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日常のち冒険~俺は世界を超えて幼馴染を救う~  作者: ヌマサン
第6章 大空の宝玉編
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第100話 自称辺境伯の家臣

どうも、ヌマサンです!

今回で武装集団との争いも完結です……!

どんな風な結末を迎えるのか、そこをお楽しみいただければと思います。

それでは第100話「自称辺境伯の家臣」をお楽しみください!

 怒りに燃えるギンワンの言葉と圧力に、シデン以外の全員が恐怖に体を震わせた。


「シデンさん、テクシスの町で何があったんですか?」


「ああ、それはね――」


 寛之に聞かれたことで、シデンはこうなった経緯を直哉たちにも聞こえるように大声で語り始めた。


 テクシスの領主の家柄は代々伯爵位を受け継いでいた。だが、半年前に先代の伯爵家当主が死亡したことで代替わりした。ここまでは普通の流れで異変の『異』の字も無かった。


 問題はそこからで、当代の伯爵は民をぞんざいに扱い、より良い爵位を得るために自分より位の高い貴族たちへ貢物を多く送っていた。そのために民衆に重い税金を課し、民は飢えに苦しむことになった。


 その3か月後――現在からみて3か月前。数百体に及ぶコカトリスの群れがテクシスの町に押し寄せる事件が起こった。


 コカトリスというのは、テクシス近辺の山岳地帯に住む胴体が蛇のように細長く、頭部は鳥のようにくちばしを持っている凶暴な魔物である。能力としては、強靭な脚力にによる飛翔能力と足に生えた爪で斬った相手を石化させる能力を併せ持っているというモノだ。


 コカトリスは単体であれば石化能力に気を付ければ、(アイアン)ランクの冒険者一人でも討伐可能な魔物である。だが、群れになって来るとなれば話は変わってくる。数体の群れであれば、(アイアン)ランクの冒険者がパーティを組んでも全滅を免れないほどに危険度が跳ね上がる。


 そんな魔物が数百体も町に押し寄せてきたことに対し、伯爵は屋敷の奥に隠れて私兵に自らの屋敷()()を守備させ、町に駐屯していた王国兵にも町から引き上げさせて屋敷の守備に当てた。これによって、テクシスの町を守る存在が居なくなったことで、迫りくる脅威に民衆はパニック状態に陥った。


 そこで活躍したのが当時、金ランクの冒険者であるギンワンがギルドマスターを務めている冒険者ギルドの冒険者たちだった。


 テクシスの町の冒険者は30名ほどであったが、ギンワンを筆頭に数百体のコカトリスの群れを一体も残さず討伐した。このことによって、テクシスの町の住民からギンワンたち冒険者は感謝され、尊敬の念を抱かれた。


 だが、一人の平民が英雄のように扱われていることが気にくわない伯爵によって、当てつけのように重ねて課税が行われた。


 これにギンワンたち冒険者や兵士たちからの抗議が相次いだものの、伯爵家当主はこれに関わったものを町から追放させた。この時に追放された者たちの集まりがギンワンたち武装集団の正体であった。


 こうして組織を形成したギンワンたちは伯爵家が国の中央へ献上した品々を載せた車などを襲い、品々を強奪するようになった。


 その行為に怒った伯爵は、町に入って来るすべての食料の売買を独占し、仕入れた食料は先に自らの館を経由し、残った品々を町へ流すように独自の法律を定めた。そのことで、今までに食料を販売していた商人たちが愛想をつかしてテクシスの町から離れていったことで町が急速に廃れていったのだという。


 このことでギンワンたち武装集団は領主の館に着く前の食料を積んだ荷車も襲い、シデンのように町に残った冒険者たちを通じて町の人々に配るようになったのだという。また、ギンワンたちは伯爵から奪った金品は売り払って金に換え、その金で食料を買い付けて町の住民に流していた。


 だが、その動きに気づいた伯爵はシデンたちにギンワンたち武装集団を捕らえるように指示を出したのだという。


「つまり、ギンワンさんたちの目的は――」


「そう、町の人々の苦しみを少しでも軽減できるように荷車を襲っていただけなんだよ。何なら僕もギンワンたちを裏切ったフリをして内側から協力してたわけだしね」


 驚く寛之たちを尻目にシデンは話を続けた。


 シデンたち冒険者は家族を人質に取られていることや、ギンワンたちの捕縛に失敗した場合、捕らえた家族と共に町の広場で公開処刑を行なうと宣言されたのだそうだ。


「僕は別に家族は居ないから良いんだけどね。でも、僕以外の冒険者たちは家族を領主の館に捕らえられているから伯爵の命令に逆らえないんだよ」


 ――そんな彼らのために、友人(ギンワン)たちを捕縛する。


 シデンはサーベルを鞘から引き抜き、シデンへと向けた。それにギンワンもヒサメを担ぎながらも片手で大剣を構えた。


「――待った!」


 シデンとギンワンの間の張りつめた空気に直哉が待ったをかけた。直哉の大声にシデンとギンワンの両者は一度武器を下ろした。


 直哉が取り出したのは、ローカラトの町を出る際にウィルフレッドから受け取ったローカラト辺境伯の手紙だった。


「直哉、それは?」


「ここに来る前に俺たちの冒険者ギルドマスターから受け取ったローカラト辺境伯直筆の手紙です」


 直哉は事前にウィルフレッドからテクシスの領主は自分より上の位の人間の言うことしか聞かないということを聞いていた。そのことから、辺境伯の手紙を見せられれば事件の解決の糸口が見えるのではないかという考えからであった。


「それは本当にローカラト辺境伯直筆の手紙なのかね?」


「はい、本人のサインも入ってます」


 直哉は内心では本当にローカラト辺境伯のサインなのかどうか、本物を見たことが無いために確かめようがないのであるが、直哉は直筆だと言って通すことにした。


 その後はギンワンとシデンの二人を一時的に和解させ、アジトの広場でシデンたちと武装集団の双方に事の次第を説明した。その際に手紙をどのようにして伯爵に渡すのかまでを話し合った。


 その結果、ギンワンたち武装集団を全員捕縛したことにしてテクシスの町へと連行し、シデンと直哉たち7名で報告に伯爵の屋敷に乗り込むという算段になった。


 まずはシデンの仲間数名を町まで戻らせ、町の王国兵に連行を手伝うように伝えた。それから捕縛したギンワンたちを町まで連行した。


 ギンワンたちは町の広場に集めて拘束し、マリエルには馬車を曳いて宿屋で待機するように伝えた。直哉の頼みで1時間だけ宿屋に戻る許可をシデンから貰い、直哉たちは宿屋に戻った。その後でシデンと合流し、伯爵の屋敷へと向かった。


 伯爵の屋敷は町の様子とは正反対に、豪奢な像が数多く並んでいた。そんな像が並ぶ美しさと醜さが同居している庭園を抜けて屋敷の中に入った。


 屋敷の中は赤絨毯が敷かれ、壁には絵画が数多くかかっていた。これも民衆に課した重税によって購入されたモノなのだと思うと直哉たちは虫唾が走った。


 直哉たちが応接室に通されて1時間ほどして、ようやく伯爵が姿を現した。


「いやぁ、待たせてしまったの。して、シデンよ。反逆者共は捕らえたのか?」


 ドカリと装飾が施された椅子に音を立てて腰かけた伯爵の口端にソースが付いてるのを見て一同は拳を握った。人を待たせておいて、自分は悠々と食事か……と。


 そんな怒りの感情が込み上げてくるのを交渉の場だからと全員腹の中に押し戻した。


「おや、見慣れぬ者らがおるようじゃが……」


 使用人に口元のソースを拭かせながら、伯爵は直哉たちを指差した。


「この者たちはローカラトの町からの来た旅人たちで、()()()()を捕らえるのに功績を上げたものたちですよ」


 シデンは『反逆者共』という部分だけ声を震わせながら、直哉たちを伯爵に紹介した。自らの友人たちを反逆者と呼ぶのもかなり精神に応えるものがあるのだろう。伯爵はそれに対して興味なさげに「そうか」と口にしたのみであった。


「伯爵様、この者らが伯爵様に見せたいものがあると申しておりまして……」


「ふむ、構わぬぞ。見せてみよ」


 伯爵は近くに立っている使用人に受け取りに行くように手だけで指示していた。直哉はその使用人に手紙を渡した。使用人は落ち着いた様子で、手紙を伯爵へと渡した。


「ふむ、手紙か?どれどれ……」


 辺境伯の手紙を穴が空くほどに何度も目を通した後、直哉たちに体の向きを変えた。


「そ、そなたらは本当にローカラト辺境伯シルヴァン様の家臣なのか!?先ほどシデンは旅の者と言っておったが……」


 伯爵の想像以上に鋭い一言に、全員がバレないかと焦っている中で、直哉だけは胸を張って堂々と伯爵の言葉に「そうだ」と少し偉そうに返した。


「これは旅人に扮して貴方というお人を確かめたのですよ。その件に関しましては、私共の無礼をお許しください」


 直哉は嘘に嘘を塗りたくった言葉を伯爵に投げ返し、丁寧に頭を下げた。見ている7人は「よくもまあ、あれだけの嘘を堂々と言えたものだ」と心の中では思いながら、ホッと一息つきながら成り行きを見守った。


「こちらこそ、今までの非礼を許して欲しい。まさかシルヴァン様の家臣が訪ねてきているなどとは思いもよらず……」


「伯爵様。どうか、お顔をお上げになってください。こちらこそ、主人の命とはいえ身分を偽ったのですから……」


 伯爵が申し訳なさそうにお辞儀をしたのに合わせて、伯爵の前に跪き、顔を上げるように促した。


「伯爵様。実は我が主からもう一通、手紙を預かっております。どうぞ、お目通しください」


「ああ、読ませて頂こう」


 直哉は頭を下げ、伯爵に手紙を捧げるような恰好を取った。先ほどとは違い、伯爵は恐れ多いという態度で直哉から直接手紙を受け取った。直哉は頭を下げながら、ニヤリと口端を吊り上げた。手紙を読んでいる伯爵の手はブルブルと震えていた。


「この手紙に書かれていることは本当なのですか……!」


「はい、3か月ほど前にこちらの町を離れた商人たちがシルヴァン様の屋敷に参りまして。我が主に食料の売り買いを伯爵様に独占するという伯爵様の法に関しての事を訴え出て参ったのです。そのことを受け、我々がこの地に派遣されたというわけです」


 直哉からの一言に伯爵は舌打ちをしていたが、直哉は聞こえなかったフリをして話を続けた。


「また、この屋敷に来る途中に見た町は随分、活気がないように見受けられましたが……どのような政策を打てばああまで町から活気が消えてしまうのでしょうか。このことも帰還後、我が主に報告しなければいけませんね。伯爵様は町の一つもロクに統治することも出来ない無能であった……と」


 直哉は目をつむった後で、チラリと伯爵を見た。伯爵の顔は青ざめており、歯をカチカチと鳴らしていた。


「そして、ここへ参る道中に我々とシデン殿とで協力して捕らえた賊の話を聞いてみれば、伯爵様が課した重税に抗議して町を追い出された冒険者や兵士たちとのことでした。その時に課した税金はキチンと国に納めたのですか?まさか、ご自分で着服している……などということはありませんよね?」


 直哉が話し終えるころには伯爵は泡を吹いて気絶していた。その間に直哉とシデンたちは伯爵が民衆から過分に徴収した税金の額を調べ、その額と今までに執り行った不正を紙に書き記した。伯爵の家臣たちも今までの悪政に憤りを感じていたために直哉たちに協力し、家臣たちの名を使って報告書を完成させた。そして、それを王都に居る国王の元へと届けることに決まった。


 伯爵は国王からの命令が届くまでは一時的に牢に入ることとなり、その間は伯爵の弟が仮の領主として政治を執り行うことが決まった。ギンワンたち武装集団も罪に問われることなく許され、現在は各々が冒険者や兵士の職に復帰している。


 直哉たちも町の人々に感謝され、テクシス滞在中の宿代、食事代を負担されることになった。


 ――こうして、武装集団の一件は解決されたのであった。めでたしめでたし。

第100話「自称辺境伯の家臣」はいかがでしたか?

無事に諸悪の根源である伯爵を失脚に追い込めて一件落着。

次回からは大空の宝玉を手に入れるために直哉たちが動き始めます!

――次回「恩返し」

更新は1/30(土)になりますので、お楽しみに!

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