7話
§
戦闘ヘリに乗る隊員の目が、前方から迫る黒い塊を捕える。
『敵生体確認。数は……多数』
それは一匹の生物ではない。夥しい数の群れである。
『一匹たりとも近づけさせるな!ファイア‼』
『『『ファイア‼』』』
重機関銃の暴威が怪鳥をミンチにし、血の雨を降らせる。
しかし、奴らは止まらない。
『散開‼』
モンスターの視線を集めるべく、隊が分かれ陣形が組まれる。
本作戦の要、決死の空中戦が幕を上げた。
§
モンスターが攻めて来るのは、何も空だけではない。
音に釣られ、血の臭いに釣られ、奴らは地を駆け姿を現す。
「撃てぇッ‼」
銃口が火を噴き、薬莢が地を跳ね夜を吹き飛ばした。
――着々と作戦が進む中、しかし予想外の早さで防衛ラインが押しこまれていた。
煩くし過ぎたのだろう、モンスターの数が多すぎる。
現在第二防衛ラインの水を抜いた堀まで下がった軍。
その堀も今やモンスターが積み重なり、ほぼ機能を失っている。
『C-4を起爆する。各員第三防衛ラインまで下がれ』
『『『了解』』』
一斉に動き出す全隊員。
――一分後。
堀の壁面に張り巡らされたC-4が、大爆音を上げ血肉を空へ巻き上げた。
――四十分後、何度目かのヘリの落下音を耳に、ようやく待ち望んだ命令が下される。
『全隊に告ぐ。民間人の乗り込み完了。撤退を開始せよ』
総員、予定地へと走り、次々とヘリに乗り込んでいく。
弾幕を張りながら後退し、遂に最後のヘリが離陸した。
――現場で最後まで指揮を執り続けた亜門も、ヘリに乗り込み汗を拭う。
最早これは戦争であった。
戦死者も沢山出た。しかし、何とかやり遂げた。
後は怪鳥を躱し、帰還できるかどうか。
「戦闘ヘリは後何機のこ――ッ⁉」
言いかけ、物凄い振動が機体を襲った。
亜門の真横、ヘリの胴体部を土の柱が貫通している。
「なん「ボルァアッ‼」――っ⁉」
動かなくなったヘリの窓から遠目に見える、地に手をつく三mはある一つ目の巨人。
此方を見るや否や、叫び全力で迫ってきた。
「――っ全員降りろ‼」
考えている暇ではない。
反対側のドアをこじ開け、次々と飛び降りていく。
「急げ‼機体から離れろ――ォッ⁉」
走る彼等の背中を、拳で叩き割られたヘリの爆風が襲った。
生き残った者は咽ながらもすぐに起き上がり、揺らめく炎と砂塵の中に、鉛玉をこれでもかと打ち込む。
連続する銃声と共に響く、金属同士が衝突するような音。
風圧で煙が晴れた後の光景を見て、彼等は瞠目した。
「……魔法か」
巨人の持つ土の盾には、傷の一切がついていなかったのだから。
「ボルァッ‼」
「――っ」
そこから始まったのは、無慈悲なる蹂躙であった。
一人、また一人と、殴り飛ばされ、打ち上げられ、圧殺されていく。
時折銃弾が巨人に命中するが、それでも少し血が出る程度。
そしてその後には必ず殺される。
人間、モンスター、見境なく殺しまわる巨人の隙をついて逃げる者もいるが、その先にはまた別のモンスターがいる。
待つのは等しく、死、のみ。
「――はぁっ、はぁっ」
何とか逃げ回る亜門は、首を回し避難できる場所を懸命に探す。
そこで、
「コゲェェェェッ」
突如現れた、尾から蛇の生えたバカデカい鶏が、大跳躍し大型輸送ヘリの一つを蹴り飛ばした。
物凄い速さで墜落する鉄塊は、煙を上げ森の奥へと消えて行く。
よく見れば、その向こうでは巨大な両生類がヘリの一つに舌を絡ませ揺すっている。
「……地獄か……」
茫然と立ち止まってしまった亜門が、ポツリと零す。
目の前に広がる光景は、疑いようのない地獄だ。
他に形容のしようがない程の、美しいまでの地獄だ。
辺りには血の臭いが充満し、鳴き声と啼き声が響き渡る。
強い物が生き残り、弱い者は死に絶える。
本来あるべき生態系の縮図。
人が忘れた自然の摂理。
あぁ、ここは……
地獄だ。
「――ぶグッ⁉」
亜門の半身を強烈な衝撃が襲う。
ちらりと見えた、地面から伸びる土柱。
(……突き飛ばされたのか)
明滅する思考の中、自分に起きたことを理解する。
そのままゴロゴロと転がり、木にぶつかり止まった。
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