表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
第1巻 第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/1049

8話

 


 中には魔法を扱っているシーンを撮った動画もある。彼は迷わず再生した。



 ――「……ははっ」


 彼は夢見心地だった。


 動画を見ているだけで、それだけで彼の心は満たされていった。


 派手ではない、まだまだ未熟。しかしその動画は、ファンタジーがこの世に生まれた証明に他ならなかった。


 ――誕生日の蝋燭程度の【火】、


 百均の【水】鉄砲、


 幼稚園児が作った泥団子の方がまだ殺傷力がありそうな【土】塊、


 美人がいたら絵になりそうなそよ【風】、


【光】量豆電球、


 ほぼ静【電気】――


 人類が焦がれに焦がれた空想の産物。


 多くが成長するにつれその気持ちに蓋をし、諦めきれぬ者でも、次元を一つ落とすことでしか可能にできなかった夢の塊。


 ファンタジーの権化が、この現代に降り立った。





 ――「ふぅ~……」


 未だ冷めやらぬ興奮に侵されながら、身体の外に熱を逃がす。


 そんな彼の中で、一つの覚悟が決まった。



 オタク街道を現在爆進中の彼にとって、魔法という存在はとても大きかった。


 大きかったからこそ、逃げ道を塞ぐ言い訳に使うことができた。


 明確な殺意に追い回され、目と鼻の先で人を撲殺され、気付かないわけがない。


 このままずっと安全を取り閉じ籠り続ければ、自分の意思を見失い、外の恐怖に怯え、助けを待つだけの最悪の結果が待ち受けている。


 それだけは避けなければならない。


 停滞の、孤独と退屈と恐怖に勝るものはなく、無謀に思える行動こそが活路を見出す。


 彼はそれを重々分かっていた。


 勿論、恐怖も不安もある。


 しかし彼の中に、これからの道のりに興奮してやまない自分がいるのもまた事実だった。


 今まで、何度異世界に行けたらと考えてきたことか。


 人類を問答無用で襲ってくる都合のいい【モンスター】に、その都合の良さで成り立っている職業【冒険者】、そして非現実の代名詞【魔法】。


 こんな世界が、向こうに行かずともこちらにやってきてくれた。



 彼は隠れてからずっと覗いてきたネットの中を思い出す。


 あそこでは、現実で数えるのも嫌になるだろう数の人間が死んでいるのに、終始乱痴気騒ぎだった。


 世界なんてそんなものだ、自分のあずかり知らぬ場所で、赤の他人が死んでも、表面上悲しむだけで後は今日の夕食の方が大事になる。


 それが悪いことだとは全く思わない。むしろ普通だ。


 ただ、倫理上非難されても文句は言えない。


 彼等はその痛みを、恐怖を知らないのだから。


 ……そしてそこが、自分と彼等の違いだと理解していた。


 自分は今、傍から見て絶望のどん底にいる。


 モンスターに追われ、血の海を生で見て、トイレの物置でガタガタと震えている哀れな弱者だ。


 ここまでの経験をしておきながら、楽しみが勝つような心臓マリモ人間だとしてもだ。


 そんな、恐怖を知り、痛みを知り、それら一切合切乗り越えられる人間、いや、オタクにとっては、今の状況は最高のシチュエーションになる。


 血みどろの世界を満喫している自分が世間に見つかった時は、帰り道を探してたとでも言っておけば称賛に加えお涙頂戴必至だ。


 どれだけ楽しんでも非難されることなどない。


 唯一の問題は、この場所が日本一危険な場所、だということ。しかしそれも、冒険が長引くとポジティブに受け取ることにした。


 そして、この空想実現の大前提にあるもの、



 死なないこと



 当然のことだ。


 なぜ寝ても覚めても別の世界のことを考えている彼が、必要なものをリュックに詰めて嬉々としてトラックに突っ込んでいかないのか。


 決まっている、悲しんでくれる友が、家族がいると分かっているからだ。


 自惚れではない、理解だ。


 死ぬことなどはなから許されていない。


 なれば、前提の上に立つ空想など、現実であること以外の何物でもない。



 行動に移す理由付けはこれくらいで十分だ。生き延びる覚悟と未知への好奇心に、幾分か心も軽くなった。




あなたは1人で死地に残された時、何を思い、何を想う?

そんな妄想と一緒に、この作品を楽しんでくれたら幸いかと。


面白いと感じたら、評価とブックマークをお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 日曜の手持ち無沙汰に対抗するためなろうを漁っていたのですが、新着順にしたのが功を奏しました。 ここまで面白い作品があったなんて!いつかランキングにも浮上するような作品になること願って、応援し…
[良い点] 魔法の表現お洒落
[良い点] 1話の感想要求の仕方が爽やか過ぎて最高評価押した。感想もそこで書こうとしたけど内容知らずにやるのは良くないだろうとここまで読んだ。 言葉選びと戦闘描写の勢いが飛び抜けて上手いと思う。こうい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ