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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第9章 大海の宝玉編
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第145話 別れと成長

どうも、ヌマサンです!

今回から第9章「大海の宝玉編」のスタートです!

ここからしばらくは平和な話が続くので、くつろぎながらお楽しみください。

それでは、第145話「別れと成長」をお楽しみください!

 王都での戦いから2週間が経った頃。直哉たちはウィルフレッドとローレンス、ミゲル、スコット、ムラクモの5人を王都の墓地に埋葬し、ローカラトの町へと帰還した。


 基本的にこの世界では土葬が主流であり、これは火葬では死者の亡骸を燃やすことに抵抗感を覚えるものが多いからである。出来る限り、生前の姿に近いままでという生きる者の想いが籠っているのだという。


 そんなわけで、土葬では肉体が腐る前に埋葬しなければならない。ゆえに、王都からローカラトまで遺体を運ぶことが出来ないのだ。もし、運んだとしても遺体は腐っているためにとても見られるような状態ではない。また、腐敗臭もするために様々な問題が生じる。


 そのように数多くの問題を抱えているため、この世界では死者は亡くなった土地で土葬するというのが一般的なのだ。


「せめて、故郷とかで埋葬させてあげたかったな……」


 直哉がポツリとこぼした言葉に聖美と紗希も同意した。紗希と茉由もウィルフレッドたちの葬儀が終わってから、5人の死が伝えられた。紗希は涙を流せるだけの精神的余裕があったが、茉由は悲しんでいるようであったが深く落ち込むだけで涙すら流れなかった。


「寛之さん、どうしてあんなことを……」


 冒険者ギルドの前で停車した馬車の中。マリエルが御者を務める馬車の後方で、茉由はぶつぶつ独り言を言っていた。茉由の精神はズタボロであることは間違いない。理由も告げられず、突然恋人に居なくなられたのでは元気を出そうにもその事が引っ掛かって仕方なくなるモノである。


「兄さん。ボク、茉由ちゃんとあの屋敷に一緒に住むよ。いくらなんでも、あの広い屋敷に一人にするのはマズいだろうから」


「ああ、分かった。茉由ちゃんのことは紗希に任せるよ。あと、荷物は後で俺が運んでいくからな。紗希は茉由ちゃんに付き添ってやってくれ」


「ありがとう、兄さん」


 その微笑みは、どこか物悲しげな雰囲気を感じさせる笑顔であった。


「ナオヤ、馬は借りたところに返して来たで」


 イシュトイアとセーラ、テクシスの冒険者5名が馬を貸している店の方から帰ってきた。


「おう、お疲れ様。悪かったな、パシリにしたみたいで」


「そんなこと、気にせんでええわ。それより、ギンワンたちから話があるらしいわ」


「……話?」


 直哉がそう言ってギンワンたちの方を見ると、直哉とバチッと目が合った。


「イシュトイアと呉宮さんは先に家に帰っててくれ」


「うん、分かった」


 聖美はイシュトイアの手を引いて、直哉の家の方へと向かっていく。直哉が歩いてくるのを見て、セーラはギンワンたちと別れて何でも屋へと帰っていった。


「ギンワンさん、話っていうのは?」


「ああ、我々もテクシスの町に戻らなければならないからね」


 そう、ギンワンたちはローカラトの町からさらに遠いテクシスの町からやって来ている。ギルドマスターとしての仕事も放りだして、直哉と一緒に王都まで行ってくれたのだ。これには感謝しかない。だが、それと同じくらいに申し訳ないという気持ちで一杯であった。


「直哉、私たちが勝手についていきたいと申し出たのだ。ムラクモのことは、君のせいではないがね」


 直哉の言いたそうにしていることを察してか、ギンワンは優しく直哉の肩に手を置いた。しかし、その手は震えていた。恐らく、ムラクモの話題を出したことで、ムラクモの死を思い出したといったところか。


「ギンワンさん、ヒサメさん、ビャクヤさん、アカネさん、ミズハさん」


 直哉は順番に5人とそれぞれ視線を交わしていった。5人は直哉が何を言おうとしているのか、それを考えているような眼差しを直哉に注いでいた。


「長い間、お世話になりました……ッ!」


 長いと言っても、ほんの1ヶ月ほどの話だ。しかし、それが1年にも感じられるほどに色々な出来事が重なった。直哉はそんな出来事を思い出して、自然と涙がこぼれた。


「……それを言うなら、世話になったのは私たちの方なのだがね」


 ギンワンも潤んだ声で直哉に手を差し出した。直哉はそれを見て、その手を握った。


「皆さん、体調とかには気をつけてください」


「ああ」


 ギンワンは涙を流しながら、笑みを作った。握手を終えて、ギンワンはジョシュアの用意した馬車へと乗り込んでいく。


「直哉、また会いましょう」


「はい、次に会った時はまた稽古つけてください」


 ギンワンに続いて、ヒサメと握手をする。最後の握手もヒサメの涙が直哉の手にポタポタとこぼれてきていた。


「直哉、ごめんなさいね。何だか、涙が……」


「いえ、謝ることじゃないですよ。近いうち、またみんなと一緒に会いに行きます」


「ええ、必ずよ」


「はい」


 ヒサメは顔と同じくらいの高さに掲げた手を振りながら、馬車の中へと姿を消していった。


「それじゃあな。直哉」


「はい、ビャクヤさんもお元気で」


 直哉とビャクヤは手早く握手を終えて、別れた。


「あ、ビャクヤさん。ヒサメさんのお尻と胸ばかり見て、転ばないように気をつけてくださいよ!」


「おう、見ながらでも転ばないようにだけは気をつけるぜ」


 直哉のからかうような口調に、ビャクヤはヘラヘラ笑いながら、言葉を返した。


 また、「見ながらでも転ばないようにだけ気をつける」と言った時点で、ヒサメのお尻と胸を見ることそのものを辞めるつもりは無いらしい。このことを察した直哉から実にビャクヤらしいと自然に頬が緩んだ。


「直哉、前に稽古で戦った時は決着つかなかったけど、次は絶対に勝つから!」


「それは俺のセリフです。というか、次に勝つのは俺です」


 直哉はアカネに握手を求めたが、アカネは拳を握って突き出して来た。直哉もそれに合わせて拳をコツンと突き合わせた。


「それじゃ!」


 アカネはそう言って高く手を掲げながら、馬車へと駆けこんでいった。


「……えっと、直哉。次に会えるのを楽しみにしてる」


「俺も楽しみにしてます」


 ミズハは両手で包み込むように直哉の手を握った後、ブンブン縦に振ったために直哉からは変な声が漏れた。


「……あ、ごめん」


「いや、気にしなくて大丈夫ですよ。それより、ギンワンさんが呼んでますよ」


「……そうだね。それじゃあ、バイバイ」


 ミズハは手招きしているギンワンの元へと小走りで向かっていく。ミズハが乗り込んですぐ、朝日の方へと走り出す馬車を直哉は姿が見えなくなるまで手を振って見送ったのだった。


 ◇


「よし!」


「なあ、サトミ。今から何するつもりや?」


「今から朝食を作ろうと思って」


 服の袖をまくり、食材を台所に並べる聖美。それをイシュトイアは訝しそうに見つめていた。


 イシュトイアは知っている。聖美は料理が不得手であると。直哉の父親は聖美の料理を食べて昏倒した話は直哉から聞いたことがある。


「な、なあ、ナオヤが帰ってくるまで朝食作るの待たへんか?」


 イシュトイアは鼻歌を歌いながら、調理を進めていく聖美にストップをかけようと必死になるが、聖美は料理の手を止めるようなことは無かった。


「私、直哉君に料理だけじゃなくて家事全般任せっきりだから。たまには私が直哉君に料理を作ってあげたいんだよね」


 聖美の悪意のないピュアな思いの籠った言葉に、イシュトイアは何も言えなくなってしまった。


「……そうか。ほんなら、ウチは一眠りしてくるから二人で朝食は食べといてな」


「あ、うん。分かった……」


 イシュトイアは階段を上がっていく姿を見て、寂しそうな表情をしていた。聖美はイシュトイアにも料理を食べさせたかったに違いない。だが、イシュトイアはそれだけは御免であった。


 聖美が朝食を作り始めてから、30分後。直哉が家に帰ってきた。


「ただいまー」


「おかえり、直哉君」


 直哉の数個のパンが入った袋とリンゴ3つが入った籠を提げていた。


「直哉君、それ……」


「呉宮さん、朝食まだだったから買ってきたんだけど……」


 直哉は食卓を見て驚いた。二人分のかぼちゃのポタージュが並んでいた。部屋にはその香りで満たされており、胃をくすぐった。


「せっかく呉宮さんが作ってくれたんだし、冷めないうちに食べようか」


「うん」


 直哉の言葉に弾けるような笑顔を浮かべていた。直哉もそんな聖美を見て、自然と微笑んでいた。心の内ではポタージュの味の面が心配しているなど顔には一切出さずに。


 直哉は食器棚から皿を一枚取り出して、聖美と向かい合うように椅子に腰かけた。直哉はその皿の上に袋に入ったパン4個を取り出して並べた。


「直哉君、残りのパンはイシュトイアの分?」


「ああ、3人分買ってきたからな。それと、このリンゴは食後にでも食べようか。川は俺が剝いとくからさ」


 直哉はそう言って、リンゴの入った籠と残り2個のパンが入った袋を食卓の端に動かす。そして、二人は手を合わせる。


「「いただきます」」


 二人はそう言ってから同時に、スプーンを手にかぼちゃのポタージュを口に運んだ。


「どう?」


「え、あ、ああ。美味しい……よ」


 直哉は声を震わせながら、聖美へ言葉を返す。だが、前の時のように胃が暴れ出すような味ではないことに聖美の料理の腕が上がったことを実感した。


「それよりも呉宮さん。このポタージュ甘すぎない?」


「……そうかな?」


 直哉は大方塩と砂糖を間違えたのだろうと考え、流すことにした。


「呉宮さん。料理の腕が上がってるけど、もしかしなくても練習した?」


「うん、直哉君がいない間に紗希ちゃんと一緒にね。紗希ちゃん、その度にお腹壊しちゃったけど……」


 直哉は聖美が料理の腕を上げようと努力したことと、そのために犠牲となった紗希に心の内で涙した。


「そういや、紗希も殿下からキスされたって聞いた時は顔を真っ赤にしてたな」


「うん、あんなに真っ赤になってる紗希ちゃんは珍しいよね。それから時々、殿下の方をチラ見してたし」


 直哉と聖美は戦いの終わった後の紗希とクラレンスのことを思い浮かべていた。


「クラレンス殿下、紗希の心を弄びやがって……次会った時は――」


「あっ!そうだ、直哉君!紗希ちゃんの荷物、茉由の屋敷まで運ばないといけないんじゃ……!」


 直哉がクラレンスへの憎悪のエネルギーをまき散らしかけたところで、聖美は慌てて話を振った。


 それを聞いて、直哉は思い出したと言わんばかりに目を見開いた。そこからの直哉の動きは迅速であった。聖美の甘ったるいかぼちゃのポタージュを飲み干し、口に放り込んだ2個のパンを咀嚼しながら、3人分のリンゴの皮むきをササッと済ませ、部屋に居るというイシュトイアの元へパンと一緒に運んでいったのだ。


「イシュトイア。リンゴとパン、持ってきたぞ」


「あ~、ほんならテーブルに置いといてもろうてええか?」


「ああ、分かった」


 直哉は開けっ放しになっている自分の部屋にいるイシュトイアに届け物を済ませ、慌ただしく紗希の部屋へと突入していく。


 聖美は直哉に声をかけるタイミングが掴めず、食卓に座って呆然とするばかりであった。


 そして、5分ほどが経過したころ。大きめの革製のカバン一つと木刀を提げて階段を降りてきた。


「直哉君、それは?」


「ああ、紗希の衣類全部だ。それと、この木刀で部屋にあったものは全部だ」


 聖美は紗希の荷物の少なさに驚くばかりであった。しかし、聖美の持ち物も同じくらいであるため、そこまで驚くことではないのだが。


「紗希のやつ、まったくと言っていいほどに贅沢をしないからな。服とか下着もいい加減買い替えた方が良いと思うんだが」


「それじゃあ、紗希ちゃんの下着とか服は私が選んで買っておくね」


「うん。それじゃあ、呉宮さん。面倒かけるけど、よろしく」


 直哉は服選びなどのセンスはないため、同じ女子として聖美が選ぶ方が手堅いと判断した。


「あと、私も茉由たちと同じ屋敷に移るよ。茉由の事、紗希ちゃんにばかり任せておけないし」


 聖美はそう言って、直哉の部屋に残っている自分の荷物をまとめに向かったのであった。直哉は余りに突然の事だったため、ショックを受けた。だが、聖美の意志を尊重したいという気持ちが勝り、ショックを受けたような表情はしなかった。


 ――こうして、家の住人は直哉とイシュトイアのみとなったのであった。

第145話「別れと成長」はいかがでしたか?

今回はテクシスの冒険者たちと別れたり、聖美の料理の腕前が上達していたりとタイトル通りの話になってました。

そして、次回からは直哉とイシュトイアの二人での暮らしになるのかと思いきや……って感じの話です。

――次回「新生活」

更新は6/17(木)の20時になりますので、お楽しみに!

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