第170話 予想外の再会
どうも、ヌマサンです!
今回は前回でも言ったように予想外の人物が直哉たちの前に登場します。
その人物が誰なのかを予想しながら、読んでいってもらえればと思います。
それでは、第170話「予想外の再会」をお楽しみください!
「……テメェら、もうまとめて消し炭にしてやらぁ」
ゲオルグの怒りを帯びた声に直哉と聖美は肩をビクッと跳ねさせた。生半可にダメージを与えたことがマズかったのか、と瞬時に直哉も理解した。
途端に怒涛の拳蹴が直哉へと集中的に見舞われる。重く鈍い打撃音が直哉の肉体から響いてくる。この時のゲオルグの眼には目の前の敵を殺すことしかなかった。ゆえに、腕や足をへし折ってから心臓か頭のどちらかを叩き潰すことで確実に始末しようとしている。
それゆえに、直哉は必死に防御を積み重ねていく。何より、自分の恋人の前でクレイアース湖での三頭目との戦いのような醜態は二度と晒すことなどできない。
直哉は防御の中でも、ゲオルグの手癖の分析を急いだ。手癖や拳蹴の打ち込まれる速度やタイミングが分かれば、それだけで逆転の一手を打てる。
そんな核心を得ながら、あえて急所以外の攻撃を受け止めていく。そんな双方の戦いぶりに、聖美は完全に介入するタイミングを失ってしまっていた。
ここまで激しく、連続で攻撃を浴びせれば聖美の介入が防げる。そこまで見切った上で、ゲオルグは二人まとめてではなく、各個撃破していく戦法へと変更していた。
ここへ来て頭まで使い始めたゲオルグ。元々身体能力的には竜の力を解放した直哉と互角であった。それでも勝てなかったのは聖美がいるからということもあるが、何より心の中に相手は雑魚であるという驕りがあったからだ。
いかに竜の力や吸血鬼の力が使えるとは言え、ヤツらはただの人間だ。自分が殺戮してきた人間共と何ら変わりはないのだと。
そんな心など、今のゲオルグにはない。全力をもって、目の前の敵を駆逐する。そして、来訪者組の始末と大地の宝玉の奪取という二つの手柄を持ち帰る。そうすれば、他の八眷属たちと大きな差が空けられる。そして、いずれは自分が魔王軍総司令になるのだと。
ゲオルグは自らの野心のために今持てる全力を持って、直哉を叩き伏せる。
「ウラァ!」
ストレートパンチが胸部の前で交差させた腕の交差点へと命中。直哉は痛みをこらえるような表情と共に後ろへと吹き飛ばされた。
直哉が仰向けで倒れるところにトドメを刺すように火球を落とそうとしていたゲオルグの腕に側面から回し蹴りが叩き込まれる。聖美であった。
「直哉君は殺させない!」
「この女ァ……っ!」
ゲオルグは炎を纏わせた腕で豪快に聖美を薙ぎ払う。聖美の敏捷性はゲオルグをわずかに上回るが、攻撃の火力に関してはゲオルグから見れば、警戒するほどの威力では……ない。
聖美の軽々とした体は宙を舞う。が、地面に叩きつけられる直前で一回転し、鮮やかに着地した。直後、目の前にいたゲオルグからの炎を纏う蹴りが叩き込まれるが、軽やかにその場を飛び退き、回避。その軽やかな動きに直哉は感心していた。
「チィッ!」
舌打ちをしながらも、直哉に見舞ったモノに匹敵する拳蹴を聖美に叩き込むが、聖美の方が近接格闘に慣れており、直哉よりも上手く立ち回っていた。聖美はその時、心の中で格闘術の手ほどきをしてくれたミレーヌへ感謝の言葉を送っていた。
だが、攻撃をされている聖美を放っておけない男が一人。ゲオルグの背後から斬りかかる。
ゲオルグはその気配にいち早く反応し、二人から間合いを取った。
直後、一つの光がレーザーのように双方の間の空間に撃ち込まれた。そこに居たのはマルティン。白を基調としている衣服は土や血で、茶色と赤色が随所に付着していた。
そこに一息つくことすら許さず、別の閃光がマルティンを襲った。紗希だ。彼女の水聖剣ガレティアとマルティンの持つ二振りの短剣が交差し、火花を散らしていた。力においては、マルティンの方が上らしく、紗希は競り負けて後方へ弾かれた。
その間にマルティンは仰向けの体を起こし、ゲオルグの元へ。
「マルティン。随分と手こずってるみてぇじゃねぇか」
「それはお互い様だ」
マルティンは目を閉じ、俯いた。そんな会話をしている間に、紗希も直哉と聖美の二人の近くに控えていた。
「ゲオルグ、あの剣士。相当な強さだ。純粋な素早さならオレと良い勝負だ」
「だろうな。俺が相手してるあの二人の強さも人間じゃねぇ」
互いの相手の情報を言葉少なに交換した後、並ぶ3人の敵をどうやって倒すのかをそれぞれが考え始めた。
そんな時、何かに気づいた様子でマルティンはブランドンたちの戦っている空間を見やった。
相変わらず、激戦を繰り広げている6人の頭上から、何やら光が降り注いでいる。それを大地の宝玉が収められていた部屋から見やる直哉たち。
しかし、そこで何かを感じ取った直哉は、即座に洋介たちの頭上にイシュトイアを投擲する。
――ちょっ!?いきなり何するんや!ナオヤ!
イシュトイアが驚くものの、直哉は何も答えない。そんなイシュトイアが3人の頭上へ到達した頃、白い光線が洋介、夏海、茉由の3人の元へと投下された。
「光線をイシュトイアに付加!」
直哉の声が響いた直後、真っ白な光線はイシュトイアへと纏わりつくように収束されていく。そして、地面に斜めに突き立ってからもイシュトイアは光線を浴び続けた。
数秒ほどして光線はピタリと止み、6人の頭上には乳白色の翼を広げた天使かと思うほどの美女が羽を広げて洋介たちを睥睨していた。そして、その女性は乳白色の髪をなびかせながら、地面へ降り立った。
「姉さんか」
「マルティン、無事であったでありんすか」
マルティンを見て安心したのか、天から降り立った女性は優しく微笑んでいた。
「おい、レティーシャ!テメェ、今さら何しに来やがった!」
ゲオルグの様子を見て、レティーシャに対して警戒を強める来訪者組。洋介と茉由はここで勝負を決めようと技の準備をし始めた。
「“雷霊砲”ッ!」
「“氷魔刃”!」
雷の光線と無数の氷の刃がレティーシャへと放たれる。が、レティーシャは魔法で技を放った二人もろとも消し飛ばそうとしたが、それより早く彼女を包むように漆黒の障壁が展開された。
その障壁は洋介の雷も茉由の氷の刃を同時に受けても傷一つ付いていなかった。そして、そんな魔法を発動した男は両目を閉じたまま、遅れてレティーシャの隣に着地した。
「寛之……さん?」
茉由が声を潤ませながら呼んだ名。それこそが、その男の名前である。
「寛之!」
「守能君!」
洋介、夏海からも名前を呼ばれるが、寛之は別段反応するわけでもなく、一瞥しただけに留まった。
「寛之。感謝するでありんす」
レティーシャからの言葉にコクリと頷く寛之。頑なに沈黙を守るその姿に一同、何があったのかと戸惑っていた。
また、隣の大地の宝玉があった部屋からはゲオルグとマルティン、直哉と聖美、紗希といったメンツが揃ってそれぞれの味方の元へ駆け寄っていた。
人数的には七対六で直哉たちの方が不利。実力でも数でも敵の方が上。そのことに直哉たちの瞳は焦りを覚えていた。
「マルティン、テメェはサッサとそれを城に持って帰れ」
「……ああ、言われるまでもない」
来訪者組が動揺している間に、紗希があれほど必死に行かせまいと食い止めていたマルティンにはあっさりと逃亡を許してしまった。これで、直哉たちと魔王軍の宝玉をかけての争いは直哉たちの全敗と言うことになってしまった。
「レティーシャ。テメェは俺の部下たちを火山の上まで連れて行け」
ゲオルグはブランドン、クリスタ、サンドラの3人を見やりながら語った。すでに3人は激闘を経て、傷だらけとなっている。それを踏まえて、これ以上戦わせるのではなく、撤退させるという選択を取った。
それは間違いなく、直哉と戦ったことで来訪者組を警戒しての事であった。このまま戦わせれば、自分の部下が殺されるのは間違いない。そう認識しているのである。
「それは別に良いでありんすが……」
レティーシャが見たのは直哉たち来訪者組。彼らの始末はどうするつもりなのか、と言わんばかりの表情と態度であった。
「竜の力を使うヤツは俺がやる。残りは新入りにでも始末させとけ」
新入り――寛之に直哉以外の来訪者組の相手をさせろ。その言葉にレティーシャは深く頷いた。
「そうでありんすね。じゃあ、ここは二人に任せるでありんす」
レティーシャがブランドン、クリスタの二人と手を繋ぎ、サンドラはブランドンが小脇に抱える状態で、4人は空中へ。乳白色の翼がはためき、一気に頭上の噴火口へと一直線に飛び去った。
「それじゃあ、行くぞ!」
ゲオルグは最初から全力で直哉へと疾駆する。直哉も地面に突き立ったイシュトイアを引き抜き、ゲオルグ目がけて走り出す。
「ハァッ!」
「ウラァ!」
白く輝く光を纏う一閃と特大の魔力が込められた炎を纏う拳とが真正面から衝突する。白と赤が交わる様は紅白戦のようだと来訪者組は感じた。
そんな二色の輝きの中心では凄まじい魔力の奔流が発生している。地面は抉れ、火山の地面と壁にも亀裂を入れていく。何となく、それ以上衝撃を加えたらホルアデス火山も噴火しそう。そんな嫌な思いが、取り残された《《六人》》の脳裏を過ぎった。
「……寛之さん、私たちと戦うって嘘……ですよね?」
一歩、進み出た茉由の言葉。それに寛之は表情一つ変えなかった。それはまるで表情筋が凍り付いているかのようであった。また、登場した時から閉じられたままの両眼。なぜ、目を開けないのか。そこを疑問に思いながらも、茉由は訴える。寛之の心に。思い出に。
「……僕は」
ようやく動いた口元。そこに全員の視線が向く。
「貴様らを殲滅する」
聞きなれた一人称の次に放たれた言葉に全員の体が硬直した。
――今、なんて?
そう、問い返したくなるほどに寛之の言葉は衝撃的であった。
そうこうしているうちに、寛之は杖を構え、戦闘準備を整えたようであった。ショックで剣を取り落としてしまっている茉由を庇うように紗希、洋介、夏海の3人が前へ進み出る。聖美は茉由に寄り添ったまま、その場で待機し動かなかった。
そんな呉宮姉妹が見守る中、紗希と洋介、夏海の3人と寛之の戦端が開かれた。
第一撃。それは紗希の敏捷強化による肉薄からの斬撃だった。
「なっ!?」
紗希の敏捷強化から放たれる胴体目がけての一閃は寛之の腹部を切り裂く……はずだった。そんな紗希の斬撃は寛之が手に持っている漆黒の杖によって、受け止められている。
紗希の攻撃を見切ったうえで、防がれた。そのことにその場全員の動揺は抑えきれなかった。しかも、現在の寛之は両目を閉じている。その様は、まるで心の眼で観ているかのようである。
紗希は悔しそうな表情を浮かべながら、続けざまに斬撃を見舞った。しかし、紗希の剣は寛之の障壁によって、すべて受け止められてしまっていた。
「姉さん。寛之の動きを止めてくれ!」
「ええ、分かったわ!」
夏海は槍を地面に突き立て、魔法の発動を速めるために心身を統一させる。その間に洋介は魔力と力を一点に集中させ、寛之へと前進していった。
「“重力波”ッ!」
最速で発動された夏海の重力魔法。魔法による重力は寛之を押さえつけ、その場に縫い付けた。また、勘のいい紗希は夏海の様子を見て、タイミングを計って寛之と間合いを取っていた。
無言の連携により、その場を動けなくなる寛之。その頭上に飛びあがった洋介の姿。洋介は魔槌アシュタランを振りかぶり、その先端部は雷を帯びていた。
「行くぜ、寛之!“雷霊槌”ッ!」
洋介の槌は寛之の頭部を直撃し、寛之を突き抜けた雷は地面へと放電される。凄まじい黄色の閃光に、十メートルほど離れた場所に居る直哉とゲオルグも足を止めた。
それほどまでの凄まじい一撃。寛之の運命やいかに――
第170話「予想外の再会」はいかがでしたか?
寛之が魔王軍の一員として登場したわけですが、次回からは寛之とゲオルグの二人と直哉たちがそれぞれ戦っていきます……!
火山での戦いはあと2話くらいで終わるので、楽しんでもらえればと思います。
――次回「結界魔法」
更新は8/31(火)の20時になりますので、お楽しみに!





