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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第10章 大地の宝玉編
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第165話 伸びしろ

どうも、ヌマサンです!

今回は直哉が茉由のいる屋敷に行きます。

その庭先が舞台になるのですが、誰の伸びしろなのかに注目してもらえればと思います!

それでは、第165話「伸びしろ」をお楽しみください!

「それじゃあ、行ってくる。留守は任せたぞ、イシュトイア」


「ああ、もちろんや。ほな、二人とも気ぃ付けてな」


 そんなイシュトイアからの言葉を軽く聞き流し、俺と呉宮さんは茉由ちゃんたちのいる屋敷へと歩き出した。ラモーナ姫とラターシャさんは部屋で荷物の整理をするとのことだった。


「ねぇ、直哉君。どう?似合ってるかな?」


「もちろん」


 今日の呉宮さんの服装はシャツと短パンといった動きやすい服装ではない。飾りのない質素なワンピースだ。だが、その質素な感じが呉宮さんの良さを引き立てている。


「直哉君はいつもと服装は変わらないね」


「ああ、これと同じやつを七セットずつ用意しているから。同じやつをずっと着ているようにしか見えないんだよ」


 同じ服を何日も着ているわけではないことをアピールするが、特に呉宮さんから何か言われることはなかった。いや、言いたそうだったが、口には出さなかったと言った方が正しそうだ。


 それにしても、今日の呉宮さんは機嫌が良さそうだ。何か良いことでもあったんだろうか?


 俺としては聞いてみたい気持ちはあるが、無理に聞く必要も無いかと、質問したい気持ちを胸の内に押しとどめた。というか、ルンルン気分に水を差すようなマネはできない。


 俺と呉宮さんは人通りの多い、大通りを抜けて何本か路地を抜けた先の開けた場所にある茉由ちゃんの屋敷へ辿り着いた。


 格子状の門の向こうでは茶髪の少年と柿色の髪をした青年が木刀を打ち合っている。その音が門まで響いてくる。よく見れば、ディーンとピーターさんの二人だ。午前中から剣の稽古とは中々真面目だな。


「エレナちゃん!開けてもらってもいい?」


「あ、はい!ちょっと待っててくれますか!」


 エレナちゃんはそう言いながら、テテテッと可愛らしく走って来る。それを小動物を見るかのような眼差しで見る俺と呉宮さん。何というか、目の保養になる。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


「ありがとね、エレナちゃん」


 俺と呉宮さんは門を開けてくれたエレナちゃんにお礼を言いながら、広い屋敷へと入った。


 相変わらずの広さの庭園に感嘆しながら、奥へと歩いていく。そこでは入口から見えた光景のままだった。激しく木刀を打ち合う音が響いてくるだけだ。


「二人ともいつからやってるんだ?」


「えっと、もう1時間くらいやってますよ。5分おきに休憩は取ってますけど」


 5分おきに休憩を挟みながらでも、1時間も剣術の稽古を続けているのには頭が下がる思いだった。俺なら絶対に5分も続かない。


「二人とも、一度休憩しないと!」


 エレナちゃんが二人にストップの号令をかける。すると、二人はハッとしたように剣を下ろした。


 そんな二人にエレナちゃんは予め汲んでおいた水をコップに入れて、二人に手渡していた。


「あ、直哉さん!お久しぶりッス!」


「聖美さんも来てたのか」


 ディーンとピーターさんの二人は俺たちに気づいたのか、こちらを振り向いて手を振りながらやって来た。


「二人とも、こんな朝早くから剣術の稽古ってスゴイな」


「いえいえ、俺たちもバーナードさんたちに追い付きたいんスよ」


「ああ、今の俺たちじゃ足手まといになっちまう」


 二人とも稽古に励んでいるが、焦り過ぎではないかと感じた。でも、俺がどうこう指図する権限はないから、ほどほどにするようにだけ伝えておいた。


「そうだ、直哉さん!俺と稽古つけてくれないか?」


「……稽古?俺が?」


 突然の提案に驚いたが、紗希や茉由ちゃんでは強すぎてハイレベルすぎて何が起こっているのかすら分からないといった理由だった。確かに、あの二人に稽古を頼んでも強すぎて何も得られないだろうからな……。


 特に紗希に関しては剣の天才だ。天才の九割は教えるのが上手くはない。ここまで言えば、みなまで分かるというモノだろう。


「オッケー、分かった」


 俺は快く了承した。俺も強くなりたいし、ピーターからも何か学べるかもしれないと思ったからだ。


「あの!聖美さんは私に稽古をつけてもらえませんか?」


 隣ではエレナちゃんが呉宮さんに稽古を頼みこんでいた。呉宮さんは戸惑っている様子で俺の方を見てきたが、「引き受けたら?」と軽く背中を押すような一言をかけておいた。とはいっても、呉宮さんの服装はワンピースだ。だから、実際に戦うのは避けて、指導する形にすれば良いんじゃないかという結論に達した。


「それじゃあ、やろっか」


「はい!」


 呉宮さんの笑顔に弾かれるようにエレナちゃんも良い笑顔をしていた。とりあえず、二組に分かれて稽古をつけることになった。


「それじゃあ、やるか。ピーターさん」


「それじゃあ、俺からで。あと、俺のことも呼び捨てでいい」


「おう、分かった。それじゃあ、やるか!ピーター!」


 先に名乗りを上げたのはピーターだった。俺はピーターが木刀を構えたのに合わせ、ディーンから予備の木刀を借り受け、稽古に臨んだ。


「それじゃあ、始めッス!」


 ディーンからの稽古始めの合図と同時にピーターは勇猛果敢に斬り込んできた。俺は難なく受け止め、横へと薙いだ。しかし、軌道が逸れたことで挫けることなく、俺へ横薙ぎの一閃を繰り出してきた。


 それを木刀を縦にして受け止め、弾き返した。弾き返した勢いでピーターは後ろに重心がズレた。が、それを前に戻す時の勢いを利用して木刀を叩きつけてきた。


 とりあえず、その振り下ろしの一撃を後ろに飛び退くことで回避する。だが、ピーターは止まることなく縦横斜め、ありとあらゆる角度から斬り込んできた。


 俺は順番にそれを往なし、反撃としていくつかの斬撃を見舞う。ピーターも俺の下からの斬り上げの速度には驚いているようだった。


 剣速でいえば、俺は紗希と茉由ちゃんには及ばない。だが、下からの斬り上げに関しては茉由ちゃんよりも速い。間違いなく、俺の斬撃の中で一番の速度だ。


 ……まあ、それでも紗希には軽々と防がれてしまうのだが。とはいえ、ピーター相手には十分な剣速だろう。


 その右下からの斬り上げから繋げるように浴びせかけた怒涛の剣撃に、ピーターは押されっぱなしであった。


「ハッ!」


「グ……ッ!」


 俺渾身の袈裟斬りに、ピーターの木刀では勢いを殺せず、腕にまで振動が突き抜けていく。ゆえに、その威力にピーターは木刀を手放してしまっていた。


「……悪い。せっかく、直哉さんに稽古つけてもらったのに」


「あ、ピーター。俺のことも呼び捨てでいいぞ」


「いや、直哉さんを呼び捨てにはできねぇ。せめて、一本取れるようになってから二する」


 木刀を落としてしまったことを気にしているのか、申し訳なさと悔しさが同居したような表情をしていた。


「別にそんなことで怒ったりしない。俺も紗希との稽古ではこんなことはよくあるからさ。ホント、今でも剣を取り落として叱られるんだ」


 紗希との稽古でのことを思い出しながら、俺はピーターに声をかけた。ピーターにはもっと自信を持って欲しい。今のピーターに足りないモノは自分を信じる心だ。斬り込んでくる速度はあるが、斬る時に若干の迷いが生じている節があった。


 そこさえ何とかなれば、もっと早く斬撃を繰り出すことも可能だろう。


 そのことを俺はピーターに正直に伝えた。彼は今、スチールランクの冒険者だ。それは王国の騎士とも互角に渡り合える実力を兼ね備えている証でもある。


 今のままでもピーターは十分に冒険者としては強い部類に入る。だが、俺でもゴールドランクになれた。だったら、ピーターもここまで来られるはずなのだ。


 それを言うなら、ディーンもエレナちゃんも同じだ。ここに居る3人はまだまだ成長の余地がある。俺には3人ほどの成長の余地はない。だからといって、3人に成長を強要するのはおかしいとは思う。


 でも、3人がやる気に満ちているのであれば、その手助けをしたい。それが今だと思う。


「直哉さん、やっぱり強えな……。どうやったら、そんなに強くなれるんだよ」


「紗希の指導の賜物だな。俺からも紗希にもっと二人に合わせた稽古をするように言っておこうか?」


 ピーターさんは少々考える素振りを見せたが、割と決断は早く出た。


「お願いします!俺は、こんなところでくすぶっていたくないんだ」


 ピーターさんは少々必死な表情をしていたが、恐らく兄のスコットさんが王都での魔王軍との戦いで命を落としたことが影響しているのかもしれない。スコットさんはピーターさんを敵の攻撃から庇って亡くなったことは話としてバーナードさんから聞いている。


 ――兄の分も生きるためにも強くなりたい。


 そんな感じの思いから、強くなりたいという今の感情が燃え盛っているのではないだろうか?


 ……そう、俺は推測した。


「分かった。紗希には話を通しておくよ」


「お願いします」


「あ、俺もお願いするッス」


 ピーターさんとディーンはぺこりと頭を下げてくれた。ただ、紗希が引き受けてくれるかどうかは聞いてみないと分からないことは補足説明として話しておいた。


「直哉さん、俺の稽古もお願いするッス!」


「だな。それじゃあ、始めようか」


 俺は建物に立てかけておいた木刀を手に取り、ディーンと対峙した。


「ハァッ!」


 ディーンから横薙ぎに繰り出された斬撃を木刀を縦にして受け止める。俺はそれを弾き返し、そのままの流れで手首を使って剣を捻り、小さく横へと払った。


 ヒュッと音を立ててディーンの喉を掠めるか掠めないか微妙なところを木刀が通り過ぎていく。剣の技では手首の動きも大事になってくると紗希から聞いたことがある。


 俺はそれを実践で使えるかを試してみた。動きが小さい方が狙った場所へ命中させやすいし、動作も大きくするより早く攻撃を繰り出せる。


 この点を踏まえれば実戦でも使えそうだが、純粋な一撃の威力では弱すぎるために決め手としてはイマイチだと判断した。でも、不意打ちくらいには使えそうだ。


 その後、ディーンは果敢に木刀で打ち込んできたが、俺も全力で防御に当たったために一撃も命中せずであった。また、稽古自体も俺が木刀を弾いたことでディーンが転倒し、起き上がろうとしたディーンの目の前に木刀の切っ先を向けたことで決着した。


「ディーン、立てるか?」


「直哉さん、ありがとうッス」


 手を差し伸べ、起き上がらせるとディーンは爽やかな笑みを浮かべていた。正直、俺との稽古で得られるものがあったのか。不安ではあるが、あまり気にしない方が良いだろう。


「直哉君、ディーン君にピーター君。お疲れ様」


 俺たちが稽古を終え、木刀を屋敷内の倉庫にしまっているところに呉宮さんが水を持ってきてくれた。その少し後にエレナちゃんが汗を拭くためにタオルまで持ってきてくれた。


 俺とディーンとピーターさんの3人で汗を流すため、屋敷の風呂を借りた。屋敷の風呂はリラード伯爵家ほどではないが、3人で入るには十分すぎる広さだった。


 ディーンとピーターさんの二人は汗を軽く流し、風呂に浸かることなく出て言ってしまった。俺が一人寂しく風呂に浸かって、何十分も風呂場のすぐ外を流れる小川を眺めていた。


 すると、誰かがガラガラッと勢いよくドアを開けて風呂場に入って来た。


「に、兄さん……」


「先輩、どうしてここに……!?」


 姿など見なくても声で分かる紗希と茉由ちゃんだ。いきなり振り向けば、どんな目に遭うか知れたものではない。とりあえず、目を閉じて水面と睨めっこすることにした。


「紗希ちゃん。先輩、目を閉じてるけど薄っすら開けて見てるとかじゃないよね?」


「兄さんがボクに怒られるようなことは自分からはしないよ。もし、茉由ちゃんの裸を見たら、斬り捨ててから聖美先輩にチクればいいだけだし」


「斬り捨てるのはマズいけど、お姉ちゃんにチクるのは良いかもしれないね」


 何やら俺と同じ湯船に浸かっているお二方が物騒なことを話しているが、斬り捨てられた後に呉宮さんに怒られるのだけは避けたいので、俺は接着剤で引っ付けられたんじゃないかというレベルで目を開けずに10分の時を過ごした。


 なぜ、10分だったか。それは俺がのぼせそうになり、そそくさと浴場を後にしたからだ。迅速に着替え、浴場の外へ転がり出る。


 その後は、1階の食堂でディーンとエレナちゃん、ピーターさん、シルビアさんに洋介と武淵先輩といた屋敷の住人の方々と他愛のない話をして紗希と茉由ちゃんが風呂から上がるまでの時間を潰した。


 二人が風呂から上がって来たタイミングで、来訪者組6人で寛之の使っていた書斎へと場を移してホルアデス火山にある大地の宝玉を取りに行くことを話し合った。


 結論としてはホルアデス火山へ向かうことに誰も異論は唱えなかった。むしろ、旅費を抑えて遠出が出来ると女性陣は歓喜していた。


 また、ラモーナ姫とラターシャさんの二人が来ていることも伝えると、二人にも久々に会いたいという話になり、明日は俺の家で二人の歓迎会をするという話が俺の同意なく決定されてしまったのだった。


 ……全員分の料理を作るの、俺なのに。あんまりだ。

第165話「伸びしろ」はいかがでしたか?

今回は直哉がピーターとディーンの二人と稽古をしたわけですが、そこにエレナを加えた3人の伸びしろという話でした。

そして、来訪者組の間でもホルアデス火山へ行く話もまとまったところで、次回で出発になります!

――次回「出発の時」

更新は8/16(月)の20時になりますので、お楽しみに!

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