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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
第2巻 1章

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8話

 

「……」


 巨人は彼を飛ばしそのまま、鶏を追いかけ走り去った。逃げるなら今。


 しかし、……動かない。手も、脚も、首も……何も。


 今にも手放してしまいそうな意識を、ただ、燃えるような痛みが繋ぎ止める。


 静寂に支配されていく脳内を、自分の鼓動が、響き渡る人々の悲鳴が、やけに鮮明に反響する。


(……死ぬのか)


 己の死を悟った彼は、最後の整理だとでも言うように、過去の記憶を巡っていく。



 彼は無類の犬好きだった。

 東京郊外に大きな一軒家を持ち、その九割を何十匹ものペットの為に改造した稀代の犬バカ。


 死に瀕して尚心配なのは、家で待つ彼等の無事である。


 辛く厳しい訓練も、彼等の無条件の愛があったから頑張れた。


 人を助けるという信念が折れてしまいそうな時も、彼等の寄り添いがあったから頑張れた。


「グルァッ」

「――っ」


 ――死肉を漁る獣型の群れが、彼の腕を噛み引き摺る。


 亜門は思う。


 彼等は今も、自分の帰りを待ち続けているだろう。


 モンスターに怯え、自分の助けを求めているだろう。


 ……ならば今度は、自分の番じゃないか。


 ――皮膚が裂かれ、肉を貫かれ、彼の身体は血に染まっていく。


 守らなければ……人を。


 守らなければ……信念を。


 守らなければ………………家族を。


「……貴様らじゃ、ない」



 獣じみた手が一匹の頭を掴み、握り潰す。


 彼を囲んでいたモンスター共が一斉に飛び退いた。



 立ち上がる亜門の身体は一回り大きくなり、全身が銀灰色の体毛に覆われていく。


 顎の形状と耳の位置が変わり、腰下に生える一本の尾がゆらりと揺れた。



「ガロロロロ……」


 黄色の瞳孔が有象無象を射抜く。


「グルァッ――ギゃべ⁉」「ギョぶッ」「べっ」「ガッ」「ッ」――


 飛び掛かってくる傍から、切り裂き、噛み千切り、へし折り、撲殺する。


 その惨劇を見て当然逃げる者もいるが、数倍に跳ね上がった脚力は彼を風に変える。


 一匹たりとも逃がさない。

 目についた悉くを血祭りにあげていく。


「ガロァアッ‼」

「ぶギャべっ」


 振り下ろされた両の拳が、大地を陥没させモンスターを染みに変える。


 逃げることなど許さない、圧倒的暴力。


 一瞬でひっくり返った、生態系の立場。


 風に靡く荘厳たる体毛が、月光に照らされ赤く煌めいた。




「ぐぅっ、これ以上の負荷は危険です‼」


「全速を維持しろッ‼今落ちたら死ぬぞ‼クソっ、まだ切り離せないのか⁉」


「銃弾も爆弾も効かないんだ‼どうしろってんだよ‼」


 舌に絡めとられたヘリの機内では、必死の抵抗が五分以上も続いていた。


 少しでも速度を緩めれば、強靭な力で引き落とされてしまう。

 そうなれば瞬く間にモンスターに群がられ、本当の終わりだ。


 かと言ってずっと均衡を保てるわけもなく、遂にエンジンから煙が上がり出す。


 誰もが諦めた、その時、一際大きく機体が揺れた。


「――っ何だ⁉」


「……あ、あれ」



 固まる皆の視線の先には、顔面が凹んだ両生類の上に立つ、返り血を全身に浴びた人狼がいた。


「ガロロ……タフだナ」


「ゲ、ゲゴェ」


 全力で殴ったにも関わらず、未だヘリを離さない蛙もどきを睨みつける。


「貴様に構ってる暇は無いんだッ」


 爪を立て、太い舌の中腹までよじ登り、


「ウㇽルルァアッ‼」

「ゲブシャ⁉」


 万力を以て引き千切った。


 弾き出されたように上昇するヘリ。


 亜門はぶら下がる舌に捕まり、小さくなっていく戦場を見下ろした。



「「「――っ」」」


 自力でヘリに乗り込んだ亜門に、一斉に銃が向けられる。


「「「……」」」


「……すまん、限界だ」


 彼は一言残すと唐突にぶっ倒れ、寝息をたて始めた。

 そして身体の変化が徐々に戻り……


「――っそ、総隊長⁉」


 その姿を見た兵士達がすぐに駆け寄る。


「酷い傷だっ、救急道具一式を持ってこい‼」


 再度慌ただしくなる機内。


 しかし今度こそ、彼等の邪魔をする者はいなかった。





 §





 長時間にわたる大規模な戦闘。


 その轟音と光景に引き付けられるのは、何もモンスターだけではない。



 ある者は大量に飛来するヘリに期待を寄せ、


 ある者はビルの上で双眼鏡を手に、楽し気に凄惨な現場を見つめる。


 ある者は活性化するモンスターに戦いを余儀なくされ、


 ある者は去って行く救助に涙を呑んだ。


 そんな彼等が共通して心に秘めた思い。




 頼れるのは、自分だけだ。




 皮肉なことに、

 今宵、絶望に直面したからこそ、希望への手掛かりを見つけた者が大勢いた。



 そしてここで生き残れるのもまた、その『希望』に貪欲になれる者だけである。


4人目の能力者誕生。

明後日から遂に主人公視点に戻るぜ。


1日2話投稿したりしてみたけど、俺のポイントの伸びはこれで打ち止めらしい。

30000は欲しかったけど、物語柄まぁシャーなしだな。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、なるほど。なろうに合ってないってこういうことか。 おーい。おまいらー。主人公視点じゃないだけで離れて行くなー!これからだぞー。(多分
2020/08/10 10:06 勇者ああああ
[良い点] 覚醒イベントはアツいね! [気になる点] 欲を言うならもうちょっと葛藤的な何かが欲しかった [一言] 今のご時世脳死無双しか評価されてないからね、しょうがないね まあでもこのテンポの良さと…
[良い点] 序盤からタイトルに偽りなしでハラハラしながら読み進められる点。 [気になる点] 第1巻終章で因幡達が絡み出す所でこれまでのリアルさが飛んで行き、違和感を感じた。 第2巻から国家の中枢での話…
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