その日の謁見の間での貴族たちを集めての会議はそれが決定されたのち、解散となった。


 そして、謁見の間に残ったのは国王クリストフとレイモンド、フェリシア、ランベルト、シルヴェスターの四騎士団長、フィリス王国軍総司令の六人。そこにクラレンスと親衛隊五名を新たに加えた十二名であった。


「父上、なぜ私たちまで……?」


 クラレンスは疑問をそのまま口にし、父へと返答を求める。


「それはお前たちにも関係のある話だからだ」


 クリストフはフィリスにアイコンタクトを取り、フィリスは抱えていた一着の鎧をクラレンスへ手渡した。


「クラレンス、その魔鎧セベリルをそなたに与える。それには身体能力を向上させる効果があるらしいのだ。きっと、これからの戦いでも役に立つだろう」


 フィリスは魔鎧セベリルをクラレンスに与えるべきだという進言をクリストフに対して行なっていた。それこそ、王族であり、実力も備わっているクラレンスこそが身に付けるに相応しいと。


 それによって、直哉たちが受け取らなかった最後の魔鎧セベリルはスカートリア王国王子クラレンスが継承した。


「それと、クラレンス。その剣は何だ?」


 今まで佩いていたモノとは違う剣を腰から提げている我が子にクリストフが声をかける。


 クラレンスは腰に手をやり、鞘から速やかに剣を引き抜いた。深緑色の刀身と柄にはめられた真っ赤な宝石が特徴トレードマークの剣は謁見の間に差し込む光を反射してキラキラと輝いていた。


「これは先日、竜の国から一通の手紙と共に私宛に送られてきたのです」


 クラレンスは剣を鞘に収めながら口を開く。そして、その剣を四騎士団長へと渡す。それからフィリスの手を経由してクリストフの元へ。


「それで、誰から送られてきたんだ?」


「……竜王から」


 『竜王』という言葉に、その場に居た全員が言葉を失い、ぽかんと口を開けていた。いかにも理解が追い付かないという様子であった。


 そこからは竜の国でラモーナという姫と決闘し、勝利したことなど、竜の国であったことを包み隠さずに報告した。


「なるほど、その決闘に勝利したことでお前が竜王に気に入られた……ということか」


「はい。ただ、その剣は以前にジェラルド殿にも渡そうとしたそうです」


「何?ジェラルドに……?」


 クラレンスの言葉に不思議そうな面持ちをするクリストフだったが、今ここに剣がある時点でどういうことか察しは付いていた。


「おおよそ、ジェラルドが受け取らなかったのだろう?」


「そうです」


 クリストフの予想は正しかったため、クラレンスも必要以上に言葉を付け加えるようなマネはしなかった。


「そして、その剣は竜聖剣イガルベーラというらしく、その事についても手紙に記載がありました」


「竜聖剣イガルベーラ……か。詳細はさておき、実際に使ってみたりしたのか?」


「はい。今までに扱ったどの剣よりも軽く、持ちやすいです。まるで、剣先までが指のように自由自在に動かせる感じ……というのに近いかもしれません」


 剣先までが指先のように繊細な動きが出来るというクラレンスの言葉にその場にいる全員が感嘆の声を上げていた。


 そうして、竜聖剣イガルベーラの話は続いたが、フェリシアから本題に戻すように促され、クリストフは本来の話に戻した。


「……先ほどの貴族たちとの話で、まずは南の大陸を攻めるという話になった。よって、兵を派遣することとする」


 クリストフは今までとは違う落ち着いたトーンで淡々と話を進めようとしていた。それはキリッとした国王の表情であった。


「フィリス、王国軍ですぐに動かせる兵の数は?」


「はい、すぐに動かすだけであれば一万四千ほどですが、兵糧などの事をふまえると七千が限界です」


 フィリスはハキハキと明瞭な声で問いに答える。それにクリストフは満足のいったような穏やかな表情を浮かべていた。


「ならば、フィリスに南の大陸を攻める司令官を任せる。王国軍七千を率い、まずは水軍基地へと向かえ」


 そうして即座に指示が下された。フィリスはこの言葉だけですべてを理解した。


 ちなみに、水軍基地にはスカートリア王国の水軍が駐屯している。その数一万二千。海賊団ケイレスとの戦いでは出番が無かったが、先代の王国軍総司令の時は合同で海賊団ケイレスと戦うことが多かった。


 そんな王国水軍と協力して南の大陸を攻めるように、というのがクリストフが言いたかったことである。


 それを理解した上で退出しようとするフィリスにクリストフは続きの言葉をかける。


「第一、第二、第三、第四王国騎士団で合わせて九百ほど騎士を集め、それをクラレンスの指揮下におく。そして、クラレンスはその九百名を率いてフィリスの後に続くのだ」


 クラレンスは自分が呼び出された理由を理解し、遠征の件を快諾した。


 こうして、スカートリア王国は南の大陸で魔王軍と一戦交えるための準備に取り掛かり始めたのだった。

幕間3「戦争準備」はいかがでしたか?

スカートリア王国も軍を南の大陸へ動かしてましたが、それが前回のユメシュたちの動きとどう重なるのか、楽しみにしていてもらえればと思います。

そして、次回はクラレンスに焦点の当たった話になります……!

――次回「気になるモノは気になる」

更新は明日、9/16(木)の20時になりますので、お楽しみに!

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