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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第8章 王都動乱編
165/251

第138話 最強の暗殺者

どうも、ヌマサンです!

今回は直哉たちとギケイたちの戦いになっております!

また、所々パロディネタが出て来てますので、探してみてくださいな~

それでは、第138話「最強の暗殺者」をお楽しみください!

「フッ!」


 放たれる上から下への一閃。これを寸でのところで軌道を逸らし、やり過ごす。


 ここは王城の玉座の間の真下の階。そこでは直哉とギケイ、聖美とラルフ、茉由とダフネの3組の死闘が繰り広げられていた。


「今のでも仕留めきれぬでござるか。お主、随分と剣の腕が磨かれているでござるな」


「そりゃあ、俺だって呑気してたわけじゃないからな!」


 ギケイと直哉は互いに言葉と刃を交わしながら、果てしない戦いを続けていた。だが、一歩引いた立ち位置から見れば、ギケイが優勢なのは明らかだ。まず、間違いなく勝つのはギケイであろう。ただし、戦況がこのままであれば。


 移動しようとした一瞬、足が何かに引っ張られている。そんなことをギケイは感じた。チラリと足元を見れば、左足が()()()()()()()


「氷魔法でござるか!」


「そうだ……よッ!」


 直哉的には目で捉えきれない速度で動き回るギケイの足に氷魔法を付加エンチャントすることで、動きを一瞬でも止める。そこへイシュトイアでの必殺に一撃を叩き込む。完璧なビジョンだった。


 戦況は逆転する。直哉はそう確信した。だが、物事はそうは上手く運ばない。


 直哉の一太刀はあっさりとかわされ、焦ったところに胴体目がけての斬撃が見舞われる。これは寸でのところで受け止めたことで、命拾いしたが後退を余儀なくされた。


 ギケイがなぜ動けたか。そんなものは氷を認識した刹那に自らの足を斬ることなく、驚くほどに精密な剣捌きをもって氷を剥がしたのである。


 ここまで行くと、直哉からすれば神業バケモノ以外何物でもなかった。


「“雷魔刃らいまじん”ッ!」


「ぐあぁぁぁッ!」


 無数の雷の刃が飛来し、直哉に回避する時間をも与えない追撃。直哉に休みなど与えず、ギケイからは雷を纏った斬撃が何太刀も浴びせられる。


 直哉は数えきれないほどの斬撃を浴びせられ、体中から出血させながらうつ伏せで倒れこんだ。


 ――兄さん、ごめん。


 意識を飛ばしかけた直哉の元にそんな少女の声が聞こえた。その声の主など、誰なのかなど聞いてすぐに理解できた。


(紗希……なのか?一体、今の声は――)


 今にも消えてしまいそうなか細い声。それが妹の声などと、信じたくない。しかし、もし本当に妹の身に危機が迫っているのなら――


「早く、助けに行かないとな……!」


 直哉はググっと力を籠め、再び立ち上がった。


「フッ、お主の仲間を助けようといっても、お主はそれがしに殺されるだけでござる。仲間とはあの世で会えるから安心するがイイでござるよ!」


 雷を纏う刃は容赦なく、直哉へと振り下ろされる。しかし、直哉は真剣白刃取りの要領で刀を受け止めた。その腕には鱗のようなモノが垣間見られた。ギケイは直観的に何が起こっているのかを悟った。


 それもそのはず、あんな恐怖トラウマを忘れるはずが無いのだ。


「“豪風脚テンペスト”!」


 風を纏う右足から蹴りが放たれる。その脚力は人間離れしているうえに、魔力の増幅されている。通常よりも蹴りも風も倍近い破壊力を秘めている。それをギケイは脇腹に叩き込まれたのだ。


 直哉は蹴りを叩き込んだ瞬間に刀を離した。これにより、ギケイを縛っていた枷は解かれた。ギケイが“豪風脚テンペスト”をかわせなかった理由は刀を離すことができないというところにあった。


 ギケイにとって、刀は唯一にして最強の武器である。それを手放すことは何よりの敗北を意味する。直哉はそこまで読んだうえで、真剣白刃取りを行なったのだ。狙いはギケイを逃がさないため。


 狙い通り、脇腹を風で抉られ、肋骨を何本もへし折られたギケイは地面を何度も跳ねて壁際で転がっていた。


 しかし、ギケイの傷は直哉が接近する頃には大方癒えていた。ゆえに、のこのこ近づいてきた直哉へと鋭い薙ぎ払いが繰り出された。


「なっ、相変わらずの化け物っぷりでござるな……ッ!」


「そりゃあ、竜の力って肉体の頑強さだけが取り柄だからな」


 ギケイの斬撃を腕で受け止める。そんな攻撃が通じないさまは、暗殺者ギルドの時と状況は変わらなかった。ギケイの攻撃が通じない絶対の存在。今までにギケイをあそこまで追い込んだのは竜の力を解放した直哉だけである。


 そもそも、ギケイの実力は他の4人の暗殺者――オルランド、テオ、ヴァネッサ、アレッシアが総がかりでも難なく勝利を収めるほどである。


 そんな暗殺者ギルド最強の男を追い詰める力こそが竜の力である。それだけでいかに化け物じみているかが感じられる。


 ギケイも移動速度は竜の力を解放した直哉でも視覚で捉えられない。だが、斬撃が通じないのであれば直哉に勝つことは不可能であった。


「“雷魔斬”!」


「“黒風斬”ッ!」


 雷と黒い風を纏う斬撃が目にも止まらぬ速さで幾たびも激突しては離れていく。これが何度も繰り返されていく。傍から見れば、何が起こっているのかが分からないほどの剣撃の応酬。


 両者の戦いは終わりの見えないモノであったが、ようやく幕が引かれようとしていた。


 ギケイが力で押し負けた。剣捌きと機動力においては直哉を寄せ付けないほどであったが、力だけは竜の力を解放した直哉には遠く及ばなかった。


「うぐっ!」


 純粋な力。それが直哉に勝機を掴み取らせた。そんな力を秘めた攻撃を受ければ、後退しないのは無理であった。


 ギケイは踏みとどまらんと床に2本の線を描くが、止まることが無かった。結局、勢いそのままに壁へと突っ込んだ。


 そして、突っ込むだけに留まらず、()()()()()


(ここは王城の4階。そんな高さから地面へ落下すれば、とても無事では済まんでござるな……!)


 場外へと弾き飛ばされたギケイは思考を巡らせた。地面落下によるダメージを回復するまで、直哉が待つとは考え難い。ならば、自力で4階へと戻るしかない。


 ギケイは何かないかと視界中を探るも、見当たらない。それは徐々に焦りという感情を呼び寄せていく。


 そんな時、自らの周囲の空間を包むモノがチラリと視界の端に映った。


「これは……!?」


 前後左右、上下に至る全方位を彩るのは八色の輝きを放つ魔法陣。その数、百二十八。そして、魔法陣の表はすべて、自らに向けられている。


「くらえッ!ギケイッ!半径20m、エメラルドスプラッシュを ───ッ! 」


 八色の輝きはそれぞれ、炎、水、風、土、雷、氷、光、闇の八つの魔法の属性を示している。その八の属性が各十六ずつ展開され、直哉が腕を振り下ろすのと同時、一斉にギケイへ放たれる。


「“雷魔刃”!」


 ギケイは反射的に雷の刃を放ち、前方から発射された魔法のすべてを相殺した。そこからは振り向きざまに前方以外の魔法を刀一本で迎撃。


 “雷魔刃”の声の直後、どれくらいの爆発が起こったのか。そんなことなど分かるはずもなく、その場にいる全員が手を止め、どうなったのかを固唾を呑んで見守った。


 爆発のあった場所から真っ直ぐに落ちていくのはギケイだった。その身は傷だらけであり、真紅の血と共に落ちていく。


 直哉はそれを見るや否や、壁際まで走り、下を見た。そこからは背を向け、聖美と茉由に笑みをこぼした。


「……負けるなよ……勇者はつねに強くあれ……!」


 直哉はそれだけ述べ、落下していった。


「直哉君!」


「先輩!」


 聖美は直哉の言ったネタを笑えばいいのか、4階から落下したことを心配すれば良いのか。迷いに迷ったところだが、結論が出る前に目の前の男からの攻撃が撃ち込まれる。


「よそ見してるなんて、随分余裕あるじゃん!」


 ヘラヘラと笑みを浮かべるラルフを聖美は睨むも、とてもすぐに倒せる相手ではなかった。直哉の安否が気になり、戦いに集中できないのも中々の痛手であった。


 そして、茉由の方はと言えば、聖美とは違って直哉の言ったことがネタだと分からなかったので、心配度100%だった。


 そんな中で、ダフネと斬り結んでいるのである。聖美と同等かそれ以上に戦闘に集中できていなかった。


 呉宮姉妹から心配されているなど、露程も気づいていない直哉は落下していくギケイの服を力いっぱい掴んでいた。


「まさか、ここまで追いかけてくるとは思わなかったでござるよ。まあ、それがしにトドメを刺すにはこうするしかないでござるからな……」


「それは違う」


 直哉はギケイを竜の力を存分に活かして、力のままに彼を4階まで投げ飛ばした。


「なっ――ッ!」


 ギケイの表情は驚きに染まるも、文句を言いたい相手は言葉が届かない距離にいた。そして、直哉は地面へと叩きつけられた。


 ポイッと4階へと投げ込まれたギケイは直哉が一体、何をしたかったのか。その行動への理解が追い付いてなかった。


「“闇影拳あんえいけん”!」


「“闇影斬あんえいざん”!」


 真っ黒な魔力を纏った拳と剣がそれぞれ聖美の鳩尾、茉由の左肩から右わき腹までを斬った。


 ギケイが戻って来たのに、直哉は戻ってこなかった。そんな様子を見た聖美と茉由の二人は動揺し、その隙を見事にラルフとダフネに突かれ、鮮やかに一撃を貰う羽目になった。


 二人とも手傷を負い、よろけながらも再度短剣と片手剣ショートソードを構えたのだった。


「よいしょっと!」


 再び、聖美対ラルフ、茉由対ダフネの戦いが始まろうかというタイミングで直哉は何事も無かったかのように4階の破壊された壁の外から現れた。


「直哉君!良かった、生きてた……!」


「一体いつから――4階から飛び降りたくらいで死ぬと錯覚していた?」


 直哉は自分でも笑いを堪えきれないのか、そんな素振りを見せながら言葉を口にしていた。なぜ、とは聞かなくても直哉の竜の力を発動している時の肉体の頑丈さはトラックに撥ねられても死ぬことはおろか、大した外傷もなく痛みが残るくらいである。よって、そんな規格外の肉体で4階から落ちたところでどうと言うことは無いのだ。


 そんなピンピンしている直哉に聖美も茉由も安堵を覚えた。だが、ラルフとダフネは死んだものとばかり思っていたために脳天に雷でも落ちたかのようなリアクションをしていた。


「直哉、なぜそれがしを――」


「悪い、それは後だ」


 直哉はギケイからの言葉に何も返さず、聖美と茉由にアイコンタクトを送り、ラルフとダフネの二人との叩きにケリをつけようと語った。聖美も茉由の二人も何となく、直哉からのアイコンタクトの意味を察した。


 聖美は短剣を手に、ラルフと近接格闘を行なった。しかし、ラルフの一撃は吸血鬼の力で身体能力を引き上げている聖美よりも上であり、力での真っ向勝負では勝てそうになかった。


 だが、動きの俊敏性なら聖美の方が遥かに上であったために身のこなしの軽やかさを活かして、攻撃をしに近づいたかと思えば距離を取るといった一撃離脱ヒットアンドアウェイ戦法を取っていた。


「ほらよ!」


「くっ!」


 一撃離脱ヒットアンドアウェイ戦法では、埒が明かないというのが現状であった。聖美は一度間合いを取り、背負っていた弓を握り、矢を番えた。


 ラルフはそれを見たところで動揺するわけでもなく、一直線に聖美の方へと駆けてくる。このままでは追い付かれて殴られるのがオチである。よって、即座に弓を引き絞り、放った。


「そんな攻撃じゃ当たらないぜ!」


 ラルフは自らの眉間目がけて飛んできた矢を殴り飛ばし、速度を落とすことなく追撃してくる。


「“吸血矢ブラッドサッキングアロー”」


 しかし、ラルフが矢を殴り飛ばした刹那、視界に飛び込んできたのはもう一本の矢。


 ――馬鹿な!?


 聖美の早すぎる第二射に、ラルフは防御が間に合うはずもなかった。命中した矢はラルフの喉元を寸分たがわずに射抜いていた。


 そして、命中した矢には赤い印がついており、鏃がラルフの血を吸い取り始めていたのだった。


 一方、茉由とダフネの戦いも幕引きがなされていた。


「茉由ちゃんの剣に悪魔の力を付加エンチャント!」


 直哉の付加術がかかった茉由の剣はより一層、冷気を強めさせた。


「“氷魔斬ひょうまざん”!」


「“闇影斬あんえいざん”!」


 双方の渾身の一太刀はお互いのすれ違いざまに、右わき腹を切り裂いていた。これによって、倒れたのはダフネの方であった。茉由も剣先を床に突き刺し、ガクリと膝を折った。


――この瞬間、勝者は直哉と聖美、茉由の3人であることが確定したのだった。

第138話「最強の暗殺者」はいかがでしたか?

今回でギケイ、ラルフ、ダフネ相手に勝利を収めることが出来てました。

また、4階から落ちても直哉は死ななかったですが、普通なら死んでるので良い子の皆様はマネしないでください!(しないと思いますが)

さて、次回から王都の戦いに戻ります!

――次回「人は泣き、天も泣く」

更新は5/27(木)の20時になりますので、お楽しみに!

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