第137話 暗殺者の願い
どうも、ヌマサンです!
今日は更新が遅れてしまってごめんなさい!
今回の話は紗希とオルランドの戦闘シーンになっております!
オルランドの過去についての話もあるので、楽しんでいってもらえればと思います!
それでは、第137話「暗殺者の願い」をお楽しみください!
――オルランドは驚愕する。少女の剣の冴えに。
「ハァッ!」
紗希の目にも止まらぬ速度で鞘から放たれた神速の一撃。これにはオルランドも防御が間に合わずに腕を浅くではあるが、切り裂かれた。
(速くなっている!?以前戦った時よりも、遥かに……!)
オルランドは対峙する紗希の動きや立ち回りの速さ、純粋な剣速の数々に驚きを隠しきれなかった。
――ここは王城の2階。そこで1分前に始まった戦いは熾烈極まりないモノだった。
「それじゃあ、始めるか」
「そう……ですね」
オルランドからの声に紗希は警戒の色を強め、剣の柄へと手をかけた。しかし、そこに待ったがかけられた。紗希が疑問符を浮かべたような表情で小首を傾げていると、オルランドから説明が始まった。
「悪いが、時間制限をつけさせてくれ」
「時間……制限?」
「ああ、戦いが長引くと邪魔が入るかもしれねぇからな」
「別にボクは構わないですが」
オルランドは「ありがとな」と呟き、魔法を発動させた。だが、特に目立った外傷はおろか、違和感一つ感じられなかった。
「何をしたの?」
紗希は胸元に手を当てながら、オルランドへより詳細な説明を求めた。
「俺の魔法、毒魔法を使わせてもらった」
「毒魔法!?」
紗希は表情を真っ青にして、表情を焦りという感情で染め上げた。それから弾かれるように胸元や腹部を慌ただしく触っていく。
「俺が使った毒は遅効性だ。俺が合図を出してから5分きっかりで発動し、死に至らしめる」
オルランドの言葉に紗希はすぐに死ぬわけではないと分かって少しだけ安心した様子であった。
「つまり、お前が助かるためには5分以内に魔法の術者である俺を殺せばいい。そうすれば、毒魔法は自動的に解除される」
つまり、制限時間は5分であり、紗希の勝利条件はオルランドを時間内に殺すこと。そして、オルランドはその5分間で死ななければ勝ちという事である。紗希はそのように理解した。
「さあ、始めようぜ!」
5分の寿命が動き出した。オルランドは開始早々、両手に一振りずつ握りしめているサーベルを交差させ、突進から勢いよく斬撃を放った。紗希にはオルランドの行動が理解できなかった。
紗希からの攻撃を5分の間防げば勝てるのに、どうして自分から向かってくるのか……と。
だが、オルランドは紗希を毒で殺すことを望んでいるわけではない。ここに来たのは再戦。つまり、自分の持つサーベルを用いて正々堂々と紗希を殺したいのだ。
さすがにそこまでの気が回らなかった紗希。しかし、そこからの両者の間で凄まじい量の斬閃が結ばれた。オルランドは二刀流であり、手数では紗希を上回る……はずだった。
紗希の武器はサーベル一本。武器が二つという優位性を軽々と覆しに来るその刃にオルランドは恐怖した。しかし、その一瞬あとには嬉しさが残っていた。
――前に俺を打ち負かし、再戦を渇望した相手はこうじゃねぇとな!
オルランドの表情は歓喜しているのが丸わかりであった。しかし、紗希はその表情になど目もくれず、ただ目の前の強敵を屠ることだけを考えた。
紗希が意識の奥へ奥へ潜れば潜るほど、際限なく斬撃は加速し、いつしか手数で勝るはずのオルランドを逆に手数で圧倒していた。
元々、防御に徹するだけでもオルランドの勝利条件は満たせる。だが、オルランドにその気がないにも関わらず、必然的に防御に力を割かなければ斬り殺される。
そんなレベルの斬撃であった。一人の少女から容赦なく放たれる斬撃の嵐に、戦いの主導権は完全に掌握されていた。
――そうして、戦いは1分が経過し、冒頭へ戻る。
「ハッ!」
紗希の大上段からの振り下ろしをオルランドは二振りのサーベルを交差させ受け止める。重なる刃からアツい火花は飛び散り、瞳を焦がした。互いの瞳に映るのはお互いの必死そうな表情であり、両者ともに譲らずの状態で鍔ぜっていた。
力は均衡し、敏捷性においては紗希の方が上であった。恐るべきは未だに紗希は魔法を使っていないというところに有る。
オルランドもそのことは分かっているために警戒していた。だが、紗希に敏捷強化魔法を使うような素振りは見られなかった。
オルランドはつばぜり合いから、自ら距離を取った。紗希は迷わずに追撃をかけるが、脛を凄まじい衝撃が襲った。
今の衝撃はオルランドによって、放たれた蹴りである。それが脛に命中したのだ。それによって、骨にヒビが入ったであろうことは紗希も感覚的に理解していた。しかし、紗希はそれでも攻撃を止めなかった。
オルランドは紗希の身のこなしに足枷をつけるつもりで脛の骨を折ったのだが、彼女の動きは骨が折れているなど、微塵も感じさせない鋭さと迅速さがあった。
オルランドの手薄なところに片っ端から斬り込んでいく紗希。もはや、オルランドは防戦一方となった。
――そんなところで、戦闘開始から2分。
双方共、肩を大きく揺らしながら激しく息を吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返していた。2分間も全力で動いたのだ。疲れもする。
「あなたはどうして、暗殺者になったの?」
紗希は前々から思っていたことを告げた。それはオルランドの戦い方を見ていて感じたことだ。
普通の暗殺者たちは不意打ちやら、搦め手などで相手を殺そうとする。なのに、オルランドの戦闘スタイルは真正面から敵を斬り伏せるモノであるからだ。
「フッ、俺は元々貴族の家系なんだよッ!」
オルランドは自らの過去を明かしながら再度、紗希へと斬りかかる。紗希も油断することなく、容易く防いで見せた。
――そこからはオルランドの過去が明かされながらの剣舞が行なわれた。
オルランドは26年前、ある準男爵の家系に生まれた。準男爵は国から与えられる爵位であるが、貴族としては認められていない爵位である。しかし、爵位であることに変わりは無いために王国騎士団に入ることは許されていた。オルランドの家に限らず、準男爵は他の貴族から『半端者』として蔑まれることが多かった。
「父上、俺はこの剣の腕で騎士団内で出世して、騎士団長になります」
オルランドは15歳の頃、誉ある王国騎士団へと入団した。入団直後から、他の新米騎士たちとは別格の戦果を挙げ続けた。それによって、入団から3ヵ月で騎士団の小隊長を任された。小隊の人数は20名ほどであった。正直、この出世速度は異常であった。
そして、その1週間後に向かった魔物討伐で事件は起こった。場所は王都近郊の森の中。オルランドたちが遭遇した魔物は強力で、オルランド以外の小隊の騎士たちは我先にと逃げてしまった。
オルランドは戦うかどうか迷った末に戦うことを選び、これを単独で討伐。討伐を終えて、一息ついているところに飛んできた矢を首に受けてしまったのだ。
オルランドが死を覚悟した時。そこを通りがかったのは騎士団の先輩であり、同じ小隊長であるシーラであった。シーラの小隊に救われたオルランドはシーラの治癒魔法によって助けられた。シーラは王宮へ帰還したのち、オルランドを狙撃したのはオルランドの小隊の騎士たちであったことが告発され、騎士たちには謹慎処分が申し付けられた。
その出来事がキッカケで、オルランドとシーラは同じ小隊長ということもあり、よく話すようになった。話せば話すほど、気が合う二人はみるみるうちに距離を縮めていった。
ただ、シーラは子爵の家柄であり、準男爵のオルランドとは身分が違い過ぎた。男女として一緒になりたいというのは到底叶うことのない願いだった。
そんなオルランドの騎士としての人生は騎士団へ入って半年で終わりを迎えた。
オルランドは見てしまった。夜の騎士団副隊長の部屋でシーラが何人もの男に代わる代わるベッドの上で弄ばれているのを。
突入しようとした時に聞こえてきたのは、オルランドの家を取りつぶさないで欲しいと懇願しているシーラの声が聞こえてきた。
話の続きを聞いていくと、狙撃事件のその後の全貌が浮かび上がった。
狙撃事件を主導したのはオルランドの小隊にいた子爵の息子であり、その仲間たち数名によって行われたこと。子爵の息子一味は、自分たちの悪事を暴いたシーラへの恨みを募らせていたことなどが次々に明らかとなった。
子爵の息子には伯爵の家柄である騎士団の副団長とパイプがあった。そうして、副団長はシーラの家の弱みを握り、口を挟めなくしたうえで、『伯爵家の力で準男爵であるオルランドの家を取りつぶす』という情報をシーラに流した。
それを真に受けたシーラは副団長から体を委ねればオルランドを助けると言われ、現在の状況に至るという事だった。しかも、そんな時期が5か月も続いていたことまで明らかになった。
それはオルランドと会っている時にはすでにシーラはその身を汚されていたということになる。その時の弾けるような笑顔からは、そんな事情があったなど察することしか出来なかった。
オルランドは自分のような身分の低いまがい物の貴族のために大切な身体を汚したシーラに申し訳ないという気持ちになった。それ以上にシーラの体を弄んだ副団長たちと、それを気づかずに平穏な毎日を過ごしていた自分自身に対して憎悪が湧いてきた。
その後の事はオルランド自身、記憶があいまいであり、気づいた時には副団長を含めたその場にいたモノ全員の死体が側に転がっていた。その死体は目も当てられない有様であり、言葉通り八つ裂きにされていた。
「オル……ランド……」
「シーラ……悪かったな」
「ううん、私が自分で決めてやったことだから……」
オルランドはそう言って近くにあったベッドのシーツを切り裂いて、シーラの裸体を包んだ。それから、色々な匂いが混じる部屋を換気すべくオルランドはシーラの元を離れて窓を開けた。
「オルランド。私を愛してくれて、ありがとう。どうか、貴族を恨まないで――」
シーラの潤んだ声が聞こえ、オルランドが振り返るとシーラは短剣で喉を貫いていた。
「死ぬな、シーラッ!」
「私はケガれちゃってるから、あなたの側には――」
オルランドが焦って駆けつけるも、シーラは言葉の途中でこと切れた。
その翌日、オルランドは自らが配属されていた第二王国騎士団の団長であるフェリシア立会いの下で、副団長を殺したことを語った。本来であれば、上司殺しは死刑になるほどの大罪であるが、同僚を助けるために行なった行為であったために王国騎士団を退団し、準男爵の爵位も返上することで死だけは免れた。
だが、その直後に心労でオルランドの父と母は相次いで死亡し、天涯孤独の身となった。
そんなとき、王都の裏路地を歩いていた際にユメシュからスカウトされて――暗殺者ギルドへと入った。
「そんなことが……」
「フッ、同情はやめてくれ。俺はそこで初めて仲間と呼べるヤツらに出会えたんだ。テオにヴァネッサ、アレッシア。そして、ギケイ。どいつもこいつも頭のイカれた殺人鬼だが、俺にとっては大事な仲間だ」
過去を語るオルランドは辛そうであったが、今を語るオルランドは楽しげであった。
「俺たちはお前たちにリベンジをした後、もう一度始めるんだ。新たな暗殺者ギルドを」
オルランドの信念は揺るぎなかった。紗希を殺して、もう一度。つまり、紗希はあくまで通過点であり、辿り着きたいのは過去との決着。
――そのためにオルランドは紗希と剣を交える。
再び、両者は一歩も譲ることのない剣撃を重ねる。だが、決着などつくことは無かった。
「俺はお前をこの手で始末する!」
どこまでも揺るがぬ意思を帯びたサーベルが紗希へと叩きつけられる。紗希はこれを真っ向から受け止め、弾き返す。
――見えてきた。
紗希には見えていた。オルランドの動きのすべてが。肉体はすべての思考を教えてくれる。筋肉の収縮、目線の動き。口端の動きに呼吸のタイミング。
それらすべての要素を加味し、次の一手を導き出す。これらの動作を一瞬の内にこなしている。それらの礎を築き上げたのは父であるジェラルドとの稽古であった。
あの化け物みたいに強い英雄との稽古であれば、これくらい出来なければ、戦いにすらならない。
紗希の目指すべき高みは父である。紗希はその高みへ辿り着くには、今この時の戦いで一歩でも前進することだと知っている。
いつか、再び二刀流の使い手と戦火を交えることもあるだろう。その日のために、二刀流剣士への対処法を作成し、練り上げていく必要があった。オルランドはそのための材料に過ぎない。
この二人に共通すること、それはお互いが相手を夢のための通過点だと認識していることであろう。
「ハッ!」
「うぐっ!?」
紗希が見せた大薙ぎの斬撃。オルランドは紗希がそのような隙だらけの技を使うとは思わなかったために思考が乱れる。
――その隙を突くべきか、罠だと踏んで見過ごすか。
しかし、紗希の狙いはオルランドの思考を乱すことそのものにあった。そこから紡がれる連撃には大気が哭いているような音を奏でていた。
この紗希の一刀流での剣捌きには二振りのサーベルをもってしても、完全に防御することが出来なかった。それでもギリギリの防御を積み重ねていく。
(――ッ、このままなら……!?)
それでも、オルランドは死を予感した。だが、その予感が現実のものとなることは無かった。
「――ッ!?」
紗希は突然、平らな胸を苦し気に押さえ、床へとドサリと崩れ落ちた。そう、5分だ。
オルランドは紗希が崩れたことに安堵しながらも、自らの手で斬り殺せなかったことを残念に思った。
「悪いな、今楽にしてやる」
オルランドは右腕を振りかぶり、紗希の首筋へと落とした。それは断頭台に置かれた首をギロチンで刎ねるようであった。
「――ああああああああああああああっ!!」
放たれたのは底力。どこから捻りだしたのかというほどの速度と威力を纏う斬撃は振り下ろされた凶刃を粉々に切り刻み、それを持つ彼の腕も天井へ解き放たれた。
「何だとッ!?」
恐怖に苛まれるままに、首を刎ねんと強引に薙ぎ払うオルランド。だが、そんなものは紗希に届くことは無く、即座に斬って落とされた。
「薪苗流剣術第二秘剣――光炎」
迫りくるは余りの速度に炎を纏う刺突。その突きはオルランドへと死を運んでくるものであった。
何せ、自らを防御できるものが何も無い。両腕も、二振りのサーベルも。そんな状態で紗希の生命を懸けた突撃を真正面から受けざるを得なかった。
オルランドと紗希は一直線に廊下を疾駆、曲がり角などお構いなしに突っ込んだ。突っ込まれた壁からたまったものではない。放射状に亀裂が走り、その亀裂は天井まで至った。
オルランドは心臓を貫かれ、すでに絶命していた。紗希は真っ黒に焦げた両手を眺めた後で、オルランドを見やれば灰と化していた。
光炎は八英雄のシルヴェスターですら、ガードした上で大ダメージを受けたほどの威力である。オルランドがノーガードで受けて無事なわけがなかった。
(――兄さん、ごめん)
そう思い、毒に蝕まれた華奢な肉体はうつ伏せで静かに横たわるのみであった。
第137話「暗殺者の願い」はいかがでしたか?
今回の戦いは紗希がギリギリのところで勝利を収める形になりました。
オルランドの暗殺者になった経緯も合わせると、戦いの緊張感も増したんじゃないでしょうか?
そして、次回は直哉とギケイの戦いになっております!
――次回「最強の暗殺者」
更新は5/24(月)の20時になりますので、お楽しみに!
P.S.次の更新は遅れないように気を付けます……





