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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第8章 王都動乱編
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第139話 人は泣き、天も泣く

どうも、ヌマサンです!

今回はギンワンたちテクシスの冒険者たちの戦いです!

王都での戦いも激化していくので、戦闘シーンを中心に楽しんでもらえると嬉しいです……!

それでは、第139話「人は泣き、天も泣く」をお楽しみください!

 豪快に石畳が打ち砕かれ、衝撃波と轟音が周囲の人間の耳を穿つ。


 そこから百メートルほど距離が空いた場所で、ミズハは一人、ギンワンから言われた通りに一般市民の避難誘導を行なっていた。


「……ギンワン、みんな……!」


 ミズハは心配げな眼差しを衝撃波の発生源へと向けるが、慌てて首を横に振って心配を振り切った。


(……みんななら大丈夫。それよりも先に私のやるべきことをしないと)


 ミズハはそう心の中で自らを律し、王都の住人を避難させていった。


 ――その頃、ギンワンたちは目の前の強敵である七魔イライアスと対峙していた。


 ガキィン!と一際激しく金属同士がぶつかり合う音が響く。それはギンワンの大剣とイライアスの大剣が正面衝突したことで生じたモノである。


「“氷突アイススラスト”!」


 イライアスの右側面から、冷気を纏った槍が高速で突き出される。その突きを右手に持つ大斧の刃で軽々と受け止め、横へといなした。ヒサメはそれによって、体勢が崩れ、そこに振りかぶった大斧が振り下ろされた。


「クッ!」


「フン、受け止めよったか」


 イライアスの一撃は重く、ヒサメの腕は悲鳴を上げていた。衝撃がヒサメを突き抜け、地面に凹みが生じていた。


「ハァッ!」


「チッ!」


 ヒサメを助けんと、全力で大剣での一撃を押し通したギンワンによって、イライアスも体勢が崩れた。これにより、イライアスはヒサメからも手を引き、瞬時に後ろへと飛び退いた。


「“聖矢ホーリーアロー”!」


 イライアスが石畳をめくり上げながら、着地したタイミングで彼の左から無数の光の矢の一斉射撃が行なわれた。イライアスは大剣と斧を隠れ蓑にし、やり過ごしたものの無傷では済まなかった。


「“炎狼フラムマンヴォルフ”!」


 そこへ敏捷性に特化した炎の狼が飛び掛かり、爪を振るうがイライアスによって叩き込まれた蹴りによって一撃で戦闘不能へと追い込まれてしまった。


 続けて、イライアスはその炎の狼を召喚した主であるアカネを狙おうとするも、どこからともなく飛来した矢が行く手を阻んだ。


(小賢しい人間を相手しながら、狙撃手を始末するのは面倒じゃな……。しかも、上手く連携のとれた動き……人間風情にここまで手こずらされるとは想定外じゃ)


 イライアスはギンワンたちの連携攻撃に感心しつつも、戦況の分析を開始し、体勢を立て直さんと画策していた。


 だが、そんな策を練っている間にも休むことなく攻撃が叩き込まれる。


「フンッ!」


「くたばりやがれ!」


「“氷突アイススラスト”!」


 ギンワンの大剣、ビャクヤの斧にヒサメの冷気を纏った槍。これらの攻撃が1秒ずつの間隔で撃ち込まれる。そんな波状攻撃にイライアスは押されっぱなしであった。そして、ようやく間合いが取れたと思ったところに飛んでくるムラクモの矢。心も体も休まる時のない怒涛の連撃にはイライアスも参っていた。


 そんな猛攻が続くこと、1分。さすがに限界が見え、ギンワンたちの攻撃の手がわずかであるが、弱まった。この機を逃すほど、イライアスも馬鹿ではない。その好機チャンスにすかさず飛びついた。


 イライアスは3人の攻撃を受け止めた後、まとめて薙ぎ払った。直後、石畳を蹴り、アカネのいる方へと一直線に駆けた。まずは、仕留められる敵から仕留める。それは戦術の基礎の基礎である。今回はそれがアカネであっただけだ。


「“岩壁がんぺき”ッ!」


 ギンワンの焦りを帯びた声と共にアカネへの進路上に展開されるのは岩の障壁。これはディアナの“天空槍”を防いだ時にも展開されたモノである。


 今度こそは仲間を守るという願いを込めた魔法であったが、それは願いごと打ち砕かれた。


 イライアスの右手に握られた大斧が“岩壁”と衝突し、凄まじいエネルギーをまき散らしながら、大斧が“岩壁”を両断。イライアスは止まることなく、突き進む。


「フ、“炎蛇《フラムマンシュランガ―》”ッ!」


 迫りくる恐怖に涙を流すアカネが声を枯らしながら呼んだのは体長1mほどの炎の蛇。その蛇は召喚主であるアカネの意思を汲み取るようにイライアスへと立ち向かっていく。


「舐めるなァッ!小娘ェ!」


 抵抗するアカネに対して、激昂するイライアス。その左手に提げている大剣により、炎の蛇は上下真っ二つに解体された。


 死の刃が迫り、その恐怖からアカネはギュッと目を閉じた。しかし、彼女のサーモンピンクの髪を掠めていったモノはイライアスの額を穿った。それは一本の矢。放ったのはムラクモである。建物の陰で、片膝をついた低い姿勢で、弓をこちらに構えている。


「……ッ!」


 ムラクモがイライアスを仕留めたかに見えた、その時。ムラクモは一直線に投擲された大剣に左胸を貫かれた。その途端に風の同化魔法が解除され、ムラクモは声にならない声を上げながら、血飛沫と共に仰向けに倒れていく。


 それを何が起こったのかの理解が追い付かずに呆然と眺めるアカネ。ムラクモに投擲された大剣はイライアスのモノ。イライアスの突貫には一番仕留めやすいアカネを始末すること以外にも、姿を隠しているムラクモの居場所をあぶり出すという狙いがあった。


 今までにムラクモの矢が撃ち込まれたタイミングは仲間のピンチの時。ゆえに、仲間であるアカネに危機が迫れば矢を撃ってくるはず。そこまで読み切った上で動いていたのだ。


 また、ギンワンたちの攻撃を防ぎながらではムラクモの位置を特定することが難しかったというのも理由として含まれている。


 何にせよ、目的の一つを達成し、厄介極まりない狙撃手を仕留められたことにイライアスはほくそ笑んだ。そして、その代償として額に受けた矢をすぐさま抜き、地面へ放った。


「この野郎ッ!」


 イライアスが笑みを浮かべている中で、ビャクヤの斧が頭上から叩きつけられるが、それは軽々と受け止められてしまっていた。そして、ビャクヤはその流れではじき返された。イライアスはムラクモに続いて、今度はビャクヤを討ち取ろうと大斧を片手に疾駆する。


「死ねぇい!」


 振り下ろされる大斧。しかし、


「“聖短剣ホーリーダガー”!」


 ビャクヤが至近距離から投擲した光の短剣に左胸を貫かれた。この攻撃でイライアスは地面へと落下し、ビャクヤは命拾いした。


 そして、イライアスへと投擲された短剣ダガーは心臓ではなく、肺を貫いていた。しかも、光属性の傷は悪魔の治癒能力で癒えることは無い。つまり、肺に空いた穴は塞がることはないのだ。


「ぐぬぬ……小童めが味なことをしよるわ……」


 イライアスは傷口を押さえながら、ゆっくりと立ち上がって来ていた。そこへ一閃。その右下からの斬撃は、イライアスの左わき腹から右肩にかけてを切り裂いた。


「おのれ……!」


 イライアスは目の前に立つ大男、ギンワンをキッと睨め付けたが、反撃の余力など無く、その場から離脱するしか選択肢は残されていなかった。


 ギンワンは影に潜って逃げるイライアスを追撃しようとするヒサメを制し、ムラクモの元へと駆けた。ヒサメはビャクヤと共にムラクモの元へ。


 全員がムラクモの元へと集まった。しかし、ムラクモは息をしておらず、ピクリとも反応を示さなかった。そんなムラクモの側ではアカネが涙を流していた。


 アカネはムラクモに対して、キツイ態度や言動を取ることが多かった。だが、アカネは、好きでムラクモにキツく当たっていたわけではない。アカネ自身、ムラクモを前にすると上手く話せず、つい強く当たってしまっていたのだ。


 そんな彼女自身、気づいてはいないがムラクモにきつく当たっていたのは嫌いだったからではない。むしろ、本当に嫌いなのなら自ら絡みに行ったりするような事はしないものだ。


「アタシ、アンタのことは割と好きだったのかもしれないわ……」


 ここへ来て、ようやくアカネは自らの気持ちに気づいた。そう、嫌いならどうしてこんなに胸が痛いのかと。寂しい気持ちになったりするのはなぜなのか。そう言った言葉がグルグルと心の中を廻る。


「ムラクモ、今さら言っても仕方ないかもだけど……アタシを助けてくれてありがとね」


 そんな感謝の言葉にも帰ってくる言葉はない。帰って来るのは二人の背後から聞こえるすすり泣く声だ。だが、泣いている声は男のモノ。泣いているのはギンワンであった。


 ギンワンはシデンの死ですら、みんなの前で泣くのを堪え、葬儀が終わってからギルドの執務室で泣いていた男だ。そんな男でも、今回は涙を抑えきれなかった。


 涙を流すギンワンを見て、ヒサメ、ビャクヤの二人ももらい泣きした。一人が泣いたことにより、みんながつられて泣く連鎖的な哀しみの広がり方であった。


 ギンワンは混乱の中で地面に転がっていた店の旗の布を引き裂き、ムラクモの亡骸を見えないように包んだ。その直前、ビャクヤがムラクモの瞼を閉じさせていた。


「……ギンワン。避難誘導、終わったよ?」


 そこへ、戻って来たのはミズハ。ギンワンが何も言えずに涙をこすっているのを見て、何があったのかと戸惑うミズハ。そして、ミズハは見た布にくるまれている何かを。


「……ヒサメ、その布でくるんでいるのって……?」


「えっと、それは……ムラクモの亡骸よ」


 最初はミズハに説明しても良いモノか、ヒサメも困惑している様子だったが、正直に明かしたのだった。


 ――亡骸。


 その言葉を聞いた時、ミズハの体は硬直した。ヒサメが言っていることが信じられず、驚きで普段の細長い眼が一気に見開かれる。


 ミズハはゆっくりとその場全員の顔を流し見る。全員が俯いており、亡骸という言葉を否定するものは誰一人としていなかった。


 ミズハはガクリと膝を折り、石畳の上へと座り込んでしまった。手にしていた杖も彼女の手を離れ、カランカランと音を立てて石畳へと悲しく着地する。


 ムラクモは寡黙であったが、これ以上ないほどに仲間思いな男であった。それゆえに、ムラクモが居なくなったという事実はギンワンたちの心を深くえぐった。


 また、そんな仲間思いな男をみんな大好きであったし、絶対の信頼を寄せていた。


 ギンワン、ヒサメ、ビャクヤ、アカネ、ミズハの5人はこの度の魔王軍との戦闘でシデンに続き、そんなかけがえのない仲間を失った。


 ――その悲しみにつられてか、天も大いに涙を流した。人も天も涙を滝のように流したその日、数多の命が失われていくのだった。

第139話「人は泣き、天も泣く」はいかがでしたか?

今回はまさかのムラクモが死亡するという結果に。

ローレンス、ミゲル、スコット、ウィルフレッドの4人に加えてこの章だけで5人目の死者ということに……

そして、次回も王都での戦いが続きます!

――次回「王族を狙うモノ」

更新は5/30(日)の20時になりますので、お楽しみに!

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