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Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
終章

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57/1049

54話

 

 ――「桐将、もう寝るん?」


「ん?あぁ。お前も?やけに盛り上がってたけど」


 問われた紗命が一瞬硬直する。


「……聞こえとった?」


「内容は知らんけどな」


「……ふぅ。凜はんのバカ(ボソッ)」


 露骨に安心する紗命を横目に見る。


「なんだ、聞かれたらマズい事でも話してたのか?」


「……わりと」


(……あの声の大きさなら大体聞かれてるだろ)

 突っ込みは心の中に留め、木々を抜けていく。


 マイホームに着くと、此方を窺う紗命がモジモジしだした。


「……今日は、一緒に寝ちゃおっかなぁ?」


 紗命の顔が赤く染まる。

 凜との言い合いで、自分も少し中てられてしまったのかもしれない。

 言った傍から恥ずかしくなってきた。


「……いきなりどうした?」


 半眼で見つめる東条から、居た堪れなくなり眼を逸らす。


「お前なぁ、色々噂立っちまうぞ?」


「うちは構わへんけど?」


「それに(いたい)()な少女が付き合ってもない男と寝たりしちゃいけません。

 そーゆうのは性の何たるかを知ってからにしなさい」


「ほなうちらは大丈夫やなぁ。恋人やもん」


「……たまにお前が本当に怖くなるよ」


 溜息を吐き、漆黒から降りてハンモックに横たわる。


 一度天を仰ぎ、不満気な顔をする紗命を見下ろした。


「……俺は好きだと言われたからには真摯に向き合うし、前も言ったが紗命への気持ちも満更ではない。

 自然の流れからのあれやこれやは俺が惚れたと認めるとして、強引な既成事実の創作は全力で避けさせてもらうからな。


 外に出たら命を預け合うんだ、中途半端は御免被りたい」


 東条の言葉は最もだ。


 彼の軸にあるのは、未だ『冒険』ただ一つ。

 自分はそこに割り込むことになるのだから、へたな想いは文字通り命に直結する。


 俯く紗命を見て、東条は頬を掻く。


「……ただまぁ、俺も最近目で追っちゃうし、成果は出てるぜ」


 照れ隠しにサムズアップする彼に、紗命の口角が上がった。


「ふふっ、あれやこれやをする日も近いんやなぁ?」


「おうよ。その暁には、それはもう滅茶苦茶に愛してやる」


「――ッ滅茶苦茶にっ、愛っ、ふふっ、ふふふっ」


 瞳孔が開き、三日月に口が裂け、内から出る何かを抑える様に身体を抱きしめる。


 自分の前でしか見せないその狂笑にゾッとしつつも、美しいと思ってしまう自分は、既に相当毒されているっぽい。


「ふふっ、おやすみぃ」


「あ、あぁ。おやすみ」



 艶然とした笑い声が去って行くのを聞きながら、ランプの明かりに照らされる木葉を眺める。


(……思えば、目で追っちゃうのって、恋してる証拠じゃね?)


 中学時代はそこに胸の高鳴りを感じていた気がする。


 正直なところ、スタートが普通ではなく、本来無いはずのゴール地点を定めてしまったせいで、彼自身何処がゴールなのか計りかねていた。



「……恋ってこんなんだっけ……」



 分からなくなってしまった至上の命題に、夜の闇は葉擦れで返答した。






 ――「あら、てっきりあそこで寝るのかと」


 紗命に睨まれひょいと目を逸らす。凜は隣で机に突っ伏して眠ってしまっていた。


「……瀬良はん、結構性格悪いですなぁ?」


「心外ね。からかうのが好きなだけよ」


 眼鏡の奥の瞳が、狐の様に細くなる。


「それが性格悪い言うてるんやけど……、まぁええわ。今は気分がええさかい許したる。おやすみなぁ」


「おやすみ~」


 手を振る瀬良を後に、紗命は彼女への復讐心を一段階高めるのだった。




 ――自分のテントへ戻っていく紗命を遠目から見る、槍を持った三人組。


 彼等は同時に安堵の息を吐いた。


「……そろそろケジメつけないとっすね」


「チっ、ムカつくぜ」


「ぶっ殺してやる」


 物騒な言葉を吐き席を立ち、因幡を先頭に三人は歩き出した。



その人を好きなのが自分だけだと思うのは、些か傲慢ではありませんか?


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― 新着の感想 ―
[一言] 逃げ道ばかり作ろうとする男だなー
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