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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
2章

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16話

 


 ――「スマホ欲しい」


「いきなり?」


 画面の中でモンスターを一狩した後、彼女が思い出したように東条を見た。


 娘にスマホを強請られる親は、こんな気持ちなのだろうか。


「ねぇ」


「おぅ」


「まさはスマホ持ってる?」


「いや、ぶっ壊れたな」


 彼のスマホは、握り潰された時一緒に粉々になってしまっていた。


 当然、それっきり誰とも連絡を取っていない。


「じゃあ行こ」


「だけどよ、このデパートの中に売ってるとこないぞ?」


「?出ればいいじゃん」


 何の問題があるのか?当然の事を彼女は言う。


 しかしその言葉に固まる東条は、納得したような、元から分かっていたような、そんなうら寂し気な空気を纏い、画面の一点を見つめた。


「…………あぁ、そうか。……そうだよな」


「……」


 何故か俯く東条をじっと見つめ、コントローラーを置いて立ち上がる。


「行こ」


「あ、あぁ」


 彼の手を取り、ジャンパーを持って下階へと向かった。





 ――外を染めるのは、何物にも染まらない純潔の色。


 東条と彼女はブーツに履き替え、別世界の入り口に立った。


「雪だね」


「……あぁ」


 しんしんと降る風花が、街に、破壊の痕跡に、自分好みの化粧を施している。


 そういえば今日は雪だったか。


 東条は白い息を吐き、晴れ渡る空を仰ぎ見た。


「あ、おい」


 銀世界の中に躊躇なく飛び込んでいく、一人の女の子。


 その中でも一際輝く白を持つ彼女は、まるで妖精の様であった。


「早くっ」


 お前も来い。彼女はそう呼ぶ。


 しかし東条は足元の白の境界線を見つめ、一歩を踏み出すのを躊躇する。




 彼はあれから一度も、デパートの外に出ようとしなかった。


 いや、出れなかった。


 屋上は問題ないのだ。ただ、出入り口から外に行くことが出来なかった。


 一歩でも外に出てしまうと、何か、大切なものが消えてしまいそうで、それが怖くて、いつも引き返してしまう。



 ……本当は分かっている。


 ここには何もないことも。


 ここに留まっていても仕方ないことも。



 ……彼等はもう、何処にもいないということも。



 そんなこと分かっている。


 ただ、どうしても動かないのだ。足が、身体が……どうしても!。


 前に進むことを、全力で拒否する。



 ……どうすれば良いのか、もう自分には分からない。



 ……どうすれば良かったのか、もう自分には分からない。



 ……もう、何も分からないのだ。




 彼は漆黒を解き、泣きそうな笑顔で微笑んだ。



穿たれた黒い傷痕、雪が触れども白く染まらず。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大切な記憶にすがってるのか… 一歩踏み出した瞬間からそれらの記憶が薄れ消えてなくなるんじゃないかって恐怖があるのかな… とにかく辛いな今回は…
[気になる点] そういえば、ほぼ壊滅している都内で電気が通っていて、ネット回線が生きているの?
2020/08/24 20:08 退会済み
管理
[一言] 屋上から飛び降りて外に出よう(そうじゃない) 気にしない様には出来ても、あのトラウマはそう簡単に忘れられるものじゃないよね…(´・ω・`)
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