第83話 カップルVS.姉妹
どうも、ヌマサンです!
今回は前回に引き続き、寛之と茉由の試合が続きます!
それでは第83話「カップルVS.姉妹」をお楽しみください!
寛之と茉由ちゃんの試合。初撃はエレノアさんの精霊魔法だった。
もし寛之の障壁展開が間に合わなかったら、茉由ちゃんは一撃で戦闘不能だっただろう。これは寛之のファインプレイだ。
「“風矢”!」
「“氷刃”ッ!」
寛之が折った瞬間を狙って、側面から無数の風の矢が寛之に向けて放たれる。それを放ったのは妹の方のレベッカさんだ。これに気づいた寛之は一瞬表情が青ざめたが、風の矢はほとんどが氷の刃で相殺されたために風の矢が当たることは無かった。相殺されなかった残りの分は茉由ちゃんが剣で斬り払った。
俺の横で、紗希が風の刃は見えにくいのに茉由ちゃんが斬り払ったのを見て、腕を上げたと褒めていた。
「茉由ちゃん!」
「寛之さん、障壁魔法ありがとうございました!精霊魔法使いの方の相手をお願いします!」
茉由ちゃんは寛之に礼を述べた後で、レベッカさんの方へと真っ直ぐに向かっていった。
「分かった、茉由ちゃん。任された!」
寛之は笑顔を一瞬だけ浮かべたのち、立ち上がってエレノアさんの方へと駆けだした。
「兄さん、レベッカさんの魔法って……」
「召喚魔法・風装だな」
レベッカさんの魔法はマリーさんが使う召喚魔法・氷装の風属性バージョンだ。技名で分かった。
一度、属性違いの魔法を使うマリーさんと戦ったことがある茉由ちゃんの方が戦い方を心得ている。それなら、茉由ちゃんがレベッカさんの相手をするのが適任だ。
2対2なら、それぞれが1対1に持ち込むのがセオリーだ。二人はそれを忠実に実行している。あとは、個々で撃破するだけだ。
「“岩霊弾”ッ!」
「障壁展開ッ!」
エレノアさんの杖先から放たれたのは岩の弾丸。これを寛之は障壁を展開することですんでのところで防いだ。しかし、エレノアさんはそれを計算に入れていたのか、何発かの岩の弾丸を障壁の横を通らせ、向きを変えて寛之を背後から奇襲した。
背後にまで障壁を張る時間のなかったため、弾丸は寛之の背中と右大腿部、左のふくらはぎの部分に次々と命中していた。
寛之の纏うローブから血がにじみ出ている。その激痛に耐えられなかったのか、寛之は途中で、両膝をついてしまった。
ウィルフレッドさんは隣で土の精霊魔法は土の硬さを変えることで2種類の攻撃が出来る点では他の精霊魔法より利便性があると説明してくれた。
つまり、土を柔らかくすれば、先ほどの“砂霊砲”のように砂を主軸にした攻撃が可能になり、反対に固くすれば“岩霊弾”のように岩石での攻撃も可能になるということだ。
こんな特徴は他の属性の精霊魔法にはないとのことだった。確かに雷も火も風も形を変えることが出来ない。これが地味だというイメージの伴う土の精霊魔法の力なのだ。
寛之は血が流れ落ちる体に鞭打って、立ち上がった。
そのまま、寛之はエレノアさんの方へと駆けていく。接近した両者は杖での打ち合いが始まった。二人が使っているのは杖術だ。杖での攻撃は防具のないところを打たれると、悲鳴を上げてしまうほどに痛い。
それを利用して身を護るため、杖術は護身での意味合いが強い。杖によって、突くことも攻撃を払うことも相手を打ち据えることも出来る。
双方、お互いの攻撃を杖で受け流し合っている。ただ、目で追うのも杖の動きが早く、目を凝らさないとついていけない。見た感じだと、寛之が押されているように見える。何とか、エレノアさんの杖での攻撃を受け流しているといった具合だ。このままでは直に押し切られるだろう。
「“氷斬”!」
「“風盾”!」
その頃、茉由ちゃんとレベッカさんの戦いも白熱していた。冷気を纏った斬撃を茉由ちゃんが叩き込めば、レベッカさんは風の盾を召喚して斬撃を受け止めるといった具合に。
茉由ちゃんはそこから何度も角度を変えて斬りかかるも、すべて風の盾で遮られてしまい、ダメージが通らない。茉由ちゃんの表情からは焦りの色が窺える。
対して、レベッカさんはにこやかな表情だ。それがかえって、茉由ちゃんの焦りを引き立てているのだろう。
「兄さん、茉由ちゃんの剣術の型が崩れてる……!」
紗希曰く、今の茉由ちゃんは剣術の型が崩れている。つまり、型を忘れるほどにがむしゃらに剣を動かしている――つまり、焦っているということだ。
「直哉君、エレノアさんもレベッカさんも結構魔力量が多いんじゃない?」
俺は呉宮さんから言われたことには同意見だ。寛之も割と魔力量が多い方だが、姉妹揃って、寛之と同等かそれ以上だ。対して、茉由ちゃんの魔力量は他の3人の9割くらいだ。
魔力が多い少ないは何となく、纏っているオーラのようなもので分かる。
茉由ちゃんが風の盾を破れないのは、レベッカさんの方が魔力量が多いことで魔法の威力が高いことが一因になっているかもしれない。
「グ――ッッ!」
寛之は再び、エレノアさんの"砂霊砲”を浴びていた。障壁で防いでいるものの、地面をえぐりながらの後退を余儀なくされている。
「エレノアちゃん、行くよ!“風槌”!」
茉由ちゃんの脇腹に風の大槌が命中し、寛之の方へと吹き飛ばされる。
寛之が吹き飛ばされてくる茉由ちゃんに気を取られた瞬間、障壁にヒビが入り砕け散った。ヒビを中心に突き破って来た“砂霊砲”の直撃を寛之は避けられなかった。
寛之の方へと飛ばされた茉由ちゃんもその直撃に巻き込まれる形になった。レベッカさんは恐らく、こうするために狙って茉由ちゃんを寛之の方へと吹き飛ばしたのだろう。
レステンクール姉妹は目を合わせて頷きあった後、二人へと追い打ちをかけるように杖を向けて互いに魔法を放った。
「“岩霊弾”!」
「“風矢”!」
未だに砂ぼこりが舞い、寛之と茉由ちゃんの姿が捉えられない中、数えきれないほどの岩の礫と風の矢が満遍なく撃ち込まれた。それによって、さらに砂ぼこりが舞ってしまったことで二人の姿が余計に見えなくなった。
試合を眺める俺と紗希、呉宮さん。そして、洋介と武淵先輩もみんなして試合の行方を固唾を呑んで見守った。
やがて土ぼこりが晴れ、大量に魔法が撃ち込まれた場所には前後左右と上に正方形状に展開された障壁が現れた。その中には杖に寄りかかる寛之と片膝を付きながら、立ち上がろうとしている茉由ちゃんの姿が確認できた。
“砂霊砲”を浴びた直後、寛之が障壁を正方形状に5枚展開して岩の弾丸と風の矢が降り注いできたのを防いだようだった。
まったく、ヒヤッとさせてくれるな。一瞬、二人が負けたかと思ったじゃないか。
「茉由ちゃん、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です!」
寛之はいち早く立ち上がり、立ち上がろうとする茉由ちゃんに手を差し伸べるという紳士対応をして見せた。これを見た呉宮さんが羨ましそうな表情で見ていた。
……もしかすると、ああいう紳士対応をされるのは女子の憧れだったりするんだろうか?機会があったら、俺も呉宮さんにした方が良いんだろうか。
俺がそんなことを思いながら、呆然と試合を見ていると、二人は手を取り合って立ち上がった後レステンクール姉妹と視線を交わした。
どうやら、戦いは第2ラウンドが始まるって感じのようだ。両者、相手の方へと駆けていく。組み合わせは変わらず、寛之対エレノアさん、茉由ちゃん対レベッカさんという感じだ。
寛之とエレノアさんはお互いに杖術を用いての交戦だった。が、寛之の視線が一瞬だけ戦闘中に揺れるエレノアさんの胸に吸い寄せられたのを俺たち観戦組は見逃さなかった。
「“岩霊脚”!」
脛の部分に岩のつぶてを纏わせたエレノアさんの右回し蹴りが寛之の左大腿部に炸裂した。レステンクール姉妹は足が長くスタイルが良い。ゆえに蹴りはそれを最大限活かした攻撃だと言える。どうやら、寛之が胸に気を取られたのを見逃さなかったのはエレノアさんも同じだったようだ。
その一部始終を見た呉宮さんは「戦闘中に胸に気を取られるとかあり得ない」とでも言わんばかりにドン引きしていた。そりゃあ、試合中に妹の彼氏が他の女の胸を見ていたら姉としてはドン引きだろう。しかも、彼女が戦ってる横で。
俺だったら、紗希の彼氏がそんな奴だったら……ダメだ。確実に半殺し以上の目に遭わせるが、うっかり、ホントにうっかり手が滑って、ぶっ〇してしまうかもしれない。とはいっても、そもそも紗希に彼氏など作らせるつもりもないのだが。
……一度、落ち着いて試合へと視線を戻そう。
寛之は蹴りが入って怯んだ隙に肩を杖で打ち据えられてしまっていた。このまま近づいていてはマズいと思ったのか、寛之は一度エレノアさんから距離を取った。二人は見つめ合ったまま、しばらくその場から動かずにいた。
一方、茉由ちゃんの方は横で彼氏がエレノアさんの胸に目を奪われて苦戦に陥っているとも知らずに必死に勝利を掴もうとレベッカさんと対峙していた。
だが、次々と風の装備を入れ替えて戦うレベッカさんに茉由ちゃんは完全に攻めあぐねていた。
レベッカさんも最初は真正面から茉由ちゃんの斬撃を受け止めていたが、途中から風の盾を斜めにすることで斬撃の威力を受け流していた。これによって、ますます茉由ちゃんの斬撃が通りにくくなった。
「“風槍”!」
茉由ちゃんが斬撃を受け流されて体勢を崩したところへ、風の槍が突き出される。茉由ちゃんは咄嗟に剣で槍先を受け止めたものの後方へと地面を転がった。
「これで止めだよ!“風槌”!」
やっとの思いで茉由ちゃんが立ち上がったところへ、頭上から風の大槌が振り下ろされる。対して、茉由ちゃんは地面を蹴って前へと進むことで回避した。レベッカさんは横に避けるものとばかり思っていたのだろう。驚いたというような表情をしていた。
「はぁッ!」
茉由ちゃんは一気に間合いを詰め、右斬り上げを放った。だが、再び風の盾で受け止められた。ここで両者から笑みが零れる。
レベッカさんが笑ったのは、『防いだわよ!』という意味での笑みだろう。だが、茉由ちゃんが笑っているのはなぜなのか。
その意味は直後の茉由ちゃんの動きで分かった。
茉由ちゃんは左足のかかとを浮かせて足先に体重を乗せ、右の足先も左斜め前へと向けた。そして、強く踏み込んだ。
「~~~ッ!」
茉由ちゃんの声にならない声が会場に響いた後、風の盾は一息に真ん中で両断されたのだった。茉由ちゃんは風の盾を受け流させないために右斬り上げを見舞ったのだ。そして、正面から風の盾を叩き割った。すべて計算ずくでの特攻だったわけだ。
風の盾を破った茉由ちゃんの剣はレベッカさんへと喰らいついていく。
「“風大太刀”!」
レベッカさんは風の大剣を召喚し、地面に突き刺すことで茉由ちゃんの一撃を受け止めた。
茉由ちゃんは角度を変えて斬り返すも、大剣の次に召喚した風の斧槍を横薙ぎにされたことで、間合いを開けざるを得なくなっていた。
これによって、二人の戦いに膠着状態が再び訪れたのだった。
――その頃、寛之とエレノアさんは杖での打ち合い合戦は両者の杖が半ばで折れてしまったところで中断され、寛之は待っていたとばかりに格闘術での戦闘に打って出るもエレノアさんも華麗に格闘術を用いて応じた。
「……王国騎士団のメンバーは全員、基礎の格闘術は入隊時に教わっている。だから、武器が無くても応じる手立ては残っているのだ」
ウィルフレッドさんは戦いを見守りながら、静かにそう言った。
刹那、寛之の拳がエレノアさんの胸に命中。そのたわわな双丘の感触に寛之がうろたえている間に右の頬にエレノアさんからの回し蹴りを受けていた。
その光景を見ていた冒険者ギルドのメンバー全員から、ため息とブーイングが寛之に贈られた。
「直哉。寛之のやつ……」
「洋介、みなまで言うな」
俺の後ろの座席に座っていた洋介の言わんとしたことは分かる。
それは『あいつ、バカなのか?』ということだ。それなら、答えは一つだ。寛之はバカである。
――本当に寛之はエレノアさんに勝つことは出来るんだろうか?
そんなことを思いながら、俺はふと空の彼方を眺めたのだった。
第83話「カップルVS.姉妹」はいかがでしたでしょうか?
寛之と茉由がレステンクール姉妹相手に苦戦しております……!
次回で決着しますので、楽しみにお待ちいただければと思います~
――次回「料理屋ディルナンセ」
更新は12/10(木)の20時になりますので、お楽しみに!
それでは皆さん、明日からも1週間頑張って行きましょう……!





