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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第7章 滅神剣争奪編
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第122話 ただいま。

どうも、ヌマサンです!

今回は直哉とクロヴィスが激突します……!

それと、今回はネタが多いので、知っているものがあるか探しながら読んでみてください!

それでは、第122話「ただいま。」をお楽しみください!

「……直哉君?」


 聖美は呼んだ。かすれて、消え入りそうな声で。会いたくて仕方なかった、失って取り戻せないと思っていた彼の名を。


「呉宮さん、スラマッパギ!」


 意外にも再会の一言がその場に全く似合わないパロディネタだったことには聖美も失笑したが、自分の危機に直哉が駆け付けてくれたという事実は素直に嬉しかったのだった。その姿も、匂いもすべてが聖美を懐かしい気分にさせた。


「君は……?」


「俺は薪苗直哉。通りすがりの冒険者だ……よ!」


 直哉は薙ぐ、彼女に振り下ろされんとする死の一太刀を。


「よくも僕の楽しみを邪魔をしてくれたね……薪苗直哉。タダでは済ませないよ」


 真っ直ぐに剣を直哉に向けるクロヴィス。そのまま()()()を邪魔されたことへの恨み節を吐いた。これには直哉は静かに怒りの焔を纏った言葉を口にした。


「ぬかしおる。タダでは済まさないのは、こっちのセリフだ。お前がどこの誰なのかは知らないが、俺のオレの彼女と友人たちを痛めつけてくれた礼をしてやる」


 クロヴィスの言葉に強い言葉を返す直哉に、聖美は胸の内の不安を完全に拭うことは出来なかった。


 ――直哉君はあのクロヴィスって人に勝てるの?


 聖美の不安はまさにその一点だ。自分が吸血鬼の力を解放しても敵わなかった男に彼が勝てるのか。聖美は信じるべきだということは分かっている。だが、もし勝てなくて傷だらけになる直哉は見ていられない。


「直哉君、その人――」


「分かってるよ、強いってことくらいは。でも、呉宮さんは安心して寝てて。これ以上は傷つけさせないから」


 直哉は聖美を顧みて、優しく微笑んだ。表情は優しさで溢れているが、瞳には強さというか意思の強さを感じさせるものがあった。しかし、実は直哉は聖美のカッコつけてるだけである。心の中ではクロヴィスが怖すぎて膝を折りそうになっている。でも、逃げれば聖美たちの命が危険であるために逃げるわけにはいかなかった。


 まず、直哉は今の状態では勝てないことを悟り、クロヴィスが動くより先に竜の力を解放した。でなければ、殺される。クロヴィスから放たれる濃厚な殺気だけでそれは理解できた。


「今すぐに殺してあげるよ!薪苗直哉ッ!」


 クロヴィスが直哉へと一足飛びに斬りかかる――より早く直哉の一閃がクロヴィスの胸に浅くではあったが、直線の傷を刻んだ。クロヴィスが剣を振りかぶった一瞬の出来事だった。


 これにはクロヴィスも、見ている聖美たちも驚いた。最後に見た時の直哉の動きとはまるで違う、無駄がなく洗練された動き。自分たちと離れている間にどれだけ強くなったというのか。


 聖美は驚きつつも、成長を喜ばしく思った。ディーンとエレナは先ほどの直哉の動きに紗希の姿を重ねていた。まだまだ紗希ほどの鋭さは無い。だが、凄まじい成長である。


 ――私が心配できるような強さじゃなかったね。直哉君。


 聖美は安心して、傷口の修復へと全神経を集中させた。ディーンとエレナは地面を這って、聖美の元へと息も絶え絶えに集った。


 そんな3人の周囲を憎悪と護るという意志の籠った剣舞が紡がれていた。


(薪苗直哉の強さは八眷属に迫るモノがある……!第一、この男はダグザシル山脈で死んだはず!)


 直哉の猛攻をいなしながら、クロヴィスは必死に思考を巡らせていた。薪苗直哉という名前には聞き覚えがあった。以前にディアナに会った時に彼女が始末したと言っていた竜の力を扱う人間のことだ。


 心の中でディアナを嘘つきだと罵りながらも、必死に目の前の男と剣を交わせた。ディアナ自身、嘘をついたわけではないのだが、そんな事情など今は関係なかった。


 二人は宙を舞い、地面に着地する。着地と同時に地面が爆ぜ、衝撃波がまき散らされる。クロヴィスは剣を寝かせ、両手で直哉の大上段からの一撃を受け止めた。クロヴィスの腕の筋肉は悲鳴を上げていた。


 しかし、急に上からの圧力が消えた。ふわりと浮き上がるような感覚に包まれたクロヴィスに下からの斬り上げが目にも止まらぬ速さで放たれた。


 この不意打ちにクロヴィスは抵抗する術は無く、右わき腹から左肩にかけて深く切り裂かれた。


「クッ!」


 傷口から()()()を流しながら、じりじりとクロヴィスは後退していく。


「お前、魔族だったのか……!まあ、まちかどには居なさそうだけどな」


 少しネタを挟んだが、すました顔のままの直哉。そんな直哉はクロヴィスが流す青い血を見て確信していた。それが魔族だという何よりの証なのだから。


「フッ、バレちゃったら仕方ないか。そう、僕はクロヴィス。魔王軍総司令ユメシュ配下、七魔将の一人だよ」


 ユメシュという名に直哉も聖美もそれぞれが思い思いの姿を思い浮かべた。直哉たちが異世界に来ることになったのもユメシュが聖美を連れ去ったからに他ならない因縁の相手である。


「ユメシュの配下がどうしてこんなところに?」


「滅神剣イシュトイアを手に入れるためと、もう一つ別の目的さ。もう一つの方は達成したんだけど、滅神剣イシュトイアが無かったのは残念だったよ」


 直哉の問いにクロヴィスは素直に即答した。だが、クロヴィスの言葉を聞いて直哉とイシュトイアに冷た~い汗が流れたことは言うまでもない。


『あ、俺が持ってる剣が君が探してる滅神剣イシュトイアだよ』


 ……などと口にすれば確実に事態がややこしくなる。直哉は心の中で、葛藤した。明かすべきか、隠ぺいするか。結論は――後者に至った。


「そんな剣があったなんて……初めて知ったな。というか、そんなイシュなんとかを手に入れてどうするつもりだったんだ?」


「フッ、そこまで君に教える義理は無いよ。さあ、お遊戯の時間は終わりにしようか」


 そう言い終えたクロヴィスからドス黒いオーラが溢れ出した。そんな不気味な状況に直哉たちは警戒心を強めた。


 黒いオーラが立ちのぼらせながら、白銀の鎧を破り捨てた。


「僕は魔人さ。さらに、この肉体には悪魔の力を宿している。この鬱陶しいことこの上ない鎧を着たままでは、その力が使えないからね。それに、こんな鎧はもう要らないし」


 クロヴィスは鎧の残骸を踏みつぶし、悪魔の咆哮をあげた。聖堂騎士団の鎧は悪魔には触れるだけでダメージになる。ゆえに肉体に宿した悪魔の力を封じられていたのだ。


 足かせが外れた状態にあるクロヴィスからは今までとは桁違いの魔力と存在感を感じさせた。直哉は改めてイシュトイアを構え、強敵クロヴィスと対峙した。


「この力はユメシュの配下になった時に貰ったものでね、思いのほか強力な力だったから驚いたよ――」


 手を握っては開き、握っては開きを繰り返しながら悪魔の力のことを活き活きと話す間、直哉は打開策がないかと思案を巡らせていた。


「“炎虎フラムマンティーガー”!」


「“聖矢ホーリーアロー”!」


 クロヴィスが自分の話に夢中になり、直哉が黙って考え事をしているところへ、炎の虎と多数の光の矢がクロヴィスへと牙をむいた。


 だが、炎の虎はクロヴィスの拳の一撃で消し飛ばされ、光の矢はすべて斬り払われてしまった。そんな中で、暗闇を抜けて飛来した一本の矢がクロヴィスの額を穿つ――直前で掴み取られてしまった。


「もしかしなくても、誰か居るのかい?」


「ああ、確かにここに居るがね」


 クロヴィスが暗がりへと投げた声はすぐに返ってきた。そこから姿を現したのはギンワンたちテクシスの冒険者6名であった。


 ギンワンたちの登場に直哉の頬は緩み、聖美の表情にも笑顔が戻った。


「ギンワンさん、呉宮さんたちを安全な場所まで!」


 直哉はギンワンへと声を張り、やって欲しいことを手短に伝えた。ギンワンはこれに異議を唱えることは無く、即座にイエスの返事を出して迅速に行動を開始した。


「ミズハさんも()()、忘れずに!」


「うん、分かった」


 直哉はサムズアップをミズハに送り、クロヴィスと剣を交えた。


「……シャボン・スプレー」


 ミズハは霧魔法発動前にくるっと回りながら、腕を交差させ、少し溜めを挟み、腕を大きく広げて霧魔法を発動させた。


 別に彼女自身は水星を守護星に持っているわけではないが、直哉がミズハの霧魔法を見ている内に「この言葉を言いながら霧魔法を使うと威力が上がる」と嘘を吹き込んだことで、唱えるようにしているだけである。そして、放つ直前のモーションを叩き込んだのは直哉である。


 元ネタが分かった聖美の表情は緩くなった。まだまだふざける余裕がある辺りは大丈夫そうだ……と。


 ギンワンは聖美の隣にいたディーンとエレナを脇に抱え、聖美はアカネが横抱きにした。その周りをヒサメ、ビャクヤ、ムラクモ、ミズハの4人が固めるという構図だった。


「逃がさないよ!」


 クロヴィスが狙いを直哉ではなく、聖美たちに切り替える。霧に包まれて視界が悪くても、直哉がその動きを許さなかった。


「チッ!」


「お前の相手は俺だろ!」


 クロヴィスの剣と直哉の持つイシュトイアがぶつかり合い、互いに火花を飛ばしていた。力の上では直哉よりも少しだけではあるが、クロヴィスの方が上であった。だが、僅差であるためにそこまで目立つことは無い。


 ――直哉君、無事に帰って来てね!無茶とかしちゃダメだからね!


 直哉の耳には自分を気づかう愛しい彼女の言葉が響いていた。もしかすると、直哉の幻聴なのかもしれない。だが、それは直哉にこれ以上ないほどの活力を与えた。


 直哉は一度、クロヴィスの剣を押し戻した。そこからはクロヴィスの光速の斬撃が何度も何度も見舞われるが、直哉はすべて受け止めたり、軌道を逸らしたりしてやり過ごしていた。


 クロヴィスがたった今放った斬撃の嵐は手加減など一切していない。むしろ、今の斬撃で直哉をミンチのようにズタズタに切り刻んでやるつもりだったが、見事に防がれてしまっていた。


 直哉にも傷が入っているとはいっても、かすり傷であったために大したダメージではなかった。


「斬撃など、当たらなければどうという事はない!」


 直哉はどこかの機動戦士で出てきたような言葉を用いながら、クロヴィスへ一太刀報いた。


 そこからは直哉とクロヴィスは激しい金属音と火花を散らしながら斬り結ぶ。剣術、パワー、スピードの3点においてクロヴィスが直哉を上回っているにも関わらず、致命傷を与えられていなかった。


 そして、極めつけは直哉が機を見て仕掛けまくったトラップだった。


「“聖爆”」


「しまっ――」


 クロヴィスの足元から眩しいほどの光をまき散らしながら、鼓膜が破れるかと思うほどの大爆発が起こった。


 クロヴィスが踏んだのは魔法陣。その魔法陣には爆裂魔法と光魔法の二つが付加エンチャントされていた。


 聖美と同様、クロヴィスのような悪魔は陽の光が苦手である。そして、それと同じ性質を持つ光属性の魔法は悪魔にとっては致命傷になりかねない。悪魔には肉体の傷を治癒する再生能力が備わっているのだが、それが唯一機能しないのが光属性の攻撃で受けた傷である。


 直哉はそのことを利用してクロヴィスに光の地雷を仕掛けたのだった。この戦法は手段をいとわず、勝ちさえすればそれでイイという考えに基づいている。


「君を始末するのは思っていた以上に厄介だね」


「おいおい、嘘だろ……」


 クロヴィスはピンピンしていた。直哉は今の攻撃でクロヴィスの足を不自由にし、一気呵成に攻撃を仕掛けて戦いにケリを付けるつもりでいたのだ。その狙いが外れたのには直哉も驚きを隠せなかった。


「僕には時間がない。だから――」


 クロヴィスの言葉が直哉の耳に入るよりも早く、クロヴィスは直哉の背後に回りこんだ。直哉には動きが辛うじて捉えられていたが、先ほどまでの移動速度とは数倍速くなっているのには驚きを隠せなかった。


 ――ガキィン!


 金属同士の衝突する高い音が空間中に響き渡る。


「フッ、君は本当に化け物だね」


「それは誉め言葉として受け取っておくぞ」


 直哉にはクロヴィスの動きが捉えられても、剣で迎撃するほどの時間は無かった。クロヴィスは勝利の女神が微笑んだのだと思っていた。


 しかし、直哉はとっさの判断で左前腕部でクロヴィスの片手剣ショートソードを受け止めたのだった。クロヴィスは続く、第二撃を警戒して直哉と間合いを取った。


「直哉、君は左腕に何かを隠してるね。僕が剣で切れないのは竜の鱗以外の理由があるんじゃないのかい?」


「さあな、俺はペラペラ喋るボスみたいに情報は出さないぞ」


 直哉自身は何も言わないが、実はテクシスの町を離れる前に今まで使っていた丸盾バックラーの代わりに鋼製の籠手を購入し、装備していたのだ。


 直哉はクロヴィスとの戦いの中で、その籠手にオリハルコンの強度を付加エンチャントしたことで腕を切断されずに剣を受け止めることが出来たのだった。


(さっきのクロヴィスの動き、どう考えても速すぎる。何か、仕掛けがあるのか?)


 直哉はクロヴィスの速度が唐突に何倍も速くなったことに違和感を感じていた。だが、使い始めたのは今。すなわち、鎧を纏って悪魔の力を封じていた時には使えなかった。


 ――だとすれば、悪魔の力と何か関係があるのではないか。


 直哉は一つの賭けに出ることにした。


「クロヴィスに魔法破壊魔法を付加エンチャント!」


 クロヴィスの肉体に一つの魔法が付加エンチャントされる――

第122話「ただいま。」はいかがでしたか?

直哉とクロヴィスの戦いの決着は次回に持ち越しになります……!

――次回「新技炸裂!」

更新は4/9(金)の20時になりますので、読みに来てもらえると嬉しいです!

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