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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第8章 王都動乱編
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第129話 強敵、再び

どうも、ヌマサンです!

今回は前の章でも登場した彼らが本格的に出てきます。

また、今回の話の舞台は王城になります……!

それでは、第129話「強敵、再び」をお楽しみください!

 城門前でウィルフレッドと別れた直哉たちは王城の内部を目指して駆けていく。しかし、そこへ一人の暗殺者が襲いかかる。


「会いたかったぜぇ!洋介……ッ!」


「お前は……テオ!?」


 王城を目指す一同の側面から姿を現したのはテオだった。聖美を助けるべく暗殺者ギルドに突入した際に洋介が倒した暗殺者の男。そんな小柄な男のボサボサの黄土色の髪は夜風になびいていた。


 洋介はテオから出会い頭に繰り出された短剣での斬撃をサーベルで受け止めていた。本当に一瞬でも反応が遅れていれば、頸動脈を切断されていたことだろう。


「俺はお前を殺すために戻って来たんだよぉ!」


 洋介はテオの群青色の瞳から、何かに復讐の鬼にでも魅入られているかのような異常性を感じた。


「洋介!」


 夏海が洋介の名を呼び、振り返る。夏海だけではない。来訪者組全員がテオに攻撃されている洋介の方を振り返った。


「夏海姉さん!みんな!心配はいらねぇ!先に行っててくれ!後から追いかける!」


 洋介の言葉に全員が不安を抱いたが、洋介なら大丈夫と不安を振りほどいて前進する選択をした。


 洋介はその選択をしたみんなにホッと安堵の息を漏らした。これで心置きなく戦える……と。


「ウラァッ!」


 短剣と競っていたサーベルが火花を散らしていたが、洋介のサーベルがテオごと短剣を力ずくで薙ぎ払った。


「やっぱり、お前はこうでなくっちゃな!」


 テオは相変わらずの洋介の力になぜだか嬉しそうで、それもまた洋介の心の中を不安でかき立てた。


「どうしてそんなにも余裕そうなんだ?お前、あの時俺に負けただろ?」


 洋介がおかしいと思ったのはそこだ。普通、一度負けた相手なら気を引き締めてかかるはず。だが、これではまるで――


「勝てると確信してるからに決まってんだろ?」


 そう、確信している。洋介にもそれくらいは分かっている。だが、勝てると確信する根拠が皆無。そこが怪しい。


 洋介が疑念を深める中で、テオは腰からもう一振りの短剣を引き抜き、腰を低く落として構えた。洋介もサーベルを斜に構え、迎撃できるように備えた。


「さぁ、再戦リベンジマッチといこうか!洋介!」


 テオの言葉に、洋介は今まで以上に表情を引き締めるのだった。



 ――洋介とテオの戦いの火蓋が切って落とされようかという頃、直哉たちは王城の一階の広間に到着していた。


「兄さん、入り口付近で亡くなってた騎士の人たちって……」


「ああ、殺されたのは間違いない。でも、異変が起こってから時間も経ってないから、殺したヤツもこの辺りに潜んでるかもしれないな……」


 直哉たちは入口に騎士が倒れていた以外にも、城門と王城の間でも首と胴を分けられている騎士の死体を何体も発見している。そのたびに押し寄せる吐き気と闘いながら、ここまで走って来たのだ。


 直哉の推測では洋介に襲いかかったテオが王城の外に居た騎士を殺して回ったと見ている。それにテオのあの様子なら洋介が来るまでの暇つぶし(ウォーミングアップ)として行なった可能性が高い、そんな風にも予測していた。


 だが、王城の玄関口の両脇に倒れていた騎士二人は心臓を一突きされた形跡があった。片方は等間隔に3つの穴が空いており、もう片方は穴が一つ。


 どちらも首を落とされていない時点でテオとは別の人物が殺したのだろうということは、直哉以外の全員が理解していた。つまり、敵は最低でも二人はいる。


「あら、意外と早かったじゃない」


「ホントだ~。でも、7人しか居ないんじゃすぐに終わっちゃいそう?」


 直哉たちが警戒する中、大広間の柱の影から現れたのは緋色の髪を一つ結びにした褐色肌の女性。左右の手には金属製のカギ爪が装着されている。


 そして、もう一人。大広間の正面の階段を上がった場所で、直哉たちを見下ろしているのは鉛色のセミショートと琥珀色の瞳が特徴の女性。女性は長槍を肩に担いでいたが、槍の穂先をこちらへと向けた。


「アレッシア……!」


「ヴァネッサ……!」


 寛之と夏海がそれぞれ人の名を口にして驚いた様子であったが、彼女たちもまた暗殺者ギルドの暗殺者たちである。


「アタシはそこの杖を持ってる男に用があるだけよ」


「ウフフ、私は槍使いの子に用があるの」


 アレッシアもヴァネッサもテオと同様、暗殺者ギルドでの借りを返しに来たと言う感じであった。


「直哉、僕がアレッシアの相手をする。それで、武淵先輩がヴァネッサを相手する。そうすれば、残り5人は奥に進めるはずだ。どうだ?」


「いや、どうだと言われてもな……」


 直哉は少し戸惑い気味であった。洋介だけでなく、寛之と夏海を残して先に進むのか――と。


 直哉が夏海の方を見れば、夏海はフッと笑みを浮かべながら、ゆっくりと首を縦に振った。


「……二人が良いんだったら、俺が止めることは何も無いな。ただ、二人とも無茶だけはしないでくれ」


「もちのろんだ」


「ええ、分かってるわ」


 寛之は杖を構えて、アレッシアの元へと勢いよく向かっていく。それを横目に、残された6人は階段を駆け上がるのだった。


「ヴァネッサ、私は残るわ。だから、みんなを――」


「ええ、通すわ。だって、獲物を横取りしたら彼らがうるさいもの」


 ヴァネッサはすんなりと道を譲り、直哉たちも疑惑の眼差しを向けながらも横を走り抜け、王城の3階を目指した。


「あと、3階はそっちじゃないわよ?逆よ!ま・ぎゃ・く!」


 ヴァネッサは手を口の横に当て、あらぬ方向へ向かおうとする直哉たちに正しい道を教えた。直哉たちは戸惑いつつも、その方向へと進んで行った。


「ヴァネッサ。あなた、一体何のつもりなの?」


 夏海は敵に塩を送るようなマネをしたヴァネッサに詰め寄ったが、


「そりゃあ、獲物を罠に誘導するために決まってるでしょ」


 ヴァネッサは笑みを浮かべながら、そう答えただけであった。


 夏海は直哉たちのことが気がかりで、追いかけようとしたがヴァネッサからの槍の攻撃が見舞われた。


「あなたが残るから、私はあの子たちを通してあげたの。約束は守らなきゃダメよ?夏海」


 夏海は一度、直哉たちを追いかけることは諦め、ヴァネッサとの戦いに注力する決意をした。


「さあ、始めましょう?」


「……ええ、そうね」


 ――ここに二人の槍使いの戦いが幕を開けたのだった。



 夏海が戦っている頃、先に進んだ直哉たちは3階へと続く階段を発見していた。


「にしても、何でヴァネッサって人は俺たちに道はこっちだって教えてくれたんだろうな?」


「分からないけど、親切心だと思うよ?私は」


「ボクはそうは思えないですけど……」


「私も紗希ちゃんと同意見です。何かの罠である可能性だって……」


 聖美はヴァネッサをそこまで疑うような素振りは無く、紗希と茉由は疑念に駆られていた。そして、ヴァネッサの姿が見えなくなった辺りでイシュトイアには少女の姿から剣の姿へ戻って貰っていた。


 いつ何時、敵の攻撃にさらされるかも分からないのに、直哉が武器を携帯していないのは危ないということを踏まえての聖美からの提案であった。


 そんな4人が走っている目の前、廊下の曲がり角で一人の王国兵が壁へと叩きつけられた。


「誰か、助け――ッ」


 兵士が逃げようと直哉たちの方へ体を向けた瞬間に兵士の首が落ちた。犯人はその瞬間に突如として曲がり角から現れた褐色肌の大男である。手にしたサーベルで、首を斬り落としたのだ。


 その大男の姿に直哉、紗希、茉由は即座に走ることをやめ、体を硬直させていた。ただ、聖美だけは初対面であるために3人の表情を見て、頭に疑問符クエスチョンマークが浮かんでいる状態である。


 大男は紫紺の髪を揺らしながら、直哉たちの方を振り向き、濡れ羽色の瞳を細めていた。


「オ、オルランド……!」


「フン、久しいな小娘。今度こそ、お前に引導を渡してやる」


 オルランドは笑みを浮かべながら、未だに血の滴っているサーベルを左右の手に一つずつ提げて前進してくる。


「紗希、お前は面倒な男に好かれるらしいな」


「それは兄さんも含めて?」


 紗希の言葉に直哉はぐうの音も出ず、胸部を矢が貫通していくかのような感覚に襲われていた。


「そこの小娘以外の人間に用はない。さっさと失せろ」


 オルランドに顎で先に行くようにと言っているが、3人とも警戒して動けずにいた。


「兄さん、行って。あの人の狙いはボクだけだから」


「だが……」


 直哉は紗希の瞳を見て、信じることにした。何より、前回はオルランドに紗希は勝っている。むしろ、残る方が紗希にとって足手まといになりかねない。そんなことも同時に思っていた。


「分かった。だが、無理はするなよ」


「うん、また後で」


 直哉がオルランドの隣を走り抜けていく。それに聖美と茉由も戸惑いながらも続いた。


「先輩、紗希ちゃんは大丈夫でしょうか……」


「大丈夫、だって八英雄の一人とほぼ互角に戦ったんだろ。暗殺者相手に後れを取ることは無いだろうし」


 直哉は何度も不安げに立ち止まり、紗希の方を振り返る茉由に「大丈夫だ」と声がけしながら、先を急いだ。


「直哉君!階段!」


 聖美が指し示す方向には確かに階段があったのだが、踊り場や階段の段差の部分にも数十名の騎士が殺戮されており、血が階段を流れ落ちていっており、気味が悪かった。


 3人は足元を滑らないように用心しながら、階段を上っていった。階段の半ばに差し掛かった頃、階段の上の広間から剣戟の音が響いてきた。激しく何度も金属がぶつかり合う音だ。


「二人とも、行こう」


 直哉の言葉に二人は頷き、慎重に階段を登りきった。すると、そこでは腰まで届くほどの黒髪をなびかせながら刀を煌めかせ、敵と対峙している男が居た。その男は忘れるはずがない。暗殺者ギルド最強の男、ギケイだった。


 そして、ギケイと対峙しているウェービーロングにしたウィスタリア色の髪を持つ麗人。フィリスであった。フィリスは鎧を何ヵ所も切り裂かれ、血が滲んでいる。


 直哉たちも加勢しようと駆け寄りたいところであったが、なぜだかその空間に入ることができなかった。二人からは部外者を寄せ付けないオーラが放たれていることが一番の要因であった。


「それがしと剣技でここまで競り合うのは初めてでござる。そなた、名は何というでござるか?」


「……ッ!貴様に答える名など無い!」


 フィリスは容赦なく、ギケイへと目にも止まらぬ剣捌きを繰り出していく。ギケイもそれを捌いていく。両者の剣捌きは圧巻で、3人は思わず見入ってしまうほどのモノであった。


「貴様、早くそこを退け!こうしている間にも上で陛下たちは……ッ!」


「それは出来ないでござるよ。それがしの任務はこれより先に誰も通さぬことにござるゆえ」


 二人は押し問答を繰り返しながら、激しく火花を散らしながら刀と長剣ロングソードは交わった。


「使うのは気が引けるが、こうなれば手段を選んではいられないなっ!」


 フィリスはギケイの刀を上へと弾いた直後、左手に槍を握っていた。一体、いつの間に槍を手に取ったのか、直哉たちには捉えることすら出来なかった。


「“魔鉄槍ミスリスランス”!」


 勢いよく突き出された槍はギケイの腹部を貫く――はずだった。


「何ッ!?」


「そんなアリが進むような速度の突きをそれがしがかわせないとでも思っていたのでござるか?」


 フィリスが突いたのはギケイの動いた後、残像だった。そして、フィリスが槍を突き出して無防備になった左わき腹に一閃。


「あがっ……!」


 フィリスのわき腹から噴水のように血が噴き出た。余りの激痛にフィリスは膝を屈した。だが、その目から闘志は失われていなかった。


「兄の仇……!覚悟ッ!」


 もう反撃は無いと踏んでいたギケイは足を止めていた。そこへフィリスの左手に持った剣での右薙ぎが強襲する。


「フッ、小賢しいでござるよ!」


 フィリスの剣はギケイに届くことは無かった。届く直前で、剣は粉々に切り刻まれてしまったからだ。武器を奪われたフィリス相手に勝ち誇ったように笑みを浮かべるギケイであったが、直後に腹部を剣で貫かれた。


「これは……ッ!?」


 ギケイを貫いた剣を握るフィリスの手は右。先ほどとは反対である。


「生憎、さっきのはデコイだ。上手く引っ掛かってくれて安心した」


 フィリスの魔法は召喚魔法・魔鉄装。マリーの召喚魔法・氷装とレベッカの召喚魔法・風装、ビャクヤの召喚魔法・光装と同じ系統の魔法である。すなわち、魔鉄製の装備を召喚する魔法。


 先ほどギケイが切り刻んだ剣は魔法によって、召喚されたモノだったのだ。そして、自らが使用しているオリハルコン製の長剣ロングソードでギケイの腹部を貫いたのだ。


「フッ!」


 ギケイは勢いよく後ろへ跳び退き、フィリスとの間を取った。


「これで終わりだ!“魔鉄槌ミスリルハンマー”ッ!」


 ――フィリスによって、呼び出された大槌はギケイのいる場所を大広間ごと叩き潰し、轟音と衝撃波は直哉たちの元に届くほどであった。

第129話「強敵、再び」はいかがでしたか?

洋介とテオ、寛之とアレッシア、夏海とヴァネッサ、紗希とオルランドといった具合に暗殺者ギルドで戦ったメンツがもう一度刃を交える形に。

そして、ギケイとフィリスの戦いの決着やいかに……!

――次回「殺戮のラビュリス」

更新は4/30(金)の20時になりますので、お楽しみに!

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