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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第7章 滅神剣争奪編
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第121話 残忍な白銀の騎士

どうも、ヌマサンです!

今回はクロヴィスとの戦闘に臨む聖美たちの話になります。

クロヴィス相手にどんな戦いを繰り広げるのか、楽しんでもらえればと思います。

それでは、第121話「残忍な白銀の騎士」をお楽しみください!

「そっか。じゃあ、死んでくれる?」


 クロヴィスの低いトーンの声が空間中に響き、底知れぬ殺気で満たされた。


「“聖刃”!」


「“砂嵐サンドストーム”!」


 殺気が空間中に満ちると同時に放たれたのは多数の光の刃と砂の砲撃。もちろん、それぞれディーンとエレナが放ったものだ。


 二人の攻撃は殺気に呑まれて呆然としていた聖美に正気を取り戻させた。この二人の攻撃は実に勇気あるものであった。


 しかし、その程度の攻撃はクロヴィスには届かなかった。理由としては、クロヴィスの纏う鎧の防御力を上回るような威力ではなかったからである。


「そんな威力の攻撃じゃ、僕の纏う白銀の鎧を貫くことは到底無理だよ。もっと強い攻撃かと思ってたんだけど……期待して損したよ」


 クロヴィスはニコリと笑みを浮かべていた。だが、その笑みは見ているだけで背筋をゾクッと震わせる不気味さがあった。


 直後、クロヴィスが姿を消した。どこへ消えたのか。それは並ぶディーンとエレナの間である。左右の手を二人の肩にポンと優しく置いていた。余りの移動速度に手を置かれた二人の顔からは血の色が失せて、蒼ざめていく。


「フフッ、君たちは殺すほどの価値もなさそうだから、殺さないでおいてあげるよ」


 クロヴィスはディーンの襟元を掴んで、壁際まで一直線に投げ飛ばした。それに驚き、魔法を放とうとするエレナをディーンとは反対側の壁へと蹴り飛ばした。二人とも大きな音を響かせながら、壁に叩きつけられ、力なく地面へと崩れ落ちた。


 刹那、一本の矢がクロヴィスの額に放たれるも、矢は小首を傾げられたことであっさりとかわされた。一瞬の出来事に驚きはしたが、聖美も弾かれるように攻撃を仕掛けたのだ。すべては、みんなが生き残るために。


「へぇ、君の弓の腕前は中々のモノだね。抵抗しなければ、君も弱そうだから見逃してあげるつもりだったんだけど――」


 クロヴィスはフッと悲しいモノを見るような目で聖美を見やった。対する聖美はクロヴィスが言った『君も弱そうだから』という悔しい言葉に唇を噛んだ。だが、それは自分はまだまだ弱いのだということを彼女自身が再確認するには良い機会であった。


「私はあなたを許しません!あなたは私の仲間を友人を傷つけて、何とも思ってないからです!でも、これ以上は誰も傷つけさせない!」


 聖美は戦う覚悟を決めた。相手が騎士であり、人間だとしてもディーンとエレナ、二人の仲間を傷つけたことは変わらない。


 聖美は怒っていた。自分の好きだった男を自分の目の前で塵にした魔王軍に。そして、大事な人が居なくなった時に何も出来なかった自分自身にもである。


 矢を番える。相手は魔王軍ではないが、これ以上大切な仲間を傷つけさせないため。


「ハァッ!」


 放たれた矢はクロヴィスへと真っ直ぐに向かっていく。その矢の軌道はこれ以上誰かを傷つけさせないという聖美の真っ直ぐな信念の表れでもあった。しかし、矢はクロヴィスに届く直前で斬り払われた。


「そんな、のろまな矢が僕に当たると本気で思っていたのかい?」


 クロヴィスは瞬時に聖美との間合いを詰めた。余りの踏み込みに聖美は対応することが出来なかった。


「あの二人おもちゃは使えそうにないからね。せいぜい、君には苦痛を叫び散らしてもらうよ」


 ニヤリと笑みを浮かべたクロヴィスの凶刃は聖美の右わき腹から左わき腹へと駆け抜けた。クロヴィス的には、問答無用で胴体切断することもアリかと思っていた。


 ――だが、それでは面白くない。


 ゆえに、クロヴィスはあえて即死しない程度に加減して聖美の腹を切り裂いた。一体、どんな叫び声をあげてくれるのか。クロヴィスは期待に胸が膨らませていた。


 だが、クロヴィスの耳に入って来たのは叫び声ではなく、風を切って放たれた蹴りが自分の頬に衝突する音であった。


「ぐぼぁっ!?」


 クロヴィスは反撃されるなど予想すらしていなかった。だから、ガードすることはおろか、受け身すらも取れずに地面の上を数回バウンドした。


(なぜだ!?確かに僕の剣はあの女の腹を切ったはず……!)


 口からこぼれる血を手の甲で拭いながら、面を上げるとそこには傷一つ付いた様子のない聖美の姿があった。


 クロヴィスは自問自答を繰り返した。自分は本当に聖美の腹を切ったのか、切ったとすればどうして傷一つ付いていないのか、切っていないのなら何を切ったのか。


 自問自答に答えなど無い。果てしなく問いが続くだけである。クロヴィスの頭はその無限ループにハマっていた。


 答えなら簡単だ。クロヴィスは確かに聖美の腹を切った。この時点で普通の人間なら叫び声を上げるどころか、痛みで気を失っているところである。そう、()()()()()()()


 聖美は矢を放った直後に吸血鬼の力を再発動させていたのだ。それによって、斬られた瞬間に傷が癒え始めていたのである。とはいえ、痛いことに変わりは無かったが、怯むヒマがあるなら攻撃を、と決断したがゆえの蹴りであった。


 また、クロヴィスは切った瞬間に勝利の余韻に浸りながら、目を閉じていた。これがクロヴィスの痛恨のミスであった。気づいていれば、直感的に聖美の攻撃は防げていたであろう。


「……その魔力、君は人間じゃないんだね」


 自問自答の沼を脱し、冷静さを取り戻したクロヴィスは聖美の放つ魔力から人間ではないと読み切った。そして、肉体の修復能力からして悪魔であるということも含めて。


「それじゃあ――」


 クロヴィスが言葉を発しようとしたタイミングで、クロヴィスは再び回し蹴りを叩き込まれた。しかし、今回の攻撃はクロヴィスも反応することが出来、腕で受け止めた。


「……くッ!」


 苦悶の声を上げたのはクロヴィスではなく、聖美であった。それはクロヴィスが身に纏っている鎧に秘密があった。


「僕が身に纏っている白銀の鎧はアダマンタイト製だ。だが、そこには銀が混じっていてね。吸血鬼を始めとする悪魔は僕たちに触れるとかえってダメージを受けるようになっているんだよ」


 自慢げな表情でクロヴィスは聖美にうんちくを語っていた。事実、全聖堂騎士団員の鎧には悪魔が苦手とする銀が混ぜられており、これによって悪魔が攻撃できないというのがルフストフ教国が魔王軍相手にここまで持ちこたえている要因の一つであった。


「君が悪魔だったとは、討伐も楽そうだ」


 クロヴィスは内心では聖美の移動速度には驚いていた。聖美の方も心の内では吸血鬼の力を解放した自分の蹴りをあっさりと受け止めたクロヴィスの膂力に驚愕していた。


 聖美は触れられないならばと吸血魔法を発動するも、どうにもクロヴィスから血を吸い取ることが出来なかった。そのことに戸惑っているうちにクロヴィスから次々に斬撃を見舞われた。


 聖美は回避するのが間に合わず服ごと体のあちこちを切り裂かれた。これによって、聖美の肌が露出してきていた。そこへ白銀の鎧での肘うちや蹴り、鉄拳が一息つく暇を与えずに聖美へと叩き込まれた。


 銀が直接肌に触れることで聖美に追加ダメージが入り続けていた。接近戦での弓は使えないと判断した聖美は弓を捨て、腰に差している二振りの短剣での防御に徹した。


 ミレーヌから教わった短剣を用いての近接格闘でクロヴィスの攻撃を迎え撃った。ミレーヌの技がクロヴィス相手に通じるかどうかなど、聖美には分からなかった。だが、やらなければ殺されることだけは目に見えていた。


「君、思っていた以上には頑張るね。ここまで手こずるなんて想定外だよ」


 クロヴィスはフッと穏やかな笑みを浮かべながら、賞賛の言葉を聖美に送った。だが、聖美は必死であるために言葉を返す余裕すらも無かった。


 その後も聖美の短剣とクロヴィスの片手剣ショートソードは幾度となく交差し、激しく火花を散らした。


「ハァッ!」


 クロヴィスの蹴りを脇腹へと叩き込まれた聖美が体調を崩したところで、クロヴィスの剣は二つの線を描いた。これによって、聖美からは悲鳴が上がった。何せ、腕の筋肉の筋を斬られたのだから。これで腕の筋を修復するまで、聖美は腕を動かせない。


 その隙に少しでも多くダメージを与えるため、クロヴィスは蹴りや鉄拳を聖美の腹や四肢へと叩き込んだ。尋常ではない痛みであったが、聖美はそんな中でも意識を飛ばすことなく、クロヴィスを蹴り飛ばした。


「おっとっと」


 唐突な反撃であったが、クロヴィスは後ろに片足で跳ねながら体勢を立て直した。


「「“聖砂ノ太刀”!」」


 そこへ光と砂が混じった斬撃がクロヴィスへと放たれる。クロヴィスは咄嗟に腕を交差させて防いだが、“聖砂ノ太刀”はクロヴィスの手甲を吹き飛ばして彼の腕に切り傷を付けた。それでも、皮膚を薄く切っただけに過ぎなかった。


「折角、生かしておいてやったのに……ッ!」


 クロヴィスは顔を朱に染めながら、激高していた。今まで静かに放たれて殺気が激しい炎のようなモノへと変化する。


「そこの吸血鬼女をなぶり殺した後、今度は君たちを殺してあげるよ!」


 ディーンもエレナも先に壁へ叩きつけられたダメージで逃げられるほどの元気はなかった。魔力も“聖砂ノ太刀”によって、半分ほど持っていかれている。何かあった時にもう一度放ったら魔力も底を尽くような状態だ。


「この女!この苛立ちは、先に君にぶつけてあげるよ!」


 クロヴィスは壊れた。今までの澄ました態度はどこへやら、一転して冷静さを欠いていた。怒りのままに振るわれた剣は聖美の体のあちこちをズタズタに切り裂き、聖美の周囲には血の池が形成されていった。


 聖美も傷を吸血鬼の力で治していくも、治しても切り裂かれ、治しても切り裂かれるということが数分続いた。聖美も血を流し過ぎたこともあり、貧血症状によって意識が朦朧としていた。


「止めるッス……!」


「もう、止めてあげて……!」


 ディーンとエレナの消え入りそうな声などクロヴィスの耳に届くことは無かった。


「死ねッ!吸血鬼女ァ!」


 ついにクロヴィスの凶刃が聖美の首を掻き切ろうかというタイミングで、黒き一閃がその軌道を遮った。クロヴィスの剣と黒い刀身は交差し、火花を散らした。


 そして、その場にいる誰もが、そのおとぎ話のような光景に目を奪われた。


 ――本来、ここに立っているはずのない男が今、目の前に立っているのだから。


「……直哉……君?」


 聖美は呼んだ。かすれて、消え入りそうな声で。会いたくて仕方なかった、失って取り戻せないと思っていた彼の名を。


「呉宮さん、スラマッパギ!」


 意外にも再会の一言がその場に全く似合わないパロディネタだったことには聖美も心の中で笑っていたが、顔に出すほどの元気はなかった。でも、自分の危機に直哉が駆け付けてくれたという事実は素直に嬉しかった聖美だった。

第121話「残忍な白銀の騎士」はいかがでしたか?

ピンチの聖美の前に姿を現したのは直哉でした。

次回は直哉とクロヴィスの戦いになりますので、お楽しみに!

――次回「ただいま。」

更新は4/6(火)の20時になりますので、読みに来てもらえると嬉しいです!

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