第132話 総司令の実力
どうも、ヌマサンです!
今回は二人の総司令が前半と後半で出てくるので、今回のタイトルになってます。
とにもかくにも、今回もバトル全開なので、そこを楽しんでもらえればと思います……!
それでは、第132話「総司令の実力」をお楽しみください!
轟音が空気を振動させ、王城の玉座の間に巨大な穴が空けられた。
玉座の間には国王であるクリストフと王国騎士団長4人が一堂に会していた。王国騎士団長たちは国王であるクリストフを守るような配置を取り、巨大な穴の方を注視していた。
そこから現れたのは7人の男女。ユメシュを筆頭に、ギケイ、アレクセイ、ケヴィン、ゲーリーの4人。その他に天然パーマがかったオーキッド色の髪をした大男とラベンダー色のストレートロングヘアーをした女性がいた。
「お前は……セルゲイか!?」
クリストフを含めた5人は表情を驚きの色に染めた。それを見て、ユメシュはフッと笑みをこぼした。
「そうだ。だが、今の私の名はユメシュ!魔王軍総司令ユメシュだ!」
ユメシュはそう叫びながら杖を片手に両手を大きく広げ、玉座の間の天井を見上げていた。他の6名はユメシュからの指示を待っているのか、武器を構えるわけでもなく動かなかった。
それを聞いたレイモンド、フェリシア、ランベルト、シルヴェスターの4人は大剣、杖、長槍、サーベルをそれぞれ構えた。
「ユメシュ様、対象を発見した。俺たちは――」
「ああ、任務を果たしてこい」
ユメシュと短く言葉を交わした後、アレクセイ、ケヴィン、ゲーリーの3人は王城から城門の方まで跳躍していった。
「ギケイもラルフとダフネを連れて行ってくるがいい」
「ハッ、承知したでござる」
ユメシュの背後に残っていた3人も即座に玉座の間の外へと出ていった。彼らが去った後、断末魔の叫びが止むことなく玉座の間の外から響いてくるのだった。
レイモンドたちにはギケイたちを追撃する手もあったが、それでは国王の守りが手薄になってしまう。それらのことがあって、結局動くことが出来なかった。
「さあ、お前たちにはここで死んでもらおう」
ユメシュが魔力を解放したことで、騎士団長4人も戦闘態勢に突入した。レイモンドとシルヴェスターは左右に散開し、ユメシュとの間合いを詰めていく。
「“聖霊砲”!」
そんな二人の間をフェリシアが放った光の砲撃が駆け抜けていく。
「“暗黒障壁”」
ユメシュは焦るわけでもなく、笑みを浮かべながら自分の前に暗黒の壁を展開し、光の砲撃を真正面から受け止めた。
「オラァ!」
「“煉獄斬”!」
“聖霊砲”を防ぎ切ったユメシュの左右から大剣の大上段からの振り下ろしと炎を纏った斬撃が叩き込まれた。
レイモンドは斬撃を放った際の斬撃は筋力強化魔法を発動した状態での一撃である。破壊力であれば、王城が崩壊しかねない威力である。なのに、何事も起こった様子は無かった。
黒い風が壁状となってレイモンドの大剣とシルヴェスターのサーベルを受け止めていた。ユメシュの左右に同時に展開されたのは闇属性と風属性を魔力融合させることで作られた壁。つまり、フェリシアの“聖霊砲”を防いだ“暗黒障壁”の4倍近くの耐久性がある。その名も“黒風壁”。
「フッ、シルヴェスターの攻撃を受けるのは“暗黒障壁”だけで充分だったが、レイモンド。お前の筋力強化魔法から放たれる斬撃の威力は桁違いだからな……!」
念には念を、と言外に語っているユメシュにレイモンドとシルヴェスターの二人が戸惑った一瞬。そこでユメシュは不意に“黒風壁”を解除した。力を込めていた二人は、魔法が解除されたことで前のめりに体勢を崩した。
「"暗黒の息吹”!」
零距離からの魔法攻撃にレイモンドもシルヴェスターも回避することすら許されずに吹き飛ばされた。二人は玉座の間の壁へと弾き飛ばされた。
「“氷雷槍”!」
ユメシュが二人が壁に叩きつけられたのを確認し、クリストフたちの方へと体を向けたタイミングで冷気を纏った槍状の雷がユメシュへと襲い掛かった。
「“暗黒の岩槍”」
ユメシュは左手に黒色の岩でできた槍を生み出し、投擲した。冷気を纏った雷と黒色の岩でできた槍。双方が激突することで、凄まじい魔力が周辺にまき散らされ、爆ぜた。
「“闇輝閃”」
「なっ、早すぎるだろ!」
どす黒い一筋の光がユメシュの杖から打ち出される。その光線は床を抉りながら、クリストフたちの方へと突き進んでいく。この魔法の展開の速さにランベルトはただただ驚かされるばかりであった。
「“氷壁”!」
クリストフとフェリシアの前に立ち塞がったランベルトは、氷の障壁を展開して二人を守護した。幸いにも二人は無傷で済んだが、ランベルトは“氷壁”を貫いたユメシュの魔法の直撃を受け、倒れた。
「“聖霊雨”!」
フェリシアはランベルトの負傷を無駄にはしまいと光の雨をユメシュへと降り注がせる。無数の光のつぶてがユメシュへと迫る。悪魔であれば、光属性のダメージは是が非でも避けるところだが、ユメシュは魔人の力を受け継いだだけにすぎず、光属性のダメージは受けたところで致命傷にはならない。それゆえの不動の構えであった。
「“暗黒重力球”」
無数の光のつぶては、ユメシュの左右の手の間に生み出された真っ黒な球体に一つ残らず吸い込まれていった。
すべて吸い終わると同時に合掌し、“暗黒重力球”を解除。
「そんな……ッ!」
たった今、目の前で起こった出来事に魔法を発動したフェリシアも、それを間近で見ていたクリストフも開いた口が塞がらなかった。
「フッ、私は闇を司る八眷属の一人だ。闇属性の魔法を扱わせて私の右に出る者などいない」
ユメシュは心底自慢げな態度で二人を見ていた。
「"暗黒重力波”!」
ユメシュは指の一つを上から下へ動かし、クリストフとフェリシアの二人に魔法を発動させた。これによって、二人は床へと叩き伏せられ、指一つ満足に動かすことが出来なかった。
ユメシュが使った“暗黒重力球”と"暗黒重力波”は同じ闇属性の重力魔法である。違うところは収束させるのか、発散させるのかというところにある。
“暗黒重力球”は一点に重力の向きを収束させることで、あらゆるモノを取り込むというモノ。対して、"暗黒重力波”は一方向に重力をかけることで発動する。
つまり、“暗黒重力球”の方がより精密な魔力操作技術が求められ、"暗黒重力波”は相手を押さえつけられればいいため、精密な魔力操作技術よりも純粋な魔力量の方が必要になるというところが違いになって来るのだ。
「調子に乗ってんじゃねぇ!」
「今度こそ、決めさせてもらうよ!」
「覚悟しろ!セルゲイ!」
ユメシュがクリストフとフェリシアに魔法を発動して、手元が手薄になっているのをチャンスと捉えたレイモンド、シルヴェスター、ランベルトの3人が手傷を負いながらも特攻をかけた。
「だから、私はユメシュだ!セルゲイではない!“闇水渦”!」
まさかの"暗黒重力波”との魔法の同時発動に3人は思考が停止した。ユメシュはランベルトがセルゲイと呼んだことへの怒りを露わにしながら、自らの周囲に黒い水流を生み出して渦に踏み込んだ3人へさらなるダメージを与えていった。
数秒が経ち、渦の外へと吐き出された3人は水を大量に飲んだのか、意識を失っていた。そんな状態の彼らが受け身を取れる筈もなく、床へと叩きつけられ3人を中心とした赤い泉が形成された。
「フハハハハハ……!20年前の時点で私と同じ八英雄に数えられた4人が同時に掛かって来ても、私に手傷の一つも負わせられないとはな!」
ユメシュは過去の情景を思い浮かべながら、4人を侮蔑するような笑みを浮かべていた。
「私が強くなり過ぎたのか、お前たちが平和ボケしたのかのどちらかなのだろうが……いや、どちらもか……!」
コツコツと靴音を踏み鳴らしながら、ユメシュは残された二人の元へと歩いて行く。
「次は貴様らの番だ。あの3人も後を追わせてやろう」
杖を向けられ、クリストフは唇を噛んだ。フェリシアも泣き寝入り……するかに思われた。
「“聖霊脚”!」
華麗な動きでフェリシアはユメシュへと光の粒子を纏った蹴りを見舞った。さしものユメシュも勝利の美酒に酔っていたこともあり、回避行動が間に合わなかった。
人間に限らず、生命ある者は必ずと言っていい確率で勝利一歩手前が一番隙だらけになるモノである。今回はそこを完全に突かれる形となったのだった。
「チッ、フェリシア……ッ!」
ユメシュがフェリシアへ憎悪の眼差しを向けた時。1つ下の階から凄まじい轟音と振動が聞こえてきた。
「何事だッ!」
ユメシュは声を荒げて床をじっと見つめた。一体、下の階で何が起きたというのか。それは玉座の間にいる誰もが気にかけていた。
◇
魔鉄の大槌が振り下ろされると同時に、発生した轟音と衝撃波は王城そのものを揺らしているかのような振動を生み出していた。
これが王国軍総司令フィリスの底力。そんなものは誰の目から見ても明らかであった。直哉たちも驚きのあまり、言葉を失った。
――あのギケイを仕留めたのか。
直哉は刹那的にそう思った。実際にギケイと戦ったことがあるからこその感想であった。見たところ、以前よりもギケイの敏捷性も斬撃の威力も上がっているのは感じ取れていた。
――もし、そんな男を仕留めたのであればフィリスという人はどれほど強いのか。
だが、直哉がそんな風に思うことが出来たのはほんの一瞬だけであった。
「なるほど。お主、中々やるでござるな」
そんな声のする方を見れば、ギケイが刀で“魔鉄槌”を受け止めている。そして、一筋の雷光が奔り、“魔鉄槌”は真っ二つに切断された。
「なっ……!」
「お主では相手にならぬでござるよ」
驚くフィリスの隣をギケイが駆け抜けた。直後、フィリスの四肢から血が飛び出した。これにより、立つ力を失ったフィリスは地面にドサリと崩れ落ちた。
「さて、待っていたでござるよ。薪苗直哉」
とっさに物陰に隠れていた直哉たちであったが、聖美と茉由に隠れているように伝えて、直哉だけがギケイの前に姿を見せた。
「まだ二人、そこに隠れているでござろう。気配でバレバレでござるよ」
ギケイが刀の切っ先を向けたのは紛れもなく、聖美と茉由のいる場所であった。これによって、二人は潔く姿を見せた。
「久しぶり、だな。ギケイ」
「そうでござるな。ユメシュ殿からお主が死んだと聞かされた時は衝撃が走ったでござるが」
「そんなに驚いたのか?」
「そりゃあ、そうでござるよ。この手でお主を討つ機会が二度と訪れないのかと思うと、口惜しかったでござるからな」
ギケイの眼から、再戦への執念のようなモノを感じ取った直哉は背筋を冷や汗が流れ落ちていくような感覚に襲われていた。
「直哉君、私も戦うから。……ね?」
「先輩、私も一緒に戦います」
「二人とも……!」
聖美は優しく包み込むように直哉の手を握り、茉由もニコリと笑みを浮かべながら、ギケイへと剣を構えていた。
「生憎、お主ら二人の相手はそれがしではないでござる。ラルフ、ダフネ。頼んだでござるよ」
ギケイが名を呼ぶと、玉座の間がある4階へと続く階段から男女が姿を現した。男は天然パーマがかかったオーキッド色の髪が特徴の大男で、女の方はラベンダー色のストレートロングヘアーの剣士であった。
「ギケイさん、やっとオレたちの出番か!」
「そこの二人は私たちに任せておいてくれ」
男の方はニヤリと笑みを浮かべながら、聖美の方へと向き直った。女の方も波状剣を斜に構えて、茉由の方へ切っ先を向けた。
「さあ、始めるでござるよ!」
ギケイは一息に直哉との間合いを詰め、直哉へと雷を纏った斬撃をぶつけた。
「なっ、雷!?」
暗殺者ギルドの人間が魔法を使ったということに直哉は驚きを隠せなかった。少なからず、聖美を救うために暗殺者ギルドで戦った時には魔法は使えなかった。
それが数年前なら、使えるようになっていても不思議ではない。だが、前回戦ったのは今から数か月ほど前の事だ。高々、数か月の間に魔法を身に付けたというのは驚くしかなかった。
そして、ギケイの斬撃の威力も直哉の力では敵わず、後方へ一直線に吹き飛ばされた。
「直哉君!」
「先輩!」
そんな直哉の様子を見た聖美と茉由は焦燥に駆り立てられるような声を出していた。
「へっ、アンタの相手は俺だぜ!」
「私を無視されては困るな!」
ラルフ、ダフネの二人がそれぞれ聖美と茉由へと攻撃を仕掛けていく。ラルフの黒い魔力を纏った拳が聖美の鳩尾へと吸い寄せられるようにして命中し、ダフネの波状剣による黒い魔力を纏った斬撃も茉由の鎧を斬り裂いた。
聖美はラルフの攻撃で背後の壁へと叩きつけられ、茉由はダフネの斬撃で胸部から血があふれ出た。
「お姉ちゃん……!」
「うん、分かってる。今はお互いに直哉君の心配をしてる場合じゃないね……ッ!」
茉由も剣に冷気を纏わせて戦闘態勢を整え、聖美も吸血鬼の力を解放して戦いに臨んだ。その様子を見て、ラルフとダフネの二人も楽し気に表情を崩した。
「さて、それがしの新たな技を受けた感想のほどはいかがでござるか?」
「……ッ、正直な感想としては見違えるほどに斬撃の威力が上がっていてビックリしたってところだな」
月がどこか悲しげに光を王都に降り注がせる中、直哉はイシュトイアを構え、改めて強敵と対峙したのだった。
第132話「総司令の実力」はいかがでしたか?
ユメシュの方は騎士団長四人を圧倒するほどの力に見せたわけでは、フィリスの方はギケイに敗れるという形に。
直哉たちもギケイたちと戦うことになったわけですが、こちらの戦いもどう決着していくのかを見守っていてください~
――次回「死闘の果てに」
更新は5/9(日)の20時になりますので、お楽しみに!





