幕間2 聖都陥落
どうも、ヌマサンです!
今回は幕間の2話目になります。
南の大陸にある聖都フレイスが舞台になりますが、お楽しみいただければと思います……!
それでは、幕間2「聖都陥落」をお楽しみください!
――その日、聖都フレイスは陥落した。
聖都フレイス。それは南の大陸にあるルフストフ教国の首都であり、ルフストフ教の信者たちに崇められる聖地でもある。そんな都市が魔王軍の手に落ちた。
始まりはルフストフ教国が誇る“破邪の結界”が破壊されたことだった。
早朝。陽も昇らぬ時間から、教皇のいる大聖堂の門を潜る一人の男が居た。その男はスチールグレイの髪の剣士であり、身に纏う衣服は泥と血が付いており、見るからに痛々しい。応急処置として慌てて巻いたかのような古びた包帯も泥まみれであった。
「なっ、クロヴィス殿!?」
「……ああ、そうだ。至急、アルダリオン教皇に伝えなければならないことがあるんだ。通してくれ」
その瞳からも『通してくれ』という意志を感じ取った騎士二名は、頷き合ってクロヴィスを通した。元より、クロヴィスはルフストフ教国聖堂騎士団であるジスランと双璧と呼ばれるほどの戦士であったため、聖堂騎士団の中で知らない者は居ないのだ。言ってしまえば、顔パスができるのである。
その調子で騎士たちの守る扉を抜け、数多くの騎士たちとすれ違っていく。そして、大聖堂最奥の祭壇に辿り着いた。そして、そこに居るのは細身で、紫髪の中年の男。纏っている服は白の生地に金色の刺繍が施されたローブ。品の漂うその姿にクロヴィスはめまいを覚える。彼こそがルフストフ教国を統治するアルダリオン教皇である。
「やぁ、クロヴィス。やっと戻って来たのかい?」
「はい、色々とありまして……」
「……色々というのは、ジスラン君が死んだことかな?」
その言葉にクロヴィスは身構えた。なぜ、そのことを知っているのか……と。
「……今の動きで確信したよ。君がジスラン君を殺したんだね」
焦るクロヴィスを尻目に、アルダリオン教皇は笑いをこぼしながら祭壇を降り、クロヴィスの元へとやって来た。
「代々の聖堂騎士団長が持っている指輪。それには私の魂との繋がりがあるものなんだ。その指輪をはめている者が生きている間は、この世界のどこに居ても居場所が分かってしまう」
クロヴィスはジスランから奪った指輪をポケットから取り出し、まじまじと見つめた。ならば、魔王城に滞在していることもすでにバレているのかもしれないと冷や汗が流れる。
「……生きている間という事は死んだらどこに居るのか、分からなくなるという事ですか」
「そうなるね。まあ、反応が消えても指輪は消えた場所にあるから、今まで紛失するような事は無かったんだけどね」
淡々とアルダリオン教皇は真実を語る。クロヴィスはその真実を知り、焦りを募らせていた。
「何より、君からは悪魔の臭いがするねぇ。私としたことが、今までまったく気づかなかったよ」
「何だ、バレてたのか」
クロヴィスは諦めたように笑った。それに対して、アルダリオン教皇は先手必勝とばかりに杖から光属性の魔力弾を何十発と浴びせた。
相次ぐ爆発で煙が立つ中、そこからクロヴィスは片手剣を提げて、飛び出して来た。
それを追尾するようにアルダリオン教皇は光の弾丸の嵐を浴びせる。悪魔の力を持つクロヴィスにとって、急所に当たることは死を意味する。
必死に片手剣を煌めかせて、光の弾丸を弾いていく。何百発と浴びせられたが、数ヶ所のかすり傷だけで済んでいるというところにクロヴィスの剣の腕前が表れていた。
クロヴィスは間合いを詰め、アルダリオン教皇へ近接戦を挑んだ。接近戦において、アルダリオン教皇は杖に秘められた光の魔力を溢れさせ、打撃用の武器としてクロヴィスへ牙をむいた。
アルダリオン教皇の杖術とクロヴィスの剣術。どちらが上かなど、言うまでも無かった。アルダリオン教皇は力でも速度でも競り負けた。
杖を弾いたことを機に、一気に間合いを詰めようとしたクロヴィスだったが、直感的に首を傾けると、その脇を光線が通過していった。明らかに頭部を光の魔力で撃ち抜こうという狙いがあった。
それによって、仕留めるつもりだったことも含めて、事態を理解したクロヴィスは全力で応じることとした。
一閃。クロヴィスはまばたき一回ほどの時間で、アルダリオン教皇の首を斬り飛ばした。斬り飛ばされた首は宙を舞い、地面の上を跳ねた。
「フフフッ、クロヴィス君。どうだい?私の首を刎ねた感想は――」
問答無用で切り刻む。クロヴィスは首だけになっても喋り出すアルダリオン教皇の首を微塵切りにしてします。
そこまでしてようやくアルダリオン教皇は喋らなくなった。首以外の方も何やら不気味に思えたため、首と同様バラバラに解体してしまった。
そして、クロヴィスがアルダリオン教皇の心臓を斬った時、聖都フレイスに入って以来感じていた、締め付けられるような感覚が消えた。
「よし、解除されたか」
悪魔にとっては息苦しいだけだったモノが消えた。そう、今まで聖都フレイスを囲うように展開されていた“破邪の結界”が消滅した。このことから、アルダリオン教皇の心臓と結界は連動していたのだと悟った。
直後、ルフストフ教国中に届くほどの音量で声が響き渡った。
『今、私は天に召され、神の元へと旅立つ!信徒たちよ!これより後、我らが神がこの世界を浄化してくださる!その瞬間を私と共に天より見届けるとしよう!』
アルダリオン教皇の声。どこから聞こえてきたのか、クロヴィスは周囲をキョロキョロと見回してみるが、特に何も見当たらなかった。
気味悪く感じたクロヴィスは連絡用の宝玉を介して、聖都フレイスの外で待機している同胞たちに侵攻開始の命令を出した。直後、聖都フレイスからは男女問わず、様々な悲鳴が聞こえてきた。
「さて、僕もこの辺のお掃除くらいはしておこうかな」
クロヴィスは血の滴る剣を提げ、手近な聖堂騎士団員から順番に血祭りに上げていった。
◇
「クロヴィスから侵攻開始の命令が出ました。我々も進軍するとしましょうか」
宝玉を手にしたバートラムの一言で、イライアス、ルイザ、カミラ、ラルフ、ダフネのそれぞれが率いている部隊に号令をかけ、北門から聖都フレイスへと突入を開始した。これに遅れまいとバートラムも迅速に行動を開始した。
彼らが率いてきた人型悪魔一万四千体とゴーレム八百体は目に移る人を殺戮し、建物に人が隠れればゴーレムが建物ごと破壊して、生き埋めにしていく。逃げ惑う聖都フレイスに住む民衆はただただ一方的に殺されていくのみであった。
肝心の聖堂騎士団は基本的に大聖堂の周辺にしかいないため、戦闘未満の殺戮を続けながら、魔王軍は街へとなだれ込んでいった。
魔王軍の聖都フレイス突入から5分。その短時間で、魔王軍は大聖堂の門前に殺到していた。五千名近い聖堂騎士団が必死に守りを固めているが、魔王軍の数はその三倍であり、その上指揮する七魔将たちが段違いの強さを誇るために、門は5分と経たずに強行突破され、生き残った聖堂騎士団員たちはホムンクルスたちに一人残らず討ち取られてしまっていた。
神の加護があると信じて止まなかった騎士たちの末路は、路傍に遺体は打ち捨てられ、ゴーレムに踏みつぶされ、見るも無残な姿であった。また、原形をとどめていない者が大多数だった。
そんな一方的な殺戮が進み、聖都フレイスの至る所に血の池が形成されていた。それを眺めながら、七魔将たちは大聖堂の最奥に集結した。
「やあ、みんな。無事だったんだね」
「フン、あの程度の雑魚相手じゃつまらんわい」
「そうね。弱すぎて逆に加減が分からなかったわ」
イライアスとカミラはそう言って、抵抗虚しく死んでいった人間たちを嘲笑った。その隣に居たラルフもつられて笑っていた。
「自分は申し訳なかったです。逃げる人を後ろから斬り伏せるなど……」
「私もああいうやり方は好きではないが、これも任務の内だ。割り切れ」
しょんぼりとしているルイザの肩にぽんっと手を置くダフネは、そのまま慰めの言葉をかけ続けていた。
「クロヴィス、思っていた以上に敵が弱かったようですが……その傷は?」
「ああ、教皇を殺す時につけられたものだ」
バートラムも人間たちが弱かったことを話そうとした時、クロヴィスの体が所々傷ついているのが気になったのだ。
「察するに、相手は光属性の魔法の使い手だったようですね」
「ああ、そうだよ。杖から光の魔力を放ってくる相手だったのさ。もっとも、もう始末したんだけどね」
クロヴィスは自らが勝ったんだという事を強調しつつ、バートラムと話を続けた。そうして、七魔将同士で他愛のない会話をしている時に大聖堂の入口に杖を持った二人の男が姿を現した。
その二人の内の片方を見て、七魔将全員がその場で跪き、頭を下げた。そんな七人の脇を通り、男二人は祭壇寄りの場所に立った。
「全員、顔を上げてくれ」
クロヴィスたちが面を上げると、そこには魔王軍総司令のユメシュ。その隣には新入りの寛之が居た。
「全員、よくぞルフストフ教国を陥落させてくれた。ここ数か月に渡り、我らを苦しめ続けた忌々しい神の傀儡どもを一掃することができたのだ。魔王様もさぞかしお喜びになることだろう」
ユメシュの言葉に含まれる喜びは表情にも良く表れていた。それを見て、七魔将も嬉しくなった。主の喜びは臣下の喜びでもあるのだ。むしろ、喜ばずにはいられなかった。
「さて、しばらく我らはこの都市の防衛に当たることとなる」
「……ねぇ、ユメシュ。もしかして、左遷されたの?」
ユメシュの話の途中で、クロヴィスが礼もわきまえずに話を挟んだ。そんなクロヴィスの態度ではなく、言った言葉の事でユメシュの眉間にしわが寄った。
「ほう、クロヴィス。なぜ、そう思ったのかを説明してみろ」
表情からして眉が痙攣しており、機嫌が悪いのは誰の眼から見ても明らかだった。が、クロヴィスは気にせずに話し始めた。
「それはズバリ、ユメシュの戦績が不振だったからでしょ」
「ほう……!」
「最近では三つの宝玉の入手とヴィシュヴェ帝国の陥落は作戦を練って、上手く成功してる。だから、マイナスポイントにはならないと思う。でも、王都での戦闘と滅神剣の奪取は失敗してるよね?ま、滅神剣の方は僕がしくじったからだけどさ」
クロヴィスが言いたいことは作戦立案したモノに関しては最近は上手く事が運び、成果を挙げている。だが、自らが動いたことに関しては失敗している……ということだった。
「……確かにそうかもしれないな」
てっきり、ユメシュが怒りを露わにするものだとばかり思っていた一同は思わぬ反応に驚いた様子であった。
「私は自分で動いた計画は失敗しがちだ。だからこそ、今任されているここの防衛任務をキッチリするべきではないか?」
ユメシュの言葉に全員が感心していた。ルイザに至っては「素晴らしい!」と言いながら、拍手しているほどである。
「それと付け足しておくが、今回の事は左遷ではない。左遷であれば、総司令の地位はすでに剥奪されているだろう?」
ユメシュの一連の説明を受け、七魔将と寛之は納得した上でユメシュから何か指示があるかもしれないと緊張を纏いながら姿勢正しく待機していた。
「総員、戦闘準備だ」
「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」
ユメシュの言葉に全員が大声で返事をする。その声は大聖堂内に反響し、それは空気が震えているかのようであった。
その後、東西南北4つの門の担当を決定させた。
北門の指揮官はクロヴィス、寛之の二名。指揮下の兵はゴーレム二百体と人型悪魔二千体。
ここ聖都フレイスのある南大陸を攻めるものは北側から上陸することがほとんどである。ゆえに、一番戦力を集中させやすい北門に七魔将の中でも腕の立つクロヴィスとそれと並ぶ力を与えられた寛之が当たることになったのだ。
とはいえ、配下の兵は他の門の半数ほどしかいない。が、あえてそうするようにとユメシュからの念入りな指示があったからそのままとなっている。
南門の指揮官はバートラムとイライアスの両名。指揮下の兵はゴーレム二百体と人型悪魔四千体。
バートラムとイライアスの両名はクロヴィスに次ぐ戦闘能力の持ち主である。そんな二人を南門へと配した。そこに意図は無いが、二人は仲が良好であることが一番の理由であった。
そして、西門。西門にはルイザとカミラの二人が守備についていた。思い切りのいいカミラに堅実なルイザを添える形である。配下の兵は南門と同様、ゴーレム二百体と人型悪魔四千体である。
最後、東門にはラルフとダフネの二人が付いている。この二人は何かと一緒に行動することが多かったため、互いの事をよく理解していることが一番の要因であった。そして、配下の兵は南門と同様、ゴーレム二百体と人型悪魔四千体である。
こうして、ユメシュ率いる魔王軍の陣取りは完了し、聖都フレイスを覆うように新たな結界が施されていた。その結界を張ったのは寛之であり、その結界の色は闇の眷属であるユメシュを象徴するかのように真っ黒であった。
幕間2「聖都陥落」はいかがでしたか?
ユメシュたちが聖都フレイスに詰めているわけですが、そこに寛之もいるというね。
いかにも、何かが起こりそうな感じでしたが、どうなるのかは次章で確かめてもらえればと思います。
そして、次回はスカートリア王国の王城での話になります!
――次回「戦争準備」
更新は明日、9/15(水)の20時になりますので、お楽しみに!





