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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
終章

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75/1049

第一巻・最終話

 



 ――何時間経ったのか、再び彼が一歩を踏み出すと、



 パリン



 足元から乾いた音が響いた。


 反射的に飛び退き、音の出所に拳を放つ。




 ――彼の動きがビタリ、と止まった。




 辛うじて原形をとどめている菊のブローチが、そこにはあった。




「あぁあ、ああぁぁあぁぁぁ」


 慎重に、慎重に、ブローチを掬い上げる。


 のっぺりとした貌が徐々に剥がれ落ち、大粒の涙が紫の宝石を濡らす。


「あぁぁぁあぅっ」


 全身を包んでいた漆黒が霧散すると同時に、自重に耐え切れず東条が崩れ落ちた。


 彼を蝕む損傷は、既に許容できる限界値を越えている。


「勝ったよ、紗命ぁ。ちゃんと勝てたよ、ははっおぽっ……」


 愛しい人を思い浮かべ、勝利の報告を告げる。


 ブローチを掻き抱き、湧いてくる記憶を一つ一つ確かめる。


 今なら鮮明に思い出せる仲間の顔に、彼は安堵した。



「……そうか、勝てたのか……俺は、勝てたんだ…………勝っちまったっ、勝ったッ、勝てちまったッ、俺がいればッ、俺ガはッいればっ!がでだっ‼、がでたッ‼



 ――ックッッソガァァァァァァアッッッッッ‼……――」



 響き渡る慟哭は、自責と懺悔の色に染まっていた。


 彼が抱くのは、後悔、取り返しのつかない、絶望的なまでの、後悔。


 ……こんなことならば、ずっと、一人でいれば良かった。ずっと、自分の好きなことだけしていればよかった。


 ずっと、楽しいままでいたかった、楽しいままで……、


 脳裏に、微笑む少女の顔が(よぎ)る。


「……ちくしょうっ、ちくしょうッ」


 丸まって己を攻め続ける東条の頬を、ポツリ、ポツリと降り出した雨が叩く。


 空を見上げれば、汚らしい曇り空だった。



「…………ははっ、もぅいいや」



 次第に強くなる雨露は、彼の頬に線を作る。




「……………………疲れたわ」




 発した言葉は、行きつく先を求めて、……薄く、……儚く、……寂しく、……無情に、





 雨音に流された。


 








             §








 いつ、どこで、誰が死のうと、私達には関係ない。


 苦しみ、嘆き、絶望する人がいても、世界は大して変わらない。



 あなたは、今この時誰かが泣いてるとして、手を差し伸べられるか?


 あなたは、今この時誰かの命が消えたとして、涙を流せるか?



 無理だろう。



 あなたはそれを知ることもない。



 一つ一つの事象など、


 例えそれがどれだけ大きな事件、成果であっても、


 世界という概念の前では(いち)事象、些細なことにすらなりはしない。



 例え何処かで男が冒険に胸躍らせても、


 それは風が吹くのと同じこと。


 例え何処かで手を取り合う仲間が生まれたとしても、


 それは川が流れるのと同じこと。


 例え何処かで少女が恋をしても、


 それは雲が揺蕩うのと同じこと。


 例え何処かで男が残酷な運命に打ちひしがれようとも、


 それは雨が降るのと同じこと。



 私達が世界に興味が無いように、


 世界も私達に興味が無い。





 ――鼻孔(びこう)()でるのは雨に()れた血の味。


 ――耳を通り抜けるのは吹き抜ける寂しさの色。


 ――舌に(かお)るのは血染めの若葉が(つむ)ぐ痛ましさ。


 ――肌を刺激(しげき)するのは(おだ)やかな死を待つ静けさ。


 目に映るのは、眼前に満ちる破壊(はかい)痕跡(こんせき)と、自分以外誰もいなくなった真っ赤な屋上。



 ここは、東京都にある池袋駅周辺、つい先日までは人で(あふ)れかえり、喧騒(けんそう)に満ちていた場所である。


 







              §









 ――彼の手が、とさり、と地面に落ちた。





 


 現実なんて、こんなものだ。




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― 新着の感想 ―
[一言] 二次創作で救済されがちな奴 正直ゴブリンキングと決着付けずにデパートから出るわけないと思ってたし この時点で上げて落とす露骨な死亡フラグは立ちまくってたので特に驚きは無いです 寧ろこうい…
[良い点] 戦争系で偶に出る、主人公以外の仲間が全滅する展開でしか感じれない栄養素がある・・・・・・ この話で自分はその栄養素を得ました。辛い・・・・・・ [一言] それでも読んじゃうのは業が深い読者…
[一言] 追記 破壊の跡を覆う鬱蒼とした森がいた、その中に聳え立つ一際大きな木の元に踏み潰されたブローチと血に濡れたパンツがあった。パンツはブローチを覆って守るように、ブローチはパンツを後ろから支え…
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