第80話 大きいお胸
どうも、ヌマサンです!
予選は今回と次回の2話で終わりです!
それでは第80話「大きいお胸」をお楽しみください!
「なあ、紗希。大丈夫か?」
紗希が揺れるお胸を見てから元気がなく、俯いたままだ。俺はとりあえず、観客席で4席ほど空いている場所を見つけたので、今はそこに紗希を座らせている。
「あれ、先輩?紗希ちゃん、どうかしたんですか?」
俺が観客席の端で紗希を座らせていると、茉由ちゃんがこっちに走って来た。
「ああ……色々あってな。紗希は元気がないんだ。茉由ちゃん、慰めてやってくれないか?」
「それは構わないですが……もしかして、先輩が何か変なことを……!」
「いや、俺じゃない!断じて!」
俺はあらぬ疑いをかけられたが、俺が必死に弁明すると茉由ちゃんは引いてくれた。俺は二人に飲み物でも……と思ったのだが、この世界に自販機などという便利なモノは存在しないんだった。
どうしたものかと考えていると、俺の横を大勢の人たちが通り過ぎていく。
「あ、直哉君!ここに居たんだね!もうすぐでバーナードさんとシルビアさんの試合が始まっちゃうよ?」
俺は通路で呉宮さんに話しかけられたが、後ろから急に肩を叩かれたものだから驚きのあまり、ビクッと肩が跳ねてしまった。
「了解。じゃあ、紗希と茉由ちゃんがあの席に座ってるから俺たちもそこに座ろう」
俺は二人が座っている席を呉宮さんに指を指して教えた。紗希を座らせたときに、ちょうど4つ席が空いてたからこれで満席になるだろう。
ただ、俺は指を指した時に気が付いたことが一つ。紗希の座っている場所の周りが妙に空席だらけであるということを。
……もしかして、さっき横を通り過ぎていったのは今空席になっている場所に座っていた人たちなんだろうか……?
「ねえ、直哉君。紗希ちゃんから、真っ黒なオーラが漏れてるように見えるのは私だけ?」
「いや、俺にも見えるよ……」
紗希から黒いオーラが漏れている。俺と呉宮さんが階段を降りて、紗希の元へ向かうと目に涙をためた茉由ちゃんが呉宮さんの胸元へとダイブしてきた。くそう、俺も呉宮さんの胸元にダイブしたい……じゃなくて!何をバカなことを考えているんだ、俺!
「紗希、大丈夫か……?」
「大きいお胸大きいお胸大きいお胸大きいお胸大きいお胸……」
紗希はぼそぼそ声で『大きいお胸』を連呼している。これはいよいよヤバいかもしれない。ここは兄として出来ることは……何も言わず、そばに居ること。
そして、お胸の大きな人を近づけさせないことだ。今の紗希にお胸の大きな人が近づくと傷口に塩水を注入するようなものだ。
俺は呉宮さんと茉由ちゃんに紗希がこうなった原因と、大きいお胸の人を近づけさせないようにしてほしいことを伝えた。優しい呉宮姉妹はにこやかに頷いて、協力してくれた。
俺は紗希の隣に座って試合を観戦した。バーナードさんは自分と同じ魔鉄ランクの人と互角以上の戦いを繰り広げ、シルビアさんも自分と同じ鋼ランクの冒険者と一進一退の攻防を繰り広げていた。
見ている側としてはバーナードさんとシルビアさんに勝って貰いたいところだ。
「シルビア!下がれ!」
「はい!」
そんな声が俺の元までかすかに聞こえた。その声と共にシルビアさんはバーナードさんの後ろへ下がった。対戦相手の二人は逃がすまいとバーナードさんに近づいていったが、直後に周囲は大爆発に包まれた。その際の轟音は肌に突き刺さるようで、ビリビリしたような感覚が襲ってきた。
対戦相手の二人は爆発によって生じた砂ぼこりが晴れると、仰向けで倒れていた。着用していた鎧などの防具の大部分が破損し、衣服はズタズタに裂けている。動かないところを見ると、完全に戦闘不能だ。
「直哉君、今のは凄かったね……!」
「だな……!」
バーナードさんはレイピアを差して片膝を付くシルビアさんを抱きかかえて、颯爽と会場を出ていってしまった。
「ねえ、お姉ちゃん!シルビアさんが顔を赤らめて乙女な顔つきしてたよ……!それにしても、良いよね~!お姫様抱っこ!」
「う、うん……そうだね……!」
テンションMaxな茉由ちゃんのノリについていけないのか、呉宮さんは苦笑いをしている。
「それじゃあ、茉由ちゃんも寛之にやってもらえばいいんじゃないか?お姫様抱っこ」
俺がそう言うと、茉由ちゃんは顔から今にも火が出そうなほどに顔を赤くして俯いてしまった。恐らく、寛之にお姫様抱っこされているのを頭の中で浮かべたのだろう。
「直哉君。私、守能君が茉由を抱っこする度胸は無いと思うんだけど……」
「……確かにそうだな」
言われてみれば、確かに呉宮さんの言う通りかもしれない。というか、呉宮さんの中での寛之の評価って結構低いんだな……。
「そのことはさておき、呉宮さん。次の試合は誰が出るのかは分かる?」
「えっと、次は弥城君と夏海先輩対デレクさんとマリーさんだよ」
予選の5回戦でそういう組み合わせか……個人的にはどっちにも勝ってほしいところだがそうはいかない。せめて、どちらも満足のいく戦いになれば良いな。
そうこうしているうちに二組が試合会場へと入場してきた。一方、依然として紗希は黒いオーラを放っているし、茉由ちゃんは顔を赤らめたままブツブツと何かを言っている。
「茉由ちゃん、ここに居たのか!探したぞ……」
そんなところへ寛之が息を切らせながら俺たちのところにやって来た。
「おう、寛之じゃないか。どうしたんだよ?」
「僕は直哉たちの試合が終わってすぐに待合室に入ったんだが、茉由ちゃんが中々来なくて探しに来たんだよ」
そうか、2試合前には待合室に入らないといけないもんな。そうなると、寛之たちの試合の2つ前となるとバーナードさんたちの試合になるもんな。つまり、茉由ちゃんは待合室にはすでに入ってないといけないわけか。
俺は勝手に納得して一人でうんうん頷いていると、一つの疑問に至った。
「え、寛之たち4回戦の試合に勝ったのか?」
「ああ、だから試合があるって言ってるんだが」
「そうか。じゃあ、試合頑張れよ」
「当たり前だ。そういうわけだから、茉由ちゃんは貰っていくよ」
寛之は何と、驚くことに茉由ちゃんをお姫様だっこして去っていった。これを見て、呉宮さんは口を開けて唖然としている。
まあ、唖然としたくなるのは俺にも分かる。それに茉由ちゃんも抱きかかえられた時、驚いた顔をしていた。本当に茉由ちゃんは寛之のことが好きなんだな。どこに惚れたのか全くもって分からないんだが。
俺は呉宮さんの肩にポンと手を置いて、試合へと意識を戻した。
洋介は薙刀ではなく、サーベルを構えており、武淵先輩の方は長槍を真っ直ぐにマリーさんの方へと向けている。
対するデレクさんは洋介の正面に立って左右の拳を胸の前でぶつけていた。マリーさんは杖を構えて武淵先輩の前に立っている。双方ともに気合十分と言ったところか。
「“酸波”!」
試合開始の鐘が鳴り、先に動いたのはデレクさんだった。デレクさんが拳を地面に叩きつけた途端、地面から緑色の水が音を立てて洋介と武淵先輩の方へと向かっていく。
対峙したのが寛之とかなら障壁を張って防ぐんだろうけど、二人にそんな手段は持ち合わせていない。一体、どうやって防ぐつもりなのか。射程範囲は広いから避けることは出来ないだろう。だが、二人は瞬時に宙に浮かぶことで回避した。
なるほど、武淵先輩の重力魔法で自分たちの重力を操作して上にスライドさせたのか……!
そういや、バーナードさんと戦った時も武淵先輩に横へスライドしてもらったな。今回は、これの上方向バージョンといったところか。
「“氷矢”!」
宙に浮いた二人をマリーさんが放った無数の氷の矢が追撃していく。武淵先輩はそれを視認したと同時に重力魔法を解除した。直後、氷の矢はすべて地面に吸い寄せられた。今度は氷の矢が広がった範囲に重力魔法を展開して自分たちごと氷の矢を地面に落としただろうか?
それにしても、武淵先輩の立ち回りが上手すぎる……!
一方の洋介はサーベルを鞘から抜き、デレクさんの方へと駆ける。
「“酸竜巻”!」
だが、そこへ酸の竜巻が洋介を強襲する。
「“雷霊拳”!」
しかし、洋介が雷を纏った右拳で竜巻を殴りつけると、酸の竜巻に雷が走り、爆散した。雷を帯びた酸の液体は洋介とは反対側に飛び散った。
「おめぇ、やっぱり強ええってよ!」
「デレクさん、アンタも結構強いじゃねぇか!」
二人の声は鮮明に聞こえてくる。理由としては会場は固唾を呑んで試合の行方を見守っているからだ。
その頃、武淵先輩の方はと言えばマリーさんに槍による一突きを見舞ったものの、マリーさんの“氷盾”で防がれてしまっていた。
あの氷の盾は俺が泉で戦った時は、爆裂魔法を付加して爆破したんだよな……。あれを武淵先輩がどうするのか、気になるところだ。
武淵先輩が動かないのを見て、マリーさんは次なる一手を放った。
「“氷槌”!」
マリーさんは武淵先輩の頭上に氷の大槌を召喚し、振り下ろした。振り下ろされた地面はひび割れて半径3mほどのクレーターが出来ていた。
武淵先輩はこれを軽やかに回避してマリーさんとの間合いを詰めていっていた。そして、下の角度から突き上げた。しかし、マリーさんの前には再び“氷盾”が召喚されており、またしても防がれてしまっていた。
洋介の方はサーベルを鞘に収め、デレクさんの拳での攻撃を回避することに専念している。
「“酸拳”!」
デレクさんの酸を纏った拳は洋介にギリギリのところで避けられた。デレクさんの拳に触れれば鉄でも何でも溶けてしまう。それを警戒して洋介はサーベルを鞘に収めたのだろう。
「おい!さっきまでの威勢はどうしたって……よ!」
デレクさんの拳は洋介の鎧をかすめたりはするものの、本当に紙一重の差で避けられている。洋介の方もこれには必死の形相だ。
だが、避けてはいても身に付けている鋼の全身鎧もデレクさんの魔法で少しずつ溶けていってしまっている。
重い鎧が外れたことで洋介の回避の速度は上がったようにも見受けられる。
「“氷斧槍”!」
洋介とデレクさんが攻防を繰り広げる横で、マリーさんの召喚した氷の斧槍が武淵先輩に振り下ろされた。間合い的には槍を伸ばせば、マリーさんに届く距離だ。だが、武淵先輩はとっさに槍の柄を頭より上の高さまで持ち上げて、これを防いだ。攻撃よりも防御を優先した形だ。
しかし、武淵先輩が槍を頭上に掲げたことで腹部がガラ空きになってしまった。
「“氷槍”!」
そこに氷の槍が一直線に向かってくる。もちろん、召喚前に氷の斧槍は引っ込められている。
武淵先輩は槍の穂先が脇腹に当たる寸前で、自分の槍で槍の軌道を逸らして脇腹をかすめる程度の傷に抑えた。
「ハッ!」
次は武淵先輩のターンだった。真っ直ぐな突きがマリーさんの様々な体の部位目がけて繰り出される。
「“氷鎧”」
ガキィンと耳に来る音を立てながら、鋼と氷とがぶつかる。氷の盾に続いて、今度は氷の鎧によって武淵先輩の突きは防がれてしまった。
武淵先輩も間合いを詰めてもマリーさんの装備の入れ替える速度に槍だけでは対応できない。洋介はデレクさんの酸の攻撃のせいで下手にサーベルで斬りかかることが難しい。二人とも互いの相手に苦戦を強いられていた。
この戦いは長引きそうな予感しかしない。でも、見ている側としては非常に面白いものだと俺は感じた。
双方、一度間合いを取って下がった。そこから数十秒間、膠着状態が続いた。
「“氷矢”!」
先に動いたのはマリーさんだ。動いたと言っても、現在位置から大量の氷の矢を二人に向けて放っただけなのだが。
洋介と武淵先輩は左右に散開し、それぞれがデレクさんとマリーさんに攻撃を仕掛けた。
「“重力波”!」
武淵先輩はデレクさんとマリーさんの二人に重力魔法をかけてその場から動けないようにした。
「“雷霊砲”!」
二人が動けないところへ洋介による雷による砲撃が撃ち込まれる。撃ち込んだのはデレクさんに近い場所から。マリーさんにも当たるように直線的に放ったのは上手いと思う。
「“氷盾”!」
デレクさんの前にマリーさんは氷の盾を召喚するも、砲撃を受けて1秒と経たずに砕け散った。
二人の姿は黄色い稲光に呑まれていった。稲光が静まるころ、二人は立ち上がっていた。武淵先輩は勝利を確信したことで、誤って魔法を解除してしまったのだ。
デレクさんはフッと口角を吊り上げた後、洋介の方へと駆けだした。その拳には酸が纏われている。
マリーさんは稲光が静まってすぐは全身を氷の鎧で覆っていた。だが、しばらくすると氷の鎧はガラスのような音を立てて砕けた。恐らく、マリーさんが咄嗟に身を挺してデレクさんを庇ったのだろう。それゆえのダメージだと推測できる。
武淵先輩は一瞬、慌てて槍を構えるもマリーさんは氷の鎧が砕け散ると共にドサリと地面に崩れ落ちた。
その頃、デレクさんは洋介に突貫していっていた。
「“酸拳”!」
「“雷霊斬”!」
二人の姿が交差し、すれ違った。デレクさんは酸魔法を纏わせた右拳をすれ違いざまに叩き込んだ。
しかし、それは洋介の鎧の肩先をかすめただけに終わり、そこへ洋介はサーベルを抜刀し、雷を纏った洋介全力の斬撃によってデレクさんは倒れた。
こうして、洋介と武淵先輩の本選進出が決まった。残るはあと、一枠。
第80話「大きいお胸」はいかがでしたでしょうか?
今回でバーナード&シルビア、洋介&夏海の2組が予選を突破しました。
次回で予選は終了です!残る一枠は誰が手にするのか!
――次回「予選の果てに」
更新は12/1(火)の20時になりますので、読みに来てもらえると嬉しいです!
それでは皆さん、明日も良い休日を!





